第2話 人事部との電話
2025年12月25日 クリスマス。
愛野あいこの部屋。
ジリリリリンッ、ジリリリリンッ
うるさい目覚まし時計の音で私は目が覚めた。
ってあれ?
私ニートなのに、どうして目覚まし時計なんかセットしてたんだ?
んー……、今日は何の日だっけか……。
あっ、イブじゃないほうのクリスマスか!
ま、まさかね〜!
まさか十七才の私の枕元にサンタさんからのプレゼントなんて置いてあるワケないよね〜!
……とか思いつつも、枕元にゆっくり目を向ける。
「!!!!!!」
何と、枕元には可愛いハート柄のリボンでラッピングされた袋が置いてあった。
ああ、サンタさん……!
あああ、サンタさん……!
ああああ、サンタさん……!
あああああ、サンタさんんんんんッ!
私はワクワクドキドキを隠せないまま興奮した状態で一心不乱にハート柄のリボンを外し、袋の中身を見た。
そしてそこには求人情報誌が大量に詰め込まれていた。
「クソがぁぁあああーーッ!」
私は冊子の入った袋を思いっきり足で蹴った。
袋から飛び出した大量の冊子が部屋に散乱しているのを見て、何だかとっても虚しくなる。
……ればいいんでしょ。
……仕事すればいいんでしょおッ!
ムキになった私は乱暴にスマホを手に取り、昨日送られてきた完全に怪しい魔法少女の求人に電話をかけた。
プルルルル……、プルルルル……、カチャッ
「あ、もしもし! 働きたいんですけど! 今すぐ!」
相手の声も聞かずに、マシンガン的なスピードで私はそう言い放った。
かなり私は興奮していて、心臓はバクバクと音を立てていた。
……すると、少し間をあけて受話器の向こうから私の興奮を落ち着かせるような女性のゆっくりとした穏やかな声が聞こえてきた。
「あ……もしもし。魔法少女株式会社の人事部担当の月野はづきと申します。あの、だいぶ興奮されているようですが……大丈夫ですか?」
あまりにも穏やかで癒される声だったので、私は、つい言葉を詰まらせてしまった。
「一度、深呼吸をしてみて下さい。はい、鼻から息を吸って……スー……、口から息を吐いて……ハー……、はい、スー……ハー……、スー……ハー……」
私は言われるがまま深呼吸をする。
「スー……ハー……、スー……ハー……」
何これ。
何この状況。
でも、深呼吸をしているうちに心が落ち着きを取り戻していった。
「……少しは落ち着きましたでしょうか? では改めまして、私は魔法少女株式会社の人事部担当の月野はづきと申します。この度は弊社にご興味を持って下さいまして、誠にありがとうございます。先程、働きたいと仰っていただけましたが……入社希望という事でお間違いないでしょうか……?」
落ち着きを取り戻した私は少し戸惑いながらも、声を振り絞って言った。
「あ、はい……。でも、求人情報を見てもいまいちピンとこなくて。魔法少女になって宇宙人集団のマンダラ……? から、地球を守るとかなんとか……、ってこれネタですよね? 絶対ネタですよね? 宇宙人集団なんて存在するわけないですし……あはは……」
月野はづき……月野さんは間髪入れずに急に声を大にして興奮しながら話し出した。
「ネタなんかじゃありません! 今、私たち人類は悪の宇宙人集団【曼荼羅】の手によって全滅させられる危機にあります! そして私たちの地球を……ケホッ、ケホケホッ!」
ついさっきまで穏やかな口調だった月野さんがかなり興奮して話し始めたので、私も月野さんがしてくれたように深呼吸をするように勧めた。
「あの、月野さんも落ち着いて下さい。はい、鼻から息を吸って……スー……、口から息を吐いて……ハー……、はい、スー……ハー……、スー……ハー……」
私たちは一体何をやっているのか分からなくなってきたが、落ち着きを取り戻した月野さんが元の穏やかな口調で話し始めた。
「……すみません、取り乱してしまいました。説明しますと、曼荼羅は来年の2026年1月1日から地球を攻撃し始めると宣戦布告してきました。かねてから曼荼羅の集団は私たち人類を全滅し地球を征服しようとしていて、弊社は常に曼荼羅の動向を気にしていました。元々、魔法少女株式会社の社員たちは[曼荼羅から地球を守り隊]の同志が集まってできた組織なんです。しかし、曼荼羅を迎え撃つ戦士たちが組織にはいない。だから会社を立ち上げ、求人情報サイト『ガチナビ』で魔法少女となって曼荼羅と戦っていただける人材の募集をかけたのです。曼荼羅の襲来までもうあと1週間です。時間がありません」
月野さんの話に追いつけなく、また現実味が全く無さすぎて頭の中がポカーンとしていたが、話の中で一つ疑問を感じた事があり、それを聞いてみた。
「あの……私は魔法なんて使えないですよ……? それに、どうして『魔法少女』が必要なんですか?」
月野さんは一呼吸置き、言った。
「……申し訳ありません。それは弊社の事情で今は明かすことが出来ませんが、いずれ知る事になります」
なんじゃそら。
一番気になるところなんですけど……。
「という訳で、会社説明会が明日12月26日に東京都港区に建てられた弊社にて行なわれますので是非お越しくださいませ」
いやいや、どういう訳だ。
ってか……明日かい――