第7話 会社説明会③
2025年12月26日 14時。
魔法少女株式会社、会社説明会の会場にて。
「では、わたくし月野からのお話は以上となります。ここからは弊社の代表取締役社長である『羅生門ノ助』から直々に、あなた達3人がこの仕事をするにあたってとても重要になる説明……お話があります。今から会場にお呼びしますが、注意点がございます。というのも、羅生門ノ助様はかなりプライドがお高く、自分の地位と名誉をかなり大切にしており、自分の発する言葉は全て格言になりうると考えておられる方なので、お見えになりましたら盛大な歓声と盛大な拍手でお迎え下さいね」
はい、性格悪いー。
羅生門ノ助、確実に性格悪いー。
まだ会ってもないけど、この話を聞いて早くも羅生門ノ助という社長の印象が超絶悪くなった。
たぶん他の2人も私と同じような印象を受けているだろうなぁ……。
だって、プライド高くて地位と名誉を大切にしていて自分の発言は全て格言になると思ってるとか、性格悪い極みじゃんか。
何だか、とっても不安になってきた。
仕事選びミスッたかな……。
「それでは、羅生門ノ助様をお呼びしてきますので少々お待ちくださいませ〜」
月野さんはそう言うと、パタパタと駆け足で会場から出ていった。
* * *
「ねぇねぇ、あいちゃんは出身どこー?」
「あ、あいちゃん……?」
いきなりあだ名で呼ばれたから少しドキッとした。
この子、人見知りしないタイプなのかな。
「あ、佐倉さん……でしたっけ? 私は福岡から来ました」
「敬語じゃなくていいよ〜っ! あ、あたしの事は『のぞみん』って呼んでね? 昔っからそう呼ばれてるからさー! ……ってか、福岡? 超絶的に遠いとこから来てるんだね! 超絶ウケるんだけど!」
のぞみん……。
小さい頃からあんまり友達いなかったから、あだ名で呼ぶのはなんか少し恥ずかしいな。
というか、遠方から来たってだけで超絶ウケるって……のぞみん『ウケるストライクゾーン』どんだけ広いのよ……。
「じゃ……じゃあ、のぞみんって呼ぶね。のぞみんは出身どこなの?」
「パルテノン神殿!」
あれ。
あまりにも長く引きこもってたからかな。
のぞみんの言っている事が全然理解できなかった。
「ゴメン、うまく聞き取れなかった……。 出身どこなの?」
「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国!」
うん。
完全にのぞみんがふざけてたんだね。
私が上手く聞き取れてなかったワケじゃなくて、のぞみんがふざけ倒してたんだね。
「……」
「って、無反応丸出しかーーい! パルテノン神殿が出身なワケあるかーーい! グレートブリテンおよび北部アル、ッアイルランド連合王国が出身なワケあるかーーいっ!」
「噛んだね」
「だまらっしゃい!」
「あはは……。本当はどこ出身なの?」
「万里の長城!」
駄目だ。
のぞみんのノリについていけないよ……。
「すまぬすまぬ! のぞみん、冗談が過ぎたでござる! ホントは神奈川から来やした! よろしゅうたもーっ!」
本当に元気な子だなぁ。
羨ましい。
てか、神奈川なんだ。
私に比べてかなりココから近いな。
「うん。よろしくね、のぞみん」
「よろしゅうたもー!」
……と、のぞみんと話していたら、チラッチラッと飛鳥さんが私たちを見たり下にうつむいたり、また私たちを見たりと落ち着かない様子である。
私は声をかけてみた。
「あの……飛鳥さんはどこ出身なんですか?」
「ナスカの地上絵!」
「うん、のぞみんは少し黙ってて?」
飛鳥さんへの問いかけに何故かのぞみんが割って入ってきたので、条件反射的に黙らせた。
ってか「ナスカの地上絵」ってもう出身地とか以前の問題だからね。絵だからね。
のぞみんは「むぐぅ……」と拗ねているけど、しばらく放っておこう。
「あ、はい、ウチは千葉から来ました……」
「そうなんだっ! 飛鳥さんも関東なんだね。私だけかぁ、九州から来たの」
「……あの」
「ん? どうしたの、飛鳥さん」
「ウチのことも……あだ名で呼んで欲しいなぁ……なんて……」
なるほど。
飛鳥さんはのぞみんと違って、人見知りで照れ屋さんなタイプなんだな。
もう1人がこういう子で本当に良かった……。
「じゃあ、飛鳥さんはなんて呼ばれたい?」
ちょっと黙ってたと思ったら、「あだ名」というキーワードに反応したのぞみんがすかさず会話に入ってきた。
「アスファルトちゃん!」
「のぞみん黙ってて」
のぞみんが余計な発言を挟んでくるので、全く会話が続かない。
「ア……アスファルト……ちゃん……?」
ほら、飛鳥さん困ってるじゃん。
「えぇっと……あの、ウチは……『りんりん』って呼ばれたいです……。すずか……すず……鈴……りんりん、みたいな感じで……。『りんりん』がいいです……!」
あー。
飛鳥さん痛い子なのかな。
でも、かなりのレベルで『りんりん』って呼ばれたいっぽいから『りんりん』って呼んであげよう。
「うん、わかった。りんりんよろしくね!」
「わぁ! ありがとう、あいちゃん! ……あっ、あだ名で呼んじゃった……しかもタメ口で……」
「いいっていいってー。仲良くやっていこ」
と、私たちが盛り上がっていたら……会場のドアが開く音がした。
ついに、魔法少女株式会社の代表取締役社長『羅生門ノ助』が姿を現す―――