サプライズ・プレゼント
真昼間から屋敷の広大な庭園で行われる私の4歳の誕生日パーティは、それはそれは滞りなく行われた。
「フェリシア嬢、お誕生日おめでとう。貴殿の明日に幸せの花が咲き乱れんことを」
「ありがとうございます、教皇様」
「なんと可憐な少女に成長したものか。生まれた時にはあれほど生死をさまよったというのに……ご両親の心労もまだまだ尽きぬであろうな」
「?フェルはいつも元気ですよ?教皇様?」
「ハッハッハ、……それでよい。無邪気な少女のまま美しい大人になれるよう祈っているよ」
………けっ!幼女のフリして無垢を演じているってのに、教皇はそれほど自分より魔力を持つ子どもを警戒してると見える。
こんな子供相手に嫌味な言い方しちゃって。横で頭を低くしてる両親の面目が潰れちゃうでしょうが。
と悪態づいているとも知らず、言葉の最後に向けた私の笑顔(4歳無垢バージョン)に満足気に頷いて去った教皇と教団を見送って、私の4歳の誕生日パーティは幕を閉じた。
これは、第1のミッション【教皇の警戒から外れる】をクリアしたと言っても過言では無い!!
となると、次のミッションは……なんだ??
教団に監視される生活がないとすれば、私、もう普通に生活できるのでは??
え?クリア??もう人生勝ったようなもん?
こんなにもあっさり済んでいいんだろうか……いやいや!!いいんだ!いいに越したことはない!
「───さて、フェリシア?可愛い君に素敵なプレゼントがあるのだけれど、受け取ってくれるかな?」
え?
クスクスと微笑むお母様、その隣で満足気に腰に手を当てて「フフン」と胸を張るお父様。
必死に過去の記憶を思い出そうと脳みそをフル回転させてみる……けど、4歳の誕生日何か両親からプレゼントを貰った記憶が無い。
そりゃそうだ、前回ならそのまま教皇に拉致られて教団入りだったんだから。
「誕生日…プレゼント……!?」
「わわわ!お嬢様!?」
湧き上がる嬉しさのあまり風魔法が発動してしまったみたい。私の周りに薄い風の層が舞って髪とドレスをはためかせている。
「あらあら、フェルったら。やっぱり隠れて魔術書を読んでいるのね?」
げっ!お母様の笑みがズンと目の前に迫る。
ひえーっ!
「ママの血筋は火魔法、パパの血筋は水魔法………貴方はそのどちらも使えるし、風魔法まで……ママたちに隠し事はなしでしょー?んー?」
「ご…ごめんなさい…」
「まぁまぁ、ちょうどその事で話があってねフェリシア」
笑顔のまま私を物理的に詰めてくるお母様をなだめながらお父様は見ただけでも厳かな書類だとわかるソレを私に手渡した。
紙に印字されたこの紋章、確か前に見たことがある。
えっと……これは……
「クロムバルツ王国……、王立学院への入学招待状!?」
そんな!?なんで隣国の!しかもちょっと関係悪めの国から直々に招待状が!?え!?なんかした!?目に付いたの!?
私の周りを浮遊する風の層がより強くはためいた。
お母様とお父様はクスッと優しい笑みを向けて、私の頭をゆっくり撫でて抱きしめる。
「必死に隠しているようだけれども私たちには全てお見通しだよ、フェリシア。……君はこんな陳腐な場所で枯れていい才能ではない。お父様もお母様も、フェルが1番輝ける場所を探していたんだ」
「そして、それがやっと見つかったの。まだ幼い貴方に酷かとも思ったのだけれど…」
受け取った用紙。1枚目は王立学院への入学招待状だ。しかし、この紙には6歳からの入学を認めると書いてある。少なくともあと2年か……。なんて思いながら2枚目の用紙に目を通す。
【学院在籍中、ご息女の身の安全は王家が保証する。尚、学院入学は王宮滞在を最低条件としホリデー以外の帰国を認めない】
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なんか、すごいこと書いてあるのだけれど??
「お、お父様…お母様!?」
「驚くのも無理は無い。まさか王自らの推薦だとは」
「私たちはただ、〖魔力に長けた娘がもっともっとお勉強したいみたいなんだけど、いい学校そちらにないですかー?〗って聞いてみただけなのにー!!」
誰に!?誰に聞いたのよ!?その人どんな権力があって王様に伝わっちゃったの!?
「まあ、王家が身の安全保証します!って言うくらいだからきっと高待遇よ!お手紙のやり取りはOKみたいだしね」
ピースピース!とお茶目な母による首が閉まるほどの抱擁と、うるうると瞳を揺らし今にも泣きそうな父の包み込む抱擁の狭間で
(クロムバルツ王家……?王宮……??知らないよそんなこと。なんとかして回避しないと…いくら魔法が使えるとはいえ危険な橋をわたるわけには……)
目眩と頭痛と今後の不安に苛まれる誕生日パーティの主役であった。