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第20話 魔法少女に変身!

2025年12月27日 14時30分。

魔法少女株式会社、エントランスにて。


私たち3人は『マジカルンEX』を飲んだ。

だけど、今のところ特に身体的にも精神的にも変化はみられない。

のぞみんとりんりんの様子を見ても、私と同じような感じっぽい。

のぞみんが最初に口を開いた。


「月野はん、ちょいと宜しいでっか?」


「はい」


「せやな……。月野はんに言われるがままに、あたしら3人がいまマジカルンEXを飲んだワケやけども。まぁ、なんちゅーか……変化がないねんな。魔法少女的な力がみなぎってくる感覚が出てくるわけでもあれへんし、精神的に強くなったとかパワーアップしたとかいう感覚もあれへん。せやからな? まさかや、まさかやけども……これただのラムネなんちゃうかなって。のどごし的にも、なんかめっちゃ甘かったし。ラムネなんちゃうかなって思うんやけ……」


のぞみんがそう言いかけた瞬間、月野さんが即座に力強い口調で言葉を発した。


「マジカルンEXはラムネなんかじゃありませんっ! ふざけないでください、マジカルンEXは魔法少女になる上で必要不可欠と言っても過言ではない錠剤です。何なら、試しに『変身!』と言ってみて下さいっ!」


月野さんの怒りにも似た必死さに圧倒されたのぞみんは「せ、せやな……すんまへん……言うてみます……」と、頭をペコペコさせながら気弱な声で言った。


「へ……変身……」


すると、瞬く間にのぞみんの足元からキラキラとした様々な大きさの輝かしい水色の星が溢れ出てきて、それが螺旋状にのぞみんの全身を纏い始めた。

私とりんりんはその光景に「おおおっ」と興奮し、のぞみんの変身姿を待つ。

そして暫くすると全身を(まと)っていた星たちが少しづつ体から離れていき、最後に「カァァァーーッ」と眩い光がエントランス中に放たれた。

眩しさでつい閉じてしまった瞳をゆっくりと開けてみると、目の前にはアニメや漫画で見たようなTHE・魔法少女の姿をしたのぞみんが立っていた。

サラっとした水色の服装にオシャレなブーツ、そして頭には青い小さなとんがり帽子が被せられている。

胸元には音符の形をしたペンダント。

のぞみんはキョトンとした表情でその場から動かない。

その様子を見て、月野さんがクスッと笑みを浮かべて言った。


「佐倉様、とっても可愛いですよ」


月野さんはエントランスの隅っこに置いてあったスタンドミラーをのぞみんの前まで持ってくる。

鏡に映る自分の変身姿を見たのぞみんはキョトンとした表情から驚きの表情に変わり、両手で口をふさぎながら言った。


「すこぶる……可愛い……」


すると、のぞみんは急にはしゃぎ出して「あたしは魔法少女だー!」「何でも出来ちゃうんだー!」と、小学生のようにエントランスを駆け回った。

月野さんはその様子を見て「ウフフ」と小さく笑い、りんりんも天使のようなにこやかな笑顔でパチパチと拍手をしていた。

その光景はとても優しい空気感であふれていて、美しくて、私も何だか感動しちゃって……少しだけ瞳から涙が零れた。


こんな純粋な気持ちになれたのはいつぶりくらいからだろう。

長い間ずっと部屋で引きこもってて、パニック症という病気で毎日毎日つらい思いをしてて。

だけどいま、私は勇気を出して外の世界に足を踏み入れて……この場所にいる。

もしかしたら、世間からすれば大した事ではないのかもしれない。

普通に外に出る事が出来て、普通に仕事をする事が出来て、普通に生活を送る事が出来て、普通に生きる事が出来る。

でも、私にとってはその『普通』が難しかった。

周りの人たちが『普通』に出来る事が私には難しかった。

だから、ずっとずっと生きづらかった。


でも……でもね。

そんなつらい思いや経験をしてきたからこそ味わえる幸せって、きっとあると思う。

だから私は人生を諦めたくない。

敷かれたレールからはちょっとだけ外れちゃったけど、私は魔法少女として……人類の滅亡と地球征服を企てている悪の宇宙組織【曼荼羅】の奴らをやっつけて必ず幸せな人生を掴み取ってみせるっ!

私はそう決意した。


* * *


のぞみんに続いて私とりんりんも魔法少女に変身した。

私は赤とピンク系の衣装で、りんりんは黄色とオレンジ系の衣装だった。

色以外は3人とも同じ感じの衣装だけど、胸元のペンダントの形だけがそれぞれ違った。

のぞみんは音符の形、りんりんは四つ葉の形、そして私はハートの形。

そしてやはり、ペンダントの形の違いについて月野さんにツッコんだのはのぞみんであった。


「月野はん、一つよろしいでっか? この、わてらの胸元に付いてるペンダントなんやけども、3人とも形がちゃうんはなんか意味が……」


「すみません、佐倉様。このタイミングで言うのはアレなのですが、そのコテコテの関西弁を即やめていただけませんか? 申し訳ありませんが、なんかイラッとするんです」


うん。

月野さんナイス。

タイミングは確かにアレだけど、私もかなりのぞみんの謎のコテコテの関西弁にイラついてたから月野さんナイス。

のぞみんはしょぼんとしながら「かんにんな……」と言った。

月野さんと私は「こいつわかってねぇ」的な視線をのぞみんに向けていたが、本人に自覚がないため何も言えなかったのであった。

りんりんは天然なので「仲直りだね! 平和だね!」とか言って喜んでいた。


そして、月野さんがのぞみんからのペンダントについての質問に答える。


「ペンダントの形の違いの意味、でしょうか? それに関しましては特に何の意味もありません。強いて言うのであれば私のこだわりといいますか。いや、最初は3人とも同じ形で統一しようと思ったのですが……業者様に発注する直前で、ペンダントの形が被っているのが何だかとても嫌になりまして。無理を言ってギリギリのところで変えてもらいました。業者様にはご迷惑をおかけしてしまいしたが、わたくし月野……後悔はしておりませんっ!」


意味ないんかーい。

てか、業者とか発注とか超リアルなんですけど……。

変身に夢中で、ここが会社であることを完全に忘れていた私だった。

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