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最初のマッチ

「───新しいいいねはありません───」



これで何度目だろう。



退勤時間に電車で眺める画面には、

決まっていつも同じ文言が表示される。



僕は山口田吾作28歳独身。

大学を卒業してIT企業に入社して早6年が経つ。

職場は男女9:1と男ばかりの職場で出会いがないことからマッチングアプリを始めた。



僕の使用しているマッチングアプリは、お互いに「いいね」を送り合えばマッチングとなり、メッセージをやり取りすることができる。



「いいね」は1日に5件ずつ送ることができるので、通勤時間で自分のタイプの女性を5人探して「いいね」を送る。

そして退勤時間に「いいね」が返ってきていないかを確認するのが僕の日課だ。



マッチングアプリは1年前から始めたが、自分のタイプと遠く離れた人からしか「いいね」は来たことがない。


「はぁ…」


僕の仕事の疲れと恋活の疲れが混じりあった、暗めの紫色のため息が満員の山手線をどんよりとさせた。


ガチャ…「ただいま」


一人暮らしの家に帰ると、誰もいない家に「ただいま」といってしまうのは昔からの癖だ。

「おかえり」と返ってこないのはわかっているのだが、その度に寂しくなる自分には喝を入れたくなる。



夕食を済ませ、寝る準備を済ませるとベッドに横になってマッチングアプリを開く。


「変わらないとダメかなぁ」


天井を見上げて呟いた。この1年間何度も変わろうと思っては変われていないので、もはやこれも日課みたいなものだった。



アプリを閉じて、電気を消した。



───トゥルン



通知が鳴っていたことに気づいたのは、翌朝目を開けてからだった。女性から「いいね」が来ていた。


「またタイプじゃないんだろうな…」


寝起きの目を擦りながら、「いいね」を送ってきた女性、yuraさんのプロフィールを確認する。


「あれ、美人だ」


プロフィール写真は綺麗めのモデル風な女性だった。横を向いているので鼻立ちの高さや目元の綺麗さがよくわかる。



綺麗な女性など人生でも縁のなかった僕にとっては、からかわれてるんだろうなとしか思えなかった。



プロフィール欄を見ても趣味はバー巡り、好きな音楽は最近流行の韓国の女性グループであり、自分とは到底趣味の合わないはずなのだ。



僕の趣味欄はアニメ鑑賞や映画鑑賞、FPSゲームとインドアな趣味しか書かれていないので、こういった女性が来ることはありえないのだ。



僕は「いいね」を返さず、そのまま会社に向かった。

その通勤時間では4つの「いいね」を送った。

なんとなくyuraさんのことが引っかかっていて、5つ全てを使い切る気にはなれなかった。


「…ってわけなんだよ」


その日の昼休みに同期の佐伯遼にyuraさんの話をしてみた。佐伯は僕にマッチングアプリを勧めてくれた人物であり、彼自身24〜25の時にはマッチングアプリで多くの女性と遊んでいたといういわゆる陽キャである。



「え、ぐっちそれ行ったほうがいいよ!」



ぐっちとは僕のあだ名である。小学生の頃から使われていたあだ名で、マッチングアプリにもぐっちで登録するほど自分でも気に入っている。



「そうかな、でも全然性格合わなさそうなんだよ」


「そういう人って合わなそうに見えて逆にすごい合うってことが多いんだよ。俺も知らない音楽をめっちゃ推してくる子とかいたけど、その熱量が愛らしく見えてきたりして」


「なるほど…」



経験豊富な佐伯に言われると何でも正しいと思ってしまう。そのおかげでマッチングアプリを始めるきっかけをもらえたのでありがたいものだ。



その日の退勤時間、電車に揺られながら僕はyuraさんに「いいね」を返す。来た「いいね」に「いいね」を返すとマッチングとなりメッセージが送れるようになるので、軽くメッセージを送ることにした。


「いいねありがとうございます!お酒お好きなんですか?」


お礼とプロフィール欄からの簡単な質問、ベタだが定石通りに行くのが山口流だ。



メッセージを送ってから返信が来るまでの時間とはとても長く感じるもので、もっとこういう文章にしとけばよかったかなと過ぎたことを考え過ぎてしまう。



家についても返信は来なかったので、今日は少し早めに就寝することにした。


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