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「次はなんだ?」
「冒険者のラルフのパーティだな?」
「そうだが、なんだ」
「戦乙女様が会いたがっているので来てもらおう」
「こっちには用はないし、役立たずに会っても戦乙女様の貴重な時間が無駄になるだけだ。帰ってくれ」
「それは困る。絶対に連れてくるように言われているんだ、頼むよ」
「ったく、愚痴と小言を聞かされるんだろ? こっちは楽しく旅をしてるんだ。今回は俺達は関わってないんだから、ほっといてくれよマジで」
「そこをなんとか」
四ツ星なのに邪竜討伐に参加しなかった負い目なのか、あまり強気になれないようでラルフ先生は他の先生方の反応を見ると、諦めたように溜息をついた。
「すまないが、付き合ってもらってもいいか」
最後に僕に確認した。
「まあ、ほとんど僕のせいですしね、この程度付き合いますよ」
「すまんな。依頼主の了承も得られたんで、会いに行こう」
「すまないな」
「暗い中で野宿の準備するの大変なんだぞ」
「それくらいはちゃんとこっちで用意してるから」
野宿の準備を片づけて、兵士について行く。
完全に暗くなった頃に野営地についた。
「荷物を置かせてもらえるとありがたいんだが」
「すまない、このまま会いに行ってくれ」
「マジかよ、つうかこんな汚い状態でいいのかよ。切羽詰った状況でもないんだから、綺麗にして明日会うでもよくないか?」
「大事な用だからすぐにって言うお達しでな」
「ちっ、どこに行けばいい」
「こっちだ来てくれ」
兵士の案内で一際大きいテントに案内された。
「ラルフパーティをお連れしました」
「ありがとう、入ってもらってください」
中に入ると、少女を中心として十人程度の人がいた。
身分が高い人たちばかりなので、平民としてひざをつく。
僕達のなりを見てクスクスと笑い声が聞こえる。
そういうことか、趣味が悪いなぁ。
「貴族様方、私達になんの御用でしょうか」
頭を下げたままでラルフ先生が尋ねた。
「そんな他人行儀がことは止めてください。同じ志を持つ者でしょう」
そう少女が言うが、ラルフ先生達は無視して、そのままの状態でいる。
仲悪いなぁ。
「自分達の立場を分かってていいと思いますよ」
どれか分からないが、少年の声が聞こえた。
中心にいる少女よりも、周りにいる連中に対してこの姿勢をとっているのか。
「顔を上げてください」
少女は溜息をしつつ、しょうがないといった感じで言う。
「お久しぶりですねラルフ様と皆様」
「はっ」
先生方が同時に頭を下げたので、僕も同じように頭を下げる。
「えっとそちらの方は」
「依頼主です」
「ああ、例の」
動向をしっかりと把握されているなラルフ先生方は。
「部外者ですか、ですが今回は許しましょう」
いや、部外者ダメなら最初に言って欲しい。
こんな場所の席なんか喜んで外したのに、というか普通この時点でも部外者いるなら出て行ってもらうだろう。
なんかずれてそうな人だな。
「それで、来てもらったのは他でもありません、何故今回の邪竜討伐に参加しなかったのですか、第五の勇者ラルフ様」
最低でも勇者五人もいるのかぁ、第五ってことはラルフ先生が一番弱いってことか、今のところ。
「必要を感じなかったからです、戦乙女様」
あーやっぱりこの人がそうなのか。
「必要を感じなかったとは?」
「逆に聞きますが、過去二回ほど邪竜討伐に加わりましたが、俺達がいて何か役に立ったことはありましたか?」
「なかったなぁ」
取り巻きの一人がそう言った。
「はい、ですので先に依頼が入っていたのもあって、討伐に参加しませんでした」
「しかし、それでも普通は討伐に参加するのが勇者の一人としての役目では?」
「はぁ……、そもそも緊急招集以外では、勇者に判断を任せるということになってます。緊急召集で参加を蹴ったならまだしも、緊急招集をかけるまでもないと貴女が判断したようなことに、わざわざ勇者が参加する義務はないでしょう。ここに俺以外一人もいないのがいい証拠ではないですかね?」
「それは……」
「まあ、次に機会があるときは、必ず参加するようにしますよ。ようは、勇者にいて欲しいってことですよね」
「ちが」
「そうなんですか? 代表勇者である王子との契約を棚に上げて、参加しなかったのが悪いっていうことは、いて欲しいってことだと解釈されても仕方がないのでは?」
緊急招集以外では、っていうのは勇者王子との契約だったのか。
痛いところをつかれたのか、渋い顔になっている。
「そもそも、邪竜討伐に勇者は必要ないって言ったのは」
「……私です」
「ですよね。あの時もう邪竜討伐に勇者の手を煩わせる時代じゃないといった貴女を、心から尊敬しましたよ。それに二回の邪竜討伐の実績があるんですから、勇者が参加しなくても大丈夫だと判断してもおかしくないと思うんですよ。どんなイレギュラーがあったか知りませんが、討伐は出来てるんですから実際のところなんの問題も無いですよね」
ああ、知らないふりをすることにしたのか、まあ見てて助けに行かなかったのを知られたら、この人たちは五月蝿そうだからな。
何も言えなくなったのか、誰も口を開こうとする気配は感じられない。というか王子の存在かもし出すだけで黙るというのは、流石王子というか凄いと思う。
「成長直前の竜が人前に出てくるなんて、今までになかったことが起こらなければ、このような場を作ることなんて……」
そう呟いた戦乙女の言葉に、ラルフ先生は自嘲するかのよう、ハンッ、と笑った。
「俺達があんた達の役に立つことなんて一生ないんだろうな」
「えっ? それはどういうことですか」
ラルフ先生の呟きが聞こえたのか戦乙女は質問してきた。
「話は終わったな? 俺達は朝早いから、これで失礼させてもらう」
先生方は立ち上がり、僕も遅れて立ち上がる。
戦乙女が一瞬引き止めようとするような仕草をしたが、止めることはせずに見送った。
無言で用意されたテントに向かう。
入った瞬間、全員から深い溜息が出た。
「あーかったる」
「だねー」
「息苦しかった」
何故かフィーン先生は顔を隠していた。
「ん? ああ、誰が私を知っているか分からないから」
「どういうことです?」
「まあ、俺みたいな奴のパーティに入ってはいるがお姫様だからな、色々と面倒な連中が絡んで来ようとしてくるんだよ。あいつらがフィーンの正体知ってみろ、絶対勧誘が凄いしつこいぞ」
「なるほど」
「お姫様も大変だよねー」
「ギャリー、貴女も変わらないはず」
「あたいはただの武器屋の娘だもん」
「でも、元王族ですよね」
「うん、父ちゃんの鍛冶師としての腕がちょっと良くなくってねー、王族から抜けたんだよー……って、気付いてたの?!」
「前世のときに、酒の席で言ってましたから」
「あのばか親父がー」
ギャリー先生はプンスカと憤慨する。
「しかし、小言を言われるのは分かるが、責められるようなことはしてないと思うんだがなぁ。予想外に時間が掛かっただけだろ? アルが倒したが、討伐に必要な物資が届けば普通に討てたはずだ、それまでの時間稼ぎしてただろ、あれ」
「彼女があんな感じになるのは、自分の力を証明出来なかったときと、彼が関わっているときよ、大体」
「まさか……」
「彼女がピンチの時に助けに来るなんて、仕事を放り投げてしそうなことよね」
「陽が上る前に出発するか、鬱陶しいことなんぞしてられん」
勇者王子にそんなに会いたくないのか。
「もう、こんな時間だし。携帯食を食べて寝ましょう。明日は早いんだし」
巫女のエル先生が勇者に会いたくないとかよっぽどなんだな。
「さんせーい」
ギャリー先生も同意しフィーン先生も頷く。
もそもそと携帯食を食べていると、人が来た気配がした。
「すいません」
「すまないが、帰ってくれ」
ラルフ先生が普通に拒否する。
「そこをどうにか」
ラルフ先生は盛大に舌打ちをすると、テントの入り口を開けた。
「なんのようですか? そろそろ寝ようと思ってるんですが」
「すいません、個人的に聞きたいことがあって、今じゃないとこの先機会が無いかもしれないので」
「聞きたいこと?」
「はい」
そう言って戦乙女様は僕を見る。
「アルどうする?」
「拒否権ありそうですか?」
小声でエル先生に聞いてみる。
「まあ、立場的には無いわねぇ……」
「ですよね。少しだけならいいですよ」
ラルフ先生は招き入れる。
「はじめまして、私はキュリア=ウェセックスと言います。よろしくお願いします」
「ウィリアルです、お見知りおきを。それで僕になんの御用ですか、戦乙女様」
「……ふぅ。貴方が魔法資質がゼロと聞きましたので、どういうものかな、と」
「無詠唱魔法が使えません」
簡潔に答えると、静寂が訪れた。
「その、それだけですか?」
「そうですね」
「実は、私の友人が貴方の婚約者だったことがありまして」
今更その話が出るのか。
「婚約者?」
ギャリー先生が言う。
しかし、戦乙女様はギャリー先生が女性だと気付いていないようで、フィーン先生を見た。
ギャリー先生の声聞いたこと無いのか。
「ああ、先生方はその話がついた後に、紹介されたんでしたっけ。僕が生まれる前にそういう相手を決めていたらしいのですが、僕が家を出るので無くなった話ですよ。名前すら知りません。解消した後はどうなったのか知らないんですが、僕の変わりに三男兄さんを婚約者にどうですかって、勧めたんでそうなっているんじゃないかと」
「……ご興味は無かったのですか?」
「そうですね。その時に初めて知った話ですし、貴族の責務みたいなものですが家から出て縁が無くなる婚約者に興味持てというのが難しいのでは? 聞きたいことは以上ですよね」
「まだです。婚約を解消する理由になった家を出るというのは、魔法資質がゼロだったからと考えていいのですね?」
「まあ、そうなりますね」
「どうにかしよと思わなかったのですか?」
「どうにか出来るのなら、父さんがしているはずなので、どうにもなっていないということは、無理だと理解しました。ならそんなことは無駄なことでしょう?」
「流石に消極的過ぎませんか?」
「そうですか? 早く見切りをつけて別の有効的な物に注力するのも一つの手段だと思いますが。おかげで先生方と出会い一人で生きていける力を得られましたよ」
「しかし、それは貴族としては」
「ええ、だから貴族を辞めるのですけど」
まあ、実際はただの建前で、貴族とかやってられない。
「そんな責任逃避のようなことを」
「責任をとるために必要な力が無い人間の行動って結構危ないものですよ、何かあっても何も出来ないのですから」
「だから、その為の力を得る為の方法を最初から模索しないというのは、思考放棄にも程があります。詠唱魔法が使えるのなら、無詠唱魔法が使えない道理は無いはずです。貴方の言う新たな道を進むにしても、無詠唱魔法を使えるようになるための努力は平行で行えたはずです」
確かに無詠唱が使えない理由を知ったのは最近だから、言うとおりではある。
前世の記憶と父さんの判断でどうにか出来る手段が無いと思い込んでいたのは否定できない。
「確かに言う通りかもしれませんね」
「なら」
「ですが、もう過ぎ去ったことなんですから、今更何かをすることは無いです」
そう全ては過去のことだ。
「……せめて、今からでも模索しようとは?」
「時間の無駄です」
「貴方の……、貴方の元婚約者は魔法資質がゼロでも支えていこうと思っていたんですよ。それなのに貴方は……!」
「立派な女性なんでなんですね。なら尚更、僕みたいな不良債権と結婚しなくて良かったですね」
「あまり自身の価値を卑下するのは止めてください、一時期でも貴方の婚約者だった者を貶めることになります」
「それは失礼しました。しかし、僕に関しては事実でしょう。貴族として子供を作らないという選択肢は無いはずです。子供に魔法資質ゼロという十字架が受け継がれないとう保障は無いんです、不良債権じゃなくてなんだっていうんでしょうね?」
「貴方がそれを克服できれば、その子供だって」
「そんな希望的観測で一人の女性に重荷を背負わせることは、僕には出来ませんね。ただでさえ、女性の結婚適齢期は長くは無いんです、克服出来る出来ないが判断できるまで待っていて欲しいとは、とてもとても。条件のいい婚姻は早ければ早いほどいいのに」
「なんで貴方はさっきから出来ないと決め付けるのですか。私だって魔法資質2から4にまで上げることが出来ました」
「それは3に近い2だったってだけだと思いますけど、まあ4まで上げたのは素直に尊敬しますが。無詠唱が出来ないと思う理由は、きちんとギルドで調べた結果だからですけど、属性が無いと出ました、詳しくは不安定で構成力が無いという判定でした」
「それはあの手を置いてする検査方法ですね。少し古い方法ですが良いやり方を知っています」
十中八九、あの水晶のことだなと思い、ラルフ先生を見ると肩をすくめられた。
「待っててください今すぐ取ってきます」
戦乙女様は素早く出て行った。




