第15話 スパルタ的な研修
2025年12月27日 13時5分。
魔法少女株式会社のビル前にて。
私たち3人は大晦日までの泊まり込み研修を受けるために、魔法少女株式会社まで来ていた。
自動ドアの前まで歩くと、ウィーーン……とドアが開いてエントランスにはポツンと月野さんだけがいる。
「ありゃ、羅生はんはおらんのでっか? 月野はんや」
のぞみんは何故かコテコテの関西弁でふざけて月野さんにそう言ったが、月野さんは頬っぺをぷくーっと膨らませて何やら怒ってるっぽい。
「愛野様、佐倉様、飛鳥様……来るのが遅いです! 会社への出勤は15分前が常識でしょうッ!」
そりゃそうですよねー……。
のぞみんとりんりんと談笑してたら、つい来るのが遅くなってしまった。
「百歩譲って13時ちょうどに来るのはまだ良しとしましょう。ですが、時計を見てみて下さい。13時5分ですよ? 13時5分っ!」
月野さんの怒りっぷりはどんどんヒートアップしていく。
確かに月野さんからは13時には会社に着くようにと聞かされていたので、5分遅刻して怒られてしまうのは当然である。
それに、会社への出勤は最低でも15分前には着かないといけないのが常識ってのも仕事の経験が無い私でも分かっていた。
こればっかりは月野さんには何も言い返せない。
……はずなんだけど、のぞみんは月野さんにこう言い返した。
「月野はん、一つよろしいでっか? 確かに5分も遅刻してもうたんは、わてらに落ち度があったかもしれへん。でも、でもやで。もうやめにしようや、時間に縛られるんは。社会では遅刻しやんのが常識かもしれへんけど、わてらは魔法少女になるんやさかい……常識を覆す存在として生きやなあかん。魔法少女が常識にとらわれてしもうたら、そらもう……魔法少女やなくてアホウ少女やで。そうでっしゃろ、月野はん?」
「意味不明です」
月野さんは即答した。
のぞみんの謎の弁解には私もりんりんもフォローのしようがなかった。
* * *
月野さんは「研修に必要な物を用意してきますので、タイムカードを押して待っていて下さい」と言ってエントランスを後にした。
「あの……月野さん、激おこだったね……」
りんりんは遅刻して月野さんを怒らせてしまった事にとてもヘコんでいた。
「……ウチ、この先ちゃんとやっていけるか……不安になってきたよ……」
いやいやいやいや、りんりん落ち込み過ぎでしょ!
どんだけメンタル弱いの!
いやまぁ、私もメンタル弱いけれど流石にりんりんはヘコみすぎだと思う。
「りんりん気にすんな! 元気を出すんだ、男だろっ!」
のぞみん……逆にあんたはもう少しヘコむべきだよ。
というか、男じゃないよ。
「そ……そうだよね! 男だもんね……! ウチ、元気出すっ!」
りんりんも乗っちゃってるし。
全く何なんだこの二人は。
のぞみんとりんりんは拳をコツンと突き合わせて「うぇい!」と、謎のフェローシップをとっていた。
私が黙って見ていると、のぞみんが「あ、ゴメンゴメン」と私にも拳を突き出してきたので、何がゴメンゴメンなのか全く分からなかったけど仕方なく私も拳を出してコツンとのぞみんの拳に軽く当てといた。
のぞみんは「うぇい!」と言い、喜んでいた。
やっぱり意味は分からなかったけど、何だか私も可笑しくなって一緒になって笑っていた。
* * *
私たちが10分ほどエントランスでだべりながら待っていると、月野さんがエントランスの奥の方から移動式の卓子をガラガラと私たちの目の前まで運んできた。
卓子の上には、私が初めて会社に来て勝手に使って怒られた[魔法deスティック]と……ボールとカード(?)らしき物が置かれていて、その横には三つの水の入ったコップと三つのピンク色の錠剤が並べられている。
「さて……お待たせ致しました。では、今日より大晦日まで【曼荼羅】に打ち勝つ為に泊まり込みの[魔法少女特別強化研修]を行います! かなりスパルタな内容となっておりますので、覚悟して挑むようお願いします!」
スパルタな内容……。
かなり厳しめの研修になるのかな。
私は一気に不安な気持ちで体がこわばる。
そこで、やはりのぞみんが月野さんの「スパルタな内容」発言に反応した。
「月野はん、スパルタゆうとるけどもやな。スパルタっちゅうのは、まぁせやな……100が超スパルタとしまひょ。ほんでや、気になるんは今日から始まる研修は100スパルタが最高やとしたら何スパルタになるんかっちゅう話や。そこんとこ、どうなんでっしゃろ?」
「100スパルタですね」
またもや月野さんは即答した。
「で、出たあああああ! まさかのMAXぅぅぅううッ! こりゃ参った! 完全にお手上げですわ月野はんッ!」
「そうです、佐倉様。それだけ今日から始める強化研修はスパルタ的で厳しめとなっております。それもそう、曼荼羅の集団は桁外れの強力なパワーを持っていますので、こちらも曼荼羅に太刀打ちできるよう……本気にならなければなりません」
私は月野さんの話を聞いて改めて考えさせられる。
そうだ、私たちは「人類を滅亡させて地球征服をしようとしているほどの力を持った宇宙人集団」と戦うんだ。
だから……生半可な気持ちでいたらダメなんだ。
とてつもないほどの緊張が私の全身を覆って感情が乱れていく。
そんな私の気持ちを察してか、月野さんが優しく言った。
「……でも、大丈夫。きっとあなた達ならこの強化研修をやり遂げ、曼荼羅の集団を殲滅できると月野は信じています。なんてったって、あなた達3人にはその素質があるのですから」




