第27話 栄枯盛衰
8月、日本で開かれる国際学会に参加した。
場所は俺が入学辞退をした地元の隣県だ。
つまり、この学会の世話人たちはその大学の関係者で見知る人ばかりだ。
いきなりいなくなった上に入学辞退…
相当に気まずい。
しかし、そう思っていたのは俺だけであり、先輩達や先生達は、紆余曲折があったにしろ、この世界に戻ってきたことに歓迎してくれた。
「佐藤くんは今、中嶋さんのところなんだね?」
「はい、中嶋先生が指導教官です」
「よく戻ってきたよ。きっとこの経験が後々で宝になると思うよ」
そう言ってくれた。
期間は5日間。
飲み会は楽しかったが、学会が有意義かと言われたら正直言って分からない。
初めての学会なんてそんなもんだろう。
俺は、早速、幸奈ちゃんのいる家に向かった。
「ただいま〜!」
「おかえり!!」
幸奈ちゃんはご機嫌だった。
「いつまで居れるの??」
「9月の10日ぐらいよ。だから1ヶ月くらいは居れるよ」
「本当に!?じゃあ、早速、一緒にお風呂入ろ!」
とにかく嬉しそうだった。
お盆はパチンコ屋の喫茶店ではあるものの、きちんと休みらしい。
それまでの間、いつも通り、バイトの送り迎えすることにした。
俺は、幸奈ちゃんを送った後に前の仕事場に行ってみた。
6月に閉めると言っていたが、実際はどうなんだろうと思って。
到着すると、店は看板が外されて売地となっていた。
栄枯盛衰。
この言葉がすごく似合う。
ここが最初にできた時は大繁盛だった。
俺がこっちに来る半年前にできたと言っていた。
俺はここでバイトして、その後に正社員。
会社の他の部署を無くして、麻雀一辺倒にした。
この店を見て、ライバル店が次々と出来た。
我慢が強いられた。
俺は進学でここを退職した。
安藤が死んだ。
主任と店長がレートを上げた。
それによって奈落の底へ。
そして…無くなった。
たった5年くらいだ。
俺は、他の店を見に行った。
繁盛してた。
同じような条件なのに経営手段の違いだけで大きく違う。
「いらっしゃいませ!」
もう俺を知る人もほぼいない。
学生さんは皆卒業したのだ。
月日の流れを感じる。
俺たちはもう5年以上だ。
幸奈ちゃんとの結婚はいつになるのだろう?
もう待たせることはできないが、なにぶん俺は学生であり、まだまだ修了の目処は立たない。
あと最低2年近くは学生であるが、おそらく残り2年で修了は厳しいだろう。
学生結婚…それも考えたが、一希のことを考えると厳しい。
一希ももう小学生だ。
俺は2人の死が関係して、今の道をきている。
それを不意にはできない。
今は…
たった今は結婚について何も考えずに、この1ヶ月、幸奈ちゃんと一緒にいよう。
そして幸奈ちゃんを迎えに行った。
幸奈ちゃんは俺が外食と弁当生活だったと知っている。
だから、毎日のように手作りのご飯を作ってくれた。
一緒に買い物に行くのがすごく楽しそうだった。
「今日はなつの好きなガーリックチキンね!」
「確かに好きだけど、ねーさんも好物じゃん」
「なつは好きじゃないの?」
「…好きです」
「あはは!じゃあ、ケチつけないの!」
「ねーさん、せっかく休みなんだし、一希連れてどっか旅行する?」
「う〜ん…。私はいいや」
「どうして?」
「どっかに行くより、なつと家で一緒にいたい」
ドクン…。
幸奈ちゃんはこういうところが本当にかわいい。
いつも怖いのに、こういうストレートなところが本当に好きだ。
次に日は、一希と一緒に公園で遊んだ。
最近はサッカーに興味がある様子。
幸奈ちゃんも早紀さん一家も、サッカーをよく知らず、また、そもそもスポーツもよく知らない。
俺はキッズ用のスパイクと4号のサッカーボールを買って、一希とずっとパスをした。
専用の靴を履き、サッカーボールを蹴る。
たったこれだけのことが相当嬉しかったようだ。
飽きることなく2人でずっとボールを蹴り合った。
あの時に違う選択をしてたら、ここにもう1人いたのだろうか…
そういうことを最近はよく考える。
向こうで学校に通っている時はそういう気持ちがほとんど消えている。
完全に学生モードになってしまっているからだ。
本当は絶対に忘れてはいけないこと。
あの時のぼろぼろに泣いていた幸奈ちゃんの顔は今でも覚えている。
それ以後も、俺との子どもを欲しがる幸奈ちゃんは全く避妊を求めない。
しかし、俺はしっかり気をつけている。
次は、俺たちが何も悩むことなく生まれてきて欲しいから。
一希とともに幸奈ちゃんを迎えに行った。
一希はせっかくの夏休み、従兄弟たちと遊びたがっている。
俺らは一希を連れて早紀さんの家に遊びに行った。
「なっちゃん、おかえり〜!久しぶりね!」
早紀さんは歓迎してくれた。
「幸奈〜!うちでご飯を食べていく?」
「ラッキー!ありがとう!」
一希は従兄弟たちのところに走っていった。
もはや兄弟だ。
「なっちゃんも久しぶりに幸奈の爆乳触れて嬉しいでしょ?」
「いや、早紀さん…そんなストレートに言われても…」
「ん?いや?なつは嫌なん?」
「ねーさん、こんなところで乗っかってこないで…」
お義母さんは笑ってる。
オープンな家族だ。
「なっちゃんは今回はいつまで居れるの?」
「9月10日くらいですかね、そのあと学会があるので」
「学会?なんか遠い世界の単語だわ。でも、しばらく居れるんだね」
「はい、今回はしばらく居るつもりです」
「じゃあ、幸奈、しばらく一希を預かるね!せっかくだし2人きりを満喫したいでしょ?」
「ありがとう、お姉ちゃん!でも、一希が帰りたがるかも…」
「それはないね!うちの子らと一緒に遊びたがるに決まってるじゃん。最近3人でずっとゲームよ」
「かず〜!帰る?」
「嫌!みんなと遊ぶの!」
「分かったわよ。じゃあ、お姉ちゃんよろしくお願いします」
「はいは〜い!私が用がある時はお願いね!ギブアンドテ〜イクよ!」
「ラジャ!」
幸奈ちゃんの弟の龍之介くんは、高校を卒業して専門学校に進学。
そこの寮に住んでいるので部屋が1つ空いた。
その部屋が今はチビたちの遊び部屋になっているのだ。
「じゃあ、なつ。帰ろっか」
「うん」
「あれが観たくなったわ、借りに行こ!」
「あれって何?」
「なつの童貞を奪った時に観た映画よ!ちゃんと観てなかったからね!」
「俺はあの時、童貞だったんだ…」
「何?文句あるの?」
「ないです」
「童貞だったんでしょ?」
「いや…」
「童貞だったんでしょ?」
「はい…」
「あはは!借りに行こ!」
幸奈ちゃんは最初はおとなしく観ていたが、あの時の再現をしたいとか訳の分からないことを言い出し…
結局、またちゃんと観れないという結果となった。




