いとしのバンパイア
ついてないね~。
何もかも、ついてない時ってあるよね~。
家から一歩出た瞬間、
にゃんこだかわんこだかの
ブツを踏んじゃうくらいの、
「ああ、あたしって今日最悪かも~」
てへぺろっ的な・・
「おいっ!聞いてんのか?
踏んだっつってんだよ!!
俺の足をよっ!
これからデートだってのに、
汚れたじゃねーか。」
こんだけ混んでる電車のなかで、
どーすれば踏まずに
いられるってのよ。
あんたが気にするべきは、靴じゃなくて、
そのぶっさいくな顔だってのよ!
なんて言えるはずもなく
「すいません。」
「謝っても靴はきれいに
なんねーんだよ!」
どうすれば気がすむってのよ・・・
周りの乗客に、同情の空気が流れてる。
でも、今あたしが必要としてるのは
空気じゃないのっ!
「美しくないな。」
男の人の声が、頭の後ろから降ってきた。
振り向いたあたしの口は、
きっとあいていたに違いない。
だって、こんなに綺麗な人を見たのは、
23年生きてきて初めてだったから。
「な、なんだ、お前には関係ないだろ。」
おお、美形兄さん登場に、
ぶさおも動揺を隠せないぞ。
「一日の始まりに、
些末なことで目くじらをたてる事も
ないでしょう。貴方の恋人は、
その靴に逢いたいんじゃなく、
そんな事位笑い流せる、
男気あふれる貴方に
逢いたいんじゃないですか?」
それはそれは素敵な笑顔を
見せたその時、
電車が止まってドアが開いた
ぶさおは「ちっ、」と
負け犬定番の舌うちを残して、
足早に降りて行った。