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「皆様、お茶をどうぞ」

「ありがとう、サーちゃん」

 ギャリー先生がお礼を言って、マイカップが置かれた席に座った。

 それでとりあえず、僕への説教は終了となったみたいだ。

 じゃあ自分もお茶を飲もうかなと立つと、サーシャさんがまだいた。

 最初のころはそうではなかったが、サーシャさんは誰かが呼び止めない限り、誰も給仕を必要としていないので、すぐに部屋を出るようになっていた。

 サーシャさんが受け持ってる他の仕事の妨げにならないようにという配慮であったりする。

「どうしました?」

 何かあったのかなと聞いてみると、サーシャさんは一瞬体を強張らせて、スカートを握り皺を作る。

「あ、あの……、その私も旅にお供させてもらえませんでしょうか?」

「駄目ですけど」

「サーちゃんが珍しくお願いしたんだよ、というかあたい初めて見たよ。だから理由ぐらい聞いてあげようよ!」

「聞いても結論は変わりませんし。第一種危険地域に行くのに僕という足でまといがいるのに、さらに増やすとか考えられないでしょう、なにより父さんが許さないですよ」

「いやまあ、そうだけどさー」

「いえ、すいませんでした」

 サーシャさんは一礼して出て行こうとする。

「それに、この旅は家を出た後の生活の練習もかねてるんです、メイドさんを連れて行くのは駄目でしょう」

 そう考えるなら、帰ったらメイドさんも外してもらうか。

「それは……」

 サーシャさんの目が見開かれている。

 どうしたんだろうと疑問に思ったが、どうも無意識に呟いていたらしい。

「ウィリアル様、ご迷惑なのは分かっておりますが、絶対についていきます」

「え、いや、メイドさんを連れて行くわけには、父さんも許さないだろうし」

「……今から許可をもらってきます」

 そう言って部屋を出て行った。

「ええぇー……」

 どうしたものかと、先生方を見ると、ラルフ先生は肩をすくませ、他の三人は我関せずといった感じでお茶を飲んでいた。

 この状況に軽く動揺していると、サーシャさんが入ってくる。

「許可を頂けましたので、私も同行します」

「なん、だと……」

「専属メイドだからお供したいとお願いしましたら、許可をいただけました。ただ、危険領域には近づかないように言われましたので、近くの町か村で待つことになります」

「まあ、妥当な落としどころね。旅をしているときの話の内容がマンネリ化していたのよねぇ」

「パーティ組んで何年も経ってるもんねー」

 エル先生とギャリー先生は嬉しそうだ。

 フィーン先生は何も言わないが、何も言わないのが歓迎している証拠だ。

 ラルフ先生を見ると困った様子は見かけられない。

「まあ、うちの女性陣が歓迎なら俺から言えることは何も無い、怖いしな! ま、お前は余計なことを言ったのは確かだな」

 諦めろというように、頭を軽く叩かれた。

 父さんが許可を出した以上、こないように説得するのも憚れ、サーシャさんの今回の行動に困惑しながら四日が過ぎた。

「今日はいい旅立ちの日だなー」

 引率の先生リーダー、ラルフ先生が言った。

「屋敷から馬車を借りることが出来たから、これで旅をするが、街で片付けることがあってな、街中で乗るには小回りもきかないから、とりあえず街を出るまでは歩きだ。フィーン悪いが門外まで馬車を移動させて待っててくれ」

「いや、気になるから、外で預けて私もギルドに行こう」

「そうか、じゃあギルドで待ってるぞ」

 フィーン先生は頷いて、移動させに行った。

「じゃあ俺達も出発だー」

「はーい。ところで、先生方は馬車持ってないんですか?」

「あると便利だから一回買おうとしたんだがな、維持費を聞いてちょっと手が出せなかった」

「ああ、なるほど、でも四ツ星ならそれぐらいなら稼いでそうですけど」

「貧乏性が抜けなくてな……」

「ああ、そうですか……」

 ラルフ先生の哀愁に、お金に対する考えを改めようと心に誓う。

 お金を使う機会がなかったにも関わらず、貴族特有の金銭感覚が多少あるので、気をつけなければいけない。

「それで、街で用事ってなんですか」

「お前とサーシャに冒険者ライセンスを与えようと思ってな」

「どうしてです?」

 サーシャさんにも取らせるというのはどういうことか?

「目的地の場所が場所だから、持ってた方が多少楽になるんだよ。それ相応の力がないと、領域に入る許可でないからな。与えるのは一ツ星だけど、四ツ星が四人もいるから、色々と処理はすんなりいくだろ。サーシャはついでだな」

「領域に入るのは審査いるんですね」

「本来許可なんかいらないんだけどな。だから無断で入っても犯罪じゃない、犯罪だとしても罪として裁かないでも大抵勝手に死ぬし。まあ、あんな危険な場所に誰にも知られず入ろうって言う人間は大体後ろめたいことがある奴だから、問題にされないだけなんだけどな。許可を取る理由は、ちゃんと国に申請していれば、申告した期間の一週間後までに生存確認が出来ないと捜索が出されるんだよ、ほぼ遺体探しなんだが。一定以上の強さを求めるのも捜索回数減らすためだ、結構な費用が掛かるらしいからなぁ」 

 なるほどなぁ。

「で、だ。サーシャは普通にライセンスを取らせるが、お前は俺達の推薦とお金を積んでの買収だ」

「多少言いたいことはありますが、まあ、任せます」

「まあ、文句を言いたいのは分かるが、極力お前を目立たせたくない。結構有名なんだぜ、お前は」

「……ああ、魔法資質ゼロと父さんが教育係探していたことで、有名になったと」

「そういうことだ、まあ、連れて行った時点でお前が誰なのか分かるだろうが、四ツ星の連れにからむ奴はいないから、騒ぎにはならんだろ。貴族の子息が金でライセンスを買うっていうのはよくあることだしな」

「お金で買うってそれでいいんですか」

「依頼が達成されるんならそれでいいらしい。大抵護衛が付いているから、依頼失敗は案外少ないって言ってた。そういう奴はランクは上がらないんで、難易度が高い依頼は回らないしな」

「そういうものですか。ならサーシャさんの分も買収したらどうですか、普通に取らせるってサーシャさんそういう能力無いでしょ」

「いやそれがだな、サーシャが頼んできたので暇つぶしがてら、俺らが育てた」

「何してるんですか」

「お前の授業している間に手が空くやつが必ずいるからな、サーシャも仕事があるし、時間がかち合った時だけって条件で教えてた」

「なんだかなー。それで、成果はどうなんですか?」

「ぎり二ツ(ドゥ)に届くか届かないかだな」

「年月で見るとたいしたことないですが、実際の教わった時間を考えると結構優秀な感じですかね?」

「及第点ではあるが、もうちょっと上を目指せたんじゃないかと思う」

 そうこうしているうちに冒険者ギルドの前に着いた。

「初めての街だった割には、物珍しそうにしなかったな」

「そうですか? 色々と気になるものとか結構あってワクワクしてましたけど」

「そうか?」

 とりあえず男女で分かれて女性組はサーシャさんのライセンス取得テストに行った。

 僕らはというと、ライセンス申請受付に留まる。

「ラルフさん他に御用ですか?」

 受付の女性が尋ねてきた。

「いやな、こいつを冒険者に推薦しようと思ってな」

 受付さんは僕を見て思案する。

「……ラルフさんが悪い大人になってしまった」

「人聞きが悪いなぁ、別に珍しいことじゃないし悪いことしてるわけじゃないだろ?」

「そうですけどねー。あまり詮索は良くないんですが、この子供って例の子ですよね?」

「正解」

 そういうのは本人がいない時にしてほしいなぁ。

「じゃあ、この書類に推薦人であるラルフさんのサインを、推薦の場合は戦闘能力の確認は行われませんが魔法資質の検査は必須なので、これ触ってくださいね」

 魔封具がはめられた板を目の前に置かれる。

「これで体に宿る魔力を各種の項目ごとに計測して、総合で魔法資質を測ります」

 流石三百年以上経っていると便利な物があると感心する。

 ちょっとわくわくしながら、手を乗せて、数十秒待つと受付さんのいる側から紙が吐き出された。

「えーと、噂通りの結果ですね」

「マジか、正直信じられないんだよな、それ見せてくれ」

「これは職員と本人にしか見せられない決まりなので」

 受付さんはそう言って、僕をちらりと見る。

「じゃあ、僕に見せてください」

 紙を受け取る。

 ラルフ先生にも見えるように持って確認する。

「お前魔力量がレベル5あるのかよ、魔力操作も5って軒並み5だな、それでなんで総合評価が0なんだ?」

「属性の項目~」

 受付さんが素知らぬ顔で独り言を言う。

「属性?」

 属性の項目を見ると、属性無しと書かれていた。

「はあ?」

「安定して変換出来る属性が無いってことですね」

 ラルフ先生の疑問に僕が答える。

「生まれたばかりの時に属性が判別できないぐらい不安定になることはあるんですけど、その歳になっても判別が出来ないほど不安定なのは初めて見ましたよ~」

 受付さんがちゃっかりと感想を言う。

「判別出来ないほどの不安定さだと、構成にも影響しますしね」

「なあ、属性だけを調べることは出来ないのか?」

「出来ますよ、する人はいないんで道具を引っ張り出してこなきゃいけないんですけど、やってみます?」

「すまんが、頼む」

「じゃあちょっと待っててくださいね。その時にライセンスも発行いたしますんで、お金の用意をお願いしますね」

 金額が書かれた、紙を渡される。

「ああ、適当な時間になったら、また来る」

「じゃあ、また後で~」

 受付から離れる。

「調べる必要あります?」

「お前の実力を僅かでも知ってるとな、正直結果が信じられない」

「そうですか、結構納得な内容でしたけどね」

「お前はそうかもしれんが、俺より魔法に詳しいあいつらも加えてもう一回調べてみたい」

「まあ、基本的に急ぐ旅じゃないのでいいですけど」

 ライセンス取得テスト場に行く。

「お、そっちはもう終わったの?」

 ギャリー先生が僕達に気付いた。

「とりあえず、取得申請は終わった」

「何か気になることでもあったの?」

「ああ、ちょっとな。それよりサーシャはどうなんだ?」

「この実技テスト次第かな?」

 テストの内容を上から見学出来るようで、どんなテスト内容かと見てみる。

「ワーウルフ?」

 サーシャさんがワーウルフの攻撃をかわしていた。

「そ、試験内容はワーウルフの討伐。黒魔法で操られているワーウルフの死体を、殺しきれたら合格」

「想像してたよりも、ずっと実戦らしい試験内容ですね」

「一ツ星冒険者が引退する一番の理由が人を殺せないもしくは殺したからなんだよね。動物ならモンスターなら躊躇い無く殺せるっていう人は結構いるんだけど、人になると大分減るんだ。ワーウルフはモンスターだけど、人間のようなシルエットをしているから、擬似対人戦をすることが出来るの。実際のワーウルフよりは簡単に討伐できるけど、人の形をした物を擬似的にでも殺すって結構忌避感が出るし、出来るだけ死んだ直後の状態を保たせているから肉の感触は本物なのよね。だから合格しても、ライセンスだけ取ってそのまま引退みたいな人は結構な数でいるの」

 先程から、攻撃をかわし続けているサーシャさんは、擬似的にも人を殺せない側だということなんだろう。

 そもそもサーシャさんのライセンス取得は僕のついでなので、棄権しても大丈夫だと伝える為に、声を掛けることにする。

「サーシャさん、無理しなくていいですよ!」

 声が届いたようで、僕の顔を見るとハッとした表情になり、ワーウルフから一端距離をとって、呼吸を整える。

 そして深く一呼吸ついた直後に、跳んだ。

 まるで地面を滑っているかのように、姿勢を低くして飛び跳ねて行く。

 突然、動きが良くなって戸惑うワーウルフだったが、サーシャさんが一撃を与えようと近づいた瞬間に合わせてカウンターを放った。

「あぶっ!」

 ない、と言うと同時にサーシャさんの姿が砕けて消えた。

「幻覚?」

「いいや、鏡のような氷に自身を映してのフェイント」

 ギャリー先生が上を指すと、双剣を振り下ろしの体勢で落ちてきた。

 左側の腕と脚を斬ったと思ったが、斬れていなかった。

 だが双剣が通った跡が氷が張り付いていた。

 ワーウルフの動きが止まる。

 その一瞬の隙を突いて、サーシャさんは闇雲に斬りつけるが、剣がかすりもしていない、どういうことだろうと良く見ると、剣先から透明な刃が出ていて、それで斬りつけていた。

 そして透明な剣が通る度にワーウルフの身体には氷の通過跡が生まれていた。

「氷漬けにするつもり?」

 そうとしか思えないほど絶え間なく斬りつける。

 だが、力づくでワーウルフが氷の斬撃跡を粉砕した。

 氷を粉砕されたサーシャさんは距離をおく為に後ろに跳んだが、ワーウルフの一歩で一気に距離をつめられそうになる。

 後一歩でワーウルフの爪が届きそうな距離になったとき、ワーウルフの目の前を遮る四角い幾枚もの板が現れた。

 突然現れた板は、表面が鏡のようになっている氷だった。

 形は四角という以外は縦と横の長さが一緒のものは存在せず、数枚ずつ現れて徐々にワーウルフの視界を埋め尽くしながら足止めする。

 しばらくは出方を伺っていたがワーウルフはしびれを切らして、邪魔だと言うように粉砕するがそこにはもうサーシャさんはいなかった。

 サーシャさんはワーウルフの頭上を逆さになって跳んでおり、今度はワーウルフを囲うように、鏡氷の板を展開させる。

 そこから後は一方的だった。

 鏡氷の板で身を隠しながら、ワーウルフの死角から攻撃できるように立ち回り、氷で動けなくしていく。

 ワーウルフは死角からの攻撃とたまに鏡氷に映るサーシャさんの姿に惑わされて、動きが止まり、身体の氷と鏡氷を何回も粉々にしながらも、維持する鏡氷の数を増やされ斬りつけられ続けた。

 やがて、完全に身動きが取れないほどに氷で拘束したのを見計らって、魔法で氷漬けにした。

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