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石材を採取しよう(2)

 採取した岩塊をカノンと一つずつ革袋に入れて持ちつつ、引き続きセドナ南方を横断する岩壁に沿って進む。

 拠点直下の位置まではあと10分弱といったところだろう。


「カノン、重くない?」

「ん、ちょっとだけ。でも、これくらいなら大丈夫」

「パワフル」


 簡易食糧や携行水といったこまごまとしたものが入った革袋と、先ほど採取した5kgほどの岩塊を入れた革袋を担いだカノンが、頼もしい言葉を返してくれる。

 5kgちょいといえば、いろいろ水物を買い込んだ買い物帰りの買い物袋の重さくらい。

 そこそこ重いな。


 しかし、この分だと、資源採取に関してはいろいろと先が思いやられる。

 はやく圧縮バックパックが欲しいところだ。

 質量と体積をほんのり……最初のうちはほんのりと無視してくれるあの機能が解禁されれば、資源採取事情は劇的に改善する。

 ただし、前作では圧縮バックパックの解禁まで、ポータルほどではないがそこそこの時間がかかった。

 それまでは、それこそ原始狩猟採集生活的な苦労を味わうことになるだろう。


 だが、いずれ改善されると分かっているなら、この苦労も悪くはない。

 このゲーム序盤のままならなさがあるからこそ、圧縮バックパックやポータル解禁時の喜びも一入(ひとしお)なのだ。

 それらが解禁されれば、プレイヤー間での資源の流通が活発化し、他地域との物資のやり取りも容易になる。

 そうなれば、技術も加速度的に進歩していくだろう。

 今は人類がそうして歩んできたように、自分の力で物を運ぶしかない。

 【旅歩き】と【運搬】も、きっと縁の下で俺たちを支えてくれているはずだ。

 ……自分の力で、とはなんだったのか。


 左手に聳える柱状玄武岩の岩壁の崩壊は、俺たちが岩塊を採取した地点からますます進んでいる。

 もう少し歩けば、この岩壁はただの険しい岩場へと様相を変えるかもしれない。



 *────



「あっ」

「どしたカノン」

「ちょっと、岩の色、変わってる? そこの下のところ」

「下……おっ、ほんとだ」


 カノンの指さす先には、亀裂に沿ってばらばらと崩れ、ブロック状になった玄武岩の瓦礫の山。

 ……こういうのがここから先ずっと続くなら、わざわざ楔を使って岩の柱から採取する必要はなかったのでは……?

 いやでも、俺たちが採取した玄武岩はなんかきらきらしてたしな。

 ただの岩塊ではないかもしれない。分析が楽しみだ。うん。だから楔も無駄ではなかったんだよ。


 そんな玄武岩の巨大な岩塊が転がる岩場の下に、なにか灰色の岩石層が見える。


「……この岩、前にも見たことある?」

「どれどれ。……おっ、これ、たぶん玄武岩じゃないぞ」


 硬質でざらざらした表面というのは同じだが、これはかつて、マキノさんの拠点に向かう途中の森の中で見つけたものと同じ岩質だ。

 灰色のきめ細かい素地に、黒胡麻のような黒い結晶が散らばったような見た目。

 前回は「公園の石垣でよく見るやつ」という感想を持った、その岩石は、


「花崗岩、でよかった?」

「ああ、たぶん」


 花崗岩と呼ばれる、現実でも非常に有名な岩石。

 ……に、とてもよく似ている。

 うん、おそらくは花崗岩質に区分してよい思う。



 *────



 この惑星カレドは紛れもなく「地球ではない別の惑星」だ。

 当然、地球とはまったく異なる進化の道筋をたどった、さまざまな生命も存在する。


 だが、こと無機質に関しては、生成環境が類似するなら、この世界でも地球で見られるものと同じ種類の岩石が生成されるということはありうるだろう。

 なにせ、文字通り星の数ほどある宇宙の星々は、たかだか二百数十種の元素からのみ成ると言われているのだ。

 まったく未知の元素でできた、まったく未知の構造を持つ岩石など、早々に見つかることはない。


 ましてや惑星カレドは、人間が生存可能な環境であるという点で、地球と類似した条件下にある。

 この星では、音速を超えるガラスの雨が横向きに降ったりはしないし、摂氏300度の氷が地表を覆ったりもしない。

 局所的にはそうした超常気象が観測されることがあるかもしれないが、少なくとも星全体がそうした環境に包まれているわけではない。


 現在推測されている、地球という星の構造。

 すなわち地殻、上部マントル、下部マントル、外殻、内殻。

 それらを構成する元素成分。それらで生じる各種運動。

 そうした星の組成という点において、地球とカレドはある程度似通ったものであるはずだ。

 ゆえにこの星の大気成分は地球に近いし、地表に存在するさまざまな無機物も地球のそれに近い。


 ゆえに地球で見かけることが岩石が、このカレドでも見つかるということになんらおかしなところはない。

 地球でたまたま花崗岩と呼称されている岩石組成が、この星で見つかることもあるはずだ。



 *────



 花崗岩の成因については正直あまり詳しくないが……玄武岩の岩場の下に見えているということは、これも火山活動――マグマが関係しているのかな?

 いわゆる火成岩。セドナが高地化したとき、玄武岩と一緒に生成されたものか。

 玄武岩と花崗岩には、なにか生成事由に近しいものがあるのかもしれない。


 そうした地質歴史浪漫的な話は置くにしても、これは非常に幸運だ。

 なにせ花崗岩は御影石。

 各種道具用の石材としては一級品だ。


 なにせ、硬い。

 石製の道具の素材として、これほど適したものもそうないだろう。

 なぜなら、俺たちは素材の加工難度についてはそれほど気にしなくていいのだ。

 もっとも難しい加工作業自体は、製造装置がやってくれる。

 製造装置さまさまだぁ。


 カノンが指し示した花崗岩の層は、崩れた岩壁の中にところどころ見え、そのままずっと先へと続いているように見える。


「ここから先は……崩れた玄武岩と花崗岩の岩石層からなる、岩場になってるのか」


 そこで俺は一つ得心する。

 セドナの衛星写真で南にかすかに見えていた、白灰色の稜線。

 あれは山ではなく、主に玄武岩層と花崗岩層からなる岩場だったのだ。


 マジかよ。めっちゃ近場で石材取り放題じゃん。

 というかカノンの拠点、いわゆる神立地では?

 セドナはじまったな。


 そうしてしげしげと前方遥か続く(うずたか)い岩場を眺めてみれば、その岩壁は、そのほとんどが南側、すなわち高地の外側に倒れ込むようにして崩れていっている。

 俺たちがその果てまで歩いた、セドナ川流出地点の岩壁の厚みは100mほどだった。

 ゆえにこのあたりの岩場の厚みも、およそ100mほどはあると見ていいだろう。

 その向こう側は、セドナ高地の外側。すなわち高度約1,000mの空中となる。

 そう考えるとちょっと怖い、か?


 とはいえ、岩壁が倒れ崩れているとはいっても、崩れかけた岩壁はいまだ高さ10mほどある。

 その向こう側は、おそらく隆々と(そばだ)つ岩石地帯だ。

 どの程度安定しているかはわからないが、亀裂なども多く走っているだろう。

 あるいは下方に割れ裂けた狭い空洞――岩のクレバスなんかもできているかもしれない。

 滑落したら、それこそ「死ねない」「出られない」なんてことになりかねない。

 ……この岩場を超えていくのは、あまり得策ではないな。

 やはりセドナ高地の外を見晴らすならば、モンターナが教えてくれた、セドナ川の流出地点の岩壁の上がもっとも適していると思われる。


 考えれば考えるほど、あのあたりは神掛かった地形をしている。

 「セドナの真実」を知るのに絶好の状況(シチュエーション)が用意されている。

 そしてその状況は、人間の手によって用意されたのではなく、自然が作り出したのだ。

 そりゃあ『カレドの小片集』にも載るだろう。


「……あ、フーガくん。マップ内に、入ったみたい」

「おっと、このあたりがセドナのマップ下辺か」


 カノンが開いている仮想端末のマップを横から覗かせてもらう。

 俺たちの現在地は、セドナ全域を映した広大なマップの下辺。

 中央からやや左に寄った位置。

 マップの下辺と、セドナ南を西北西……西西西北西に走る白灰色の稜線が交わる位置。

 その稜線が表していたのは、この玄武岩と花崗岩の岩場だった。


 これ、衛星写真がもう少し引いた写真を撮っていたら、この岩場の「外側」が映っていたかもしれんな。

 そうすると岩壁の外側の断崖とかが映り込んでいたかもしれない。

 その場合、セドナが高地であることも、マップを見た時点で察することができたのかもしれない。

 まったくカメラさん、いい仕事をしやがるぜ。グッジョブ。


「……というか、ここからほぼ北に向かえば、もうカノンの……俺たちの拠点なのか」

「んっ。すっごく、近いね?」


 ここから俺たちの拠点までの距離は、1kmと少しと言ったところだ。

 カノンの脱出ポッドから、セドナ川の果て、あの岩壁のところまで、直線距離で言えば2kmくらいなのかもしれない。

 拠点から東に15分ほど歩けばセドナ川に突き当たる。

 そこから南に30分ほど歩けば川の果ての岩壁だ。

 歩きの速度を4キロ毎時とすれば、直線距離は……やっぱり2.2kmちょいだな。

 ここまでの感覚とも一致する。


 俺たちはセドナ川の果ての岩壁からここまで、岩壁に沿って西北西に歩いてきた。

 だから、ここから拠点に向かって北上する場合、往路の南下に掛かった時間よりも短い時間で拠点に辿り着くことができるはずだ。

 ここから北に20分も歩けば、もう俺たちの拠点に辿り着くだろう。

 つまり俺たちの拠点は、最寄りの採石場まで徒歩20分というわけだ。

 これなら往復もそれほど苦じゃないな。すばらしい初期立地だ。

 拠点の位置は動かせるとはいえ、これほど恵まれた立地もそうあるまい。


「うん、カノンの脱出ポッド、めっちゃいい位置に墜ちたな。もう動かさなくてもいいくらいだ」


 まばらな樹林帯の空き地にあって日当たりがよく風通しもいい。

 カオリマツの樹林のおかげで強い風にも晒されない。

 東に少し歩けば採水場。氾濫の危険に晒されるほど近くはない。

 南に少し歩けば採石場。崩落の危険に晒されるほど近くもない。

 北西に歩いていけば、マキノさんを含む他のプレイヤーの拠点群。

 北にはセドナ中央に広がる平野部。

 あれか、牧場生活を楽しむ物語でも始めてみようか?


「そうだ、ねっ。このあたりに落ちなかったら、フーガくんと逢えなかったかも、だし。

 ……ここで、よかった」

「その節は本当にご心配をおかけしました……」


 カノンのなにか感慨が籠った言葉に、思わず平謝る。


 考えてみれば、俺とカノンが約束の時間までに合流できたのって、本当にたまたまだよな。

 仮にカノンの初期開始位置がセドナ北部だったりしたら、約束の時間にはまず合流できなかっただろう。

 ……すべては、俺がテレポバグで遊んでたせいだ。

 寄り道は、約束に間に合うという大前提があってこそ許されると知れ。


「ううん。いい、よ。……フーガくんが、変わってなくて、嬉しかったから」

「……俺もそうだったよ、カノン」


 気恥ずかしい雰囲気に耐えられず、努めて口調を変える。


「……っさ、このあたりでサクッと石材を採取して、拠点に戻ろう。

 革袋にもそこそこ余裕あるし、このあたりで面白そうなもの探してもいいな」

「んっ、りょうかい。……もう夜遅いけど、……だいじょう、ぶ?」

「……実は既に、明日の有休をとってあるのだっ!

 ……カノンこそ、明日は大丈夫なのか?」


 さりげなく。

 あくまでさりげなく、だ。


「……ん。わたしも、明日は、だいじょうぶ、……です」

「……そりゃあ幸運だ。でも、夜更かしすると肌に悪いし、そこそこにしような?」

「んっ! わかった」


 明日も、大丈夫らしい。

 大丈夫だというなら、大丈夫なのだろう。


「よし、じゃあこのあたりで散策だ。目安は30分から1時間で。 れっつごー!」

「ご、ごーっ!」

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