22
そこは白い空間だった。
先生方の戸惑っている気配がする。
「ウィー、ここは何?」
ギャリー先生の質問に答えて上げたいが、それを無視して目の前を注視する。
すると光の粒子が集まり始め、巨大な塊となる。
そしてそれが弾けると中から光輝く竜が現れた。
その竜は全身が白金に煌めき、体から発する光はまるで明けの明星のように輝いていた。
しかしその光は目に痛くなく、むしろ優しさに溢れんばかりである。
「僕の求めに応えて下さり、心より感謝します」
跪いて頭を下げる。
「無礼だと承知の上で申し上げます。この者を助けてはもらえませんでしょうか」
『ふふっ、私を呼び出した理由は分かっています。もう貴方の願いは叶えていますよ』
とっさにサーシャさんを見ると、そこには傷一つなく胸を上下に動かしているサーシャさんの姿があった。
それを見て自然と深く息をはいてしまう。
「どういうこと? 生き返ってる?」
エル先生が信じられないといった震える声で言った。
『流石に私でも、死んだ者は生き返させることは出来ませんよ。主が応急処置をしていたお陰で私の回復が間に合ったのです、死の原因は様々とありますけど、身体の機能が停止した場合は数瞬程度ならば、機能を回復させれば蘇生は可能なんですよ』
「いや、応急処置っていったって限度が……」
『心臓を潰されていても心臓の代わりをする物があれば、脳が止まってもそれば一瞬ならば、生物は死ぬことはありません。主は私が心臓を復元するまでの間、魔法で心臓の代わりをしていたのですよ』
「いや、それは極論っていうか机上の空論っていうか」
呆れたような声でギャリー先生が言う。
と、小さな声でフィーン先生がギャリー先生を何度も呼ぶのが聞こえた。
「え、どうしたのフィーンって跪いてる?!」
チラッと横目で見ると、ラルフ先生とギャリー先生はよく分かっていない様子で、エル先生は何かに気付いたようで茫然自失としていて、フィーン先生だけが僕と同じように跪いていた。
二人は流石にどうだと思うが、エル先生の反応はまあしょうがない。
「すまんが、説明してほしんだが」
暢気にラルフ先生が僕もしくは白金の竜に尋ねると、エル先生が高速で頭を叩いて、土下座した。
『あらあら』
白金竜はなんだが楽しそうだ。
「ん~、これはボクが説明したほうがいいかなー」
ヴィオーラが言った。
「いや、喚んだ僕がするべきだろう。えっと、この御方は前世僕と契約していた使い魔でヴィオーラのいうところの第零位さんです。で、ギャリー先生とラルフ先生はこの御方を見て何か気付いたりしませんか?」
エル先生とフィーン先生はもう誰だか分かっている様子なのでまだ気付いていないお二方に質問した。
「そうは言ってもなぁ、ドラゴンの種類とかあんまし知らないしな?」
「だよねー、でもこれだけ神々しくて綺麗だと何かの伝承とかに伝説に記されてそうだけど、例えば神王の后星竜后様とかみたいに……――」
ギャリー先生がそう言うと二人はぶわぁと汗を噴出した。
『はい、神王の奥さんやってまーす』
ノリのいいお姉さん口調で星竜后様が言った。
二人は刹那で土下座した。
「ウィー君説明お願いできるかな?」
様々な感情を混ぜ込んだ上で全てを押し殺したような口調と声で土下座の姿勢でエル先生が聞いてきた。
「説明も何も前に言った通り、全盛期の出来る限りの全てを込めて召喚をしてみたら、何故か星竜后様が召喚されたんですよねぇ」
あの時は心臓が止まるかと思ったを通り越して本当に止まった、爺には刺激が強すぎだ。星竜后様の御力で死なずにすんだけど。
「でまあ、召喚しただけでも天罰をくらってもおかしくないのに、契約なんて出来るわけないので、そのままお帰りいただこうとしたんですけど、軽いノリで契約を結ばされたんですよ」
「納得したら駄目なんだけど、それは分かったとして、今回は何故召喚したの」
『それは私が教えましょうか』
星竜后様が説明役を取った。
『主は―― あ、今回はウィリアルの使い魔という体で限界しているので、主呼びね』
それは恐らく僕に言ったわけではなく、エル先生に言ったのだろう。
そうフォローでもしてもらわないと、後で僕がエル先生に〆られる。
『それでね、主が最悪の想定として、この娘が死ぬことも視野に入れていたの。その場合になった時、主が知っている中でほぼ完璧に回復させることが出来る存在が私しかいなかった、だからもてる手段全てを用いて私を呼び出したということね』
エル先生は納得したくない様子だったが、星竜后様の逸話やらなんやらを思い出したようで、理解はしたようだった。
『さて、私の可愛い子は納得してくれたようだから次のステップに移りましょうか、と言っても、もうそれも施してありますけど』
「はぁ?!」
想定外のことについ声を出してしまった。
エル先生の視線が突き刺さってくるが、無視して星竜后様を見る。
「それは、僕とヴィオーラでやるつもりだったので、星竜后様のお手をこれ以上煩わせる気はなかったのですが」
『ええ、ちゃんと知っていますよ、蘇生させるだけさせてハイさよねらしようとしていたことは、まああんなことをしようだなんて確かに私が許さないだろうと思うのは分かりますが』
「えっとどういうことでございますか」
何かを感じ取ったらしいギャリー先生が尋ねた。
やばいと思った。計画が全部ばれているのはしょうがないにしても、どこから話すか分かったものではない。どうにか誤魔化さないかと行動にうつそうとした瞬間、星竜后様の視線一つで身動きが取れなくなった。
「第零位さん」
『そう怖い声を出さないのヴィオーラ、これからのことを考えたらこの子達にも知っておいたほうがいいですもの』
「はぁ……、まあ勢いだけで誤魔化せる話じゃないのは確か……か」
そう言って梟は僕の頭の上に座る。
『説明をする前に前提として知っていてもらいたいのは、実は主は一度この子に死んでもらったほうが都合がいいと考えていて、本当に直前まで悩んでいたんですよ』
「ちょっ! そんなことまで話さなくても!」
「ウィー、黙りな」
不味過ぎる、ギャリー先生がマジでキレてる。
父さんも大分酷いことしてるはずなんだけど人生で色々見てきた分何か達観しているだろうが、仲間内がソレをするのは許せないんだろう。
『理由は私の可愛い子なら分かりますね?』
「はい、洗脳魔法が根深すぎて完全な除去は難しかった為です。理由としては長年施されていた為に意識との結びつきが強固となり、場合によっては融合している為と洗脳魔法の維持と保存に魔法を掛けられた者自身の魔力を使っている為です」
『そう、僅かにでも残滓が残っておれば、術者の魔力圏内にはいると魔法は復活するのです。主のように掛けらて僅かな期間で、隔離封印出来ていれば完全消去出来るのですが、この娘の場合は魔法諸共の意識の消失と魔力の完全停止を行わなければ洗脳魔法の完全消去は出来なかったのです。とは言え、完全には無理でもほぼ全て消し去る術はありましたし術者の魔力範囲に入らなければいい話しなので、術者の身分職業を考えれば国を捨てるか少なくともこの街に近寄らなければ問題ないのです』
「でもそれなら部屋から脱出する時に、取り除いておけば良かったんじゃ」
ギャリー先生が疑問を漏らした。
そうすれば遠隔操作をされずに済んだんじゃないかということだ。
「それは、無理」
フィーン先生が否定する。
「なんで?」
「そりゃ貴族の魔力は膨大だからな、親父さんもああ見えて敷地は流石に無理にしても濃度を気にしなけりゃ屋敷を囲むぐらいの魔力圏をつくるのは無理じゃない。当然洗脳が解かれた場合に知らせるようになってるだろうから、部屋で解いたとしてもすぐに元通りにされて、何かしらの命令をされてた筈だ」
ラルフ先生の言う通りに、僕もそう考えて脱出した先で洗脳を解こうと思っていたのだが、まさか遠隔操作できる術があるとは考えても見なかった。
ヴィオーラが簡単に遠隔会話を使っていたりするが、今のところ亜人も含めて人種でそれをする術は持っていないと思っていたのだが家の家系は貴族魔法として保有していたらしい、まあ範囲は敷地内が限界みたいだが。
じゃあしょうがなかったのかな? ギャリー先生が呟くのが聞こえた。
出来れば洗脳魔法を完全に消去したほうがいいの確かだし結局はやらなかったのだしとギャリー先生は怒りを静めてくれたようだ。
ふぅ、と溜息をつくと星竜后様の視線を感じて上目遣いにみると今から悪戯でもしようかという風な笑顔になっていた。
『そしてこれからが本題です。洗脳が解けて開放されたとしても本当に自由になれるのかと主は考えたんですね』
「え、普通ならそう考えるのも分かるけど、サーちゃんは死んだと見なされてるから、大丈夫なんじゃ」
『ええ、私もそう思うわ、でも主は違った生きていけばその痕跡は必ず残るもの、それに簡単に他国に行けばと言っても暮らしていくのは容易なことじゃないでしょう』
よその国に行って住めばその国の国民になれるわけではない、言語が違うのなんて当たり前だし、そもそも住む場所の住人が受け入れてくれることすら簡単に出来ることではないからだ。
そもそも他国に渡るには身分証明が必要になってくる、当然死んだということになったサーシャさんに身分証明は無い、もし作ろうとすれば何かの拍子に巡り巡って父さんの知る所になるかもしれない危険性がある。
だがサーシャさんは幸いなことに冒険者という資格を持っている。
冒険者は他国に行くためのハードルがほぼ無かった。
何故ならダンジョンと言う存在があるからだ。
ダンジョンには何故か宝が眠っているのでリターンは高かったが、それ相応のリスクも高かった。それゆえに訓練を受けた者しか生きて出てくることは出来ない、しかし国で訓練した者をいかせるには国防と言う観点からと育成にかかるコストが割に合わないかった。
そこに白羽の矢が立ったのが冒険者だ。ダンジョンを冒険者しか入れないようにして一攫千金、名誉が手に入る夢がある職業とすることで、コストを少なくダンジョンにあるものを獲得するそういうシステムを作り上げた。そしてダンジョンを攻略できるのは僅かな者達だけである、そういう人間を一箇所に留めて置くのはもったいないので自由に動き回れるようにと各国で自由行き来出来るようになっているのだ。
とにかく生きていれば大なり小なり痕跡が出てくる、それがほんの僅かでも見つかればどうなるか分かったもんじゃない。
『それで主がいたった考えは、使い魔にしようということでした』
「使い魔?」
『ええ、使い魔には幾つか種類があるのは知っていますか?』
ギャリー先生とラルフ先生は首を横に振って、フィーン先生とエル先生は縦に振った。
『ヴィオーラのように別の場所から呼ぶこともあれば、魔力を持つ動物や高位の存在と契約を結ぶ、そして精霊に依り代を与えて使役するなど方法があります。主は精霊の依り代に見せかけた使い魔にすることにしたのですよ。ちなみに私の加護を擬似精霊として宿すことで、使い魔という状態にしました』
「それではサーシャさんは聖女に……」
エル先生は聞き捨てならないといった様子で呟いた。
『心配しないでもこのようなことで、聖女を決めるようなことはしません。人間からしても聖女と認められることがないようにしています。変な気を起こさないように』
「分かりました」
「それにしても、なんでそんな面倒なことを?」
『理由は簡単です、目の前で死体を使った使い魔を作るのを目撃させる。それならばどこかで活動している所を見ても不自然ではないでしょう?』
「た、確かに?」
ギャリー先生はその発想に引き気味になる。
『その作業を私がしてあげたと言うことです』
「なるほど」
『ですが、一つ問題があったのです』
「え、何も問題はありそうにないけど」
『ええ本来な問題はありませんが、主はこの娘に死んだ娘の死体を使って生み出された使い魔という暗示を掛けることにしたんです。ちなみにそれも私で掛けてあります』
「どういうこと、ウィー?!」
「はあ、主導権握られたから言うんだろうなと思ってましたけど、やっぱり言いましたか」
「ウィー!」
「そのほうがボロが出ないと思ったからですよ」
敵を騙すには味方から、この場合は自分自身からか。
実の所使い間にすることになった場合は先生方に使い魔にしたという結果しか見せる気はなかった。その方が信憑性がますからだと思ったからだ。
それなのにタイミング来られたので知られることになってしまった。
まあ、この程度なら誤差の範囲だろう。
『という訳だから、あとは貴方達で話し合うことです。私は役目を終えてるので帰りますね。これ以上使い魔としてこちらにいたら旦那様が嫉妬しますからね』
そう言う星竜后様に僕達は頭をさげる。
『ちなみに始めに言っておくべきでしたが、この空間は外の世界とは時間の速さが違います。外ではまだ数秒しか経っていないでしょう。最後に主よ、このような召喚はこれっきりです、まあ絶対とは言いませんがまた出来るとは安易に思わないように、もしもう一度契約したいならばかつてのようにすれば、私はまた応えましょう。
それでは貴方達に祝福を』
星竜后様は光となって消えて行った。
この空間とそとの世界の速さのラグが修正される僅かな時間に、懐に入れてあった紙を広げる。
紙を広げると横になった人が一人納まる大きさの魔法陣が描かれていた。
その魔法陣を魔力でなぞる。
[描け]
詠唱すると魔法陣はサーシャさんを透き通り、地面に溝を作って同じ魔法陣を描かれる。
この魔法陣は使い魔を作る為の魔法陣だ。
使い魔製作の詠唱を行いつつ、おそらくどこからか監視しているであろう父さんの部下が見えやすいように、光り輝かせる。
最後に一際大きく輝かせて使い魔製作の魔法を見せ掛けで完成させる。
光が収まると、サーシャさんは目を覚まして上体を起こした。
「わ……た、しは……?」
「おはようございます。目覚めたばかりで申し訳ないのですが、覚えていることを教えてください」
「ウィ……リアル様? 私は確か旦那様に操られて、そして死を願った……はず」
「とりあえず、直前の記憶はあるようですね。その記憶は貴女のものではありません、貴女はサーシャという人間の死体を使って作られた使い魔です」
「つかいま……、ああはい私は貴方の使い魔です」
星竜后様の暗示が効いて来たようだ。
「とはいえその死体の記憶があるのは僥倖でしたね、一般常識を教える手間が省けます」
「はい」
「では、名前を授けましょう、その死体の名前をもらいサーシャと名乗りなさい」
「いいのでしょうか?」
「不満でも?」
「いいえ、その名前をありがたく頂戴します」
「完全なる契約はなされました」
「私の身が滅するまで、貴方様に使えさせていただきます」
跪いて頭をたれた。
「とりあえず、当分はヴィオーラの指示に従うように」
頭上に載っていた梟がサーシャさんの頭に乗り移る。
「ボクが先輩だからね、ビシバシいくよー」
「よろしくおねがいします」
うん、こちらは問題なさそうだな。
「さてと、正直横槍入れてくると思ってたんですが」
「一つ聞くが、今の状態は俺達が間に合っていたらなかったんだな?」
「たらればを言ってもしょうがないですが、まあそうですね。とは言っても僕も甘く見ていた部分があるので、もっと僕がきちんとしていれば先生方が間に合わなくてもこうならなかったかもしれません」
「なら俺からは言うことは無い」
ラルフ先生が他の三人に視線を向けると、三人とも顔を逸らした。
「そういうことなので、やることは全てやりました。もう仕掛けてくることは無いと思いますが、さっさとここから逃げましょう」
そうして僕達はこの場所から去った。




