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転生した元大賢者が、家を出るまでのお話  作者: ぐまうす


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 僕の誕生日前日、つまりサーシャさんを屋敷から連れ出す決行日だ。

「迎えに行く時間はちゃんと伝えた?」

「そんなに何回も確認しなくても、ちゃんと伝えていますよ」

「それで、最後の確認だがヴィオーラが屋敷全体を眠らせる。それから、サーシャの部屋の前で落ち合って、万が一を考えて二手に分かれて、俺達は囮役ってことだったな」

「はい。ヴィオーラの魔法で眠らない人間はいないとは思いますが、寝た後に目覚めさせる魔封具を使われている等の対抗策が無いとは限らないので、ヴィオーラが僕とサーシャさんの幻影を作ります。なので先生方はそれを護衛してください」

「本当に万能だなそいつ」

「ふふふ、褒め称えよー」

「はいはい、凄いスゴイ。屋敷の外までの逃走は、サーシャの魔封具は取られていないから、それを使って街に一直線に出る。その後は私達が用意した場所に集合する以外は決まったルートは無しね」

「魔封具のお陰で移動できる場所に制限がありませんからね」

「完璧だね」

「そうですね」

「心配?」

「多少、ま、後は出たとこ勝負ということで」

 最後の確認をして僕達は解散した。

 日付が変わる二時間前、敷地全体にヴィオーラの睡眠魔法が掛けられた。

「さて、行きましょうか」

 部屋の中はもぬけの殻にしてある。

 もう帰ることは無いからだ。

 思うことが無いわけではないが、振り返ることなく僕は部屋を出た。

 ヴィオーラが眠らせてくれてるお陰で、廊下を走り抜ける。

 二分ほどでサーシャさんの部屋に着いた。

 ノックをすると、ドアが開く。

「お待ちしておりました」

「もうすぐ先生達が来るはずです」

 言うと同時に先生方が来た。

「待たせたか?」

「いえ」

「僕達は窓から出ますので、先生方は廊下から外に出てください。ヴィオーラ、先生方と一緒に行って幻を頼む」

「手筈通りにねー、分かってるって」

「これだけ強力な魔法なら大丈夫そうだけど」

「あの親父さんが眠らせるなんて古典的な方法に対策を講じてないわけないだろ」

「それもそうだね」

「じゃあ俺達は先に行くから例の場所で待ち合わせだ」

「分かりました、また後で。もし何かあればヴィオーラ経由で連絡します」

「おう」

 先生方は部屋から出て行った。

「サーシャさん、忘れ物は無い?」

 サーシャさんの荷物も必要最低限だが事前に持ち出してはいるが、一応確認を取る。

「いえ、ありません」

「じゃあ、ついて来て」

 三男兄さん宛ての手紙とお金を置いて窓を開けると跳び出し、靴の魔封具で空中に足場を作って屋根に向かう。

 サーシャさんが確実について来ているか確認しながら、先に進む。

「サーシャさん、玄関前の道を真っ直ぐに跳んで行きます」

「大丈夫なんでしょうか?」

「庭には色々と防犯の魔封具が設置されているので、逆に危ないんです。フィーン先生が調べた限りでは玄関前の道には何も無かったそうです」

「そうなんですね」

「じゃ行きますよ」

 玄関から門までの間に銅像が立っている。

 僕なら一歩でそこまで行けるが、サーシャさんは数歩は必要だろうから先に行かせて、すぐ後を追いかけるように空中を跳んでいく。

 普段ならしない、気配と魔力を探りながらサーシャさんの後ろをついていってると、サーシャさんが、銅像を過ぎた辺りで地面に着地した。

「どうしました?」

 別に地面に着地をしてはいけないとは言っていないが、そのまま止まるのは不味い。

「サーシャさ――」

『異常を払いたまえ』

 サーシャさんがそう呟くと、防犯の魔封具が反応してヴィオーラが掛けた睡眠魔法が解ける。

「……予想ではもう少し先だったのですが」

「それだと強引に範囲外に出されてしまうだろう?」

 サーシャさんの口からいつもと同じ声だが全然違う口調でそう言われた。

「仮想人格ですか、父さん」

「驚きは無い様だな」

「まあ、僕の頭の中にも黒魔法は入っていましたからね、どういう黒魔術があるかは調べていましたから」

「なるほどな、お前を生かしておいた唯一の理由がそれだな」

「黒魔術に対処していたことですか」

「そうだ。お前だけだよ黒魔法を掛けられていると気付いたのは、一番教育に力を注いだ長男であるアレクでさえいまだに気付かん、わたしがあの年齢には気付いたというのに、これでは本当に先が思いやられる」

「それは大変ですね」

 屋敷の方から騒がしい音が鳴り響き始めた。

「とにかく、サーシャさんの黒魔法を消してください」

「ああ、デッィクに渡す時にそうするつもりだ、今ではない」

 力ずくで敷地外に出すしかないようだ。

「なら、とりあえず今はその体を眠らせます」

「ほう?」

 サーシャさんの体から魔力が発せられた。

 僕の中の黒魔術を発動させようとしてるのかもしれないが。

「無いだと?」

「ええ、長年封印するしかありませんでしたが、最近やっと消す為に必要な物を手に入れたので」

「それは是非とも教えてもらわないといかんな」

 サーシャさんの魔力が高まっていく。

 さて一番良いのは先生方が来てくれるだけど、すぐには無理そうかな。

 ヴィオーラにこちらの状況を伝えておく。

 一応指示もする。

 こちらに人が来ないように引き付けつつ行動不動にして、早くこちらに助けに来てっと。

 情けない限りだが、正面からの戦闘には向いていないのだから、しょうがない。

 なので先手必勝、不意打ち。

 仮想人格だから話すことは出来ても、戦闘などの咄嗟の判断が必要になってくる場面では反応が出来ないはずだ、身体を動かせるにしてもタイムラグが発生してワンテンポ遅くなる。

 事前に設置していた、見えないように小さくした状態で出していた無属性魔力の塊をサーシャさんの頭の上で巨大化させる。

 押し潰して動きを封じる。

 形も変えることが出来るから拘束もバッチリ出来る。

 あとは、魔法を撃たれようと逃げ回ってれば、先生方が来るはずだ。

 そんな思惑と別にサーシャさんは難なく避ける。

 靴の魔封具で跳ばれた?

 おかしいことではないのだが、何か違和感がある。

 サーシャさんは双剣を抜いて、剣先から氷の刃を伸ばして迫ってくる。

 幾つか杭を生み出して、足元を狙って発射させる。

 素早く横に跳んだ所を足元に向かって杭を飛ばしたが、また避けられる。

 そして、サーシャさんはジクザクに移動しながら瞬く間に僕を間合いに入れた。

「……っ」

 剣を振るわれる瞬間、僕は小さい魔力塊に魔力を注いで巨大化させてサーシャさんを覆としたが、一瞬で後ろに跳ばれて避けられた。

 判断が早すぎる。

 幼い頃から黒魔法を掛けられているから同調率が高いとしても、ここまで戦闘が出来るほどの仮想人格を植えつけるけるのはおかしい。

「ふむ、まあまあだな」

 それは僕ことだろうか、それともサーシャさんの身体能力のことだろうか。

「魔封具は六つだったか、一つだけ扱いが難しいそうだが使う場面はなかろう」

 まあ、知っているか。

 サーシャさんの魔封具で一番厄介なのは接触した場所に氷を付着させる魔封具だ。

 防ぐことは難しいことではないが、使い勝手が良すぎて押し切られる可能性がある。

 強力なので制御しやすい様に剣の刃としているが、吹雪のように飛ばされたら一瞬で氷で覆われてしまう。

 さらに重複するとその回数分だけ氷の硬度が上がり温度が下がる。

 もっと言うとサーシャさんの双剣はミスリルで作られている。

 なので羽のように軽くて、踏み込みなど不要でめちゃくに振るうことが出来る。

 救いなのがサーシャさんには基本的には戦闘のセンスが無かったことだ。

 もしさっき氷の刃を伸ばされていれば、身体に剣の軌道上で氷が張り付いて拘束されていた。

 そういう咄嗟の判断が出来ないらしい、剣で斬るのも有効な角度や適切な力の入れ方をするのが苦手らしい、なので剣は魔法の制御とトドメが主な使用目的となっている。

 稽古などでは優秀だが試合や実戦になると弱いといったタイプだ、かろうじて模擬戦ならいい成績を出せるらしい。

 仮想人格が身体を動かしているにしても、サーシャさんの人格に指示を出して間接的にだ。

 サーシャさんのセンスが変わったわけでもなく、手の内も知っているから、多少僕のほうが優位なはずだ。

 三年間も訓練を積んできたんだ、流石に僕のほうが体力はある。

 時間稼ぎぐらいなら出来るだろう。

「一つ忠告をしてやろう、甘く考えているとすぐ終わるぞ」

 父さんがそういうと、鏡氷を出現させる。

 ワーウルフ戦の時のことを思い出す。

 視界や行動を妨害されると厄介だが、そのくらい対応できないわけじゃない。

 とにかく、一箇所に留まらないように動き捲くる。

 フェイントを入れつつ動くなど苦手ではあるが、今のサーシャさんになら効果はあるはず。

 僕を囮として、サーシャさんの死角の背後から魔力塊で拘束する。

 大きさ自体は魔力圏を広げていれば自由に変えることが出来るので、後は見つからないように、目の前で派手な攻撃をすれば、行動不能にすることが出来る。

「ふん、こんなものか」

 サーシャさんが円を描くように剣を振るう。

 氷の刃は伸ばされて背後に飛ばしていた魔力塊は切裂かれて霧散して、そのまま僕に向かって振り下ろされようとしていた。

 不味い。

 反射で横に跳んだが横払いで刃が来る。

 ジャンプして避けると同時に、とにかく速さと本数を求めて小さな杭を生み出した瞬間から撃ち出す。

 魔力圏にあるうちに拡大させることで、サーシャさんに届くまでには腕ほどの太さに鳴っている。

 それはサーシャさんは鏡氷で防ぐと、砕けた。

 来る。

 鏡氷は防御や妨害に使う魔封具だが、真骨頂はその後にある。

 砕かれると、その破片が小さい刃となる。砂程の大きさになっても有効で、もし吸い込もうならば肺がズタズタに切裂かれる。

 氷の魔封具もそうだが、毒のような性質が質が悪い。

 ちなみに両方とも考え付いたのは女性陣だそうだ。

 サーシャさんの反撃を迎え撃つ為に、新たに作っていた魔封具の一つを使う。

 火の魔封具で機能としては、魔力次第で威力が上がるとういうスタンダードな物だ。

 ただし少しだけ工夫を施してある。

 連続使用するとその回数の同じだけ数だけの倍数の温度になるといったものだ。

 溶かすだけなら出来た水は回収されるので、一瞬で蒸発させる。

「さすがに対策はうってあるか。まあそれぐらいはしてもらわないと面白くはないしな」

 父さんは冷静に言う。

「出来の悪い息子が頑張ったんだ、少しは可愛がってやろう」

 ドッと大きな音をさせて跳んで来たサーシャさんを幾本もの杭で迎え撃つ。

 鏡氷で全て落とされたて、鏡氷の破片だけ残ったが、生み出した火は維持しているので全て蒸発していく。

 欠片を魔力で維持することも出来るだろうが、僕の方が魔力が上なので意味をなさないのが分かっているから、無駄な魔力を使う気はないらしい。

「お前のことは惜しいとは思っているよ」

「どうしたんです、突然」

 本来なら有利を取れるはずの接近戦をせず、逃げ回りながら杭を撃ち続ける。

「その魔力量と制御能力など、魔法資質ゼロでなければお前を当主に選んでいたくらいだ」

「初めて本気で褒めてくれましたね、心の底から嬉しいですよ」

 移動しながら撒いていた極小の杭に魔力を注いで全方位から狙い撃った。

 サーシャさんが靴の魔封具で高速で僕に向かってくる。

 そして、進むのに邪魔な杭だけを狙って、魔力を集中させた双剣で斬り捨てる。

 ならばと、剣で斬れない程の太く長い杭を撃ち出す。

 避けたところを複数の杭で迎え撃とうとした時、横から連続で攻撃が来て吹き飛ばされる。

 感触としては板の様な物が連続で当たった感じだった。

 火の魔封具のお陰で脆くなっていたみたいで、骨が折れるということにはなっていなかったが、激痛で腕が上がらない。

 不味い、動かないと。

 サーシャさんの位置など考えず靴の魔封具でその場から離れると、直後にドスドスドスと地面を叩く音がした。

 音の正体を見ると、幾枚かの鏡氷が地面に立っていた。

「まさか」

 サーシャさんを見ると、鏡氷が無数に展開されていた。

 連続でこられると、かなり不味い。

 力の加減が難しいから使いたくなかったが更に新しい魔封具を使うことにする。

 魔封具に魔力を込めようとした時、上から気配を感じて全力で地面を蹴って横に逃げると、巨大な鏡氷が叩き込まれた。

「さすがにこれだけ大きいと気配が分かるか」

 魔封具の火の熱に晒されているはずだが、大きくて瞬時に溶かしきれない。

 さすがに、仮想人格でここまでの攻撃バリエーションを考え出すことが出来るわけもなく、そうなると思い至ることがある。

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