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第26話 ビロコウ戦②

2025年12月27日 16時10分。


研修室は今、三匹のハイギョの強烈な生臭さと、カチカチと響くオセロの駒の音に支配されていた。


「おりゃ! 白! しかも角ゲットォ! 完全勝利目前!」


のぞみんが叫ぶたびに空気が少しだけマイルドになる気がする。いや、そんなことはない。依然として臭いは強烈だ。なんか鼻の奥に残って、存在感がありすぎる。


「ん……。黒……一枚返し……」


対戦しているのは私。そう、りんりんが絵を描いている間の時間つぶしにオセロに付き合ってるけど、集中できるわけがない。なんならハイギョ臭で思考が揺らいでる。


「のぞみん強すぎ……。でも何気に角を取るって基本戦術知ってるのすごくない?」


「むふふ。あたし、戦略ゲーは強いんよ? なんてったって、小学生のとき、将棋の入門書を三冊も読んだ女だからね!」


「読んだだけで強くなるなら将棋界は全員天才やで……」


そんなやり取りをしながら、私はチラリと絵を描いているりんりんの様子を伺う。


彼女は集中モードに入っていた。顔を近づけ、舌をちょこっと出しながら、魔法deカードに一心不乱にペンを走らせている。


「うん……こんな感じで……池にはスイレン浮かべて……あと、ハイギョがちょっと泳ぎにくそうな石も置いて……ハシビロコウは、ちょっと怒ってる感じの目で……!」


りんりん、絵の完成度高いな……。ていうか、スイレンとかディティール凝りすぎでは?


「りんりん、あんまり凝りすぎると召喚に時間かかるかもだから、ほどほどにね?」


「わかった〜。つい、こだわりすぎちゃって……だって美的センスって、魔法の源だと思うから……」


うん……まあ……そうなんだけど研修中だからさぁ。

でもりんりん頑張ってるし、こっちは信じるしかない。


「よし、できたっ!」


バンッとりんりんがカードを掲げると、カードがふわっと浮かび上がり、虹色の光を放った。


「魔法deカード、発動! 出でよ〜! ハイギョの池とハシビロコウ〜!」


ドォン!!!


音を立てて、床に池が出現した。

しかも結構リアル。

さっきまで何もなかったはずの床の中央に、深い水をたたえた池が現れ、スイレンまでプカプカと浮かんでいる。


その直後。


「ギャアアアアアアアアア!!!」


耳をつんざくような叫び声。


……のぞみんだった。


「うおっ!? なに!?」


「ハシビロコウ来た! てかデカい! めっちゃ本気やんけ!」


出現したハシビロコウは、絵から出てきたとは思えないほどリアルで、凶悪な目つきをしていた。くちばしが鋭く、鋼鉄のように硬そうで、全身が羽毛というより装甲でできているかのよう。


「あれ……絵より3割増しで怖くなってる……?」


「たぶん、魔力が乗っかっちゃったのかも……うーん、ごめんねぇ……」


りんりんが恐縮気味に笑う。


でも、謝る必要なんてない。

逆に燃えてきた。


「よっしゃ、やっとバトルっぽくなってきた!」


私とのぞみんは立ち上がり、私はスティック、のぞみんはボールを構える。


「ルールはひとつ。ハシビロコウがハイギョを狙う瞬間だけ倒していい……ってことは、見極めが大事ってことだね」


「そうそう、それが研修の肝でやんすね〜」


のぞみんが頷きながら、ボールを構えた。


ハシビロコウがジリ……と動く。獲物を狙うハンターの目だ。


その時——


「いまだ!」


私が叫んだ瞬間、ハシビロコウが水辺に首を伸ばす!


「うりゃーー! 大リーグボール100号!」


のぞみんが全力で魔法deボールを投げる。

ハシビロコウに直撃し、ハシビロコウの動きが止まった。


「いっけえええええーー! なんか最強ビーム!」


私も全力で魔法deスティックでビームを放つ。

一斉攻撃だ。


のぞみんのボールがハシビロコウの動きを止め、私のスティックで撃ったビームがハシビロコウを直撃する。


バチバチバチバチッ!


「ギャアァァッ!!」


ハシビロコウが悲鳴を上げて後退、池に尻もちをついた。


……って鳥って尻もちつくんだ。


「やった! 完封!」


「ナイス連携!」


「みんなすごいー!」


その瞬間、天井からホログラム映像が浮かび上がる。そこには月野さんの満面の笑顔が映し出されていた。


「合格です! 3人のチームワーク、素晴らしかったですよ! ハイギョの臭いもなんのその、よく頑張りました! では、特別強化研修終了です!」


バシュン、とホログラムが消える。


「終わった……」


「臭かった……」


「でも、ちょっと楽しかったね……」


私たちはお互いに顔を見合わせて、少し笑いあった。


研修室の中には、倒れたハシビロコウと、もうどうしようもないレベルで生臭いハイギョたち、そして私たち3人の疲労と達成感が漂っていた。


外は夕焼け。12月の冷たい光が、窓の向こうでキラキラと光っていた。


「のぞみん、りんりん、ありがt……」


その瞬間、私含め、のぞみんもりんりんもその場に崩れ落ちる。


月野さんの言葉を思い出す。


・マジカルンEXを飲むと、効力が切れた後に強い睡魔に襲われ眠ってしまいます。そして〈精神的苦痛を伴う悪夢〉を見る事になります・


そう……だった……。

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