パターン別、新型コロナウィルス禍における有効な経済政策
“デフレスパイラル”という経済で起きるあまりよろしくない現象があります。
何らかの原因で、大勢の人が失業してしまったとしましょう。その失業者達は、或いはしばらくは消費が可能かもしれません。貯蓄があるでしょうからね。
ですが、収入がない訳ですから、やがて貯蓄は底を尽き、商品を買う事はできなくなってしまうはずです。すると、商品が買われないことで、企業の利益は減ってしまいます。そうなれば、企業は人を雇い続けられませんから、労働者を解雇してしまうでしょう。つまり、失業者がまた発生してしまうのです。
以後、これが繰り返される事で、経済社会が縮小していってしまう…… これが“デフレスパイラル”と呼ばれる現象です。
当然ながら、失業ではなく労働賃金を減らされてしまった場合でも同様の現象が起こります。失業ほど、インパクトは大きくありませんがね。
2020年の初め頃に中国の武漢で発生した新型コロナウィルスは、その後世界中に蔓延しました。それはこの日本も例外ではなく、2020年4月現在、テーマパークや演劇、飲食店といった様々な業種に悪影響を与えています。
中止や休止を余儀なくされたり、お客さんがほとんど来なくなってしまったり。
それにより、入社予定の人が企業から内定を取り消される、または派遣社員が辞めさせられてしまう等々といった事が起こっています。
つまり、“デフレスパイラル”を引き起こしかねない失業者の発生が起こってしまっているのです。
“デフレスパイラル”を防ぐのに有効なのは、なんと言ってもセーフティーネットで、実際に日本政府はそのような政策を執ろうとしています。
収入を断たれてしまった人に、支援をする。または労働者を雇い続けられるように企業に対して支援をする。
そうする事で、生活必需品などの消費の維持が可能になり、経済の萎縮を食い止められるのですね。
ですが、それだけじゃ不充分と主張している人達もいるのです。
「全世帯に一律、現金を配るべきだ」
と。
しかし、それは本当に効果的な政策なのでしょうか?
もし仮に、これから(2020年4月現在)、新型コロナウィルスの蔓延が急速に抑えられるというのであれば、“生活に困っている人”以外にも現金を配るその政策は充分な効果を得られるかもしれません。
新型コロナウィルスによって抑制されていた各種ビジネスの活性化を促せるからです。
生産力が充分にある条件下なら、世の中に出回るお金の量を増やせば、それだけ経済が活性化する可能性があるのですね。
お金を持った人が、何か商品を買おうとしたら問題なく手に入れられて、その買った分だけGDPも増えます。
つまり、
1.新型コロナウィルスを急速に克服できるのであれば、一律現金給付は効果的
という事になります。
が、しかし、新型コロナウィルスの災禍がまだまだ続くというのなら、お金を配っても、それほど効果を発揮しないかもしれません。
お金があっても、新型コロナウィルスの所為でビジネスが抑制されているので、そもそもあまり物が買えないからです。
もちろん、生産力が抑えられている商品は一部に過ぎません。まだ買うことのできる商品だってたくさん存在します。ですが、そういった商品を消費するようになったとしても、それが経済全体に効果的に働くとは限りません。
インターネットを介するダウンロードによって購入が可能な、“デジタル化可能な商品”は新型コロナウィルスの悪影響を受け難いですから、或いは需要が伸びるかもしれませんが、それで潤うのはごく一部の企業や個人でしょう。
(もっとも、一般の劇場で公演ができない演劇などは、この機会にオンライン公演を試してみるというのも一つの手かもしれませんが)
デジタル化可能な商品の多くは、生産力が著しく高いという特性があります。CGイラストを購入する場合を考えてもらえば分かり易いですが、原画を完成させてしまえば、後は単にデータをコピーするだけで、生産が可能で、自動ダウンロードなら、通常の店舗のような店員も必要としません。
つまり、労働需要はあまり増えません。
これでは、商品の消費を促したとしても、失業者達の再就職の場をつくる事はできません。
要するに、
2.新型コロナウィルスの災禍が長期化する場合は、一律現金給付は効果が薄い
です。
そして、もし新型コロナウィルスの状況が酷くなっていくのなら、それは効果が薄いどころか悪く作用するかもしれません。
何故なら、“スタグフレーション”を酷くしてしまう危険性があるからです。
前述した通り、生産力が充分に高いのであれば、お金を世の中に回せば、商品を皆が買うようになるかもしれません。
ですが、生産力が低くなった状態では、お金を貰っても何かを買う事はできません。だって、生産力がないのですから。買おうとしても、そもそも商品が少なく、直ぐに売り切れてしまうでしょう。
そして、その状況下では、物価が上昇します。
需給バランスのうち、“供給”が減ってしまった状態ですね。需要の方が供給よりも大きくなるので、物価が上昇してしまうのです。
このように、生産力の低下によってもたらされる物価上昇を“スタグフレーション”と呼びます。
さて。
そんな状態で、もし“国民のみんな”にお金を配ってしまったなら、何が起きるでしょうか?
数少ない商品を我先にと買おうとし、物の値段は更に上がります。つまり、スタグフレーションを酷くしてしまうのです。
そして、
新型コロナウィルスが蔓延した状態は、“生産力が抑えられている状態”です。つまり、“何か商品を買おうとしても、そもそも商品が買えない”状態です。
今(2020年4月現在)はまだ、スタグフレーションは起きていませんが、これから新型コロナウィルスの蔓延がもっと酷くなっていけば、起こってしまう可能性はあるでしょう。
3.新型コロナウィルスの災禍が更に酷くなって生産力の低下を余儀なくされた場合、一律現金給付は悪影響をもたらす
という事ですね。
そのリスクをどれだけ高く見積もるのかは、人によって様々ですが、仮にここでは物凄く心配性になってみましょうか。
最悪のケースを考えます。
新型コロナウィルスの蔓延によって、食糧の生産力が低下したとします。例えば、お米が今までの半分程度しか作れなくなったとしましょう。
この程度の生産力の低下なら、餓死者は出さないで済むかもしれません。
が、ここに“食糧品が買えなくなる”というデマが広まってしまったら、どうなるか分かりません。
一部の人が買い占めに走り、食糧品を買えなくなってしまう人が出て来るかもしれない。
もし、“国民のみんな”に現金を配ってしまったら、これに拍車がかかります。当たり前ですが、“お金があるのなら、食糧品を確保しておこう”という心理が働き易くなるからです。
普通に考えるのなら、食糧品の値段は高騰します。買えなくなる人が出て来てしまうかもしれません。
そうなれば、もしかしたら、餓死者が出るなんて事態にすらなってしまうかも……
下手すれば、生きる為に食糧品を奪い取るなんて人も現れ、治安が一気に悪化する危険性だってあります。
ただ、日本の場合は、企業が成熟しているからか、こういったケースでも商品の値段を高くしないで、「一人当たり○個まで」なんて方法で対応をすることが多いので、意外に大丈夫かもしれませんが。
「日本の“民間”は誠実で優秀だな」って、よく思います。
もう一度断っておきますが、これは最悪のケースを考慮した場合の話です。しかし、そのリスクに備えるのなら、
「新型コロナウィルス対策を生活にとって重要なライフラインに徹底させる」
事が、まずは経済政策として重要なのではないかと僕は考えます。
感染予防の支援はもちろん、仮に感染者が出てしまった場合でも、代わりの労働力を直ぐに補充できる体制をつくります(新型コロナウィルスの所為で、職を失ってしまった人、或いは休職中の人が大勢いるので、これはある程度は可能ではないかと思われます)。
そうして、ライフラインを確保した上で、収入がなくなり生活が困難になってしまった人に対しては現金を支給し、生活を保障します。
この状態を実現して、社会のみんなに安心感を与えられれば、社会がパニックになって、治安が悪化するなんて事態にまでは至らないでしょう。
一応断っておきますが、伝染病は指数関数的に感染が広がっていきます。そのスピードは非常に速く、感染が蔓延してから対応しようとしても既に手遅れです。
先手で対応しておいて、もし何も起こらなかったのなら「心配し過ぎだ」と馬鹿にされるくらいの感じを目指すというのもアリなのではないかと僕は思います。
もっとも、無事に済んでしまったら、絶対に批判されますけどね。
今までの結論をまとめてみます。
1.新型コロナウィルスを急速に克服できるのであれば、一律現金給付は効果的
2.新型コロナウィルスの災禍が長期化する場合は、一律現金給付は効果が薄い
3.新型コロナウィルスの災禍が更に酷くなって生産力の低下を余儀なくされた場合、一律現金給付は悪影響をもたらす
そして、この“3”の状態では、ライフラインの確保を最重視し、国民の生活を保障するべき……
という感じではないかな?と。
リスク管理っていうのは、結果論で述べるものではなく、被害の大きさと可能性、コストから判断するべきものです。
コストがそれほどかからず、リスクが大きいのなら、手堅い手段を執るというのも選択肢の一つではあるはずでしょう。少なくとも、生活は保障される訳ですし。
“3”の状態の安全策について言えば、コストはそれほどかからないと思います。感染症予防はそれだけで経済効果を生みますし。そして、最悪の事態が起こってしまった場合、その被害は甚大です。
もちろん、問題はそれが起こる確率ですが、これを導くのは非常に難しいです。もしかしたら、本当に杞憂なのかもしれません。それでも総合的に観て、リストとリターンのバランスはそれほど悪くないでしょうけどもね。
ただし。
新型コロナウィルスについて楽観視する向きもあります。
新型コロナウィルスは、季節性のインフルエンザと同じで、これから湿度が高くなっていけば、死滅するというのですね。
が、色々と調べてみたのですが、インフルエンザは湿度に弱くて、気温が高くなっていけば流行は治まるなどと言わていたのは実は間違いで、夏の熱帯地方でも流行していることが分かって来ているそうです。
(調べたと言っても、情報源はネット記事なので、それほど信用しないでください)
つまり、どうしてインフルエンザが温帯で冬に流行するのかは謎なんですね。
そして、もし仮に日本で新型コロナウィルスの流行が治まっていくのだとしても、他の地方では流行は続くかもしれません(地域によって、どんな季節にインフルエンザが流行するのかは異なっているのだそうです)。
近年の季節外れのインフルエンザの流行は、そういった別の地方からやって来る旅行者によってもたらされている可能性があるそうなので、完全に新型コロナウィルスが撲滅できるとは考えない方が良いでしょう。
更に言うと、もし季節性のインフルエンザと同じなら、4月に入れば治まっていくはずですが、まだその兆候は観られません。
ならば、仮に楽観視するにしても、“2”の前提で様子見をし、“3”の状態になるのを警戒しておく…… というのが無難なのじゃないかと思います。
それに、仮に一律の現金給付を行ったら行ったで、絶対に「ばら撒きだ」と批判して来る人は出て来るでしょうしね。
さて。
今までの話では、“財源”の問題を棚上げにして来ました。
現金を給付しようにも国に“財源”がなければ、どうにもなりません。一体、どうすればいいのでしょう?
ところが、MMTという理論を支持している人達は、「財源は気にしなくて良い」と主張しているのです。
「通貨は、いくらでも増刷できる」
と。
もちろん、生産性の裏付けなく通貨を発行し続けてしまったなら、やがて物価が上昇してしまいます。それが社会的に問題になるまでに至る危険性だって充分にあるでしょう。
ですが、そうなってもMMT理論では「増税すれば良い」とされているのです。
「増税して発行した分の通貨を回収すれば、物価は低くなるだろう」と。
ですが僕はこれには疑問があります。
確かに理屈上は可能ですが、増税ってそんなに簡単にできるもんじゃありません。増税するにしてもどこからどう取るのでしょう?
今回のケースなら、現金を支給した人や企業以外から税を取ったなら絶対に不満を抱く人が出て来ると思いますが、果たしてそんな器用な事ができるのでしょうか?
しかも、金融市場って急激に変化するんです。かなり柔軟かつ迅速に対応しなくては、増税は間に合わず、社会に混乱をもたらしてしまう危険が高いです。
――が、そういった問題を克服する方法がない事もないと僕は思うのです。
“現金給付”という形だから、いざという時、その分の通貨を回収する事が迅速にできず、その対象も不公平になるのです。
ならば、“無利子融資(貸付?)”という形にすれば良いのではないでしょうか?
国が企業や個人に対して、無利子でお金を貸してあげるのですね。そして、償還期限は時期で設けるのではなく、「物価が問題になるレベルにまで上昇した時」とするのです(これはもちろん“増税”に相当します)。
これなら、物価が上昇し始めるなり迅速に対応が可能で、給付を受けた人がそのお金を返すだけなので不公平感もありません。
そして、その場合でも、金銭的に余裕のない企業や人に対しては、猶予を設けるなどの救済措置を用意しておけば、大きな問題はないはずです。
詳細はまだまだ詰める必要がありそうですが、これなら概ね財源問題を気にせず、新型コロナウィルスに苦しむ民間の支援を行えるのではないでしょうか?
現在、新型コロナウィルス対策の「支援額が少ない」という懸念が出ていますが、この方法なら一気に支援額を増やせるように思います。
自分で書いておいてあれですが、これ、誰に読ませる為に書いたんでしょうね?