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幸あるなつのおもひで  作者: ホタテノホ
7/30

第7話 来ちゃった



俺は新しい土地で新生活を始めた。



まず、大学院入学のためには、12月に院試と呼ばれる試験を受ける。



大学によっては2回あるが、俺が受けるこの大学は12月の1回のみ。



その試験には英語と専門科目の2科目あり、それぞれ6割以上取れると合格である。



専門科目はなんとかなるが、英語がなかなか曲者だ。



そのため、指導教官の先生からみっちり課題を与えられた。



辞書並に厚い専門分野の英語の本を渡されて、2ヶ月で少なくとも1/3は訳せと言われた。



試験は筆記のため、PCでのWordを使用しての翻訳作業ではなく、大学ノートに写していけと…



最初からとんでもない課題だ。



俺は、研究室に席をもらい、ひたすら翻訳作業に時間を費やした。



受からなければ話にならない。



だから、実際に研究するということはなかった。



研究室に行っても翻訳するだけなので、研究室で必ずやる必要もない。



週一のゼミには参加して、基本的に家や大学の図書館でずっと勉強していた。



でも、大きな課題を与えられたことは良かった。



幸奈ちゃんを少しでも忘れることができたからだ。



それがなければ、ずっと考え続けていたと思う。



家にいても、帰ってきても、ねーさんがこの部屋に来たんだよなぁ…



とか、そういうことばかり思い浮かぶ。



土地が変われば、気持ちは薄れる…



以前まではそうだったが、幸奈ちゃんに関しては違った。



想いが募る。



それを振り切る。




これの繰り返し。




そうして、3週間が経った。



夜、近くの商業モールに買い物に行った後に、部屋でご飯を食べてゆっくりしていると携帯が震えた。



“幸奈”



画面にはそう書かれていた。




えっ!?ねーさん!?



通話ボタンを押してすぐに受ける。




「もしもし!ねーさん!?」




「…なつ。なつの声だ…」




「なつだよ。どうしたの?」




「…来ちゃった」




「来ちゃった??」




「うん。今、南條モールの隣にいる」




「南條モール!?めっちゃ近くじゃん!」




「ここから先をよく場所を覚えてないの…」




「ちょっと待って、外出るから!とりあえず、そこから道なりに500mくらい行ったら、中華料理屋さんがあるから、そこを右折して」




「分かった」



家の前に出てしばらくすると、一台の車がこちらに向かってきた。



本当にねーさんだ!



見覚えのある車に近づくと窓が開いた。



「ねーさん、とりあえず俺の指示通りに来て」



「うん、分かった」



幸奈ちゃんの車をうちのマンションでお客さん用に使っていいというスペースに誘導して、そこに止めさせた。



「なつ!」



そう言って、幸奈ちゃんはこちらに小走りで向かってきた。



「ねーさん!」



そう言って、幸奈ちゃんを抱きしめた。



よく見るとカラオケ屋さんの制服のままだった。



たぶん、仕事を終えて、着替えることなくこっちに向かって来たんだろう。



「どうしても会いたかったの…」



「とりあえず、部屋に行こう」



幸奈ちゃんの私服が入ったカバンを俺が持って、部屋にあげた。



部屋に着いた瞬間に抱きしめてきた。



「なつ…好き…」



それに応えた。



「俺も好きだよ、ねーさん」



会いたくて仕方がなかった幸奈ちゃんがここにいる。



身長差15cm以上をなくすように、幸奈ちゃんが腕を俺の首に回してぶら下がる。



ぶら下がって浮いた足で俺の腰を抱きしめる。



そのまま抱えてロフトのある螺旋状の階段を登る。



そこに敷かれている布団の上に、そのままゆっくり前に倒れ、崩れるように抱きしめ合った。



「なつを襲うから…」



そう言って、唇を奪ってきた。



幸奈ちゃんからの初めてのキス…



俺の唇の感触を確かめることなく、舌を侵入させてくる。



頭がぼ〜っとする。



そのまま着ていたポロシャツを捲りあげられ、半分脱がされ、残りを自分で脱いだ。


その間に、幸奈ちゃんが自分の上半身の制服を下着ごと脱いでいた。



スウェットのズボンに足をかけて、そのままパンツごと膝まで下げられた。



残りを自分で脱いでいる間に、幸奈ちゃんも自分の制服のズボンと下着を脱いだ。



そして



お互いがお互いの体温を確かめ合うように抱きしめ合った。



その後は、どちらが主導ということもなく、最後まで突き進んだ。



「初めて自分から襲っちゃった。なつのせいだ」



「えっ?俺のせい?」



「そうよ。なつのせい!」



「ごめんなさい」



「うふ。もっとそばに来て」



「うん」



「なつ…。ずっと会いたかった…」



その夜、これまでのお互いの我慢を全て吐き出すように、何度も何度も身体を許しあった。




翌朝、朝ごはんを食べに出掛けた。



フードコートもある南條モールに。



もう少しいて欲しい…



そういう気持ちが強く、“今日、帰るの?”なんて聞けない。



そこには触れない。



これからも泊まりにくることがあるかも…と言って、俺はパジャマにもなるような幸奈ちゃん用の部屋着を買った。



幸奈ちゃんも色々と購入していた。



どちらかが…ということもなく、自然と手を繋いでモール内をまわる。



たぶん、これまで幸奈ちゃん自身も抑えていたんだ…



ずっとこうしたかった…



それが分かる。



俺がそうだったように。



お互いがどんどんと自分を解放していく。



それが心地よく、楽しく、どんどんと解放に拍車が掛かる。



いつものように幸奈ちゃんが俺を軽くいじめる。



それに俺がオドオドすると、満面の笑みで楽しそうにする。



強い言葉も出て怖い時もあるんだけど、それが愛情によるものだと分かるから心地いい。



何年も一緒にいるみたいに自然と楽しくいられる。



男の人に愛情を見せるイメージが全くないこの幸奈ちゃんに、愛情を向けられていて、それを感じれるのがこの上なく嬉しい。



バイトは大丈夫なのか?



家庭は大丈夫なのか?



そう思いつつも、俺からは言い出せず…



この日から数日間、幸奈ちゃんはここに泊まった。




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