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弱くてニューゲーム 元勇者が期限切れの若返りの薬を飲まされた件

作者: 冬葉厚着

『弱くてニューゲーム』

30年前勇者ケイザーによって封印された魔王が復活し、世界は魔物であふれていた。ヤグー王国の王様は、部下に勇者ケイザーを探させていた。

「ここか。」

「本当にここなんですか、ジュリア様。」

「魔力探知機は反応している。ここで間違いない。」

「ですがジュリア様、失礼ですが、こんな山奥の古い貸家に本当に勇者様がいるのでしょうか。」

「マリー、何を言っている。とにかく、半年以上探してようやく反応があったんだ。こうしている間にも魔王の侵攻は進んでいる。訪問するぞ。」

「わかりました、ジュリア様。」

そうして2人は貸家の扉を叩いた。

「突然の訪問失礼いたします。こちらに勇者様がご在宅とお見受けします。」

返事はない。

「まだこの地までは魔物が来ていないので、勇者様はご存知ないのかもしれませんが、30年前封印された魔王が復活しました。このままでは世界は滅びてしまいます。どうかお話だけでもお聞きください。」

「ジュリア様、魔力探知機の故障じゃないですか。やはり、いないのでは。」

「しかし、ここで引き返すわけにはいかない。人はいるはずた。この魔法を使うぞ。マリー、離れていろ。」

「わかりました。」

「マイルスマイルス・ラワラワラ!」

ジュリアの呪文が響くと同時に、老人の笑い声が響いた。

「あーっはっはっはっはっ!」

「ジュリア様!」

「ああ、人がいる。」

「あーはっは!げほ!げほ!なんだこれは!何がおこってるんだ!」

そう言って、中の老人はドアを開けた。

「はじめまして。勇者ケイザー様。これは、『人を笑顔にする魔法』でございます。」

「お前か!魔法を止めろ!」

「わかりました。」

ジュリアは杖をかざした。勇者ケイザーの笑い声が止まった。

「何をしやがる。どういうつもりだ。」

「失礼をお詫びします。こうでもしないと出てきていただけないかと。」

「『人を笑顔にする魔法』は、ワシが作った平和のための魔法だ。それをこんな使い方をするなんて。」

勇者ケイザーは魔法も作り出した。その魔法は今も使われている。

「重ねてお詫びいたします。勇者ケイザー様。私達がここにきたのはあなたにもう一度魔王討伐の旅にでていただきたいからです。」

「魔王討伐?ワシがもう一度?」

「はい。ヤグー王国の王様より依頼文も持参しております。」

「何をいっている。みての通りワシはもう老人だ。持病もあるし、足腰も痛い。とても戦えるような体ではない。もっと若い勇者がいるはずだ。」

「ごもっともです。しかし、勇者ケイザー様は、30年前に魔王を封印した張本人。一番魔王討伐できる可能性が高いとヤグー王国としても考えております。」

「もっともらしいことを言うな。勇者の証を持つ若者は現れているはずだ。今のワシより強い。彼らを探したほうがいい。」

ジュリアは少し黙ってから言った。

「確かに、本来なら勇者の証を持つ若者が現れるはずでした。しかし、魔王は封印される直前に、次の勇者が現れない呪いを世界にかけたのです。そのため、世界に勇者は今もケイザー様だけです。」

「そんな、ウソだろ。」

「本当です。だから私達はあなたを探していたのです。」

「いや、それでも断る。勇者の証はある程度のレベルになった証明のようなもので、特殊な力を得るようなものではない。魔王の呪いは、勇者の証を隠す呪いで、本当は気づいていないだけで勇者の証をもつ若者はいるんじゃないか。」

マリーが口をはさんだ。

「もう、ヘリクツを言わないでください。頼みます。勇者様。なぜそんなに断るのですか。魔王討伐したときには、ヤグー王国からたくさんの褒美も用意しているんですよ。」

「褒美、か。」

勇者ケイザーは肩を落とした。

「いいだろう。話してやる。ワシが若いころ何があったのか。これを聞いたら帰ってくれ。」

勇者ケイザーは過去を話し始めた。

「ワシは今70歳になる。ワシが子供の頃から、世界は魔王に支配されており、人間は魔物に怯えながら生きていた。そんな中でも、魔物を討伐するために世界の国々は国営の討伐隊を組織して抵抗していた。

しかし、それだけでは人手不足で、ヤグー王国は、民間の冒険者ギルドに魔物討伐の仕事を依頼してきた。魔物討伐をすれば、高額の補助金を与えるという条件だった。人手不足のため、補助金の条件もゆるかった。そのため、新興の冒険者ギルドが沢山できた。ワシは、もともとは新興の弱小冒険者ギルドのメンバーたった。」

「そうだったのですか。」

「ワシのいた冒険者ギルドは、とにかくたくさん魔物討伐の仕事を請け負った。補助金がたくさん欲しかったのだろう。おかげでワシは大量の魔物と戦わされていた。すると、ある日ワシの体に不思議な模様が浮かんできた。」

「それが勇者の証ですね。」

「そうだ。ワシは知らなかったが、精霊を通じてヤグー王国にもワシが勇者の証を持つ者だということが伝わったらしい。そして、それをきっかけにワシのいた冒険者ギルドに魔王討伐の依頼がきた。」

「魔王を倒せるのは勇者の証を持つ者のみという伝説があります。」

「らしいな。とにかくワシのいた冒険者ギルドで勇者の証を持つのはワシ1人。」

「それでどうなったのですか。」

「ギルドは、ワシ1人に魔王討伐の仕事を任命した。魔王討伐の前金はすでにもらっている。魔王を倒せるのはお前しかいない。人手不足でパーティーメンバーは組めない、と言われたよ。そしてワシは1人で魔王討伐の旅に出ることになった。」

「過酷な旅になりそうですね。」

「ああ。もちろんだ。ちなみにワシが魔王討伐の旅に出たのは20歳の時だ。」

「今から50年前ですか。」

「そうだ。そこから数多くの魔物と戦ったが、それよりもきつかったのが旅の報告と、旅で手に入れたアイテムはギルドとヤグー王国の物ということで定期的にヤグー王国に戻らないといけないことだった。勇者とはいえ、ワシはギルドメンバーの1人でしかなかった。とても効率が悪く、時間がかかったよ。これがなければもっと早く魔王を封印できていたかもしれない。」

「そうだったのですか。」

「同じダンジョンを何回もやり直すこともあった。ヤグー王国に戻っている間に、魔物が強くなっていることもあった。そうこうしている内に20年たった。ワシは40歳になり、ようやく魔王城にたどり着いた。」

「そんなにかかったのですか。」

「1人旅だ。限界がある。そして、なんとか魔王と戦ったのだが、やはり恐ろしく強かった。1人では倒すことはできず、封印するのが精一杯だった。」勇者ケイザーは少しため息をついたあと続けた。

「しかし、とにかくワシは魔王の封印に成功したのだ。大きな仕事を成し遂げ、世界に平和を取り戻したと思った。いつも面倒くさかったヤグー王国への帰り道も楽しかった。」

勇者ケイザーは少し笑った。だが、マリーのには、目は笑っていないように見えた。

「ワシはヤグー王国に戻り、国とギルドに魔王を30年間封印することに成功したと報告した。国中は大騒ぎになり、後日、王様から褒美をもらえることになった。」

「素晴らしい物をいただけたのでしょうね。」

「褒美は、ワシと、ギルドマスターがもらいに行くことになった。ワシはどんな褒美をもらえるのか楽しみだった。ヤグー王国に魔王城のアイテムを渡した後、ワシ達は王様の前に行った。そこには王様と大臣がいた。大臣はワシに四等勲章をまず与えた。」

ジュリアは驚いた。

「え、四等勲章は勲章の中では一番低いものですよ。」

「ワシも驚いた。大臣いわく、最高勲章は歴史上まだ一度も与えられていない。魔王を倒していたら一等勲章もありえたが、あなたは封印しただけ、それも30年という短い期間だ。そのため、四等勲章相当であると。」

「そうだったのですか。」

「そのため、褒美も四等勲章相当になった。今の価値で言うなら馬が5頭買える程度だ。しかしその褒美もワシには全ては入らなかった。」

「なぜですか。」

「ワシがギルドのメンバーだからだ。ワシが仕事で手に入れたものはまずはギルドの物になる。今回の褒美も、ギルドにほとんど入り、ワシの手元には馬1頭分くらいしか残らなかった。これがワシの20年の成果だ。」

勇者ケイザーは続けた。

「その後世界は平和になり、冒険者ギルドへの補助金は打ち切られた。だが、まだギルドの仕事はあったから、ワシは生活ができると思った。しかし、しばらくしてワシがいたギルドは解散した。ギルドの上層部が金を使い込んでいたらしい。資金が底をついたのだ。ワシはずっと旅にでていたからギルドの内情は知らなかった。ワシは無職になってしまった。」

「そうだったのですか。しかし、勇者様ならすぐに別のいい仕事が見つかったのではありませんか。」

「ワシは仕事を探したが、簡単には見つからなかった。何しろ魔物と戦う以外ほとんど何もやってこなかったから、普通の仕事のやり方がわからない。あと、20年間1人旅だったからコミュニケーションも上手く取れなかった。さらに体は戦いで傷だらけで痛いし、よくわらない呪いも受けていてよく体調不良にもなった。さらに40歳で年齢制限にもよく引っかかった。」

「そんなことが。」

「ワシはそれでもなんとか力仕事のギルドに入った。しかし、それも歴戦の傷や呪いの影響ですぐ倒れてしまい長くは続けられなかった。その後も職を転々とし、今は家賃が安いここで細々と暮らしている。」

勇者ケイザーは肩を落とした。

「話は終わりだ。ワシが魔王討伐にもう行かない理由がわかっただろう。もう帰ってくれないか。」

ジュリアは言った。

「勇者様の事情はよくわかりました。ですか、我々も簡単に帰るわけにはいきません。」

「ならどうすると言うのだ。」

「マリー、あれを出せ。」

「はい、ジュリア様。」

マリーは小袋から小さなビンを取り出した。

「何だこれは。」

「これは若返りの薬です。勇者様が魔王城から持ち帰った宝物の中にありました。これを飲めば若返り、怪我や病気も呪いも直り、全盛期の肉体に戻れます。これを飲んで、若返って失われた時間を取り戻し、魔王討伐の旅にでていただけませんか。」

「若返って体が全回復するだと。たしかにそれなら魔王も倒せるかもしれない。」

「今回の旅は、1人旅ではございません。我々2人も同行させていただき、しっかりサポートさせていただきます。よろしくお願いいたします。勇者ケイザー様。」

「わかった。ワシも勇者だ。もう一度世界を平和にしてみせる。若返りの薬をくれ。」

勇者ケイザーは若返りの薬を飲んだ。勇者ケイザーの体は輝き、若返った。

「おお、若返った!俺は若返ったぞ!」

「おめでとうございます。勇者様。」

「ああ、だがなんだろう。まだ体はだるいし足腰は痛い。古傷もそのままだ。」

「おそらく少しずつ治っていくのでしょう。それでは勇者様。旅の支度をなさってください。魔王討伐の旅にでかけましょう!」

「わかった。だがもう少し待ってくれ。まだ足腰が痛いんだ。」


勇者ケイザーが飲んだ若返りの薬は本物だった。だが、30年の月日により期限切れになってしまっていて、体は若返るが、それ以外はそのまま、傷も病気も呪いも残るし、体力は70歳のままになっている。勇者ケイザーは魔王を倒せるのか。それはまだ誰にもわからない。



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