第7話
「勇者よ。よくぞ、ここまで来た。貴様の力を今ここに示せ。」
東京タワーも軽々倒しそうな程の巨体。
少しの腹摺りで大地震並みの地響き。
分厚い龍翼の羽ばたきは猛烈な台風の様で、その場から吹き飛ばされないように耐えるのがやっとである。
さすが、ラスボス級だ。
——ん?というか、喋るんだな。そっか、そういえばモンスター図鑑に書いてたな。まれに喋れるモンスターもいると。S級クラスのモンスターなら知恵もあるのだろう。
「ふはは、元気なトカゲじゃ!」
ルシファーは、楽しそうに笑う。
ファイナルドラゴンは、口から巨大な炎の塊を溜めている。まるで太陽のように眩しくて目も開けられない。
その凄まじいエネルギー量に、「あ、これはさすがに死んだかな。」と僕は思った。
さすがに、ルシファーでも倒されはしなくても、無事では済まないだろう。
「行くぞ!冒険者よ!龍の力とくと見るが良い!終焉ノ炎、ファイナルフレ・・」
「黒炎」
——ファイナルドラゴンは決め台詞を言う前に消し炭となっていた。
「ふはは、消し炭が残るとは少しはやるようじゃったなトカゲよ!!」
ルシファーは、小さな牙が見える程、楽しそうに笑っていた。
(こいつ、無敵じゃねぇか・・・)
と思いつつ、ファイナルドラゴンの落とした光り輝く玉を拾う。これも、高く売れそうだな・・て、あれ?
「なぁ、ルシファー。そういえば僕たちの目的はファイナルドラゴンの鱗1枚だよな。消し炭にしたらダメなんじゃないか?」
ルシファーは、こっちを向いてハッとした表情をする。
「しまった!楽しくて燃やしてしまったわい!!」
「おい!どうするんだ!!」
ルシファーは少し悩んだ顔をしたが、すぐに開き直った。
「仕方ないじゃろう!今のわしには黒い炎しか使えないんじゃ。朔が弱いからじゃろう!」
(だから、その為に鱗を取りに来たんだろ!)と僕は思ったが・・・まあ仕方ない。こんな小悪魔と喧嘩しても仕方がない。そこまで、僕も子どもではない。
モンスター図鑑を見る僕。確か、倒したモンスターの情報は詳しく追記されている仕組みのはずだ。ええと・・あった、『終焉龍ファイナルドラゴン』S級ボスモンスター。沸き時間1時間。
——あらら、意外と早く湧くんだな。仕方ない。1時間待つか・・
「ルシファー!1時間したらまた出現するらしい!とりあえず燃やさないで済む作戦を考えながら、ここで待とう!」
「むぅ、仕方がないのう。なら、朔よ。わしはチョコレートが食べたいぞ。」
はいはいと思いカバンを開けようとするが、僕はハッと気付く。・・・やばい、ルシファーが寝ている間に僕が残りを食べてしまった・・・
「・・・その、ごめん。僕もお腹が減ってて残りを食べてしまった。」
僕の言葉を信じられないとばかりに衝撃的な表情をするルシファー。
「ガーーーン!!朔!この愚か者!!ばかばかばかばかばかばか!」
ただをこねる子どもの小悪魔にポカポカと殴られる僕。
「仕方ないだろ!分かった、帰ったらもっと良いものを買ってあげるから!」
「ばかばかばかばか!なんじゃ!そんなものでわしが許すとでも思うのか!!」
「そうだ!高級な生チョコを買ってやろう!」
ルシファーのポカポカと殴る手が弱まる。
「な、生チョコじゃと?!」
「ああ、外はふんわり、中はとろーりとした口溶け最高の最高級チョコレートだ。」
「外はふんわり、中はとろーりじゃと!そんな一挙両得のチョコレートが存在するのか?!!」
「ああ、存在する。」
「本当じゃろうな?」
「本当だ。」
ようやく、ルシファーは僕を殴る手を止めた。
「あー。それは楽しみじゃ。」
一件落着。上機嫌になったルシファー。
それと同時に、僕たちの後ろから誰かの足音がした。