第3話 いざ東京へ!
2025年12月26日 12時45分。
魔法少女株式会社の最寄り駅。
私は魔法少女株式会社があるという東京都港区まで福岡県から夜行バスに乗って向かった。
電車の乗り継ぎに困りまくったけど、何とか魔法少女株式会社のある最寄り駅まで辿り着いた。
両親には「おら東京さ行くだ」的な事を突然伝えたのでとても混乱させてしまったけど「就職的なアレで」と付け加えると即OKの返事をもらえ、東京に行くまでの交通費と食事代まで出してくれた。
交通費が支給されるとはいえ、それは給料日の時にまとめて支払われるとの事。
だから、ニートで無一文だった私に両親から渡された交通費と食事代は本当にありがたいものなのだ。
ありがとう。
お父さん、お母さん。
* * *
駅から少し歩いたところに、魔法少女株式会社のビルがあった。
ビルの前まで来ると不安と緊張で頭が破裂しそうになり、心臓もバクバクして精神のバランスが崩れて……来た、パニック発作だ。
もう……こんな時に限って……。
私はどこまで不幸な人間なのだろう。
こんなところを月野さんに見られたら、きっと「戦力外」と判断されて入社させないと思う……。
私は魔法少女株式会社のビルの前でしゃがみ込んでしまって必死に「私は大丈夫、死なない……! 私は大丈夫、死なない……私は大丈夫、死なない……!」と、周りの人達には聞こえないくらいの……喉の奥から振り絞った小さな声で自分にそう言い聞かせた。
すると、ビルの自動ドアから長髪の女性が出てきて私の所まで走ってきた。
「あの、大丈夫ですか!? 救急車呼びましょうか!?」
その女性はそう言ってくれたが、私にはこれがパニック発作だと分かっていたので、救急車は呼ばないでほしいと苦し紛れに伝えた。
……しばらくすると少しづつ呼吸が整えられてきて、一気に大量の汗が体中から吹き出た。
女性はかなり心配していたが、自分がパニック症を患っていている事とこの症状は命には別状のない事を話すと、女性はホッと胸を撫で下ろした。
その女性は胸ポケットから取り出した花柄のハンカチで私の汗を拭ってくれて、こんな事を言ってきた。
「あの……間違っていたら申し訳ないのですが、もしかして弊社の求人にご応募してくださった愛野あいこ様ですか?」
まさか。
もしかして、この女性は人事部担当の月野さん……?
だとしたら、こんな弱々しく地面にしゃがりこんでしまっている私は魔法少女として採用されないかもしれない。
ああ、終わった……。
そう思って愕然としていたら、長髪の女性は穏やかで優しい口調で言った。
「やっぱり! 愛野あいこ様なんですねっ! お待ちしておりました、私が人事部担当の月野はづきです。はるばる遠方から来ていただき感謝致します。きっと、とても疲れた事でしょう……。会社説明会まであと三十分ほどありますので、弊社の休憩室でお休みになって下さい」
私はビックリした。
てっきり門前払いされると思っていたから。
こんな私でもいいんだ……と少し嬉しくなる。
とはいっても、今日は会社説明会だから面接で落とされるかもしれないとも思ってやっぱり不安は消えなかった。
* * *
月野さんに連れられて会社に入ったが、想像していたよりも中は静かだった。
会社名に『魔法少女』を冠するくらいだから、もっと賑やかで女の子達がワチャワチャしているものだと思っていたので(私の勝手なイメージだけど)、意外だった。
月野さんと廊下を歩いていると、灰色のピシッとしたスーツを着た強面のおじさんが奥の方から向かってきたので条件反射的に月野さんの背中に隠れてしまったが、おじさんは軽く月野さんに会釈するとスタスタと去っていった。
「ふふ、愛野様。そんな怖がらないで大丈夫ですよ。あの方は弊社で経理部を担当している九条謙之さん。見た目はちょっといかついけれど、とても人情味のあふれる心優しい方なのよ? この前も私の誕生日にクッキーの詰め合わせをプレゼントしてくれましたし」
月野さんは笑顔を見せながら私にそう言ったけれど、「いかつい」って……月野さん意外と口悪いな!
そうこう思っているうちに【休憩室】という札の付いているドアの前まで来た。
月野さんがドアを開けると、壁一面が真っ白で窓際には綺麗なピンクのカーテンが掛けられてあり、ふかふかのソファーベッドが中央に置かれていた。
「ささ、愛野様。会社説明会の始まる時間までベッドで横になって心と身体を休めて下さいませ」
月野さんが私の両肩に手を添えながらゆっくりとベッドまで連れていってくれて、私はベッドで横になった。
「では、私は会社説明会の準備がありますので少し離れますね。何かありましたらベッドの横に備え付けてあるボタンを押して下さいませ。……ナースコールならぬ、マジカルコールです。魔法だけに」
たぶん月野さんは私の緊張をほぐそうとしてボケてくれたんだろうけど、完全にスベっていた。
「ではでは、また後ほど」
月野さんが休憩室を出ていき、私は一人になった。
「ふぅ……」
ほっと一息をついた私は何となく部屋中を見渡してみる。
本当に真っ白で綺麗な部屋だなぁ。
カーテンの隙間から流れてくるそよ風がとても気持ちいい。
私はふかふかのベッドで心地のいい時間を過ごしていた。
「……ん? 何だあれ」
私は窓際に掛けられたカーテンの下に、何か小さい棒(?)みたいな物が落ちているのを見つけた。




