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スキル「次元壁」、紹介用パンフレット

作者: obaX

変換してもらうのが手間なので、単位系はメートル法にしました。

 1. イントロ


 私の名前はイシカワ ミツル、姓がイシカワ、名がミツルである。今の私は65歳、中立迷宮都市パレスの一代限りの領主である。この世界には40年前に落ちてきた。その後30年の間に、各大陸で増殖する魔の森の木を切り倒し続け、元凶の生命体を倒し、女神を解放した。この文書では、私の中で生まれ、魔の森の伐採に大きな役割を果たした「次元壁」のスキルについて解説する。


 次元壁は、アイテムボックススキルから派生したスキルである。基本機能は、空間に壁を作り出す事。空間魔術を取得しなくても、低コストの体力で空間の壁を使用、維持できる。使い勝手の良いスキルだが、空間の歪みや空間魔術による干渉には弱い。基本的には圧倒的に強固な盾、この上ない切れ味の剣という認識が適切だろう。


 次元壁スキルの発端は、この世界に来て間もない頃の思いつき、アイテムボックススキルで生物からの攻撃を防げないか?である。このアイデアのもとになった情報は、生命活動が活発な生物をアイテムボックスに入れる事はできない、である。低レベルの魔物相手に試行錯誤を続けていたら、正体不明の特殊スキル「進化の種」が無くなり、代わりに次元壁スキルを獲得していた。


 この特殊スキル「進化の種」は、女神いわく、新たなスキルの誕生や個人の肉体的な進化にとどまらず、技術の進化、人類の進化、その世界の全生命体の進化に作用するらしい。魔の森の騒動では、全ての生命を含めたこの星自体が破滅の危機にあったため、女神に召喚された我々6人に進化の種が付与された。本来、新たなスキルの誕生が数百年から千年に一度程度である事を考えると、進化の種を付与された魔の森の騒動がいかに致命的だったのかを想像できる。


 女神によると、この次元壁のスキルは今後この世界に定着するという。新種のスキルは大勢が使うことでフィードバックがかかり、人類全体に最適な形態に落ち着くらしい。100年後、200年後の次元壁スキルは、私のものとは少し違うかもしれない。




 2. 次元壁スキルとレベル


 最初に、次元壁のレベルと能力を示そう。レベルによる成長パラメーターは主に5点、次元壁の面積、壁の形の自由度、分割できる壁の数、自身から離せる距離、固定して維持などのコントロール。


 レベル1、掌、拳、手の甲にまとう5cm*5cm程度の面積、1枚だけ展開。

 2、手から10cm離せる。面積変わらず、正方形から1cm*25cmに変形可能、2枚展開可能。

 3、全身のどこにでも壁を出せる。

 4、身体から30cm離せる。合計面積30cm*30cm, 4枚展開可能。

 5、身体から離せる距離以内で、壁を自由に移動可能。

 6、身体から1m離せる。合計面積1m*1m, 16枚展開可能。

 7、空間中に固定可能。「動かさない事」を意識しなくて良い。身体から離せる以上の距離で消失。

 8、身体から3m離せる。合計面積2m*2m, 64枚展開可能。

 9、合計面積6*2m*2m。

 10, 成長微小(面積、身体から離せる距離、分割可能枚数がごく緩やかに成長する)


 次元壁は、魔物の攻撃から身を守るための壁としてだけでなく、相手を押しつぶすための壁としても使用できる。次元壁を拳にまとって攻撃する時、これは相手からすれば破壊不可能な壁の接近と同じである。相手がどれだけの質量と速さを持っていても関係なく、この壁を壊す事はできない。そしてどれだけ激しい攻撃を防いでも、その影響は自分に及ばない。しかし残念ながら、次元壁は「最強のスキル」ではない。


 スキルレベルが上がるごとに、次元壁の応用範囲は広がる。低レベルの魔物なら、拳にまとって殴ればたいていは一撃である。両の掌に次元壁を出して魔物の頭を圧迫すれば、スプラッタな光景が生まれる。全身のどこからでも壁を出したり、体に沿って壁を動かす事で、戦闘で可能な選択肢は一気に広がる。魔物を殺すだけでなく、防御に重点を置いた時間稼ぎも可能になる。レベル4で4枚の次元壁を使いこなせるようになれば、多対一の戦闘でも確実に対応できる。レベルが上って使用可能な「刃」は、言わずもがな非常に強力である。レベル7の空間固定は、空中の足場としての使いみちもあれば、罠としても使える。


 戦闘以外の応用では、形状変化の使用を勧める。形状変化の自由度が上がれば、瓶に液体を注ぐために必要な漏斗(ろうと)代わりにも使えるし、2つの輪を作り手錠として使うこともできる(移動は共にしなければならない)。マグカップなど日用品にも応用できる。ただナイフ代わりの使用は避けた方が良い。魔物や食材の解体は、刃を通しやすい場所に沿って、皮・肉・骨に解体するが、次元壁のナイフでは刃を通しやすい場所にそって切り裂く事はできない。ぶつ切りしかできない。


 別の方面の応用として、土木工事における建材の切り出しやトンネル堀りなどに次元壁スキルは役立つ。我々が魔の森を打倒できた原因は、次元壁スキルによる高速の森林伐採である。次元壁の刃による切断は、建材の切り出しや整形にも多大な力を発揮する。大規模土木業者や軍の工兵部隊でも、次元壁スキルは重宝されるだろう。ただ、石材の切り出しやトンネル掘りでは、地層の変化による崩壊がしばしば起きるので、素人が無闇に手を出すべきではない。




 3. 次元壁スキルの特徴


 スキル内容から分かるとおり、次元壁スキルは近距離戦闘用のスキルである。数十mの遠距離攻撃はできない。例えば次元壁を「1m離せる」と書いているが、これは壁を身体から1m離せるという意味であり、身体から1mまでは次元壁を刃として伸ばして使用できるという意味でもある。魔の森を開拓しての街道作成の際、私は指先から伸ばした極細の次元壁を振り回して木を切り倒し、アイテムボックスに収納した。十分に時間の経過した魔の森の木は、熟練の木こりと鉄の斧でも傷つける事ができない。最低限の労力で木を切り倒せる次元壁が無ければ、この世界は魔の森に屈していたはずである。


 再度記すが、次元壁自体は極度に硬い盾、切れ味この上ない剣といった位置づけである。使わなければ魔物を倒すことはできない。次元壁を攻撃と防御に使いこなすためには、結局、身体を使いこなすための修練が欠かせない。このため、私は冒険者を引退した拳士に師匠になってもらい、拳術と体術の基本を学んだ。その後も研鑽を続け、機会があれば他の冒険者との手合わせを行った。魔の森騒動の最後の山場であった迷宮踏破を終えた時、私の拳術レベルは9であった。


 刃としての次元壁スキルは、剣術スキルと相性が良くない事も述べておく。正確には、次元壁の刃はどんな物体でも切ってしまうため、剣術スキルを活用しきれないというのが正しい。もし、剣術スキルや他の戦闘スキルを中心に使いたいなら、それらのスキルによる攻撃を行い、次元壁を防御専用に使うことも可能だろう。


 戦闘において次元壁スキルが活きる場面を挙げておこう。考えられる場面は2つ、自分より弱い魔物との長時間戦闘、防御に特化した魔物との戦闘、である。性能として圧倒的な次元壁の盾と刃は、自分より下位の魔物の殲滅をひどく容易にする。次元壁スキルは近接戦闘用スキルなので、一度に倒せる魔物の数という点では魔法スキルに劣る。しかし、次元壁スキルの発動コストはとても低く、低レベルでも1日中維持可能である。したがって、長時間の戦闘継続については次元壁スキルのほうが魔法スキルより優秀である。一度に数体ずつ魔物と戦い続けるような状況、例えば迷宮氾濫で下位の魔物が溢れ出てくる通路をおさえ続けるような状況では、体力と集中力が続く限り、次元壁スキルはこの上なく有用である。


 もう一つの次元壁スキルが活きる状況は、防御特化の魔物との戦闘である。次元壁の刃は、いわば防御力無視なので、防御に特化した魔物との戦闘ではどのスキルよりも楽に戦闘を終結させる事ができるだろう。問題になるとすれば、魔物の身体の大きさと次元壁の刃の長さの割合である。




 4. 次元壁の使用上の注意点


 前節では次元壁の有用な点を挙げたが、次元壁には使う際の注意点が存在する。


 例えばファイアーボールを次元壁で防ぐ事はできる。しかし、手にまとった5cm*5cmの次元壁をただ突き出して直径60cmのファイアーボールを防ごうとしても、この5cm*5cm以外の領域の炎は壁に影響されず、身体を焼くだろう。また、魔物が突進してきたとして、手を突き出した場合、5cm*5cmの壁は突進をとめるが、体全体の勢いを殺すわけではない。この場合、身体の一部分を止めても、魔物の身体の他の部分が術者に向かって飛んでくる事も十分にありえる。次元壁スキルを使うと、日常生活に無い運動を引き起こす事になるので、自分たちで簡単な実験をしておくべきである。


 次元壁は、向こうを見通せない黒い壁である。この点も注意を要する。自分の視界を塞いでしまうと、周囲の状況を感知できない。弓使いの魔物が、その死角から矢を撃ってくる事も十分にありえる。レベル9までいくと一気に面積が増加し、複数人の仲間を囲むこともできる。これは、例えばドラゴンのブレスからも完全に身を守るが、壁の向こう側を見る事はできない。「ブレス終わった?」と思って解除したら、再度のブレスの最中という事もありえる。幸いにも私はこのような経験をしなかったが、次元壁で仲間をどう守るかについては、ある程度仲間とすりあわせておくべきである。


 次元壁はとても薄い。おそらくは「厚さが存在しない」。非常に有用な武器ではあるが、それだけに使い方を誤ってはいけない。簡単に味方も傷つけてしまうからである。一例として、空歩で使う空間固定した次元壁を挙げよう。この次元壁は、身体から一定距離離れる事で自動的に消失する。だが、その間に味方が突っ込んでくれば、味方の身体は簡単に切断されてしまう。腕ならばまだ良い方で、頭部なら即死である。


 精神論についても述べておく。次元壁を保有する事は精神的なリスクである。このリスクは、低レベルの冒険者が自身の力量に見合わない強力な武器・防具を持つ場合と同じである。自分は無敵だと思って無謀な行動を取れば、あるいは下調べを怠れば、自身が生き残っても周囲の仲間が無事でない事は十分起きる。あるいは、しばしば「自分は力があるのだから、ああすれば良かった。こうすれば良かった」という後悔に簡単に結びつく事もある。こんな考えを繰り返していたら精神的に参ってしまう。次元壁の使い手は、冷静に、最善を尽くして、開き直って、あるいは自分の矮小さを自覚して、その力をふるってほしい。低レベルのうちなら、その力を頻繁に使わない事も選択肢かもしれない。




 5. 次元壁の攻略方法


 次元壁スキルを持つ新人が愚かな死に方をしないように、次元壁の一般的な攻略方法を記しておく。これらは一般的な近接戦闘スキルの攻略方法でもあり、誰もが考えつく方法である。攻撃する者が魔物か人間かは区別しない。次元壁スキルの保持者は、これくらいの状況は普通に起きると思ってほしい。


 まず、距離に関わらず、反応できなければ攻撃を防ぐ事はできない。反応できない攻撃とは、遠距離からの高速射撃、近距離からの英雄クラスの攻撃、何らかの不可視の攻撃である。これらは、次元壁スキルの有無に関係なく死ぬ。


 先に述べたように、戦闘における次元壁スキルは近接戦闘用で、遠距離攻撃はできない。しかも、スキルレベルの低い間は次元壁の面積も狭い。よって遠距離からの多数の攻撃には次元壁スキルは無力である。いつか死ぬ。レベルが高くなれば仲間ごと守る事はできるが、手も足も出ない状況に陥る。


 中距離近距離からの武器を使った通常の攻撃には、反応できるならほぼ防御できる。ただ、特殊な事例がいくつかある。例えば、回復能力に優れるか、あるいは身体が次元壁の面積よりも圧倒的に巨大な相手の場合である。次元壁が強力でも、相手にそれを無効にする能力があれば圧倒されてしまう。死ぬ。


 次元壁の致命的な弱点は、「空間魔法による干渉の容易さ」である。次元壁スキルは自動化された最低限の機能による魔法の再現なので、一定以上の空間の歪みによって容易に打ち消されてしまう。また、私の実体験では空間が不安定な領域では次元壁を使う事ができなかった。発動しても壁が具体化しない。死ぬ。


 なお、2枚の次元壁が接触すると、どちらも消失する。接触する次元壁の面積や形状は問題にならない。従って、仮に1対1の戦闘で次元壁のみを使う場合、片方が2枚の次元壁を使い、もう片方が4枚なら、2枚の使い手はほぼ確実に死ぬ。


 おそらく研究が進んだ将来には、次元壁を打ち消すための魔法・魔道具と、さらにそれらの効果を打ち消して術者の周囲の空間を補正するための魔法・魔道具が出現するはずである。これらの開発改良はイタチごっこなので、戦闘系の次元壁使いは、次元壁スキルとそれを活かすための戦闘スキルだけでなく、もう一つ二つの戦闘手段を持つべきである。援護してくれる仲間は当然持つべきであるが、足手まといにならないためにも隠し玉となる戦闘手段は必要である。次元壁だけしか持たない冒険者は、容易に死ぬ。


 死ぬ死ぬ書いたが、次元壁スキルの新人には、次元壁スキルが特別ではなく、他のスキルと同じように対処可能である事を伝えたい。次元壁スキルは、新たに生まれたスキルであるため情報は少ない。次元壁スキルを過大評価せず、過小評価もせず、あくまでも通常スキルの一つであると心に留めてほしい。




 付録 アイテムボックススキルについて


 次元壁取得の前提条件であるアイテムボックススキルについても調べた。この情報の公開によって、この世界の物資輸送効率の改善を期待する。


 調べた限り、アイテムボックススキルの成長は単純である。

・レベル1の基本容量の平均値は2m^3。魔力量及び他パラメーターで±20%。

・おそらくこの基本容量は獲得時に固定。

・レベル1の時間の流れは外部と同じ。

・レベルアップの度に容量は5倍増加、時間の流れは1/5倍に遅延。


 容量の調査方法は、パレス在住あるいはやってきたアイテムボックススキル持ちの1500人を調べた。最大レベルは5(サンプル20人)、3年掛けてデータを取得。検査方法は、その場で各ギルドの登録カードでスキルレベルを申請、アイテムボックスを空にして可能な限り水を収納、容器に吐き出して体積を測定した。


 遅延時間の調査方法は、沸騰した熱湯が冷める時間から調べた。微弱な魔力をまとうルード草は、常温では緑色だが、温度によって黄色橙色赤色と変色し、沸騰した湯に入れると白くなる性質がある。夏の炎天下では黄色から橙色、冬には青緑になる。部下達の少人数の調査から1/5だろうという予測はついていた。さらにこの調査はその場で簡単にできないので、例えばレベル1なら1日拘束し1時間ごとに温度を調べた。レベル2は一日ごとに5日間などと間隔をあけ、調べた。対象はパレス在住で、レベル1から4は20人、レベル5は10人である。アイテムボックススキル持ちの多くは、冒険者と商人なので、自分の財産から相応のバイト代を出した。


 以下は、公開を許可された女神様情報である。

・スキルの成長については、レベル5以上でもその数値が維持される。

・レベル10ではさらに容量1000倍、時間遅延1/10倍のボーナスが与えられる。

・迷い人以外には、この世界で生まれた人間のレベル10到達者は歴史上いない。


 各スキルレベルについては、レベル1でも色々有用、レベル4が熟練者、レベル7が英雄の端くれと言われている。実際、レベル4の容量を計算するとレベル1の125倍で、例えば5m*5m*10m。これは、ちょっとした倉庫の広さである。また、レベル7の容量はレベル1の15625倍で、例えば25m*25m*50m~3m*100m*100m、これは広い訓練場程度の広さである。


 スキルレベルを上げるための経験値については、他のスキルと同じように、何度も使うほど経験値が多く入るはずである。よって、特に工夫をしなければ、アイテムボックススキルで1日に得られる最大経験値は、最大容量を入れて24時間保持する事で得られるだろう。しかし、他のスキルと同様に、アイテムボックスキルにも才能あるいは何らかの工夫した訓練で経験値を多く得る余地があるのではと推測される。女神様は「スキルを持つ者たちが発展させるべき」事柄として、この事は管理していないそうである。

小説を書いてみたかったのですが、設定をどこまで詰めるべきかの塩梅が分からず、後世に伝える能力紹介用の小冊子という体になりました。

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