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幸あるなつのおもひで  作者: ホタテノホ
15/30

第15話 明け方の報せ

 


「チェ〜!!!」



「にゃにゃにゃ…」



 幸奈ちゃんの猫の育て方はたぶん独特だった。



 俺も猫を飼うのは初めてだが、もっとこう、自由にさせるイメージを持っていた。



 しかし、幸奈ちゃんはチェリーを犬というか人間の子のように躾けた。



 呼んでこなかったら怒る。



 高いところに登れば大きい声を出す。



 色々あるがスパルタに感じた。



 でも、不思議なことにチェリーはどんどん懐く。



 俺にも懐くが、幸奈ちゃんにはそれ以上だ。



 寝る時はいつも幸奈ちゃんの布団に潜り込んで胸元で寝る。



 そしていつもチュッチュと胸元のシャツを乳を吸うように寝る。



 朝になるとびしょ濡れだ。



 幸奈ちゃんはそういうのは決して怒らない。



 嫌そうではあるが。



 躾は厳しいがチェリーも幸奈ちゃんの愛情が分かるようだった。




 合間合間で勉強はしてたが、足りてなさそうで不安だった。



 3週間後には試験がある。



 俺が今まで受けた旧帝大よりは難易度は低いだろうと思ってたが、過去問を見る限りそうではなかった。



 なんというか、旧帝大は一般概論の問題が多いのに比べて、この大学は専門に特化している。



 専門の勉強をしなければ何も分からない。



 旧帝大ではないが、さすが名門国立大と言ったところだろう。



 少し専門がズレただけで、何も解けない。



 とにかく過去の専門用語を調べまくって、さらに、そっち系の専門書を購入した。



「なつ、今日で最後よね?」



「うん、こんな時間から仕事に出るのもたぶん今日が最後だ」



「明日は午後から遊びに行こう!」



「午後って何時?」



「そりゃ12時でしょ」



「拷問だな」



「良いじゃん、その日の夜はもう仕事ないんだし!」



「オッケー!帰るの9時前だから、2時間は寝させてね」



「ダメ!」



「えっ?ダメなの?」



「その2時間は私とのエッチでしょ?」


 と言ってイタズラっぽくにやける。



「えっ?」



「あはは!嘘よ。ゆっくり寝させてあげる。やっぱりなつは面白いわ〜」




 今日が制服を着て仕事をする最後に日。



 また大学生にとって今は夏休みの真っ最中ということもあって、結構、懐いてくれてたお客さんも来てくれた。



「明日のこの時間から、なつさんの代わりに安藤さんになるんですね?」



「そうですよ。明日から安藤をよろしくです」



「安藤さん、ちょっと怖かいからなぁ〜」



「いや、あの子ほど優しい人も珍しいですよ」



「そうですか?僕たち客に対する麻雀はかなり厳しいっすよ」



「麻雀はまた別です」



 店長の計らいで、今日だけ俺の席を観覧して良いということになり、後ろには結構お客さんが集まっていた。



 8/31の朝8時、俺のここでの仕事が終わった。



「なつさん、今日は制服を脱いで打たないんですか?」



「今日は午後から予定があるから寝るよ。また客として打ちにくるから、また今度ね〜」



 家に帰ると幸奈ちゃんがいつものようにご飯を作ってくれていた。



「やっぱり寝ないでおこうかな」



「いいけど、遊びに行った時に眠いとか言ったら、張り倒すよ」



「寝ます…」



「うふ。私は、洗濯とか化粧とかあるから、食べたらゆっくり休んで」



 俺は12時に目覚ましをセットして寝た。



 ピピピピピピ…



 仕事上、睡眠不足には強い。



 寝たのは9時くらいだからおそらく3時間くらい寝た。



 でも、もっと寝てた感覚がある。



 目覚まし時計の時間を確認すると13:30。



「おはよう、なつ」



「おはよう、そして、()()()()()



「なんのことかしら」



 幸奈ちゃんはニコッと笑って、続けた。



「さぁ、早く着替えてらっしゃい!」



 俺も幸奈ちゃん以外だったら気が付かないと思う。



 目覚ましの時間の設定を間違えたかなって。



 でも、幸奈ちゃんはちゃんと俺のことを考えて、少しでも寝れるように、こっそりと時間をいじる。



 もちろん、俺が休みの時に。



 普段怖いけど、こういう何気ない優しさがあり、本当に大事にしたいと思わせる。



 幸奈ちゃんは化粧をしていた。



 小一時間はかける。



 すっぴんも好きなのだが、少しずつ変わっていって、より綺麗になるのが面白く、隣で見ていて飽きない。



 幸奈ちゃんは普段はすっぴんでも出掛ける。



 化粧をバッチリ決める時は、デートか仕事に行くときくらいだ。



 どういう基準で化粧をするの?と聞いたら、



「外に出る時は基本的にするよ。でも…」


 特に、なつと出掛けるときや、なつとの共通の知り合いに会うときは気を付けるかな。



「なんで?」



「なつに恥をかかせたくないからよ」



 こういうのをさらりと言う。



「なつ、お腹空いた」



「じゃあ、出掛ける前に食べに行こ!」



「うん!」



「その前に銀行寄っていい?」



「ダメ」



「いや、お金おろしたいから」



「ダメ、お腹空いた」



「でも…」



「ダメ。後にして」



「うう…分かったよ」



「うふ!行きましょ!」



 幸奈ちゃんはお寿司が食べたいと言って、近所のそこそこ高い回転寿司に行った。



「満足した〜!今日はどこ行く?」



「サファリ施設にでも行ってみる?」



「嫌」



「じゃあ、隣県でお買い物とか?」



「嫌」



「カラオケ?パチンコ?ドライブ?」



「嫌」



「うう…じゃあ、何したいの?」



「なつは分からないの?」



「…うん」



「本当に分からない?」



「ごめんなさい…」



「もう、仕方ないなぁ」



「どこ?」



「ラブホ」



「アホか!」



「うふ!冗談よ。サファリに行こ!」



「うん!」



「なつ、これで払ってね」



「えっ?ねーさんが直接払ったら良いじゃん」



「いや、なつがこれで払って」



「分かったよ…」



 幸奈ちゃんから渡されたお金で会計を済ませた。



「ねーさんってこういうのこだわるんだね」



「別に。私はどっちが払おうがどうでも良いと思ってるよ」



「じゃあ、なんで?」



「私は良いけど、他の人はどう思うか分からない」


 他人がなつを色々と勝手に判断するのはムカつくの。


 だから、こうやっておけば、少なくともムカつく想像はされないからね。




 やっぱり幸奈ちゃんっていい女だよなぁ…




 そしてお寿司さんから出発して、この日を楽しんだ。



 8月最後の日。



 サファリに行って、パチンコに行って、カラオケに行って存分に遊んで帰った。



 気がつけば、もう少しで今日が終わる。



 安藤は今頃着替えて仕事に入る用意かな?



 そう思っている途中で、睡眠についた。



 昼夜逆転の生活だったが、睡眠不足もあって疲れて寝た。



 たぶん、これで昼夜逆転の習慣も緩和される。



 幸奈ちゃんも隣ですやすやと眠った。





 深い睡眠中に、遠くから音が聞こえてくる。



 睡眠が浅くなってきて、それが電話だと気が付く。



 一体、今何時だ?



 時計を見ると4時前。



 誰だろう?



 着信画面を見る。



「ん?池本?」



 幸奈ちゃんを起こしてしまうから、とりあえず電話を取った。



「もしもし、池本?こんな時間にどうした?」



「なつ、寝てたのか?」



「うん、普通寝てるやろ」



「今から言うことは、嘘でも冗談でもないからちゃんと真剣に聞いてくれ」



「なに?どうした?なんかあったの?」



「安藤がな…」



「安藤がどうした?」



「安藤が…」





 死んだ…







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