第3話 デート
『(幸奈) 元気?』
その文字を見た瞬間に胸が飛び跳ねた。
でも、一生懸命に落ち着かせた。
これは、祥子さんに促される形でメールを強いられたのかも…
心が踊っちゃダメ。
冷静にならなきゃ。
『(なつ) 元気だよ!幸奈ちゃんは?』
普通に普通に…と気をつけて返信した。
『(幸奈) 私は元気じゃないよ』
はっ?
『(なつ) どうかしたの?大丈夫?』
『(幸奈) 連絡先を聞いてきたくせに、全く連絡してこないから』
『(なつ) えっ?ごめんなさい』
『(幸奈) 許さん』
『(なつ) 本当にごめんなさい』
『(幸奈) 反省してる?』
『(なつ) うん。でも、1度は嫌って言われたし、迷惑かけたくないなぁって』
『(幸奈) ごちゃごちゃ言わなくていいの。反省してる?』
『(なつ) うん。反省してる』
『(幸奈) よし!許そう』
『(なつ) ありがとう』
『(幸奈) やっぱり気が変わった。許さない』
『(なつ) えっ?どうしたら良いの?』
『(幸奈) ご飯を誘ってくれたら許してあげる』
えっ?
胸がまた飛び跳ねた。
『(なつ) うん。じゃあ、いつだったら幸奈ちゃん的に大丈夫?』
『(幸奈) 私に大丈夫な日なんてない!』
『(なつ) えっ?それじゃあ誘えないじゃん』
『(幸奈) 誘えないなら許せないな』
『(なつ) むちゃくちゃじゃん』
『(幸奈) 面白いわ(笑) 火曜か木曜なら空いてるよ』
『(なつ) じゃあ、木曜日で。俺もシフト空いてるから』
『(幸奈) 待ち合わせはどうしよう?』
『(なつ) じゃあ、木曜の19時にあのカラオケ店の駐車場はどう?』
『(幸奈) ラジャ!』
『(なつ) もし都合が悪くなったら教えてね』
『(幸奈) うん。またね』
これって…
もしかして…
デートの誘い?
そう思うと嬉しくて仕方がない。
でも
木曜日が楽しみかと聞かれたら、正直に言って怖い。
俺は、こんな感じで女の子とご飯なんて行ったことが殆どないからだ。
一応、以前の彼女が、彼女になる前に1回ほど行った。
しかし、それも3年前だし、向こうのリードだったので参考外に近い。
そもそも、地元の県とはいえ、ここに土地勘があまりない。
そこで浩一さんに相談することにした。
「やったじゃん、なつ!」
「そうですかね?」
「向こうもかなり乗り気じゃん!ここで1発決めなきゃだな」
「決めるも何も、どこのお店が良いですか?」
「その時間なら居酒屋が妥当だな。そして、最低でも2万は握りしめていけ」
「俺らはお酒を飲まないし、居酒屋で良いんですかね?それに居酒屋を2人で2万も掛かりますか?」
「飲まなくても居酒屋でいいと思うし、ここいらではそれ以外ない。そして2万はその後も含めてだろ」
「その後?」
「そりゃ、その後のホテル代だよ」
「いやいや、初ご飯でそんなことにはならんでしょ」
「備えあれば憂いなしってことだよ」
「まぁ、居酒屋を検討します」
そして、木曜日に例のカラオケ店の駐車場に行った。
彼女はすでに自分の車内で待っていた。
「お待たせしました」
「うん!」
幸奈ちゃんはここに車を置き、俺の車で出発した。
おそらく人生の中で1番つらいドライブであった。
俺は、自分が積極的に好きになった子と、こういう風に車に乗せたことがないので、とにかく緊張する。
緊張していたのは、なぜか幸奈ちゃんもだ。
その幸奈ちゃんの緊張も伝わってきて、言葉が出しづらい。
また、幸奈ちゃんは何を話しても反応が薄い。
俺は、一生懸命に自然を装い、おちゃらけて話しかけるが、あまりの反応の薄さに心が折れそうになる。
ご飯も、デートというよりは、タスクのようだ。
一生懸命に楽しい雰囲気にしようと頑張るが、終始、幸奈ちゃんに緊張感が見られる。
俺は、好きな女の子との初めてのデートで、少しでもかっこいいところを見せたかったが…
かっこよさなんて微塵もなく、明るく一生懸命になって笑わせようとするアホになっていた。
ご飯も食べ終わり、軽くドライブして、カラオケ店の駐車場に戻った。
そこで、少しだけ車内で会話していて
「そろそろ帰るね」
という幸奈ちゃんの言葉で、初デートは終わった。
いわゆるの感触というやつで言うなら、それは、まさにゼロだった。
なんの手応えがないし、もう、この先は誘っても断られるだろうな…と思った。
肩を落としながら、家に帰り、一応メールを送った。
『(なつ) 今日はありがとう。楽しかったよ』
『(幸奈) うん』
と、一言だけ返ってきた。
そこから3日経った。
その間に連絡はしなかった。
出来るわけがない。
手応えも何もないんだから。
誘っても、用事があるとか言って断られるだけだ。
それならもう放っておこう。
そう思っているとメールがきた。
『(幸奈) この前はありがとう』
えっ?
驚くしかない。
絶対にこないと思っていたメールがきた。
『(なつ) それはこっちの台詞。今日は元気?』
『(幸奈) うん。割と元気。そっちは?』
『(なつ) 俺はそんなに元気じゃないかな』
『(幸奈) どうしたん?大丈夫?』
ちょっと期待を込めた文を打ってみた。
『(なつ) 幸奈ちゃんをまた誘いたいけど、断られそうだから』
『(幸奈) そっかぁ。それは自分が悪いね』
予想外の斬新な返信だった。
『(なつ) 確かにそうだね。ごめんなさい』
『(幸奈) 許さん』
『(なつ) 本当にごめんなさい』
『(幸奈) 反省してる?』
『(なつ) うん』
『(幸奈) よし!許そう』
『(なつ) ありがとう』
『(幸奈) やっぱり気が変わった。許さない』
『(なつ) えっ?どうしたら良いの?』
『(幸奈) そこは自分で考えて』
『(なつ) じゃあ、また遊びに行かない?』
『(幸奈) 行かない』
『(なつ) えっ?じゃあどうしたら良い?』
『(幸奈) うそ』
『(なつ) 何がうそ?』
『(幸奈) 行かないが…うそ』
『(なつ) うん。じゃあ、いつだったらが幸奈ちゃん的に大丈夫?』
『(幸奈) 私に大丈夫な日なんてない!』
『(なつ) えっ?それじゃあ誘えないじゃん』
『(幸奈) 誘えないなら許せないな』
『(なつ) むちゃくちゃじゃん』
『(幸奈) やっぱり面白いわ(笑) 火曜か木曜なら空いてるよ』
『(なつ) じゃあ今度は火曜で』
『(幸奈) 待ち合わせはどうしよう?』
『(なつ) じゃあ、前回のように例の駐車場で19時はどう?』
『(幸奈) ラジャ!』
『(なつ) もし都合が悪くなったら教えてね』
『(幸奈) うん。またね』
絶対に2度目はないだろうと思っていた。
しかし、幸奈ちゃんの方から手を差し伸べてくれた。
今度こそ幸奈ちゃんが少しでも楽しめるように頑張ろう。
2回目のデートは1回目と比較にならないくらい楽しかった。
スタンスを変えて、友達的に接したのがおそらく良かった。
俺が変なことをするたびにケタケタ笑う。
たぶん元々気が合うのだ。
面白いと思うポイントが同じだし、価値観というか自分の中の正義ポイントが近い。
だから、暴言を言われても、全く不快にならないし、むしろ楽しい。
そこから、3回、4回と遊びに行った。
俺は幸奈ちゃんを“ねーさん”と呼ぶようになった。
いじわる気味にされて、俺が動揺すると、その様子を見て楽しそうにするって関係が自然にできた。
いつの間にか呼び捨てにもなって、心を開いてる感じもする。
これまでの元カノや女の子の友達を含めても、これほど楽しいと感じたことがない。
つまり、好きな人であり大切な友達ってことだ。
仕事中に浩一さんが話しかけてきた。
「なつ?お前、最近よく幸奈ちゃんと遊び行ってるけど、もう付き合ってるの?」
「いえ、付き合ってないですよ」
「ふ〜ん。とりあえず、ヤった?」
「いいえ」
「マジか。慎重やな。手くらい繋いだ?」
「いいえ、繋いでませんけど」
「いや、マジでそろそろ繋いだら?」
その会話が頭に残って、5回目のご飯は、変に意識してしまった。
知り合って1ヶ月も超えている。
俺が好きだという気持ちを持って、誘っているのは幸奈ちゃんも分かってるだろう。
それでも、毎回来てくれるなら、きっと悪い感触ではないのだろうけど…
でも、その一歩が怖い。
今、笑ってくれる幸奈ちゃんが、その一歩で、もしも離れていったら、俺は耐えられない。
大好きな女の子と友達を同時に失うってことだから。
助手席の幸奈ちゃんの右手を見つめて、その後に笑顔を見て、進めたい気持ちを抑え込んだ。
翌日、大学に行った。
今、所属している研究室の先生から話があると連絡があったためだ。
「佐藤くん、話をつけてきたよ。10月から、隣県の大学で、佐藤くんをお世話してもらえるように頼んだんだ」
「えっ?」




