第2話 連絡先の交換
一目惚れしたからと言って、自分をアピールするために近寄っていくなんてことは、俺にはできない。
基本的に女性を口説いたこともないのだ。
もっと言えば、話し掛けに近寄ったこともない。
高校時代、学部時代とそれぞれ1人ずつ、彼女はいたが、それは相手からの申し入れ。
当時、別で好きな子はいたが、何もできないままに諦めてきたヘタレ野郎だ。
そんな中で合コン第二弾は開催された。
前回同様に俺は弄られる。
今回嬉しかったのは、幸奈ちゃんが横に座ってきて、俺の話にずっと大笑いしてたことである。
「なつ。どの子がいい?」
「俺っすか?幸奈ちゃんです」
「おっ!見事にバラけてるな。なつはああいう子が好きなんだぁ。綺麗系が好きってことだな」
元々、町田さんたちは歳上狙い。
池本は俺と趣味が違い幹事の子狙い。
俺と幸奈ちゃんはぴったりってイメージが強いらしく、誰も幸奈ちゃんに関心がない。
それに、そもそも幸奈ちゃんは、扱いにくそうなタイプなのだ。
お酒は飲まない。
話かけるタイプでもない。
年齢が下なので俺のように遠慮がある。
顔立ちが綺麗で近寄りがたい。
話掛けても作り笑い。
合コン自体に乗り気がなさそう。
遊びたいだけの合コンであれば、いかに可愛くても、ここを避けてもおかしくない。
ただ、その幸奈ちゃんが俺には遠慮なく笑ったり、話したりするので、それが特別扱いのようで嬉しかった。
俺はそもそも女の子を口説くスキルなどないので、幸奈ちゃんともごく普通の会話。
だから警戒感もなく楽しそうにしてくれた。
そして、第三弾を約束して第二弾は閉会した。
2日後、町田さんがお店に来た。
「なつ!やったじゃん。幸奈ちゃんがなつのこと気に入ってたらしいぞ」
どうやら、幹事同士で、それぞれが誰が良いか確かめ合ったらしい。
そこで、俺を含めて、浩一さんと町田さんも意中の相手とカップリングできたとのこと。
たぶん、俺の場合はちょっと違う気がした。
俺は幸奈ちゃんに一目惚れしたのだが、たぶん、彼女は、聞かれたので妥当なところを言っただけであろう。
俺が推しが弱いタイプだから。
「それは嬉しいですね」
と町田さんたちには言った。
「じゃあ、次はなつのためと銘打って第三弾を来週開催するな!」
「えっ??それはちょっと…」
「イケるって!なんかお似合いだし、次はなつがちゃんと連絡先交換できるように水面下で動くから」
「はぁ…」
そして、翌週に第三弾が同じカラオケで実施された。
「今日はなつ君、頑張って!私も応援してあげるから」
こう言ってきたのは、女性側の幹事の祥子さんだ。
「はぁ…」
「なんだぁ?やる気がないな!一杯先に飲んどく?幸奈ちゃん、今日バイトのシフトで参加は20時だし」
「そうなんですね?いないとは思ってました」
「じゃあ、生でいい?」
「はい、では生でお願いします」
祥子さんが、室内電話で店員さんに飲み物を頼んだ。
御用達なのか、店員さんと電話で楽しそうに話している。
コンコン…。
店員さんがドリンクを運びにきた。
「ご注文の生ビールを届けにきました〜」
「あっ、僕です。ありがとうございます…って、あれっ?」
「はい、どうぞ、なつ君!」
「えっ?幸奈ちゃん??」
第二弾、第三弾のカラオケ屋さんは、幸奈ちゃんのバイト先であった。
いや、どうやら祥子さんを含めて、5人中4人がこのカラオケ店のスタッフや元スタッフのようだ。
なるほど…
町田さんはここのカラオケで店員さんと仲良くなり、合コンを頼んだんだ。
「うふ!びっくりしたでしょ?」
イタズラっぽい顔で祥子さんが言った。
どうやら、さっきは幸奈ちゃんに運ばすように頼んでいたようだ。
「はい、びっくりしました。皆さん、ここのスタッフさんだったんですね」
「そういうこと〜!店員割引効くし、良いでしょ?」
「でも、なつ君!今日は絶対に幸奈ちゃんから連絡先を聞かなきゃダメよ!」
「…聞かなきゃですかね?」
「うん!絶対に聞かなきゃダメ!」
と笑顔で言った。
「…わかりました」
「ん?どうしたの?幸奈ちゃんは好みじゃないの?」
「いえ…。そういう訳ではなくて、僕は女の子に連絡先とか聞いたことないので、どう聞けば良いのかわからないんです」
「うわっ!めっちゃかわいい!良いなぁ、幸奈ちゃん」
「聞くのは正直に言って断られそうで嫌ですけどね」
「それはないと思うよ!頑張れ!」
「はい…」
そして、飲み会カラオケは開催された。
みんな各々で話、そして、20時をちょいと越えたあたりで、私服に着替えた幸奈ちゃんが部屋に入ってきた。
皆が変に気を利かせて、俺の席の隣を空けていたため、幸奈ちゃんはそこに自然と座った。
カラオケを歌い、みんなで騒いである程度時間が過ぎると幸奈ちゃんが皆に言った。
「今日は私、これで帰るんで、皆さんは楽しんでて下さい!」
そして、部屋から出た。
「おい、なつ!」
「なつ君!行って連絡先聞かなきゃ!」
「マジっすか?このタイミングで外出て聞くんですか?」
「そうよ!行って聞いてきなさい!」
「行けって、なつ!」
「分かりましたよ…」
そう言って、幸奈ちゃんを追いかけた。
お店の駐車場で今から車に乗り込もうとしている幸奈ちゃんに、勇気を出して声を掛けた。
「幸奈ちゃん。今日はお疲れ様」
「なつ君もお疲れだったね。今日は早く帰らなきゃだったからごめんね」
「あのね…幸奈ちゃん…」
「どうしたの?」
「…連絡先とか教えてもらえないかな?」
「う〜ん…。嫌!」
幸奈ちゃんは笑いながら言った。
「そっか…。分かった。気をつけて帰ってね」
そう言って俺は店に戻った。
生まれて初めて女の子に連絡先を聞いた。
そして、生まれて初めて普通に断られた。
部屋に戻った俺を見て祥子さんがニヤニヤしながら近づいてきた。
「なつ君、どうだった?ちゃんと聞いた?」
「はい、聞きましたよ。そして、普通に“嫌”って言われました」
「はっ!?マジで言ってる?」
「はい。大マジです」
「そんなはずはない!ちょっと待って幸奈ちゃんと話してくる!」
そう言って祥子さんは携帯を掛けながら部屋を出ていった。
「どうした、なつ」
「いや、連絡先を聞いたら、普通に断られました」
「えっ?そうなの?向こうから聞いた感じだと絶対イケるって話だったけど…」
祥子さんが部屋に入ってきた。
「なつ君。今、幸奈ちゃんが駐車場にいるから、もう一度聞いてきなよ」
「えっ!?さっき断られたのに、また聞くんですか?」
「うん!行ってこい!」
マジか…。
また聞くの?
でも、待たせているのは悪いし…
ということで、もう一度、駐車場に向かった。
車の横で幸奈ちゃんが1人ぽつんと立っていた。
「あの…。一度断られてまた聞くのも恥ずかしいんだけど…連絡先交換しませんか?」
「いいよ」
今度は笑顔で幸奈ちゃんが言った。
交換が終わり、幸奈ちゃんは車に乗って駐車場を出た。
それを見送った後に、部屋に戻った。
「なつ君!どうだった?」
「はい…交換しました」
「良かったね〜!絶対連絡しなきゃダメよ〜」
「はぁ」
そして第三弾は終わった。
ここで、何ペアかカップルが成立し、第四弾は開かれなくなった。
1週間後、浩一さんと同じシフトだった。
「なつ。そういえば、幸奈ちゃんに連絡したか?」
「いえ、してません」
「えっ?あれから1回もしてないの?」
「はい、してませんよ」
「なぜしないんだ?あれほど気に入ってたのに」
「…無理に交換した感じであったし、出来ませんよ」
「いや…。それでもメールの1通くらい入れとくべきじゃないか?もう会えなくなるぞ」
「でも、断るってことは、本当は連絡されたくないと思ったからだと思いますし、迷惑かけたくないから、良いんですよ、これで」
「そうか…」
そんな感じで俺は幸奈ちゃんにメールも電話もしなかった。
祥子さんが無理矢理に教えさせたんだろうし、幸奈ちゃん的にもこれで良いんだろう。
そう思って、今回のことは忘れることにした。
第三弾の合コンが終わって2週間が過ぎた頃に、突然メールが入った。
『(幸奈) 元気?』