プロローグ
日曜日の早朝。
女児向けアニメを夢中になって観ている少女がいた。
そのアニメは、いわゆる魔法少女ものである。
タイトルは『魔法のプリンセス』。
テレビの画面には可愛い衣装をまとった魔法少女たちが地球を闇に染めようとしている悪魔と戦っている描写が映っていた。
少女は思う。
私も魔法少女になって悪魔と戦い、世界を救いたいと。
しかし、この世界には魔法なんてものは存在しない。
悪魔や未知なる敵が地球を脅かそうとしている訳でもない。
それでもまだ幼いその少女は本気で〈私は魔法少女になれる〉と信じてやまなかった。
五才にして少女の将来の夢は「魔法少女になること」に決定した。
もちろん、女児向けの魔法少女アニメを観てそのような想いを抱く少女は世界中に溢れている。
そしてこの少女も例外ではなかった。
「ママー! あいこもまほうしょうじょになるー!」
台所で食器を洗っていた母に向かって、少女はテレビに釘付けになりながらもそう言った。
母は食器を洗う手を止める事なく少女の言葉に答える。
「はいはい、きっとなれるわよ」
そっけない母の返事に少女はほっぺをプクーッと膨らまして「ぜったいなれるもん! まほうしょうじょに! ぜったい!」と強い口調で言った。
幼いながらも少女の意志は固いものであったのだ。
その様子に少女の母は人差し指を口元に当ててクスッと小さく笑った。
――そして長い月日が流れ、十七才となった少女は魔法少女に……いや、引きこもりニートになっていた。