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THE GIRLS  作者: 水乃戸あみ
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第七章 四ツ谷寧々の場合4

 だから私は不妃に近づいた。事あるごとに。


「ねえねえ。今、何の曲練習してるの?」

「んー? ないしょー」

「えー? 教えてくれたっていいじゃーん」

「にゃあああ! もうっ暑っ苦しいなあ」

「ふふ」

 もうべったりって感じで不妃の練習邪魔してみたり。


「ねー。不妃今日泊まってっていい?」

「ん? いいよ? なんで?」

「さて。なんででしょう?」

「えー。教えてよーよっちゃんー」

「円の真似やめれー」

 とかね。

 始めの内は結構怖かったんだよ? だって前は、私から引いちゃったのに、そんなこと忘れたみたいに振る舞って自分からどんどん不妃に近づいていって引かれないかなあとも思ったし、他のメンバーにバレないかな、大丈夫かなって思いながらだったから。

 だけど、不妃は私の気持ちに答えてくれた。


 扉をぱたんと閉める。

 何度か入ったことのある不妃の部屋。ロックンロールな趣味に染まっているのかと言えばそんなことはなく、シンプルな、だけど不妃に似合わない可愛らしい小物が並ぶ一人暮らしの大学生みたいなお部屋。趣味の物は居間に転がってるから、自分の部屋はこうしてそれとは違う物で固めてるんだとか。

 私だけが知ってる。ふふ。

 ……バンドメンバーの中で、不妃の部屋に入ったことのある奴はどれだけいるんだろう。

 こういう一面を持つ女の子だってことは私以外に知ってる奴はいるのか。

「ふきー。ごめんね?」

「んー? なにがー?」

 私は不妃の横っちょに座ってぴとっと不妃の腕を取る。そんな私を不妃は嫌がるでもなく、されるがまま。頭を優しく撫でてもくれる。この距離感があの頃のようで懐かしく、私は一人で勝手に舞い上がっている。

「前さ。私から引いちゃったじゃん?」

「あー」

 苦笑。ちょっと慈愛に満ちた感じの。私はそんな不妃を上目遣いで見つめた。

 この距離を許しくてくれるんだ。

 私は私じゃないみたいに、今、大胆なことをしているという自覚があった。

 だって藍が不妃を好いているのは知ってるし、樹里亜が足繁くここに通っているのも絶対に怪しいと睨んでる。練習中に不妃を見つめる目がちょっと、ね。友達に向けるそれではない。

 それにバンドに対して今皆が必死に取り組んでいるのも知っている。

 特に仲が良かったわけでもない女子五人が突然バンドを組むことになって、文化祭のステージで発表する。まあ、そりゃテンション上がんない方がおかしいよねってくらいの青春っぽい状況。円なんて全然歌えてなかったのに、最近どうしてだか歌えるようになってきた。そういえば藍たちからカラオケに誘われてたっけ……パスしたけど、それのせいかな?

 皆を横目で見て、私はどこか冷めている。

 そんな子じゃないと思っていた。気持ちを押し殺して周囲の空気に合わせるのはなんとなく得意だと思っていたのに。

 音楽ってのは楽しまきゃできないってことなのかな。皆の熱意と自分の気持ちが擦り合わなくて何時になくイライラしてる。

 こんなお約束も知っていた。

 バンド内恋愛はご法度。

 サークル内恋愛は必ずそのサークルが崩壊するみたいなのと似たような話。バンド内で恋愛すると、確実に上手くいかない。酷い時にはそのグループが崩壊するだけじゃ飽き足らず、後々の関係にまで支障を来すようになる。

 都市伝説――じゃないな。むしろ常識に入る部類のよくある教訓みたいなお話。不思議。私は誰よりもそういう空気というか同調圧力みたいなのには敏感で上手く対処出来る方だと自負していたのに。

「いいんじゃん? またこうして話せるようになったし」

「……いいの?」

「ん」

 そんな常識、最早どうでもよくなっていた。

 不妃に腕を回した。その唇に優しく触れるようにキスをする。不妃は私を優しく受け入れてくれた。

 自分の気持ちに嘘ばかり吐いてきた私だけど、この気持ちは嘘じゃないってのは分かる。

 好き。

 好き。

 好き。

 好き。

 不妃も私とおんなじ気持ちを共有してたらいいな。ううん。きっとしてる筈。

 時計の針がこちこちと進む度、私と不妃の息遣いが漏れる。汗を吸った私のタンクトップの裾の隙間から不妃の柔らかい指が滑りこんだ。


 もう私の中でバンドなんて、不妃に会う為の、ただの口実に成り下がっていた。



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