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 おおー、侯爵の子息に向かって舌打ちとか、流石(?) 冒険者勇気あるなー。

 ま、どうでもいいけど。

「さてと、歩きながらの話になりますが、ぶっちゃけた話来なくていいですよ」

「は?」

「たまに報告だけしてくれればいいですから。戦いの才能もありませんーって感じで」

「どういうことだ?」

「出るだけ魔法の研究をしたいんですよね、ここを出たらここ以上の環境を整えられないでしょうから、一秒でも惜しいんですよ」

「魔法資質がゼロの癖にか?」

 声に少し怒気が含まれている。

 あー、仕事にプライド持ってるタイプか、まあ父さんのお眼鏡に叶っただけはあるのか。

「おそらく勘違いしているのだと思いますが魔法資質がゼロといっても、魔法が使えないわけじゃないんですよ」

「ん? どういうことだ?」

「たまにいるんですよね。魔法資質が分かってない人が」

「魔法が使えるかということだろ?」

「違うわよ」

 女性人間冒険者が否定する。

 他二人も頷く。

「生まれ育った環境のせいで使えない人なんて幾らでもいます。そういう人の中に資質ゼロといわれる人はいますか」

 男性冒険者を考える素振りを見せて、頭を横に振った。

「基本的に魔法は訓練すれば使える物ですからね、使えない人がいるのは周りに教えてくれる人がおらず独学では習得が困難というだけの話です。なので魔法が使えないイコール素質ゼロとはなりません。なら魔法素質とは何かと言うと、無詠唱魔法の素質のことを指します。つまり僕は無詠唱魔法が使えません」

 そう僕は無詠唱魔法を使えない。

 それは、前世で大賢者の称号を剥奪された理由でもある。

(生まれ変わってもって、やっぱり因果かなぁ)

 それにしても何故無詠唱魔法を使えないというだけで魔法の資質がゼロなのか。

 三百年前に五人の大賢者が誰にでも簡単に使える無詠唱魔法を編み出した、それは本当に誰にでも使えた。

 それによって起こったのが、効率化高速化だ。戦闘は当然のことながら、特に顕著だったのだ日常生活だった。

 詠唱という手間がなくなれば魔法ほど便利な道具は無い、便利な物は世間に広まっていくのが世の常だ。貴族から平民場合によっては奴隷ですら無詠唱魔法を使う、無詠唱魔法は生活基盤となった。

 そうなってくると無詠唱魔法の強さによって待遇差が出てくるのも必然で、それを明確に表すためにしたのが魔法素質というものだ。

 幾つかの項目があって、僕は大半がトップクラスの数値が出たのだが、たった一項目がそれら全てを無かったものにするぐらい悪かった。

「たしか、属性の安定性だったかな。ゼロどころかマイナスなほど悪かったそうで、どんなに頑張っても無詠唱魔法は使えないということでした。無詠唱魔法が当たり前の世の中で、使えない僕なんてやれることなんて数える程しかないでしょうね」

「なら尚更意味も無い魔法の研究をするよりも魔法以外のことを覚えなきゃならんだろ。冒険者なんて何でも屋だからな、いろんなことが出来ないといけないから、冒険者の技術は多岐にわたって冒険者にならないでもつぶしが利く、覚え損は無いだろ?」

 先程父さんに似たようなことを言ったが、正直なところ冒険者として生きていくのも難しいと考えている。

「それは否定はしませんけどね。でも、火をつけるという行為に一秒掛かる人間と数分掛かる人間がいるとして、どちらを雇いたいかというと前者でしょ。誰にも負けない技術があろうとも僕が選ばれることは殆んど無いんですよ、僕が働けるとしたら数えられる程しかないでしょうね、それも低賃金の。僕の未来が真っ暗だと分かっているんなら、悔いの残らないように今のうちに好き勝手やるだけです。なので、邪魔しないでください」

 納得いったのか話しかけてこなくなった。

「さ、ここが僕の部屋です」

 四人を招き入れる。

「あ、椅子が僕の分しかないんだった。別館に移るときに揃えないとな」

「来なくていいって言うのに、揃えるのかよ」

 タメ口になってきたなぁ。

「教える人の分が無いとどう考えても不自然ですからね。来なくていいとは言いましたが、暇なら来てもらって結構ですよ、研究の傍らお茶の相手ぐらいはしますよ」

「……」

「サーシャさんにお茶の用意を頼むんだった、しくったなぁ。まあお茶はまた今度ということで、とりあえず、今日は最後に一番大事なことをしましょうか」

「一番大切なこと? どうでもいいがお前は座らないのか?」

「僕は教わる側ですよ、初対面でもあるし師事する方が座っているのは違うでしょう。で、一番大切なこと、つまり自己紹介です。まだ皆さんに名乗ってないですよね、僕。そして名乗られてもいない。僕の名前はウィリアル=ポートレット、よろしくお願いします、皆さん」

 僕は深々と頭を下げた。

「お、おう。……俺はラルフ」

 男性冒険者が名乗った。

「私はエルよ」

 女性冒険者はそう頭を下げる。

「あたいはギャリー」

 ドワーフ冒険者が胸をそらせて言った。

「フィーン」

 エルフ冒険者が気が乗らなさそうに名乗る。

「ラルフ先生にエル先生、ギャリー先生とフィーン先生ですね、覚えました。じゃあ、明日からお願いします」

 丁度サーシャさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、とりあえずそれで乾杯をして、その日は終わった。

 翌日。

「ほら、きりきり走った、走ったー」

 何故かギャリー先生が朝からやってきた。

 おかしい、あんな態度をとれば来ないと思ったのに、何故来てるんだろう。

「先生、ただの人間に走らせる距離じゃないと思います」

「涼しい感じで言って説得力無いんだけどー」

 それは体内の魔力の運用にコツがあってと説明してもしょうがないので黙る。

「まあ、実際は体力の限界を知りたかったんだけど、ウィーどうなってんのかなソレ。あたい先生だけど、その魔力運用の仕方教えて欲しいわ」

 気付かれていただと……。

「おっと、ちょっとあたいの実力見くびっていたね。これでも私達四ツ(クヴァル) ランクの冒険者だかんね」

「一般的に依頼できるランクの最上位じゃないですか。なんでこんな依頼を!」

「いやー、ぶっちゃけると暇なんだよねー」

「四ツ星なのに?」

「ほら平和じゃん。一つ上のランクの五ツ(クヴィン) 目指そうにも、認定してもらえるほどの依頼ってないんだよね。そんでもって、高ランクになると自分のランクの依頼しか受けちゃ駄目なんだ、これが」

「あー、そりゃ暇ですね」

「じゃなきゃこんな依頼、耳すら貸さなかったよ」

「はあ、そんな事情があったんですね。それでも良く来ましたね。ああいう態度の貴族嫌いでしょう、やっぱり一度請けた仕事はきっちりやらないと嫌なタイプだったんですか?」

「いや、昨日のウィーの態度はいただけなかった、完全に嫌いな奴だったよ。ただ楽に稼げるなら楽にしたいのが冒険者さ、面白ければ依頼料が安くてどれだけの苦難だろうと命賭けでもいとわないけどね。だからウィーの案に乗ってもよかったんだけどさ」

「じゃあ何故?」

「破棄を含めた上で、どうしようかと皆で考えてね。ふと、嫌な奴なんだから嫌なことをしてやろうっていう案が出てね、満場一致で可決したよ」

「ま、まさか……!」

「一秒も惜しいんだって?」

「ぎゃー!」

「いい響きだねぇ。当分午前は体を作るのがメインだけど、その魔力運用なら、多少きつくても大丈夫だね。午後はエルとフィーンによる座学で、今日はフィーンだったかな」

 がっくしと膝を付く。

「まあ、週二回は休みにするから」

 慰めになっていない……、僕は崩れ落ちた。




 二年後。

「いやー、流石二年程度でもみっちり鍛えると、立派な体になるな」

 ラルフ先生が嬉しそうに言った。

 褒め言葉なんだろうが、僕としては嬉しくなかったので愛想笑いで受け流す。

 あれから二年、最初の一年はとにかく体作りだとストレッチと走りこみと筋トレとヨガとかいう東のほうの国に伝わる体操をさせられた。

 二年目からラルフ先生から剣をギャリー先生から槍など長物をフィーン先生から弓を教わった。

 座学はエル先生は一般教養をフィーン先生からはサバイバル術を教わる。

 まあ、座学は面白かった、なんだかんだで前世は魔法一辺倒だったので、そういう知識は無かったから、知らないことを知ることは楽しかった。

 魔法の研究は大図書館と中央博物館中心に行った。

 屋敷にある知識よりも、断然貴重な本や品があるからだ。

 そして、訓練と研究だが一年で力を入れる比重を変えて、訓練に力を注ぐことにした。

 理由としてはいたって簡単で、魔法の発展は思ったほどではなかったからだ。

 あの頃より確実に大幅に発展している確信を持てたのは、魔法を使った道具ぐらいだった。

 魔封具。

 文字通り、魔法を封印して作られる道具。

 魔石と呼ばれる結晶に魔法を込めて特殊な模様の透かし彫りした銀細工で出来た入れ物に入れると完成する。

 仕組みとしては、魔法を保持する魔法陣で魔法を込めやすい結晶を包むという単純な物だ。

 前世では開発に一時期参加していた。

 あの頃は綿密に描かれた大規模な魔法陣で魔法の保持や、銀ではなくミスリルを使ったりとコストパフォーマンスが最悪だったが、数百年経つと手のひらサイズにまでなって、一般家庭にまで浸透してると知って、かなり感動した。

 それに比べて魔法と来たら……。

 といっても研究自体は楽しいので、気にしないことにしている。

「で、だ。実を言うと問題が発生した」

 満足そうに頷いていたラルフ先生が唐突にそんなことを言った。

「どうしたんですか?」

「ぶっちゃけ、教えることが無い」

「……まだ二年しか経ってないのですけど、あと一年どうするんですか?」

「いやだってお前の学習能力高くてどんどん吸収しちゃうんだもん」

 だもんじゃない。

「やれる事といったら、今までの特訓の繰り返しか、ひたすら模擬戦だな。屋敷から出ることが出来たらまだ違ったやり方も出来るんだが、それにこう言っちゃなんだが、魔法を教えれたらいいんだがな」

 そういうことか。

「そういうことなら、今欲しい魔封具があるんですよね。買ってきてください」

「仮にも先生をナチュラルにパシリに使おうとするなよ……」

「他の人にはしませんよ」

 ははは、と二人して乾いた笑いをする。

「まあいい、で、どんな魔封具だ?」

「えっとこういうのなんですけど――」

 数分後説明を終える。

「無いんじゃないか?」

「無いなら無いで、必要経費ありましたよね、ほぼ使ってないはずなんで、その金で作ってきてくださいよ。四ツ星なら腕のいい鍛冶屋と魔封屋知ってますよね。あ、魔石に魔法を封じるのは自分でするので、魔封屋には上質な石を買うのと銀装だけ買いに行ってください」

「自分でって、あれ結構難しいらしいぞ」

「やり方は知ってますし、実際何回かしたことあるんで、大丈夫ですよ」

「したことあるって、魔石なんて持ってたのか?」

「いえ、自分の乳歯で」

「そ、そうか」

 魔石は大量の魔力で変異した物の総称だ。

 なので魔石といっても宝石から貴金属や鉱石まで様々で液体のものまであったりで、動物のの体内にもある。

 ちなみにモンスターと呼ばれる動物がいるが定義は野生で人間に有害な動物に使われる。

 動物は魔力を身体に作用するようにつかっているが、たまに魔法を使えるのも出てきたりする。

 なので動物から取れる魔石は大半が爪そして骨が変化してものだ。

 一応肉体も魔石化しているのだが、本当に石化している訳ではないので、あくまで肉なので大半は食用にするしかなかったりする。一応、食用以外にも活用法はあるにはあるのだが。

 当然、人間の身体も魔石化する。

 魔石化の進行度をレベルという概念にして、それを強さの目安の一つとしている。

 そういう理由で、魔力を封じる練習には自分の乳歯はぴったしであった。

「まあいい、魔石はやっぱり宝石がいいのか?」

「何でもいいですよ、実際。魔石化してるならそこら辺の石でもいいですし、しいていうなら硬いのがいいですかね」

「そうか、魔石と銀装の形は俺が決めていいか?」

「そうですね、お任せします」

「魔封具をつける道具はガンドレッド型でいいんだな?」

「出来るだけ薄いのをガンドレッドの上にガンドレッドを付けれるのがベストです」

「むちゃな要求するな、お前は。とりあえず分かった、そのかわりかなり金が掛かるからな」

「そこらへんは父さんと相談してください、どんなに渋られてもそこそこの物にはなるでしょうし」

「お前の親父さん苦手なんだよなー」

「父さんを苦手じゃない人なんて母さんか愛人さんぐらいなものですよ」

「お前はすぐそういう……。はあ、いいや、午後は休みにしよう」

「いいのですか?」

「ああ、というか数日は特訓も座学も無しだ。その間は日課をちゃんとやっておけよ、サボったらすぐ分かるからな」

「まあ、それくらいなら分かりました。何か依頼が入ってたんですか?」

「ああ、今な」

 おつかいを依頼に変えた。

「まあ、いいですけで、そういうのも含めて父さんと相談してください」

「ああ、今日はちょっと早いがこれで切り上げるか」

「わかりました」

 予定外の暇が出来たので何をしようと考えていると、ラルフ先生が僕をじっと見てきた。

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