第8話 会社説明会④
2025年12月26日 14時15分。
魔法少女株式会社、会社説明会の会場にて。
「いやだ! もうダメだ! 部屋に戻る!」
月野さんが手を引っ張って連れてきたのは、坊ちゃん刈りでお腹の出た小太りのおじさんだった。
この世の終わりみたいな絶望的な表情をしていて、服が汗でびっしょびしょで、何というか脂ギッシュ全開って感じの状態だ。
まさか、このおじさんが代表取締役社長の『羅生門ノ助』……?
いやいやいやいや……まさかね……。
「ほら、羅生様! 魔法少女の卵たちが見てますよ! しっかりして下さい!」
「いやだ! 無理だ! いやだ! 無理だ!」
うわぁぁ……。
やっぱりこの小太りのおじさんが社長なんだ。
プライドが高くて、地位と名誉を大切にしていて、自分の発する言葉は全て格言になりうる……って、いやいやいやいやいやいや!!
全っっっ然、そんなオーラないんですけど!!
というか、「いやだ! もうダメだ! 部屋に戻る!」と「いやだ! 無理だ! いやだ! 無理だ!」の発言はどこをどう切り取っても格言にはなり得ないよ!?
と、そんな事を思っていたら……月野さんが私たち3人に(歓声と拍手! 歓声と拍手!)と小声で訴えかけた。
私たちはこの状況に戸惑いまくりながらも、手をパチパチさせながら「わ〜、羅生様素敵〜。わ〜、羅生様万歳〜。」などと言っていた。
なんだこれ。
やっとのこさ私たちの目の前まで社長を引っ張り連れてきた月野さんはめちゃめちゃ疲れてる様子だったが、一つ息を吐いてから頬をパンパンッと手のひらで叩くと、気持ちを切り替える感じに元気な声で言った。
「お待たせしました! このお方が弊社の代表取締役社長を務めている……羅生門ノ助様です! もう一度、盛大な拍手をーーっ!」
しかし、社長は猫背の状態で顔は地面に向けられており、両腕はだらんと垂れ下がっていて完全にゾンビと化していたが、私たち3人は月野さんに言われるがまま手をパチパチさせ続けた。
「で……では、これから羅生様から魔法少女として働くにあたってとても重大な説明と、とてもありがたいお言葉をいただく事になるのでメモの準び……」
「帰る。だるい」
月野さんの声を遮るように社長はそう言った。
月野さんは呆然としている。
私は社長のこの状態が全くもって理解出来ずにいて……また、この会場の重い空気に耐えきられなくなって月野さんに静かな足取りで歩み寄って小声で聞いた。
「社長、どうしちゃったんですか? めちゃめちゃ落ち込んでいるみたいなんですけど……」
月野さんは眉をハの字にして、ため息を吐くと呆れるような口ぶりで小声で私に言った。
「どうやら、羅生様は昨日パチンコを打ちに行ったみたいなんです」
パチンコぉぉおッ!?
もうすぐ【曼荼羅】が人類を滅亡させようとしてて地球も征服されるかもしれない危機的な状況だっていうのに、この社長……羅生門ノ助は一体何をやっているんだ?
「マジですか。 で、負けたからこんな事になってるんですか?」
「いや、パチンコは勝ったみたいなんです。 十万円ほど勝ったみたいなんですけど、勝って手に入れたお金をもっと増やそうとして競馬に全額つぎ込んで……結局のまれてしまい、十万円溶かしちゃったんですよ」
えーー……。
社長の人間性のダメさっぷりに私は脱帽するしかなかった。
企業のトップがこんなんでいいのか、魔法少女株式会社。
「ささ、社長。あとで一万円差し上げますので、元気出してこの子たち3人に仕事のご説明をしてあげて下さいませ」
社長は「一万円差し上げます」の言葉を聞いた瞬間に顔をバッと上げ、キラキラと瞳を輝かせながら月野さんの顔を見た。
「一万円くれるの!? 本当!? 一万円!?」
「本当です、羅生様」
「わーーい、やったああああっ!」
「ですので、この子たちにご説明を」
「うん! わかった! 頑張って説明する!」
「それでこそ、我社のトップ・オブ・ザ・羅生門ノ助様です」
「そうだーーっ! トップ・オブ・ザ・羅生門ノ助だーーっ!」
いや、子どもか!
一体なんなんだ、これは……。
上司が部下から一万円もらうって、社長プライド無さすぎでしょ……。
月野さんも何でこんな社長にお金をあげるのか全く理解が出来ない……。
「月野くんありがとう! 一万円、大切に使うからねっっ!」
嘘つけぇぇーー!
絶対またその一万円を軍資金にしてパチンコに行くだろコイツ!
確実にパチンコ行くだろコイツ!
「では、羅生様……」
「うん! お話するね! あとで一万円ちょうだいね! 絶対だからね!」
社長は月野さんにそう言うと私たちの前にやってきて、背筋を伸ばし腕を組んで言った。
「ふむ……。君たちが月野くんに選ばれた3人の小童娘どもか。 ま、我が魔法少女株式会社に入れてラッキーだったな。 私が代表取締役社長の羅生門ノ助だからちゃんと覚えとけよ。そして、私を神様的な感じで崇めるように。今から私が魔法少女として働くにあたってとてもつもなく大事な話をする。私からのありがたい話だ。しっかりとメモをとるんだ。わかったな、小童娘ども」
このおっさん、マジで1発殴りたい。