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とりあえず、あとはラルフ先生かなと、ちょっと様子を見に行くことにする。
「ラルフ先生、気に入ったのは無いですか?」
「いーや、正直全部欲しい」
「一人一個とは言いませんが、手に持てるだけですよ」
「分かってるよ、俺は欲深いがちゃんとわきまえてるつもりだ」
「それならいいですけど、いっそのこと皆さんに見立ててもらいますか?」
「客観的にみて俺が今必要な物は何か言ってもらうってことか」
正直、真っ先に決まると思っていたので意外だ。
「装備はギャリーが作ってくれそうだしな、それ以外の物だとピンとこないんだよな」
「あーそれなら、期待しないほうがいいよー」
ヴァイオレットがそう口を挟んだ。
「どうしてだ?」
「ボクの見立てだと、あの二つを扱えるだけの腕のブラックスミスになるのは保障するけど、まだ百年早い」
つまり、ラルフ先生が生きている内に、手に持つことが無いということになる。
「いや、あたい頑張るし」
「現実を見て言いなー。むしろたった百年でそこまでいけるとか天才だよ? て言うか、ちゃんと分かってるでしょ」
「ぐぬぬ……」
「こうなったら、直感で選ぶか」
ラルフ先生は目を閉じて、周りのコレクションから出る魔力だけを頼りに、歩き出した。
しばらく歩き回って、立ち止まった。
「やっぱりもってるなぁ」
「だから嫌いなんだよねー、あの人種は」
僕とヴァイオレットはラルフ先生が立ち止まった場所にある品を見て呟いた
僕のコレクションの中でも一、二を争うほどに厄介な物だ。
「ん? なんだこれ、さっきまであったか?」
それは肩当だった。
左右で独立しているわけではなく、繋がっている。
「肩当か、まあ、ありっちゃありか」
ラルフ先生が不用意に手に取ろうとする。
「あ、ちょっと待ってください!」
僕が止めようとしたが、先にラルフ先生の指先が当たった。
その瞬間左肩当から黒い靄が出てきて当たった指先から頭までを、瞬く間に包み込んだ。
そして黒い布に変化して、締め上げる。
「がぁっ!」
「ヴァイオレット」
「えー、まーしゃーなしかー」
隣にいたヴァイオレットが一瞬でラルフ先生の横に現れる。
この場にいる誰よりも強力な魔力の纏った拳が黒い布を千切る。
「ま、ちょっと触ったぐらいだし、この程度か」
ラルフ先生に纏わり付いた布が霧散した。
「っほんと、伝説級は厄介な物ばかりだわ」
「ごほっ、ごほっ……。何だったんだ今のは」
「実のところなんにも分かってないんだよねー」
「ラルフ先生大丈夫ですか?」
「ああ、すぐ助けてくれたからな、しかし物騒な物を適当に置いておくなよ」
「いやぁ、元々僕か使い魔達しか入らないので、僕だけが危険だと知っていればいいかなーと、もしもの防犯もかねて。で、ちょっと関心してたので、注意するのが遅れました」
「関心って……、それでこの肩当ってなんなんだ?」
「全く分からなかったんですよ、多分失われた伝説や伝承、神話にならそれっぽいのがあるかもしれませんが、もしくは人知れず起こった出来事かもしれません。分かってるのは呪われているってことですかね」
「流石にこれは使えないな、この状態で置かれてるってことは、呪いは解けないんだよな?」
「取り除くことは出来るんだけど、呪いが体を持つんだよね。倒せないことはなかったんだけど、この状態が一番楽だから何もしなかったんだよねー。でも、昔なら倒せたけど、今は無理だね、当時の使い魔が全員揃ってやっとだから、ボクとご主人以外全員死んじゃう。まあ、浄化したいっていうんなら、やらしー巫女様に頼むしかないねー」
「いやいや、取り除いたら体を持つ呪いって最低でも数百年級じゃない。聖女でも初代様ぐらい高位じゃないと」
「だな、使えたら強力な武器になりそうなんだが、諦めるしかないか」
「ほら、彼氏が残念がってるよ」
「そりゃどうにかしてあげたいけど、どんな修行をすれば、伝説級の呪いを解けるのよ」
「そんな貴女にこの呪いのアイテム」
「へっ?」
ポンッと手渡される。
ピカーと光る。
「何をしたのよ!」
「違和感ないかなー?」
「違和感って……」
エル先生がふと左手を見ると、薬指に黒い指輪がはめられていた。
「なにこれ」
「通称、運命殺し」
「何、その物騒な名前は!」
「ぶっちゃけ、無害なんだけどねー。呪いの効力としては左手薬指に一生指輪がはめられるってだけ」
「何そのしょうもない呪いは……、運命殺し? 一生? もしかして!」
「ピンポーン、既婚女性に見せかけるっていうアイテムなのだー。まあ実際に男避けの魔法も掛かってる見たいなんだけどね」
「ちょ、変なのつけないでよ、って外れない。呪いを解かないといけないのか」
エル先生は解呪しようとするが、全く効果が現れていない。
「何これ……」
「いやね、それ作った女性は超が付くほどの、魔法の使い手でねー。時より未来が見えたって話しなんだけど、その中に自身が独り身で終わるのを見たあとに、当時は無かった指輪を贈って将来を誓い合うっていう風習を見たらしくてね。そんな羨まなロマンチック風習が出来るなんて馬鹿やろーって感じでそれを作ったそうなんだよー。作った目的は言わずもがなー」
「なんてはた迷惑な!」
二人のコントのような会話を見ていたフィーン先生が、ん? と何かに気付いた。
「あれ? なんかそんな人間の話を聞いたことがあるような?」
「あれ、フィーンも?」
ギャリー先生も引っかかる物があったらしい。
「教団でも初代を除いて歴代最強と謳われた聖女が作ったんですよ、アレ。前世の僕が生まれる前の人ですけど、まあ、面白い話が語り継がれてましたよね」
「ああ、幼い頃に聞いたことがあるな」
「あたいも、じいちゃんから聞いたなー」
「実力は本物なので、アレを解けるようになるなら、あの肩当の呪いも解けるまではいかないでしょうが、倒しやすくはなるかと」
「ちなみに、正式な解き方は?」
「あの指輪を買った時に聞いた話では、障害を乗り越えられるほどの愛を持った男性に指輪に口付けをしてもらえれば、解けるとかなんとか」
「あれ、売ってたんだ……」
「とうことだから、ラルフ。本気で泣き出したら解いてあげてねー」
「分かってるよ、っていうか今解けとか言わないのかよ」
「修行は大事だから」
鬼だなこの人たち。
「まあ、作った人が作った人なので、自力で解けたら凄い力を持ったアイテムになるそうですよ」
「どんなふうに?」
「制限無しデメリット無しで製作した巫女の全能力が上乗せされるそうです」
「破天荒とは聞いてたけど馬鹿なのその人」
「僕に言われても、元々は自身の力を継承させることが目的で、製作期間は聖女になってからのほぼ一生だとか。ただ、強力すぎるが為に試練として呪いを付加したらしいですよ、呪いの効果はアレですけど」
「でも、もし本当なら教団の秘宝じゃない、なんでこんな所に、というか売られてたって……」
「教団に知られるべきじゃないとかで、真の目的を伏せた上でさっきヴァイオレットが言った理由で作ったって言いふらせたって、でも、カモフラージュじゃないと思ってます」
「ウィーに指輪を売った人物も何者よって感じだね」
「まあ、継承云々は眉唾でしょうけど、呪いに関しては本物なので、エル先生の成長に期待ですね」
「なんだかなぁ」
そんなことを話していると一通り言い合ったのか、なんとか落ち着いたエル先生とヴァイオレットが来た。
「んー、貰ってないような状態のハーレム君とトワーフ娘ちゃんが、ちょっと可哀想かな?」
「まあ、無いなら無いで俺はいいよ、仕事としては親父さんからちゃんと報酬は貰ってるし」
「あたいも幻の素材で装備作れるチャンス以上の物は無いから、いいかなぁー」
「ドワーフ娘ちゃんにはボクでも思いつかないけど、実はハーレム君には良いのがある」
「いい加減、ハーレム君はやめてくれ」
「んーなら、クラヂューロ君で良いかい?」
ちにみに意味は、とヴぇイオレットがラルフ先生の耳元で言うと、苦虫を噛んだような表情をした。
「ちっ、……好きに呼べ」
「まあ、機嫌を直してこっちに来なー」
ヴァイオレットに言われてついて行く。
目的の場所に着くと一本の剣が鞘に入った状態で地面に突き刺さっていた。
「うわっ……」
久々に見て、過去の失敗を思い出してしまう
「これは……?」
「ご主人が騙されて買った、なまくら剣だよー」
「とりあえず、これに俺が合ってる理由を聞いてやる」
「理由の前にこの剣を鞘から抜いてみなよ」
ラルフ先生はヴァイオレットの真意を読もうとするように、顔を伺いながら剣を抜こうとした。
「なんだ?」
戸惑ったラルフ先生の手が弾かれて更には吹き飛ばされた。
鞘に入っている時は分からなかったが、ちょっととんでもないぐらいの魔力が剣に宿っている。
「どういうことだ、ヴァイオレット」
「ふふふ、ご主人も驚いたでしょうー。何故あのなまくらがこんな力を持ったのか、それは十二体の使い魔の魔力を使ってボクが強化したうえに、ここにある全てのコレクションの魔力をこの剣に集めたからさー!」
そういえば魔力を動かしているとか言っていたな。
「意図的な魔石化に、魔力に統一性がないから、魔力が反発しあって嵐のように暴れているのか」
「痛たた……、凄い強力そうだが、なんでそれが俺にあってるんだ?」
「ふふふ、ボクの見立てではハーレム君は魔力操作が下手と見た」
「ぐっ……その通りだよ」
「ならやっぱりこの剣は君にあっている。この剣の唯一の抜き方は無属性魔力で荒れ狂っている魔力を纏めるしかないのさー」
わー、なんてピンポイントな。
「つまりこれで魔力操作を練習しろと」
「そうさー。まーさー、もし仮にドワーフ娘ちゃんがあの二つの金属を使って装備を作り出したとしても、魔力操作が下手糞なら、なんの意味がないよ」
「やっぱりそうか、そんな気はしてたんだよ。エルも頑張るみたいだしな、俺も頑張らないとな」
「魔剣としても強力だから、損はさせないよー」
「じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」
ラルフ先生はどうやら気に入ってくれたようだ。
「さて、ご主人はドワーフ娘ちゃんに何かないのかなー」
「いや、大丈夫だよ、あたいは」
「一個だけ良さそうなのを思い出しました」
「ほう、今のあたいのハードルは高いよ~」
「ヴァイオレット、ドワーフの店長から貰ったアレ持ってきて」
「ああ、アレ。あんなのでいいの?」
「ウィー、前世でどれだけ買い物したの……」
「生活に支障をきたさない、誰にも迷惑の掛からない余ったお金でですよ。そんなに使ってませんって」
「いや、ドワーフのお得意様って大概だよ? しかし、なるほど、お得意様に贈るドワーフ謹製のメダルなら、あたいのお眼鏡に適うかもしれないねー」
「なんだメダルって?」
「ああ、知らないのも当然が。ドワーフから買い物をしていると一定額以上になるとお得意様ってことで、友好のメダルを貰えてね。貴重な装備とか買える様になるの」
「へぇ、お得意様ってどれだけの金額でなれるんだ?」
「あたいの家ならたしか、小国の国家予算くらい?」
「ぶぅっ! なんだその金額は!」
「まあ、殆ど素材とか武器製作とかで消えるんだけどね、あとお酒」
「にしても、それだけ金をつかったならもう買う物なんか無いんじゃないか」
「まあ、実を言うとメダルって王族が作ってるんだよ。お店を経由してるけど、正式な王族との友好の証なんだよ」
「いや、なんでそんな気軽な感じで渡してんだよ」
「だって最低でも小国家クラスの資金投入だよ? 国賓にぐらいなるよ」
「なんか納得いかねー」
「だからね。買えるようになる貴重な装備って王族が作った物になってね、ここにあるものに負けないくらいの、伝説級の物が買えるようになるの。その代わりやっぱり高いから、友好証を貰ったとしても王族の品を買ったって人の話は、あたいは聞いたことないかな、貰うことに意味がある感じだね。見た感じウィーもそっちかな。で、ドワーフとしては友好証は王族の技術の一端を見ることが出来る数少ない機会なの。人気の王族のメダルを持っている人なんかいた時には、ドワーフから亡者の如しってくらいに買い取り攻勢が凄いことになるの」
「でも、売る奴はいないんだろ?」
「そうでもないんだよ」
「どうして?」
「あまりに権限が強いから、一代限りの権限でね、一応芸術品としての価値も凄いあるんだけど、世代によっては価値なんかないの。だから売る人はそこそこいる」
「なるほどなぁ」
「さて、ウィーの持ってるメダルは誰のかなー」




