15
いつもより遅い昼食のあとに、荷造りを始めた。
と言っても用意するものなんて無い、基本的にここに何も無いことが前提で最初から往復用に荷造りされているからだ。
「あ、そうだ」
お金のことだからギャリー先生が一番だけど、大雑把でいいしとりあえず先生の誰か捕まらないかと泊まっている部屋に向かったが、全員死んだように寝ていた。
「おおう……」
「ウィリアル君、どうかしたの?」
「いや、ちょっと用事があったんだけど、これじゃあ無理だね」
「ボクが聞こうか?」
「まあ、ヴィオーラでもいいか。いやさ、家を出た後の軍資金を作りたいから、最奥じゃなくて手前のコレクションからいい値段に換金できそうなの選んでもらおうと思ったんだけど」
「ああ、なるほどねー。実際のところ、価値がある物しかないんだし、とりあえず持ちやすくてゴージャスなの選んでおけばいいんじゃない?」
「選んでる時間も無さそうだし、そうするしかないか。そういえば、あの素材で出来てるものってあったよね?」
「あの?」
素材を伝える。
「あるねー。でも最奥の方じゃなかったっけ?」
「あーあれか」
素材が珍しいだけの普通の貨幣だけど、古代の王国の最高貨幣なのと芸術品としても完成度が高いから、レア物コレクターとしては最奥組に入れたんだった。
「ただの貨幣ねぇ~」
「ん? 何かあるの?」
「いーや、べつにー。とりあえず、選んできたら? この人たちはどんな時間になっても、すぐに準備終えちゃうだろうか、そのままでいいよ」
「そうする」
先生方が起きてきたのは夕食の匂いに釣られてからだった。
慌てて夕食を食べる様子を見て、もう一泊ぐらいしてもいいんじゃないかと提案したが、ヴィオーラの運動に付き合ってられるか、ということで意地でも朝一で明日出立するらしい。
ヴィオーラも否定しない辺り、多少は何かするつもりだったのかもしれない。
旅立ちの朝。
「じゃあ、またいつか帰ってくるから」
「はいはーい」
「それと、一つ言わないといけないと思ってたことがあるんだけど」
「何かなー?」
「領域の主なんてものを、育てないように」
僕とヴィオーラの別れの会話を聞いていた先生方から驚愕の声があがる。
「てへっ、暇だったし、いい番犬になるかなーって思って」
「この主にしてこの使い魔か……」
そんな呟きを無視する。
「逆に人が定期的に来るようになるらしいから、今回は先生方に黙っててもらうけど」
「うわぁ、嫌な秘密が出来た」
「まあ……、人為的だったのなら、今後生まれる可能性は無い、報告しなくても?」
「いやここの領域の主はかなりやばいぞ。育てることが出来るってかなりの脅威だぞ。というか育てることが出来る奴が一番ヤバイんだが」
「はあ、でも、育ててるこの淫魔絶対倒せないのよね……」
完全に諦めモードになっている。
「さらにもしヴィオーラを倒せても、ヴィオーラになんの損も無いとこだよなぁ」
「まぁまぁ、ボクの使い魔経由で暇じゃなくなるし、もう領域の主なんて育てないから。君達が倒した領域の主もちゃんと後始末するよー」
それならと先生方は納得した。
「さてと、最後に鍵をかけてっと」
「じゃあ元気でねー、まあ梟で会話出来るから別れって訳じゃないけど、まあ一応ねー」
目の前で手を振ってるはずのヴィオーラの姿が消えていった。
「ということで、鍵をかけたんで、もしここに来たいのなら自力で来てくださいね。絶対とは言いませんが、僕が先生方をここに連れてくることはもうありませんので。ただ、ヴィオーラ込みでどうにか出来たのなら、根こそぎ持って行ってもらっても構いませんよ」
「人生かけて挑む価値があるが、本当に人生が終わるからな、それでも人払いの魔法さえ解けないだろうけどな」
「流石にそれは買いかぶりすぎですよ」
「だとしても、ヴィオーラは無理だ」
ははは、と笑う。
「じゃあ、早くサーシャの元に戻るぞー」
引率の先生リーダーの掛け声と共に町を目指して歩き出した。
お昼を過ぎた頃に、大渓谷の樹海を抜け出す。
「じゃあ、樹海も抜けれたし飯にするかー」
「さんせーい」
五人で昼食の用意をしていると、怒号のような鳴き声が響き渡った。
「え、今のって」
「ドラゴンだな、それもおそらくは邪竜級の」
「新しいのが棲み付いたってこと?」
「普通に二週間前に棲み付いた奴じゃないんですか?」
「戦乙女が出っ張ってくるってことだったし、討伐軍の到着までに掛かる日数込みで討伐に一週間かかるって予測だったんだが。邪竜討伐はマニュアル化されているからな討伐だけなら三日で終わるはずなんだがなぁ」
「でも、一度邪竜が棲みついた場所は数百年単位で他の竜種は棲み付きませんよ、邪竜込みで」
「となると、何かがあって討伐が出来ていないってことか」
「ご飯を食べたら、見に行ってみましょうか、どうせ帰り道ですし」
「おい、何かしらの異常事態が起こっているのに、近づくのか?」
「別に大したこと起こっていませんよ」
大渓谷に行く前ならラルフ先生は強制的に道を変えていただろうが、僕の秘密を知ったからか、最終的に僕の案を飲んだ。
昼食後、討伐軍と邪竜両方が見える場所に辿り着く。
どうも膠着状態になっているようだった。
「見ただけじゃわかんねーな」
「討伐軍は大分消耗しているようだけど」
フィーン先生が遠目の魔法で確認する。
「邪竜の方は、傷一つ付いてないようだけど、どうして攻撃してないのかしら?」
「あっ……、あたい今の邪竜と同じの見たことある」
「どういうことですか?」
「ウィーには話したこと無かったけど、あたい達ってドラゴン討伐で四ツ星になったんだよ」
「あー! 何かに見覚えがあるかと思ったら」
ラルフ先生は合点がいったようだ。
「なるほどね、多分討伐は出来たんだろうけど、邪竜の状態から見て直後に成長したのね」
「討伐に必要な物の予備でどうにかしのいで、ここに押し留めるだけで、精一杯と」
「成長してから十日はたってるようにみえるな、そろそろ本格的に動き出すな。アル、お前の用事も済んだんだ、俺達が討伐軍に加わっても問題ないな?」
「いえ、ここはちょっと待ってください」
「はぁ? どうしてだ」
「ヴィオーラじゃありませんが、久々に魔法を本気で使ってきます」
「お前が行くのか?」
「はい、まあ不意打ちなら大丈夫でしょう」
「本当に大丈夫なの?」
「無理せずちょっと加勢する程度ですよ。終わったらすぐにその場を離れますから」
「気をつけて」
「ええ、行ってきます。ヴィオーラ少し手伝って」
「お、もうボクの力が必要とか、イベント起こりすぎじゃなーい?」
「それは討伐軍の人たちに行って欲しいかな。じゃ、とりあえず、認識阻害かけて討伐軍に知られたくない」
「オッケオッケ」
やっぱり夢魔であるヴィオーラの方が幻覚魔法は強力だ、討伐軍の魔法使いがどんなに優秀でも僕を認識して見る事は出来ないだろう。
靴に仕込んだ高速移動用の魔封具を使って空高く跳んだ。
足場を作れるため多段ジャンプで邪竜が小さく見えるほどの高度まで上がる。
「僕の戦い方って特徴的だからなぁ」
とはいえ誤魔化しようが無いわけで無い。
体を回転させて頭を地面に向ける。
極小の無属性魔力の杭を六つ作り出す。
降下する速さで大体の予測を立てて、呪文詠唱を開始する。
靴の魔封具は使用する魔力の量によって、距離と速さが変わるようになっている。
ここまで昇ってくるのに十二歩だった。自然落下した距離とタイミングよく詠唱を終わらせるのを考えると、あと十歩の時点で降下を加速させれば邪竜に有効的な攻撃を与えられる。
魔力杭に詠唱の影響が出始める。
加速一歩目、激しい風の抵抗を受けるがヴィオーラが防いでくれる。
二歩目、杭を差す場所を決める。
[氷獄の女王よ]
三歩目、討伐軍の眼がいい人たちが僕のことを気付き始める。
[そは氷の壁]
四歩目、まだ魔法として成立していなが無属性だった魔力に属性が付加される。
[そは凍土の床]
五歩目、六つの魔力杭に魔力を注ぎ、大木のような大きさにする。
[そは零下の鎖]
六歩目、邪竜が僕に気付いて、空を見上げる。
[全てが停止する檻の中]
七歩目、邪竜の口に魔力が溜まる。
[囚人に冷たい眠りを]
八歩目、僕は杭を飛ばして邪竜を大地に縫い付ける。
[永久凍土の監獄の中で与える]
九歩目、魔法を発動させる。
『氷女王の抱擁』
六本の大杭が反応して何者をも凍らせる魔法となって縫い付けている邪竜を襲った。
十歩目を踏み込むことなく、全身を凍らされ氷漬けにされて動けなくなった邪竜の背中に降り立つ。
「あれ、倒さないの?」
そう、氷漬けにしたが邪竜は生かしてある。
邪竜の瞳が動いて僕を見てきている。
「いや、途中までそのつもりだったけど、近づいて姿をみて目的を変えることにした。ドラゴンハートにする。ヴィオーラ、最高のタイミングをカウントして」
「なるほどねー」
ドラゴンハートとは、ドラゴンの心臓を結晶化させた物のことをいう。
一番良い物は、心臓が膨らんで血と魔力が溜まった時のものだ。
これほどの邪竜だ最高の物が出来るに違いない。
腕に無属性魔力を纏わせ、力神の呪文詠唱を始める。
「カウントいくよー」
腕を振りかぶって。
何やら討伐軍のほうから声が聞こえるが、内容を聞いている余裕なんか無い。
邪竜の心臓に魔力が集まり始める。
「3、2、1――」
邪竜が氷漬けのから脱出する為に全身に力を入れようとした瞬間。
[豪腕無双の闘神 その力みは躯体を鋼鐵とし その踏み込みは地を砕き その気迫は空間を震わせる そは大地を隆起し山を作りし破壊の戦槌]
「0!」
[闘神の戦槌拳!]
邪竜の体ごと氷を粉々に砕くパンチと、靴の魔封具による踏み込みによって地面に向かって跳び、心臓を掴み取る。
「ヴィオーラ!」
「はいよっと」
僕の掛け声に瞬間で反応して心臓を結晶化させる。
僕も再び詠唱を行い、砕かれた邪竜の体の断片が劣化しないよう氷漬けにした。
「それを新しいコレクションに?」
「いや、討伐軍の戦いに横槍をいれたから、その謝罪に討伐軍にあげる」
「うわっ、勿体無い」
「同じドラゴンから作られた結晶は引かれ合うのだから、持っていたら捜されかねない」
「絶対どうにでも出来るのにー」
「はいはい、いいから一番偉い人教えて、それから隠れる」
「あの陽の光を反射してる人が一番偉い人だよ」
「ありがとう」
ヴィオーラの指示にしたがい、白銀色の鎧をきている人物の前に降り立つ。
僕は何かを言われる前に、ドラゴンハートを目の前にいる人物に投げ渡して、跳んで逃げた。
一応追跡されないように動いてから先生方がいる場所に戻った。
「ただいま戻りました。いやー、戻ってくるほうが時間掛かっちゃった感じですかね」
戻ると先生方はなんともいえない雰囲気だった。
「どうかしました?」
「いや、俺達はお前に何を教えれたんだろうなってな……」
「え、魔法以外の全てじゃないですか? 元々そういう依頼でしょう」
「確かにそうだなー……」
大した疲労も無いので、帰りの道を行くことにする。
邪竜が倒されたとはいえ、討伐軍に出会うのは気まずいということで、出来るだけ離れた場所を歩いていく。
すると、周辺を調べているらしい兵士に出会った。
「隊からこんなに離れているのに、警備の兵がいるとか珍しいな」
「どうしたのかしらね」
話していると、兵士がこちらに気付いた。
「貴様達、ここで何をしている」
「旅の途中だが」
「ここは危険地域に指定されていたはずだ」
「そうなのか?」
「邪竜討伐の話は近隣の町村に通達してるはずだ」
「二週間以上前にそういう話は聞いたが、戦乙女様が出てきたんだろ?そうなると、出兵込みで一週間で終わることが殆どだろ、もしかしてまだ終わってないのか?」
事情を知らないふりをして、ラルフ先生は聞いた。
「い、いや終わってはいる」
「じゃあ、どういうことだ?」
「どうでもいいだろ! それよりも、ここら辺りで魔法使いを見なかったか?」
「俺達以外で人に会ってはないが」
「そうか、止めて悪かったな」
そう言って兵士は去っていった。
「ウィーを探してるんだね」
「えー……、ドラゴンハート作って渡したのに、なんの用があるって言うんですかね」
「いや、お前それは……」
まあ、理由は分かっているんだけど、知ったことではない。
日も落ち始めたので、野宿の準備をしていると、再び兵士が現れた。




