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「……ふと思ったんだが、お前って魔法自体は使えるんだよな?」

「ええ、それがどうしたんです?」

「見たことないなと思って」

「んー、今のところ見せる気はないですね」

「一回だけ見せてくれないか? 素材集めの参考にしたい」

「えー……」

「なんでそこで嫌がるんだよ」

「屋敷の人たちにも見られるじゃないですか」

「あっ、あー……すまん」

 珍しく本当にすまなさそうに言う。

 おそらくだがラルフ先生は勘違いしている、詠唱魔法を使うときというのは無詠唱魔法のバリエーションを増やす時と、子供が魔法を使うときの補助のようなものである。

 屋敷の人間にしてみたら子供のように補助がないと魔法が出ない未熟な者という嘲笑対象ということだが、僕からして見れば僕の魔法の力を知られたくないと言うものだった。

「はあ、じゃあ一回だけ使いますけど、他の先生もいる時にしましょう。ラルフ先生が見てもしょうがないでしょ」

「お、じゃあ丁度いいあいつらも屋敷には来てるんだよ」

「お菓子でも食べに?」

「まぁ……そんな感じだな?」

 そこは疑問で返されても。

「じゃあちょっくら呼んでくるわ」

「サーシャさんに見ないように言いつけといてくださいね、先生方がいるなら給仕してるでしょうから」

「へいへい」

 適当な返事をした数分後、事情を聞いた先生方が集まった。

「じゃあ、今ここには先生方しかいませんね?」

「ええ、私とフィーンで人払いの魔法を仕掛けました、抜かりはありません」

「ウィーも自分の魔封具欲しい時期になったのかぁ、でもちょっと速い気もするなぁ。こういうのはノーマルな奴を使っていく中で自分に必要な物をみつけていくもんだし」

「いいんじゃない? 性能を聞いた感じじゃ汎用性ありそうだし」

「いや、結構特殊だよ?」

「確かに、無属性魔力の物質化。自属性なら聞いたことはあるけど」

「まあ、一応使い方は考えています。出来たぐらいに説明しますので、それにあった訓練内容を考えもらえれば」

「うん、りょーかい」

「というわけで、どんな魔法をみせますかね」

 うーん、と考えて目立たず分かりやすく実力の片鱗を見せれる魔法を思いついた。

「よし、あれにしますね」

「あれってどれだ」

「詠唱を聞いていればわかりますよ」

 さてちょっと気合をいれますか。

[星の竜よ 漆黒から白金 清浄なる者 清純なる者 清廉なる者 清めたまえ 払いたまえ 偽りを壊し 壁を壊し 自由なる地に戻す為の浄光を]

「はぁ?!」

 珍しいエル先生が素の反応だ。

 基本的に分け隔てなく優しい人なんだけど、根本は姐さんなんだよなぁ。

[星竜后の破浄光]

 八年ぶりに、いや三百と八年ぶりに確かな魔法の手応えを感じる。

 僕の魔法が人払いの魔法を消し去った。

「こんな感じですかね?」

「うん?」

 ラルフ先生はいまいち分かっていないようだったが、エル先生とフィーン先生は険しい表情になっていた。

 ギャリー先生はどうしたものかと腕を組んで悩んでいた。

「一年ほどの研究で分かったんですが、魔法資質はちょっと無詠唱適正に比重置き過ぎてません? いやまあ、実践で無詠唱が必須なのは分かるんですが」

「ウィー君の実力はほんのちょっとわかりました。これを元に素材を集めた方がいいんだね?」

「そんなことないですよ、予算内に収まればどんなものでも、出来が良いにこしたことはないですけど」

「はあ、ラル、たしか数日掛かるって言ったんだっけ?」

「おう」

「予算によるけど子のこの実力に合わせた物を用意しようと想ったら下手したら一ヶ月以上は掛かるわよ、コレ」

「えっ? そんなに凄いのかこいつ」

「ラルフ、私とエルの張った人払いの魔法を一瞬で消した、それもわざと最高位の浄化魔法を使って、意味分かる?」

 つまりエル先生とフィーン先生より実力が上であり、ついでに最高位の魔法を使うだけの技量を持っているということを示したことになる。

「なっ……!」

 ラルフ先生がそのことを理解して絶句する。

「でも、魔法を事前に見ておくっていうのは、いい判断だったわ。知らずに魔法資質ゼロっていう先入観で作った魔封具のガンドレッドを持ってきた日には、私達は冒険者として低く見られてたわよ」

「そんなこと思ったりしませんよ」

 多少疑うような視線を寄越したあと、溜息をはかれた。

「うーん、それにしても、これはまずったわね」

「何がです?」

「ん? あー……こっちの話」

 エル先生はそれで話を打ち切った。

「久々にドワーフとして血が滾るなぁ、金に糸目を付けなかったら、高級素材一杯つかったんだけどなー」

「ギャリー先生が作るんですか?」

「嫌?」

「全然」

「あら、即答」

「皆さんの装備はギャリー先生が作ったんですよね? 皆さんの装備はどこか似たようなとこがありますから。それなら信頼できるかなと」

「正解! 元々あたいはブラックスミスとしてパーティに入ったんだよ、だから皆の装備は全部あたい作さ」

「エルフは同胞が作った武器しか使わないと聞いたことがあるので、本当に凄いと思います」

「へへっどうだーい」

 もっと褒めろというようにギャリー先生は胸を張る。

「ウィリ、あまりギャリーを調子に乗せないように」

 フィーン先生に言われた。

「えーいいじゃんねー。それにしても、ウィーは武器が欲しいんだねー、理由は何? 冒険者になるわけでもないんでしょ? そもそもどうやって生きていくつもりなのか知らないけど」

「そりゃ、男なら武器に憧れるだろ」

「そんな安直な」

「いや、十四歳男子に何期待してんだ」

 そういえばそうだったと、先生方が僕の顔を見る。

「冒険者にはなりますよ」

「あれ、どういった心境?」

「まあ、この二年で色々知見を拡げることが出来ましたからね。ちょっと魔法素質というのを絶対視し過ぎていたなと。正直な話、今の魔法は……いやまあそこらへんはどうでもいいか。ともかく、詠唱魔法だけでもやれることが多いのは分かったので、家を出たら気が済むまで旅に出ようかと思いまして、一ツ(ウーヌ) なら僕でもなれそうですし、小銭を稼ぎながら世界を巡ろうかと思ってます」

「ほう、なるほどな。偶々だけど、色々分かって良かったわ、じゃあしばらく来ねーけど、サボるんじゃねーぞ」

「わかりました。そんなに張り切らなくていいので、危険なことしないでくださいねー」

「わかってるよ」

 そう言って先生方は素材集めの旅に出た。

 どの程度の期間になるか分からないが、しばらくは静かな生活になりそうだ。

「どうもいい素材を探してくれるみたいだし、僕も完璧に成功させる為に、魔法封入技術を練習しようかな」

 先生方を除けば別館にはサーシャさん以外来る事はないので、気が済むまで練習しよう。

 僕が家を出る宣言をしたことで、父さんはサーシャさんを除く屋敷にいる人間に僕との接触を禁じた。

 家を捨てる人間に関わるなということらしい。

 父さんの気遣いかなとも思うが、真意などどうでもいい。

 そのせいで食事は別館でとることになりサーシャさんの負担がまた少し増えていたのだが、まあ、たいしたことないだろう。

 一ヵ月後。

「戻ったぞー!」

「ああ、おかえりなさい」

 ギャリー先生が部屋の扉を力一杯に開けて入って来た。

「もうちょっと、テンション上げて迎えて!」

「えー」

「この子はっ!」

「はいはい、ギャリー早く退いて」

 エル先生がギャリー先生を押しのけて入って来た。

「久しぶり」

 フィーン先生が入ってくる。

「さっさと渡して帰ろうぜ」

 ラルフ先生なんかもうやる気が無かった。

「正直あたいが一番疲れてるはずなのに、なんで皆そんなにテンション低いの?」

「疲れ切って逆にテンションが跳ね上がるのは、ギャリーくらい」

 フィーン先生が言う。

「くそう。まあ、早く寝たいのはあたいも同じだし、渡すわ」

 がさごそと鞄から布に包まれた物を出した。

 机に置かれて、どうぞ、と言われたので布包みを開ける。

 そこには一組のガンドレッドがあった。

 見た目は横長くした矢羽様な形をした板が何枚も繋ぎ合わされていて、素材は金属のように見えるが全く違う素材で大昔に見たことがあるのだが、パッと思い出せない、裏には光沢がある布が付けられていた。

 手を入れる部分は何かしらの革と裏地に光沢の布で手の稼動範囲を狭めないように謎金属が付けられている。

 腕に固定する為のベルトが幾つか付いていて、手首から二つにはアーモンド形の窪みが付いた止め具で繋がっていた。

「付けてみて?」

 言われるがままに付けてみる。

 成長してもいいように作られているようで、少し大きい。

「やっぱり大きかったかー。まあこれは一つ一つ取れるし、まだ何枚もあるから長くすることも出来るから」

 そう言って、腕の長さに合わせられるように幾枚か板をとる。

「手首と付け心地はどうかな?」

「問題ないです」

「よかった、頑張ったかいがあったよー」

「ありがとうございます。それで質問なんですけど」

「ごめん、マジ限界、ラルフ後は頼んだ……」

 安心して気が抜けたのか、ギャリー先生は寝てしまった。

「サーシャさん」

「かしこまりました」

「あ、運んで帰るからいいよ」

「いえ、泊まっていってください、先生方も疲れ切ってるでしょう。いつかきちんとお礼はしますが、ガンドレッドの礼だと思って」

「うーん、そういうことならお言葉に甘えようかな。じゃあサーシャ、部屋まで案内してくれる? ギャリーは私達で運ぶから、ドワーフって見た目によらず重いからね」

「かしこまりました」

 四人は部屋から出ていたった。

「で、質問ってなんだ? 少なめにしてくれよ、俺も寝たいからな!」

「大したことじゃないのですぐに終わります。とりあえず素材を聞こうと思ったんですが、魔力を通して分かったんですけど、ミスリルはともかくよく竜の素材とか手に入りましたね」

「お前こそよく分かるな、普通分からないぞ」

「竜の角と鱗を粉にしてミスリルと混ぜ合わせたのがこの板でその下の革も竜の物ですね、あとこの布はミスリルを糸状にして織った布ですか」

「ああ、お前の言う通り」

「この窪みは魔封具を嵌め込む為のものだと思うんですが、どうして腕の内側なんです?」

「簡単な話だ。そのほうが歪んだり欠けたりと損傷する確率が低い。基本的に腕の外側で攻撃を受けたりするからな」

「ああ、なるほどそれは気が付きませんでした、デザインを頼んで正解でしたね。ありがとうございます」

「多少はそれで接してやれ」

「はい?」

「なんでもないよ」

「それで、魔封核は?」

「いや、それが、魔石は良いのが手に入って、加工して形に合うように銀装も作ってもらうまでは良かったんだがな、魔法封入が出来る段階になって、事前にこっちでやるとは言っておいて向こうも了承してたんだがな、封入する人物に興味が湧いたみたいで」

「ああ、僕がすることが分かって、渡してくれなかったと?」

「そういうことだ」

「面倒な……」

「腕前を見せるか、大人しくこちらに任せるかしないと、渡さないらしい」

「魔封師ってそういう職人のような人いないイメージだったんですけど」

「ああ、俺も知っている中であの人一人だけだよ。で、どうする」

「父さんに許可をもらって招きましょう。最悪、家を出たときに自分でどうにかします」

 後日 アポを取って余った素材を渡すことでどうにか許可をもらうことが出来て、一応最悪は回避した。

「でも良かったんですか?」

「何がだ?」

「余ってた素材ですよ。あれだけでも、装備の強化や換金すれば大分良い金額になりましたよね」

「ああ、俺達の分はちゃんと確保して、もう装備に使った。ギャリーが一番疲れてたのは、勢いで俺達の装備も作ったからなんだよ」

「そういう。それにしてもそれだけの竜素材どこで手に入れたんですか?」

「偶々竜討伐の依頼があってな、それに参加させてもらった」

「強運ですね」

「お前がな」

 数日後。

 問題の職人が来た。

「坊主が封入するって?」

「はい」

「自分の乳歯で練習したって?」

「そうですね」

「見せてみろ」

「捨てました」

「それじゃあ、この魔石は渡せねぇな。素直に俺に任せろ」

「無理ですね。あまり貴族ムーブすると先生方から嫌がれるんですけど、当初の作業代の二倍の値段で買い取りますよ」

「てめぇ……」

「そもそもそれらの所有権はこちらにあります。持込ですからね。出る所に出て無理やり奪う事だって出来るんですよ?」

「あー、ウィーって人見知りするタイプだったんだ」

「そつなく受け答えするから、分かり難いわよね」

「いや、あれはあれで素だと思うがな」

 後ろが五月蝿いなー。

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