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フレンドコール

  prrrrrr


 脱出ポッドの中に、軽いコール音が響く。


「――あっ、マキノさんからの、コール、みたい」

「おっと」


 俺たちがこの世界ではじめて遭遇したプレイヤーであり、はじめてのフレンドであるところのマキノさん。

 早速フレンドコール機能を活用する機会が来たようだ。


「でる、ね?」

「頼む」


 カノンがコンソールでぽちぽちと操作を行う。

 実際に遭遇してフレンド登録を行ったプレイヤー同士は、その拠点である脱出ポッド間であれば無線通信が利用できる。

 前作ではモニター越しのビデオ通話みたいな感じだったが――


  ブォン――


「うぉっッ!?」


 突如、脱出ポッドのなにもない一角に、人影大のホログラムが投影される。

 徐々に解像度が上がって鮮明になるそのホログラムは、この世界での初期装備に身を包んだプレイヤーのもので――


『――こんばんは。そちらにも姿が見えていますか?』

「やっぱり、マキノさんだな! こんばんは」

「こんばん、は、です」

『ああ、これで……大丈夫なようですね。

 ……なるほど、この世界に似合った、どこか小洒落た演出ですね』


 昨夜見た姿そのままの、マキノさんの姿が、3Ⅾホログラムで投影される。

 仮想ウィンドウのように細かな立方体のエフェクトが散っており、ここに居るプレイヤーとの見分けは簡単につく。

 ……敢えてそれっぽい演出にしているのかな?

 ()()()()()と言うあたり、向こうでも俺たちの姿がホログラム投影されているのだろう。


「現実でも似たような技術はあるみたいだが、この世界だと一段と()()()感じがするよな」

「んっ、かっこいい、かも」

『そうですね。3Ⅾプロジェクターも日進月歩ですから』


 現実でも重役会議とかではけっこう使われてるらしいな。

 俺はそんな大層なものを使う会議にはいまだ縁がないが。


『ところで、いま、よろしいですか?』

「ん、なにか要件がある感じか」

「だいじょうぶ、だよね?」

「うむ。一旦飯落ち……失礼、現実で夜ご飯を食べるかとカノンと相談していたところだ」


 マキノさんはゲーム慣れしてなさそうな雰囲気があるからな。

 ゲーマー的な用語は避けよう。


『おっと、これは失礼しました。

 では、夕食後で構いませんので、少々お聞きしたいことがあるのですが。

 よろしければ少しお時間を頂けませんか?』

「その口調だと、急ぎの要件ではない?」

『はい、急ぎではありませんね。

 この世界の夜について勝手がわからず、少々暇を持て余してしまいそうなので。

 他の方は一般的に夜をどのように過ごされているのかお聞きできればな、と。』

「なるほど、それはわかる」


 前作未経験、かつゲーム慣れしていないとなると、この世界の夜の時間は持て余すだろう。

 助言というわけではないが、参考にしてもらうことぐらいはできるかもしれない。


「ん、じゃあ、夜ご飯食べたら、また?」

「そうだな。マキノさん、現実時間で午後9時からは大丈夫か?

 そろそろ夜ご飯の時間だし、そちらもまだなら、よければ」

『お気遣いありがとうございます。

 では、こちらもそれまで食事休憩を挟ませて頂きますね』

「ん、では午後9時に。今度はこちらからコールするよ」

「また、ね?」

『はい、ではのちほど』


 そうして別れの挨拶と共に、マキノのホログラムが消え――ない。

 ……ああ、向こうからコールしたからこちらが切るのを待ってるのか。

 大人の対応だな。


「カノン、コールはこっちから切ろう」

「ん、じゃあ、のちほど?」


 会釈とともに無線通信を切ると、投影されていたホログラムがシュンっという音とともに消える。

 いちいち近未来SF的でかっこいい。

 エフェクト製作者のこだわりを感じる。


「……ふぃー。

 ……いやぁ、マキノさんにため口で話すの、なんというか緊張するな。

 どう考えても年上だぞ、あの人」

「サラリーマン、みたい?」

「いや、そっち系というより、……なんかアカデミックな感じがする」


 学術的、というか、あたまよさそう、というか。

 言の葉の細部まできちんと感情が宿っているためか、ビジネスライクというわけでもないのだ。

 やっぱあれか、植物関連の論壇の方なのだろうか?


「だが俺はため口を貫く……ッ!!」

「無理しなくて、いいんじゃない?」

「今の俺は(フーガ)だからな」


 絶賛ロールプレイング中だ。

 現実の対応を持ってくると、夢から醒めてしまうようで、なんだかもったいない。


「……ま、それはいいや。予定通り、2時間くらい開けてまたここで。

 9時にマキノさんにコールだから、できれば5分前までには戻ってこよう。

 なにか急用があったら、現実の方にメッセ飛ばしてくれ」

「ん、わかった。……あれ、メール、送れる?」

「えっ? ……そういや、俺とカノン、今作(こっち)ではまだフレ登録してないっけ」



 *────



 近年のゲームでは、ゲーム内のフレンドシステムと現実のシステムデバイスのフレンドシステムが同期していることが多く、フルダイブしていなくてもゲーム内のフレンドにメッセージを送ることができる。

 ゆえに、たとえば体調不良でダイブインできない場合でも、ゲーム内のフレンドにそのことを伝えることができるようになっている。

 それができないと、体調不良が回復するまで音信不通になっちゃうからな。

 逆もしかりで、ゲーム内から、ダイブインできないでいる現実のフレンドにメッセージを送ることもできる。

 当然、ゲーム内でフレンドなら、ダイブインしていない状態同士でメッセージをやり取りすることもできる。

 その辺はフレンドごとにこまかく許可・不許可を分けることができるから安心だ。


 更に言えば、このゲームではゲーム内のフレンドだけでなく、自分がフェロー以上で登録されている拠点に対してメッセージを送ることもできるようだ。

 たとえば複数人でマルチプレイをしていて、俺とカノンのように拠点を共有しているとき、いちいち複数人に同じメッセージを送らなくても、その共有拠点にメッセージを送ることで、その拠点を訪れたプレイヤー全員がそのメッセージを自動受信できる、という感じだ。

 いわば現実世界からゲーム内の拠点への書き置きだな。

 俺のような()()()の状況に陥るプレイヤーはそうそういないだろうが、マルチプレイを考慮した便利な機能だと思う。



 *────



「……登録、いい?」

「今更と言えば今更だが、あらためてやっとこうか。――ん、送ったぞ」

「ありがとっ。……いまはまだ、お互いの場所とかは、わからない?」

「発信機系が未開放だからなぁ」


 このゲームでは、ゲーム開始時点では、仮想端末のマップに、他のプレイヤーの位置情報などは表示されない。

 その仕様はフレンドも同様だ。

 そのため探索先で互いを見失うとはぐれることがあるし、マップ圏外まで行ってしまうと普通に遭難もする。

 というかマップ圏内にいても知り合いが遭難したりする。

 プレイヤーに発信機をつけて置けば拠点からそのプレイヤーの位置を確認できるし、さらに技術が進めば拠点外でもリアルタイムでそのプレイヤーの位置を確認できるようにもなるのだが――

 それはたぶん、だいぶ先の話だ。

 いまのところ、マップに自分以外のプレイヤーの位置情報は表示されない。

 今後、カノンと逸れることがないように注意しないといけない。


「よし、全許可で登録おっけー。なんかあったら、いつでもメッセ飛ばしてくれ」

「んっ、フーガくんも、ね」

「りょうかい。じゃ、お先に」


 カノンとのフレンド登録を終え、ダイブアウトの処理を始める。

 処理と言っても、仮想端末からダイブアウトのアイコンを押すだけだが。


「……ちゃんと時間通りに戻るから、カノンもゆっくり飯食えよ?」


 前回のダイブアウトのときにカノンが見せた表情が頭をよぎり、思わずそんな言葉を掛ける。

 下手すると30分前とかにダイブインして待ってそうだからな、カノンは。

 ちゃんと飯食うなり風呂入るなりしたほうが良い。


「んっ、わかった。――また、あとでね」


 返ってきた言葉に一つ安堵。


「んじゃ、またあとで」


 次に戻るころには、この世界の夜は更に深まっているだろう。

 そうして俺は、この世界から離脱した。



 *────



(……ふぅ)


 ニューロノーツの導きにより、無事に仮想世界から現実世界へと帰還。

 ダイブイン・ダイブアウトって、意識の連続性がほんの一瞬途切れるんだよな。

 舟を漕いでいる前後での一瞬の空白というか、そんな感じの。

 既に2、3回体験しているが、いまだに馴れない。


 夕食とシャワーを済ませ、ひと段落つく。

 さて、例によって公式ホームページでも確認しようか。

 まだサービス開始から2日目。

 大した新情報もないだろうが――


「……お?」


 公式広報のお知らせに、黄色い三角の注意アイコンとともに、こんなお知らせが掲載されている。


『感覚同調補正(痛覚補正)に関するお問合せについて』


 うん?


 内容を確認してみると、ざっくり言えば「感覚同調補正を全開にするとショックが大きいから不用意に切らないでね!自己責任だぞぉ」ということらしい。

 どうやら、さっそく誰かがクレームを飛ばしたようだ。


『感覚補正弄ったらくっそ痛かったぞふざきんな!111』


 みたいなご意見が飛んだのだろうか。

 それとも、


『これは現実に悪影響を与えるのでは? 俺はいいけど世間的にはどうなの? 知らんけど』


 みたいな世論の代弁者気取りのご意見だろうか。


 当然だが、その手の警告は、このゲームの起動時にちゃんと表示されている。

 伊達に年齢制限を掛けられているゲームではないのだ。

 だから、このゲームをプレイしている以上、そのあたりは了承済みのはずだ。


 それにオプションで感覚補正を切ろうとするときも、明らかにヤバそうな警告が出るんだがな。

 ショックが大きいのでおすすめしませんとか、同調率は30%程度を推奨しますとか。

 現実の身体への影響云々とか、異常を感じたらすぐに医師に相談云々とか。

 肉体の反応が一定の閾値を超えた場合のフルダイブシステムによる強制ダイブアウト云々とか。

 そうした警告を読んだ先でしか、同調補正のスライダーを動かすことはできない。

 ゆえに、本来はこうしたお知らせを載せる必要すらないはずだ。

 だが――


(まあ、どれだけ丁寧に言っても、クレーマーってのは湧くよな)


 煙草を吸ったら肺癌になった、なんて言う人間はいないだろうけれど。

 電子レンジに卵を入れたら爆発した、なんて言う人間も、流石にもういないだろうけれど。

 ゲームでなら、そういう文句を言ってもいいのではないかと考えてしまう人間がいる。

 自分の意見が大衆の正義であるかのように思ってしまう人間がいる。

 そうしたいちゃもんをつける人の中で、煙草と痛覚補正オプションの間に、いったいどのような区別がつけられているのかはよくわからないが……。


 お知らせに目を通した限りでは、感覚補正の仕様について、特に変更を行う予定はないらしい。

 オプションにある、同調補正スライダーの下げ方を紹介して終わりだ。

 公式に送られたご意見が、いったいなにを望むものだったのかは知る由もないが、俺にとっては素直にありがたい。

 せいぜい警告がさらに過激になるくらいであって欲しい。

 サバイバルゲームで強制的に感覚を鈍くされるとか、縛りプレイもいいところだ。

 全身常時うっすら麻痺状態とか勘弁してくれ。

 痛いのが嫌ならば、おとなしく感覚同調を最低にすればいい。

 そうすれば、ほぼ無感覚レベルまで補正を掛けられるのだから。


 それに、そうやって痛覚補正を打ち切ってしまっても、この世界を楽しむことはできるはずだ。

 なんたって前作『犬』には、触覚も嗅覚も味覚もなかったんだからな……!

 この世界で増えた、三つの知覚。

 それを各自が楽しめるような形にしてくれてるんだから、自分で調整すればいいと思うんだが……。


 誰とも知らないクレーマーと頭の中で不毛な討論を交わし、交渉決裂したあたりで思考を打ち切る。

 うん、俺が考えることじゃないな。

 そのへんは公式にお任せだ。

 預かり知らぬ。



 ……では。

 公式のチェックも終了。掲示板はまだお預け。


 時間もいい感じだし、いざ再びもう一つの世界へ。

 フルダイブに感動している身としては、感覚のずれは少ないほうが良い。

 仮想現実(バーチャルリアル)現実(リアル)のように楽しむためには、ゲーム的な違和感は少ないほどいいのだ。

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