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「ヴァイオレット、本題に入って」
疲れた。
「しょーがない、どれから話しましょうか?」
「今君がここにいる理由を」
「りょー解しましたー。長くなりそうで大して長くない話をいたしましょう。あ、でも立ったままなのはキツイでしょう、座ってー」
ヴァイオレットがそう言うと、いつの間にか椅子が用意されていた。
「話す前にご主人に文句を言います」
文句を言われるようなことをした記憶は無いんだけどなー、と頭を捻る。
「さっきボクは十二体のとか言いましたけど、実際はボク達が誰も知らない、もう一体いたんじゃないですかー」
「いや、僕の使い魔は全員で十二人だよ」
「でも、ご主人が死んで次の日にボク達は第零位の女性声の使い魔に、ここに召喚されたんですよ、十二体全員」
「女性? あっ、あ、あー……」
「ほら心当たりあるんじゃないですかー」
「落ちぶれる数年前に、調子乗って今なら凄いのを召喚出来る気がする、最高位のドラゴンとか! って感じで持てる財力を使って媒体やらなんやらを最高級で揃えて、聖地に行って持てる全てを使って召喚したんだよ。そうしたら、想像もしてなかった本当にとんでもないのが現れてね……。契約しないで帰ってもらおうとしたんだけど、あの方は面白がってねー契約を結ばされたんだ。それが君の言う第零位の使い魔さ。君達に言わなかったのは失敗談だったし、一生呼び出す気はなかったから」
「でも、第零位さんだけ、契約切ってなかったですよね」
「死んだら普通は契約は勝手に切れるからね。あまり召喚したくなかったから、そうしたんだ」
「なら、わざわざ召喚して契約を切ったのは親愛の証だと」
「そういうこと」
「ふむ、そういうことなら、しょうがない。第零位さんには少し悪いけど」
「僕的にはあの方の呼称は殿堂入りなんだけど」
「まあ、好きにすればいいけど、なんか本人凄い楽しそうに第零位名乗ってたけどー」
「あ、なら第零位で」
「ともかく、第零位さんが呼んだボク達にこう言ったんだ、いつか分からないが、転生していつかまたここにやってくるって。正確には記憶はなくなっているだろうから、面白くなりそうだから私が導いて連れてくるって言ってた」
「なるほど。それにしても良くそれを信じましたね」
「縁が切れたはずのボク達全員を呼び出せる存在に逆らうようなことなんか出来ないよ」
「確かに、なるほどなぁ~」
「そして、第零位さんが、呼び出せることは出来たけどさすがに何年後に転生するかは分からないから、それまでの期間にずっと全員を召喚し続けることは出来ないから、一体だけ選んで欲しいって言ってきてね。ご主人が来たときに全員召喚すればって提案もあったんだけど、時間が経てば経つほど縁を保ち続けるのは難しいからってことで、ご主人を殴りたい奴でバトルロワイヤルを開いたんだ、参加者は全員だったよ」
「一番最初のって、お前の悪乗りじゃなかったのか」
「いやさ、契約きる時に最後ってことで誰も言わなかったけど、すっごい情けない感じだったから、全員一発殴りたいと思ってたんだよね、確かめてみたらあの時誰も何も言ってないのに満場一致だったよー。そんで、ボクが勝ち残ったってわけ、ちなみに他十一体から魔力預かって、それでさっき殴った」
大体話は分かったが、厄介なことがあるのが分かっただけだったなぁ。
「それでご主人、記憶が残ってるみたいだけど」
「記憶が残ってたのは第零位さんも予想外だったと思うよ」
「なるほどな。そんなご主人は何しに来たんだ?」
「ここがどうなっているか気になっていたのと、コレクションの一部をお世話になっている先生方に少しあげようかと思って」
「それならもう見捲くっているな、特にドワーフ娘」
「娘って歳じゃないけどねー」
「二千年以上生きてるボクにしたら、娘さー」
「本当に?!」
「信じるかどうかは、お任せするよ」
一気に胡散臭くなったのか、ギャリー先生は物色に戻る。
「さすが、弟子に小言を言われたくないからって言って隠してただけあって、貴重な素材があるな」
「これなんか、現在じゃ手に入れるのに数年待ちよ」
財宝とまではいかないけど、金銀とかあるのに見向きしないな、この人達は。
「まあ、ここのじゃなくて最奥の方をあげるつもりなんだけど」
「はぁあっ?!」
ヴァイオレットが信じられないと言った声を上げた。
「ご主人死んだし、三百年以上管理してたのボクだから、もうボクの物と言っていいと思うんだ」
「はいはい」
何を言ってるんだか。
「と言うか死蔵するつもりだったじゃん」
「そりゃ、年寄りが使うには強力すぎだからね。でも、弟子があとをついでくれたなら、全部やるつもりだったし」
「こいつらには勿体無いって、良くない結果を出すかもよ」
「それならそれで、しょうがないんじゃないかなぁ」
「本当に世話になったと思ってるのかよー」
「じゃなきゃ、ここに有るものだけで済ませるよ」
「ここ以上の物があるの?」
「ありますよ」
隠し倉庫の一番奥の壁に向かう。
「よいしょっと」
純粋な魔力操作でなければ、開けることが出来ない扉を開けると、凄まじい魔力が溢れ出た。
「うっ……」
エル先生の体調を崩したようだ。
「大丈夫ですか?」
「ええ、少し不意をつかれただけだから」
「ヴァイオレット管理していたんじゃなかったのか?」
「ご主人しか開けれないんだから、しょーがないじゃん。中には入れるから、面白い感じに魔力を動かしたりしたけど」
こいつの言う面白い感じっていうのが怖いな。
そんなことを話していると、ギャリー先生の悲鳴が上がった。
「どうした!」
他の先生方が駆けつける。
「こ、この金属とこの金属なんだけど……」
ちょっと心配になるぐらいに震えている。
「この二つがどうかしたのか?」
ラルフ先生とエル先生は分かってないようだが、流石に悲鳴はあげなかったがフィーン先生が声を失っている。
「オリハルコンとヒヒイロカネ……」
辛うじてフィーン先生が金属の名前を口にすると、次にラルフ先生とエル先生が言葉を失った。
「凄いでしょ、オリハルコンは見た目が銅っぽいから、売人が価値を分からずに安く売ってたんですよ。どこで手に入れたのかも聞いたんですが、場所は跡形も無くなくなっていましたね。ヒヒイロカネは極東からの人が持っていて、お金に糸目を付けずに払って、分けて貰ったんですよ。両方手に入れれたのは幸運でしたね」
「もしかして、これ欲しいっていったらくれるの?」
「全部とはいきませんが、四人分の装備分程度なら持って行っていいですよ」
ギャリー先生が口をパクパクさせながら、僕と金属を何回も見回す。
「もうこれだけでこれ以上他に何も受け取れないな。すでに私達が三年間教えていたことと価値がつりあっていない」
そんなことは無いと思うのだが。
「まあ、そんなことは気になさらずに、フィーン先生ならあれなんてどうです?」
指指すと、木が生えていた。
近づいてみると吹き抜けになっていて、そこに生えているのは木ではなく、巨木のような枝だった。
「これを入れる為に、秘密裏に改築したんですけど、あの時は大変だった」
「ボクはそういうの苦手だから手伝いに駆り出されなかったけど、手伝った何体かは愚痴ってたよ」
「いや、あの時は本当に助かったよ」
はははは、と笑う。
笑っていられないのがフィーン先生で、膝を付いて祈っている。
「これは世界樹の枝だ、どこでこれを?」
「好奇心旺盛なハイエルフの子供が村から抜け出しまして、普通のエルフと勘違いした人売りが攫ったのを、偶々僕が助けたんですよ。で、送り届けた時に、お礼がしたいと言われたので、世界樹の枝でも欲しいですねーって冗談半分で言ったら、これをくれました」
くれるということになった時、かなりビックリしたが、片手で持てる程度の物を想像していたら、まさかこんなデカイのを貰えるとは思わなかった。
おそらくだが、この大渓谷に樹海があるのはこの枝のせいだと思う。
「ハイエルフの子供? それなら、これくらいはくれるかも」
フィーン先生は何か納得した。
「それで、一部をくれるということ?」
「はい、欲しいだけどうぞ」
「弓を作れる程度でいい、枝だけとはいえ世界樹を傷つけたくない」
「でも折角だしこれ食べたら?」
ヴァイオレットが何かが入った器を持ってきた。
「ん?」
器に盛られた食べられやすいように切られた果物を口に入れる。
「美味しい」
「でしょー」
「皆にも配ってきたら?」
「そうするつもりー」
「ま、待ちなさい」
フィーン先生がわなわなと震える。
「これは世界樹の実でしょう!」
「口に合わなかった?」
「そういうことでは」
「枝だけど、まだ生きてるんだから、実も出来るし、実ったら収穫するでしょ。いやしかし、さすが世界樹というかどうやって実ってんだろうね」
もう一個フィーン先生の口に入れて、他の先生方に配りに行った。
「本当にどこまで本気なんだか」
フィーン先生は世界樹の実を食べることによって、世界樹の魔力を取り込んだ。
ギャリー先生が来て、あたいも少し欲しいと羨ましがっているのを見ていると、ヴァイオレットと一緒にエル先生が来た。
「欲しいのが決まったんですか?」
「ええ、これかな?」
白いが光の反射で虹色に輝く織物を持ってきた。
「あー、それですか、一番エル先生に合ってると思いますよ」
「私もそう思う。なんか呼ばれた気がしたのよね。最低でも三百年は経ってるはずなのにまるで新品の様、これって何か謂れとかあるの?」
「えーと、真偽は不明なんですけど、ある村娘が真心込めて織ったものだと、売ってくれた人は言ってました」
「それだけ?」
「ちょっと付け加えるなら、星の竜と仲が良かったそうですよ」
言われた内容に意識がどこか行ったのか、織物が手から落ちたが、すぐに意識を取り戻して地面に落ちる前に掴みとめた。
「はわわわわわわっ」
今日のエル先生は精神にどれだけダメージを受けたんだろうか。
「本当に本当? 初代聖女様が織った物なの?」
「いや、真偽不明なんですよ」
「どういう意味?」
「魔力を感じ取ってもらえればわかりますが、加護が凄いです」
「え、何これ」
「ちょっとドン引きしますよね、それも教団の巫女が使えるという星竜の加護なのもあって、初代聖女の実力がどの程度の物なのかは知りませんが、それがそうだと言われても疑いようが無いくらいに強いんで、偽物と判断出来ないんですよ。たしか、教団は初代に習って女性教徒は織り物をするとか、その時に自前の紋章を入れるときいたことがあるんですが、それには入ってないんですよ、そして紋章が入ってないものは、基本的に初代聖女しかいないと言われてた筈です。まあ、紋章を入れない物を絶対に作らないってわけじゃないでしょうし、教団も歴史が長いので、聖女以外にも常識外の力を持った人がいてもおかしくはないですけどね」
「うむむむ……」
エル先生がなにやら悩んでいる。
「私はこれを貰います。服を作れる分だけ貰ってもいいですか?」
「それは全部いいですよ、あっても誰も活用できないので」
「なら、デザイン次第ではラル以外の二人にも、サーシャにも何か作ってあげられるかもしれないわね」
「ほう、そればどうかなー」
「なんですか淫魔」
「じゃーん、この針で布の端を指してみなよー」
嫌そうだがエル先生は素直に受け取って刺してみた。
針が折れた。
「はい? 通らないならまだしも、折れるって……」
「そうなんだよ、加護が強すぎて裁縫道具を受け入れないどころか、壊しちゃってねー。
なんら聖剣ですら斬れない、さすがに駄目になったりはしないけど」
「……どうやって使うんですか、この織物」
呆然としていて、時よりいっそのこと武器に使用かしらとか呟いている。
「やらしー巫女は、ダメダメだなぁ」
「なら貴女ならどうにか出来るというのですか」
「ボク一人じゃ無理だけどねー。魔力出して魔力」
エル先生が魔力を出した。
「聖属性の魔力とか苦手なんだけど」
「出せと言ったのは貴女でしょ」
「愚痴ぐらい言ってもよくなーい?」
「はいはい」
ヴァイオレットは自身の魔力でエル先生の魔力に干渉して、織物の端に当てる。
そして染み込ませるように馴染ませる。
そうすると、針が通った。
「どういうこと?」
「星竜の加護に同じ力で干渉して加護を無効化したのさー。ただし、その部分は劣化する」
「駄目じゃない」
「少しは考えなー」
ぐぬぬぬ、となるがエル先生は方法を考え始める。
「針を加護で覆う?」
「正かーい! だからちょっとアドバイスをプレゼント、ただ糸を通すだけじゃ糸が切れるから、糸にも加護を付けて、布の加護と馴染ませると糸は切れることなく、布も劣化することはなくなるんだ」
「それはもうただの修練ね……」
遠い目になったエル先生はそう言ったが、他の物に変えるそぶりを見せないので、やる気なのだろう。




