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THE GIRLS  作者: 水乃戸あみ
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エピローグ それから

「あ、小牧先輩だ」「あの謎ダンスの……」「結構でかいね」「小牧さん。今度軽音部来てよ。他の皆も一緒に」「円さんって歌ってるとき頭おかしいよね」


 文化祭以降校内で声を掛けられることが多くなった。

 褒めてくれるのは嬉しいけど、知らない人に話しかけられるのは未だにどうしていいかわからないわたしです。……よっちゃんなんとかして。

「……」

 よっちゃんは今日も窓際の席で一人外を眺めていた。前のわたしみたいに。

 文化祭が終わって席替えになった。わたしは窓際から教室の真ん中に移り、入れ替わるようにしてよっちゃんがわたしの前居た席へ。不妃は廊下側へ。

 不妃は変わらず孤高を貫いている。わたしは藍やさっちゃんうっちゃんと近くなったことで、教室での手持ち無沙汰な時間が減った。だけど、よっちゃんは――。

 友達がいなくなったわけではないんだと思う。ただ少し雰囲気が変わったというか。一人ででいる時間が増えた。


 あのライブの時――。

「……私も同じことしてたんだね」

 そう言ってよっちゃんは泣いた。意味はよくわからなかったけれど。つ、と涙を流し、それからどこかへ消えてしまった。当然、クラス出し物のお化け屋敷の当番はサボり。文化祭は自由登校。別に帰ったって構わないんだけど、普段そんな選択は絶対取らないであろうよっちゃんがそれをした。


 樹里亜はあの日、熱を出して寝込んだ。たぶん元から具合が悪かったんだろう。ライブの失敗もあったし、気持ちも弱っていた所で、あの仕打ち。ショックだったんだ。

 それから樹里亜はずっと塞ぎ込んでいる。

 友だちも家に呼ばなくなった。壊れた自転車は直ったけれど、その自転車でわたしはふらふらとどこかへ行く必要もなくなった。

 ……喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。

 あの時間。決してきらいじゃなかった。あてどもなくふらふらふらふら。けれど、面倒臭かったのは事実で。

 それがなくなったんだから喜ぶべきなんだろうな。

 でも……あんまり。

 お家で思いっきり爆音でレコード掛けて歌って踊ってても、樹里亜になにも言われない。

 気持ちいいことのはずなのに。


「円!」

「藍……」

 ぼーっとしてたら藍が話し掛けてきた。

 ――藍。

 藍はあんまり変わらなかった。

 正直言って藍のことが一番心配だった。

 わたしたちに内緒でバンドを組んでいた。それを当日あんな形でぶつけてきた。藍が怒らない筈はないと思ったし、事実、藍はあの日、不妃に詰め寄って行ったのだ。

「不妃……! なんなのあれ! あたしたちに何も言わないで内緒で! あんなの……!」

 ステージを下りた不妃にファンと思しき人たちが集まる中、不妃はその群れに割って入って行った。そうして不妃の肩を掴み、汗だくになった彼女を無理やり自分に振り向かせた。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「……っ」

 人垣の外側から見えたのは、不妃が藍の耳元で何かを囁いたこと。

 そして、藍が不妃の肩を突き飛ばすようにしてその場を離れてしまったこと。

 口元を抑えて、人垣から離れる藍。

 ――何を言われたんだろう?

 気になったけど、尋常じゃない藍の様子に、しばらくはそっとしておこうと思った。樹里亜の具合が悪そうでそれどころじゃなかったというのもあったけど。……まあでも、藍は二十分程経った頃、けろっとした顔で帰ってきた。




「どうしたの?」

 始業十分前に登校してきたわたしに、藍が勢い込んでやってくる。ちょっと怒ってる。

「バンド。またやるでしょ?」

「バンド」

 わたしは確かに言った。バンドをまたやりたいと。

 出来るなら五人で一緒に。

「……いい……のかな。あんなことがあったのに……」

「言ったじゃん。リベンジかまそうって。あいつらにさ」

「あいつら」

 ああ……そっか。藍は不妃を抜いてバンドをやるつもりだ。

 あんなことがあったんだ。よっちゃんも樹里亜も、あの様子だと、また不妃と一緒にバンドをやるっていうわけにもいかないかもしれない。けれど。

 躊躇ったわたしに、藍は珍しく心配そうな、わたしの次の言葉を伺うような表情で見てきた。

 わたしは――。

「……うん。やろう……わたし、勝ちたい……不妃に」

 あの後。バンド名であるsteadyの意味を調べてみた。

 意味は、留まる。定まった。安定した――他に、俗語でこんなのがあった。

 本命。

 安定した存在である本命の恋人を差す向こうの国の俗語。

 それを知った時――いいや、違うか――わたしはステージで歌う不妃の姿を見たあの瞬間、もう一緒にはできないな、となんとなく感じていたんだ。


「steadyに勝とうよ。あたしらTHE GIRLSで」

「藍。わたし、次はオリジナルソングやりたい」

 わたしのその言葉に藍は力強く頷いた。

 彼女たちは、ステージ上で演奏した五曲全てがオリジナルソングだった。

 わたしの中で、その事実は、とてつもなく、どうしてだか、胸を焦がした。




「不妃、ちょっといい?」

「いいよ」

 休み時間。教室を出て行こうとした不妃を呼び止めた。

 今思えば、不妃がこうして、すぐ教室から居なくなったりするのは、本命のバンドメンバーに会いに行ってたのかもしれない。

 藍を視界の端に捉えた。これはわたしの独断専行だ。藍は驚きの表情を浮かべている。最近元気の無いよっちゃんも今は前みたく心配そうにわたしを見てくれてるのかもしれない。そうだったらいいな。樹里亜はどうしてるかな。そうだ。今度教室に遊びに行ってみよう。いっつもわたしにばかり干渉してくる罰だ。たまにはこっちから行ったっていいだろう。

「……どうしたの?」

 何も言わないわたしに不妃が焦れた。ぐっと距離を詰めてくる。唇と唇が触れ合いそうな不妃独特の距離感。わたしは瞳を逸らさず、真正面から不妃の瞳を覗き込む。

「来年も文化祭出るでしょう?」

「出る……かな? 流石にまだわかんないけど。他の皆はどう言って」

 遮って告げた。

「わたしたちも来年出る予定だから。不妃たちもちゃんと出場してよ」

 その言葉に不妃はにやりと嗤って試すように告げた。

「――もちろん。いいよ。そっちが出るんならこっちだってちゃーんと出場してあげるよ」




 そうして、わたしと不妃の始まりの物語は終わり、

 わたしと不妃の、長い、本当に長い戦いが始まった。





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