第5話 会社説明会①
2025年12月26日 13時20分。
魔法少女株式会社、会社説明会の会場にて。
「え……私含めて3人だけ……?」
私の想像では、魔法少女志望の女の子達が五十人くらい会場に密集しているものだと思っていたから、正直驚いた。
私は置かれていたパイプ椅子にゆっくりと座り、月野さんの説明を待つ。
他の2人の女の子も私と同様、この少人数の状況に戸惑っている様子だ。
月野さんはホワイトボードのある所まで歩いていき、私達3人の方に体を向けると、さっきまでの穏やかな雰囲気とは違い……真剣な顔つきで口を開いた。
「これより、弊社『魔法少女株式会社』の会社説明会を始めます。くれぐれも私語は慎み、わたくし月野が話す内容をしっかりと聞くように!」
ここで私は疑問を抱いた。
魔法少女になるのを夢見てこの求人に応募する女の子は山ほどいる筈なのに、今ここにいるのはたったの3人だけ。
一体、どういう事なのだろう……。
私のこの疑問に答えるかのように、月野さんは話し始めた。
「きっとあなた達は今、こう思っているはずでしょう。会社説明会なのに何故この会場には3人しかいないのだろう、と。それは……あなた達が『魔法少女』の適格者であると弊社が認めたからなのです。というより、今ここにいる3人にしか悪の宇宙人集団【曼荼羅】からの攻撃から人類を守り地球を救う事ができない……。そう、実は弊社からの求人メールはあなた達にしか送っていないのです。ですので、求人メールが届いた時点であなた達は魔法少女株式会社に採用されているのです。もちろん求人メールをスルーする事も出来たはずなのですが、幸いにも3人とも弊社に足を運んできていただき、こうして会社説明会を受けようとしてくれています。大変失礼な事をしたとは思っていますが、求人メールという形式をとる事で『魔法少女』になることへの気持ち的なハードルを下げる事ができるのではないかと思い立った次第でして……。 隠していて本当に申し訳ございません。 しかし、他の人には出来ない事があなた達3人には出来るのです」
月野さんがそう説明すると、青い短髪の子が右手をピーンと挙げて言った。
「質問でーす! 何を基準にしてあたし達を『魔法少女』の適格者だと判断したんですかー? そこんとこ詳しく説明お願いしまーす! 気になりまーーすっ!」
青い短髪の子は何の躊躇いもなしに、月野さんに元気いっぱいの声で質問した。
この子には緊張感が全く感じられない。
月野さんは真剣な顔つきを変えないまま、話を続けた。
「佐倉のぞみ様。それに関しましては、これも大変申し訳ないのですが……弊社の決まりでお答えする事ができません。 でも、いずれ分かる事になるでしょう。どうして自分が『魔法少女』の適格者に選ばれたのかを。そして、どうしてこの3人だったのか……を」
佐倉さんは、ほっぺたを膨らまし納得のいかない顔をしながらも「適格者として選ばれた」事に対して嬉しそうでもあった。
そして、月野さんは真剣な顔つきから明るい表情に変えて言った。
「……と、まぁ、難しい話は色々とありますが、まずは『魔法少女』として雇用するにあたっての説明が先ですね! わたくし月野、がんばりますっ!」
いつもの月野さんの雰囲気に戻って、私は少しホッとして安心した。
月野さんが説明を始める。
「まずは雇用形態に関してですが、アルバイトとして働いていただきたいと思っています! 弊社を立ち上げたのもまだつい最近の事でして、曼荼羅との戦いによっては短期雇用となる可能性もありますので『魔法少女』を社員として雇用するのは少し厳しいところでもあります……。でもでも、メールにも記載してありましたように時給は1500円と高めにしておりますので、一生懸命働いていただけるととても有難いです! もちろん、交通費は全額支給! 各種保険も完備! 今日、弊社に来るまでにかかった交通費も支払います。そして何より、この会社説明会も研修の一部として給料が発生しているのですっ!」
アルバイト、かぁ……。
「就職的なアレで」と言って両親を納得させてしまったけど……まさかアルバイトだったとは。
しかも短期雇用になるかもしれない。
いや、でもまぁ、時給1500円はでかいし……交通費も出るし……保険も完備だし……。
うん、悪くない。
悪くないぞっ!
私はそう自分に言い聞かせ、無理やりだけど納得するようにした。
そう……私はやっと仕事に就くことが出来るんだ。
しかも、『魔法少女』という女の子なら誰もが一度は夢見るような職業に!
何てタイトルだったかもう忘れちゃったけれど、幼い頃にハマって観ていた魔法少女アニメの登場人物のような存在に私はなれるんだ。
だから、私はラッキーなんだ!
このラッキーを無駄にしない為にも、絶対に曼荼羅という宇宙人集団との戦いに勝利して、人類と地球を守ってみせる!
そして輝かしい未来を掴み取るッッ!
私はそう思うと興奮してきて、やる気が心の底からみなぎってくるのを感じたのであった。