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幸あるなつのおもひで  作者: ホタテノホ
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第1話 一目惚れ

 


「ロン!12000点。ラストで〜す!」


「うわっ!捲られた〜」


「新規のお客様、こちらにど〜ぞ〜!席は温めております!」


「なつさん、出前頼みたいです」


「少々お待ちください」




 俺は大学院受験に失敗して、地元の大学で研究生として拾ってもらっていた。


 地元の大学だけに、高校時代からの知り合いもいた。


 竹本と松下と安井だ。


 彼らも現役で入学していたが、留年してしまい、そのおかげもあって、再開して仲良く遊んでた。


 やることはもっぱら麻雀。


 彼らはこれで留年したんだろう。


 俺も人のことは言えない。


 緑川大学時代は、大学院を志望していて就職活動はせず、とにかく麻雀をアホほどしまくっていた。


 …その結果が今である。



「雀荘に行ってフリーで打ってみない?」


 と、竹本が言ったことにより、普段は家でやっていたが、今回、お店に行くことにした。




 まさに、それが全てのきっかけだった。




 こんな田舎にもフリー雀荘なんてあるんだ…


 緑川大学時代は都会に近く、よく遊びに行っていた。


 まさかこんなど田舎でもあるなんて…と思ってると


「最近、出来たんだよ」


 と松下が言った。


 簡単に言うと、このフリー雀荘というのは、1人で来店しても、麻雀が打てるという形態のお店なのだ。


 通常、麻雀は3〜4人でするのだが、ここでは見知らぬ人達と、その店のルールで打つことになる。


 ここでいう見知らぬ人とは、同じように来店した別の客だ。


 当然、客が居なかったり、上手く人が揃わない場合は、店員さんが入って打つ。


 この店員さんのことをメンバーさんと呼んだりもする。


 当然、仲間内で打つ貸卓もあるが、今回はみんなでフリーにきた。


 初めてのお店に入る時、フリーの経験があるかどうかを聞かれる。


 1番無難なのは「ない」と答えることだ。


 そうすると丁寧な説明を受けられるし、悪い客層の所には入れられない。


 実際に打つと分かるのだが、フリーと仲間内ではかなり違う。


 見知らぬ人と打つので、礼儀が必要になる。


 つまり悪い客層とは、ちょっとハメを外すようなお客のことである。


 そして、フリー慣れしているものは、2〜3局ですぐ分かるものである。



 この時、俺はいつものように初めてですと言っていたので、店側は慎重になり、良い客筋のところに誘導してくれた。


 その卓は、お店の主任も入った。



「佐藤さん、打ち慣れていますね」


 と言ってきた。


 こういうのはすぐ分かる。


 俺も緑川大学時代に雀荘でメンバーのアルバイトをしてたくらいだ。


 2局バレる。



 同業だったことも。



 そこそこ歴の長いメンバーさんなら、たいてい俺と似たような感じで打ちに行くので、理解もしてもらえる。



 お客さんが1人抜けて、今度は店長が入ってきた。


「佐藤さん、今は何をされているんですか?」


 と打ちながら店長に聞かれた。



「別の地方で大学卒業して、今、そこの大学で大学院浪人みたいなことをしています」



「そうなんですね、メンバーとかやったことありますか?」



「昔、アルバイトをしてました」



 そういう会話を交わして、10半荘(はんちゃん)して、終了(ラスト)をかけた。


 こういうのはあるあるなのだが、そこそこ打てれば仲良しが出来ていく。


 特にメンバーさんと。


 この10回で4人のメンバーさんと打った。


 居心地の良いお店だったので、俺は2日後にまた来店した。


 卓に案内される時、店の奥から1人やってきた。



「おっ!?マジで?なつじゃん!」



「えっ!稲森!」



「なんだ、なつのことだったんか!とりあえず打とうぜ!」



 稲森と5、6半荘して、一緒に終卓した。



 ソファーで話していると店長がやってきた。



「稲ちゃん、知り合いなの?」



「こいつは高校時代の同級生ですよ!で、今、打ったけど有料物件っす」



 なるほど、察した。



 スカウトか。



 このフリー雀荘業界は、メンバー選びは重要である。


 この業務は、お客と打つ。


 そのため、基本給以外にプラスがあり、当然マイナスもある。


 しかも、多くのお店では、メンバーだからといってタダでは打たない。


 仕事中なのにゲーム代を支払うのだ。


 基本給を除くこれらをメンバー収支と言ったりする。


 つまり、この収支で給料がなくなる場合も当然ある。


 そういうギリギリのメンバーは卓に入れづらいので、店の回転にも影響する。


 しかも、お店によってはメンバーに制約が付く。


 この制約とは、いわゆる禁止事項だ。


 制約がない店も最近では一般的か。


 この制約は、お客が不快にならないような配慮と思ったら良い。


 つまり、制約が付いても、回転数が多くても、メンバー収支がマイナスにならず、お客さんに悪印象を持たれないメンバーが有料物件となる。


 しかし、リスクもある。


 人が溢れる都会と違う田舎では。


 質の良いお金を落とす貴重なお客を失うからだ。


 それらを総合してスカウトをかける。



 店長が俺に話しかけてきた。


「佐藤くん、うちでバイトしてみない?」



 そして、この新たな地でアルバイト先が決まったということだ。



 他のアルバイト仲間とも仲良くなり、頼まれてのシフト交換もいつも対応していたので、特に歳上の先輩に気に入られた。


「なつ〜!今度の火曜日、合コンするけど、来てくれないか?」



「合コンですか?」



「うん。町田のご指名」



「町田さんの?」



 町田さんとは、この浩一さんと同級生で俺の1つ上。


 浩一さんと仲良しのお客さんである。



「良いですけど、なぜご指名?」



「女の子に嫌われるタイプじゃないからと、俺らにお膳立てするのが上手そうだから」



「…わかりました。期待に添えるように頑張ります」



 そして、合コン当日になった。


 そんなに参加したことはないが、今までの合コンは居酒屋が多かった。


 で、合コン終了後に別のお店で男達で反省会。


 むしろ、この反省会の方が楽しかったりする。



 例に漏れず、今回も居酒屋で合コンが開催された。


 4対4で、相手はお姉さん達だった。


 24〜26歳だろうか。


 町田さんは歳上好きで、相手側の幹事に少し上と頼んでいたようだ。


 少なくとも俺はこの中で1番歳下であり、歳下なりの行動をとっていた。


 飲み会も終わり、次回も同じメンバーが基本で集まることとして、お互いに新しい人を連れてくる約束をして飲み会は終わった。


「なつのおかげで順調だった!次も頼む」


 町田さん曰く、今回は慣らしだと。


 まず、第一印象で、楽しい相手達と思ってもらい、次回へ繋げる。


 で、もし繋がったら、次回、次次回で個別プレーだそうだ。


 よく考えている。


 俺は歳下であるので、お姉さん達に弄られて可愛がられた。


 それもあって、次回も必須要員とされた。



 そして、翌週に第二回目が行われた。


 今度は居酒屋ではなくてカラオケだった。



 今回はお互い1人ずつ増えて、5対5。


 こちら側は稲森の友達で俺と同級生。


 最近、仲良くなった池本というやつだよ


 相手側は、バイトの後輩を連れてくることになった。



 カラオケに集合して大部屋に入った。


 新しく参加する者同士の自己紹介だ。


 池本が先に行い、次は向こうの番だ。



「はじめまして、山本幸奈(やまもとゆきな)です」



 彼女を見た瞬間、雷に撃たれたような衝撃を受けた。


 顔だけじゃない。


 人見知りな雰囲気。


 話し方。


 声。


 彼女の発する全てに惹かれた。



 俺は生まれて初めて、一目惚れを経験した。





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