ドールの気持ち
私は人形。「造形が美しい」とか、「エロいポーズが好み」とかいう理由で、何回か店を訪れた貴方は、漸く決断して私を迎え入れてくれた。
「ううぅっ……暫くは、カップラーメン生活だな…」
懐が寒い…と愚痴るも、その表情は何処か嬉しそうで…。私も、こうやって誰かを喜ばせられる存在になれたんだなぁ、と嬉しかった。
私の主人にはカノジョがいるらしく、彼はその人とのコトを話してくれた。
今日は可愛かったとか、つい揶揄って喧嘩になってしまったとか、他愛無い話。
カノジョの話をする彼は幸せそうで……。私の方が貴方のコトを知っているのになぁ…と、場違いな感情でモヤモヤする日々。
カノジョにフラれた…と、貴方は泣いた。
フラれた原因は、彼の家にカノジョを迎え入れた時。「私」を見つけたカノジョは、『“私”を捨てて欲しい』と頼んだらしいのだが、彼はそれを拒み、そっから口論となった末にフラれたとの事。
「はあぁ……。今迄、フィギュアを捨てろなんて言ってくる処か、理解してくれてる方だと思ったのになぁ…」
そう言って、貴方は私にそっと触れて、指先で頭を撫でてきた。
「“生きてるみたいで気持ち悪い”って……そんだけ丁寧に造られてるってコトだろ? 」
頭に触れた侭の指をツーッとなぞらせて、胸元へと移動させる。
「もし“生きてる”なら……此処はあったかくて…柔らかくて……………あれ……? 」
彼は一旦指を離すと、恐る恐るといった感じで、再び私の胸に触れた。
「……ハハッ…気のせいか。そっ…そうだよな! 人形が生きてるワケなんかねぇよな!? ハハハッ!! 」
「生きてるよ? 」
「!?」
「喋れなかったり、身体が動かせなかっただけで……ずっと、貴方の事を観察していたの。私、貴方のカノジョになりたいんだけど…ダメ? 」
ずっと我慢していた。恋心には蓋をして…。
貴方とカノジョが結ばれる度に、ドールの体では流せない涙を心の中で流していた。ずっと……ずうぅーーっっと……泣いていた…。
漸く、想いを伝える事が出来る身体になった事に、自分自身、驚いているケド…。
未だに私の胸元に触れた侭の男の指に腕を絡ませて、
「私のおっぱい、柔らかいでしょ? 貴方がずっと、可愛がってくれたからだよ♡」
彼がクラっときそうな言葉選びをして、口説きに掛かる。
「かっ…! 可愛がる、って……ッ」
貴方はゴクリと音を立てて生唾を飲み込んだ。
その、何処か期待してる様な熱い眼差しに、私の心臓は更に早くなる。
「事ある毎に、私のおっぱいをツンツン触っていたじゃない。優しい、て・つ・き・で…♡」
「!? っっ…」
その後の秘め事は口にせず。
男をジッと見つめていると、ーー彼は、これでもかっていうぐらいに顔を真っ赤に染め出した。恥ずかしくて、穴があったら入りたい、って言ってるみたいだ。
「ねえ? …私の心臓……ドキドキ脈打ってるの、気付いてる? 」
首を傾げて問うと、貴方が指を離そうとしたので、ソレを咄嗟に、腕を強く絡ませて、
「貴方が、こんな風にさせたんだよ? 」
と、真っ直ぐに見つめて言う。
ねえ…。私だけを見ていて。もう、カノジョを…他のオンナノコを見ないで?
じゃないと、私……
貴方をコロしてしまいそうで怖いの…。
了