第14話 造られた世界
2025年12月28日。
【曼荼羅】の宇宙要塞にて。
「伊吹貴様ぁああぁぁあああぁああーーッ!」
タピオカ入りココナッツミルクを飲みながらラングドシャを頬張っている伊吹貴の元に紅月が叫びながら駆け足でやってきた。
「今度は何なんだ、紅月。俺はいま3時のおやつを嗜んでいる真っ最中だぞ? 大した用事じゃないのであれば邪魔をせずにさっさと立ち去れ」
紅月は汗をダラダラと垂れ流し、青ざめた顔をしながら伊吹貴に言った。
「それが大した事なんスよ! [曼荼羅から地球を守り隊]の元隊長……いや、[魔法少女株式会社]の現・代表取締役社長の羅生門ノ助がこの要塞に侵入したという情報が下層部の者から……」
紅月が伊吹貴に話している途中で、厳重にロックのかかった重厚なドアから羅生門ノ助が現れた。
紅月は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「伊吹貴、久しぶりだな」
「羅生門ノ助……どうやってこの要塞に侵入してきたんだ。百にも及ぶ厳重にロックされた数々のドアをどうやって突破してきて、ここまで来れたんだ?」
伊吹貴は鋭い目つきで羅生門ノ助を見つめながらそう言った。
「いや、最初はさすがに伊吹貴のいる所まで辿り着くのは厳しいかなー……って要塞の入口で考えていたんだが、ダメ元でこの[魔法deカギ]を使ってみたら普通にどんどん重厚なドアのロックを解除する事が出来まくってな。気付いたらここまで来てたんだ」
伊吹貴は隣にいた筋肉モリモリのモヒカン男を睨みつけて言った。
「要塞のセキュリティ管理はお前に任せていた筈だ。どうしてこんな事になっている?」
筋肉モリモリのモヒカン男は焦って、ごまかすように腕立て伏せを始めて伊吹貴の質問をスルーした。
伊吹貴はモヒカン男の[筋トレ中で何も耳に入りませんアピール]にかなりイラッとしたが、それよりも魔法少女株式会社の社長・羅生門ノ助が直々に自分の元に来た事に疑問を感じずにはいられなかった。
「一体何の用だ、羅生門ノ助。俺達はいまお前含め人類を全滅させて地球を征服する為の準備中だ。邪魔をしに来たのであれば即帰れ!」
その横で紅月が小声で呟いた。
「タピオカ入りココナッツミルク飲みながらラングドシャ頬張って3時のおやつを満喫してたくせによく言うっス」
「だまれ紅月! 聞こえてるぞ!」
羅生は「はぁ……」と溜め息を吐いて、一呼吸置いて言った。
「何も分かってないようだな、伊吹貴」
「『何も分かっていない』だと? どういう意味だ、羅生門ノ助」
伊吹貴の質問に羅生は呆れながら、指で耳を掻きながら答えた。
「あのな、伊吹貴。驚かずに聞けよ。実はな、いま我々がいるこの世界は……【本当の世界】じゃないんだ」
羅生の発言に伊吹貴は少し驚いたような顔をしたが、すぐに冷静な顔付きに戻った。
紅月と筋肉モリモリのモヒカン男は二人揃って「え?」とキョトンとした表情で声を漏らした。
伊吹貴は羅生に言う。
「いや……薄々、そんな気はしていた。この要塞の中心部には柱があってな。その柱に埋め込まれている菱形のダイヤモンドは『この世の真実を示す文字列』が浮かび上がる様に出来てるんだ。もっとも、この世界に何か異変が生じた時にしか文字列は映されないがな。……しかし、一昨日の事だ。いきなりダイヤモンドが赤く光り出し、たくさんの文字列が浮かび上がったのだ。文字列の内容はうまく理解が出来なかったが、その文字列の中に【現実世界】というものがあり、頭にずっと何か引っかかっていたんだ」
羅生は伊吹貴の話を腕を組みながら真剣に聞いていた。
そして、羅生は伊吹貴の疑問に答える。
「そう。この世界は【造られた世界】なのだ。本当は存在しない世界だ。しかし、疑問に思うだろ? 何故この世界が生み出されたのか、と。……実はこの世界はな、3人の少女の命を救う為に造られたのだ。3人の少女とは、[愛野あいこ][佐倉のぞみ][飛鳥すずか]の事だ」
伊吹貴は言った。
「その3人の少女……お前が代表を務める魔法少女株式会社に雇用された者じゃないか。我々、曼荼羅を倒す為に雇われた3人ではないのか……? 全く意味が分からん……」
羅生は人差し指を立て「もう一点」と、伊吹貴にとって……いや、曼荼羅に属する全ての者にとってあまりにも信じ難い話を始めた。
「これは、本当の本当に言葉にするのは辛く……この俺でさえも胸が苦しくなるくらいに残酷な事実なんだが、曼荼羅は現実世界には存在しないのだ。つまり、伊吹貴……お前も現実世界には存在しないという事だ。横にいる紅月も、そこで腕立て伏せをしている筋肉モリモリのモヒカン男も、下層部の奴らも含めて全員が……だ」
紅月と筋肉モリモリのモヒカン男は相変わらずキョトンとしていたが、伊吹貴は違った。
「そんな、まさか……。俺が造られた存在だなんて……嘘だろう? 現実世界では存在していないだなんて……嘘だろう? ……じゃあ俺の生きる意味って何なんだ? 俺の存在には意味がないのか?」
伊吹貴は地面に膝をついて、頭を抱えた。
そんな伊吹貴に羅生は言った。
「いや、意味はある。……というか、大ありだ。お前たち曼荼羅の存在が3人の少女の命を救う事になるんだからな」
伊吹貴は顔を上げて言った。
「命を救う? どういう事だ?」
羅生は伊吹貴に近づき、ゆっくりと口を開いて話した。
「現実世界で、愛野あいこ・佐倉のぞみ・飛鳥すずか……この3人の少女たちはネット上で繋がり、樹海で〈自殺〉を試みたんだ」
曼荼羅の要塞に緊迫した空気が流れた。




