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第10話 反転の前触れ

2025年12月26日。

【曼荼羅】の宇宙要塞にて。


「ふぅー……」


伊吹貴は、要塞の中心部にある柱に埋め込まれた菱形のダイヤモンドに手をかざしながら息を漏らす。

ダイヤモンドは赤い光を放っていた。


「なぁ、紅月よ。このダイヤモンドに浮かび上がる文字列を見てどう思う……?」


紅月は伊吹貴がいる場所から100mくらい離れた所で漫画を読んでいた。


「なぁ、紅月……。この文字列を見て、お前はどう思う?」


紅月は漫画を机に置くと、コンソメ味のポテトチップスの袋を開け、袋に右手を突っ込んでおもむろにポテチを取り出してパリパリムシャムシャと食べ始めた。


「おいぃぃッ! 紅月ぃぃぃぃぃーーッッ!」


100mくらい先にいる伊吹貴が何か叫んでいるのを察知した紅月はポテチの袋を投げ捨てて、伊吹貴の元までダッシュで走った。


「ハァ……! ハァ……! ハァ……! な、なんスか、伊吹貴様……?」


「さっきから何度も呼んでいるだろうがぁ! 全くお前ってやつはぁぁあッ!」


伊吹貴はキレまくりながら紅月に叫んだ。

紅月の顔には伊吹貴の大量の唾がかかる。


「いや……そんな、聞こえなかったッスよ……。 どのくらいの声量で俺のこと呼んだんスか……?」


「ごまかすんじゃないッ!」


伊吹貴は興奮して紅月に怒鳴り散らした。

紅月の顔にはさらに大量の唾がかかる。

伊吹貴は息を荒くし、目も血走っていた。


「わ……わかったッスよ、伊吹貴様。 俺が悪かったッス。……で、どうしたんスか? 」


ようやく落ち着きを取り戻した伊吹貴は、一つ溜息をついて言った。


「何度も言わすなよ……。この柱に埋め込まれた赤いダイヤモンドに浮かび上がっている文字列を見て、紅月はどう思う?」


紅月は(あご)に人差し指を当てて険しい表情を浮かべながら、赤いダイヤモンドに浮かび上がっている文字列を読み上げる。


「んー、とーー……。 樹海……三人の少女……白いワゴン車……硫化水素……未遂……三枚の遺書……緊急搬送……重症……呼吸困難……病院……拒絶反応……発作……記憶の書き換え……現実世界……夢……希望……魔法……って、何なんスかこれ?」


伊吹貴は鋭い眼差しで紅月を見る。

そして、ゆっくりと口を開き言った。


「なぁ、紅月よ。 今……現在、我々が生きているこの世界は【本当の世界】なのだろうか?」


伊吹貴の言葉に紅月は一瞬キョトンとしたが、笑いながら答えた。


「そんなの、本当の世界に決まってるじゃないッスか! あはは! 普通にポテチ美味いですしっ!」


伊吹貴は紅月に向けていた瞳を地面にゆっくりと移し、目蓋(まぶた)を閉じて呟いた。


「だったら……いいんだけどな……」


* * *


2025年12月27日。

東京都港区、某所。


「あっ! りんりん、おっはよー! ……っと、あいちゃんもいたか! あいちゃんもおっはよーーっ!」


私とりんりんで会社に向かって歩いていたら、後ろの方からのぞみんが駆け足で向かってきた。


「おはよー。相変わらずのぞみんは元気だなぁ〜〜。でも、ちょっとテンション高すぎじゃない? まー、明るいのはいい事だけれどさ……」


私がのぞみんにそう言うと、のぞみんは何故か上着の裾をまくり二の腕を見せ付けてきた。


「どうよっ!?」


「うん、細くて綺麗な二の腕だね」


私の返事に対してのぞみんは「ダメだな」と小声で呟いた。

もちろん私は全く意味が分からなかった。

何がダメなのか。

納得のいかないのぞみんは、今度は私の隣にいるりんりんに視線を移す。

のぞみんは二の腕をりんりんの目の前まで持っていき、それをじっくりと凝視しているりんりんの返事を待った。

のぞみんはりんりんがどう反応するかと、目をキラキラさせて鼻息を荒くし……興奮している。

私と同様にりんりんもどう返事をしたらいいのか全く分からなかったが、少し考えてから声を振り絞るようにして言った。


「シュ、シュレディンガーの猫……だね……!」


「はい正解ぃぃーーッ!」


本当にこの状況の意味が分からなかったけれど、のぞみんとりんりんは何故か心が通じ合ったようだ。


「ささ、2人とも! そろそろ会社に着くよ! 今日から大晦日まで泊まり込みで研修でしょ? 皆でがんばろうねっ!」


私がそう言うと、のぞみんとりんりんは2人揃って「うんっ!!」と元気よく答えた。


* * *


2025年12月27日 12時30分。

愛野、佐倉、飛鳥が魔法少女株式会社に来る三十分前。


「羅生様、そろそろあの子達が研修を受けに会社に来ます」


月野はづきは真剣な顔つきで、社長……羅生門ノ助にそう言った。

月野は声を震わせながら続けて言う。


「本当に……いいんですよね……これで……」


羅生はこくりと頷き、言った。


「ああ、大丈夫だ。きっと救えるはずだ……彼女たちを。曼荼羅の奴らにも私から【この世界の真実】を伝えておく。だから月野くんには、彼女たち3人を任せる。過酷な仕事だが、しっかり頼んだぞ」


月野の目からは涙が溢れ出した。


「はい……お任せ下さい……。ちゃんとやり遂げますので……うっ……うぅぅ……」


―――そして、世界の真実が明かされる

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