帰れない
震災のあとの、女性がつぶやく。
シートに覆われた、中にだれがいるのかは、知っていた。
警察もいる。
嘘はつけない。
わずかにはみ出た指が、汚れていた。
早く洗ってあげたい。終わりにしよう。
シートをつかみ上げ、制止されたが、ここで怒りが爆発した。
違う、あんたじゃない、眼の球がない、何年も待って、このざま。
自分の腰がぬけ、くらい群青の海が、あんたの台にもあふれる。
誰か呼びますか。
いいえ誰もいないの。
ひとりにしてください。
見たくないので、シートを被せて。
このひとは悪いことばっかり、したのださ、でも終わったんださ。
この方を、お引取りいただけますか。
連れてはいけない、家には娘も息子もいる。
誰も呼べない。
埋葬許可証を、手続きし、自分で法華経をあちこち唱え
近くの焼き場で終わった。
娘になんと言おう。また私をなじり砲火にまみれた火宅になり、弟にもあたる。
財布が気になった。
焼き場の5000円と、焼けるまでの、日本酒200円。
このまま帰るか、残りの4000円でどこに行けるか、
あんなやつに、「文学なんて言うな、ガキ」
「ショんべんくせ、な」
から
私の一生のあらすじは見え、そのとうりにすすみ、ここにいる。
しゃがみこむと、ふとった腹がつかえて、尻がついた。
ははは、笑った。
この震災で、笑ってる自分がさらにおかしく、この静謐の異常が私を狂わせた。
家族が壊れていく、身近なもののひとり語り。




