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歩いていると前から冷たい風が吹いてきた。
多分魔物だな。
雪女、雪男、勇者の専属を選ぶくらいならもっと強いやつか?
しかし俺たちはまだ見習い。
魔物といっても弱いウサギ科の魔物とかしか手にかけたことはない。
恐る恐る俺は剣に手をかけ歩みを進めた。
そういえば、さっきまでの人混みが嘘のようになくなっている。
俺、道間違ったのかな。
それはやばい………。
後ろを振り返った時だ。
後から考えると敵前で背を向ける俺はとんでもない馬鹿だ。
突然後頭部に重い衝撃を受けた。
脳が揺れたのがはっきりと分かった。
ただ訓練を受けているだけあり,目眩がして倒れる、なんてことはない。
素早く敵を見据る。
水色のドラゴン。
ドラゴンは後ろを向いているので、どうやら尻尾があたまに当たったようだ。
どすん、
ドラゴンがゆっくりこちらを振り向く。
俺の頰に冷や汗が流れる。
怪しく光る目。
その大きな目は俺をしっかりととらえている。
今気がついた。
ドラゴンの奥には剣を手にした青年。
俺より少し年上の18歳くらいかな。
彼との戦いでドラゴンが後ずさったところの俺。 ということだろうな。
っていうか人いた。
どうしよ、これってじゃあ頑張って闘えよっつって逃げていいのか?だって相手の獲物じゃん。俺が横取りすんのはまずいよな俺別に騎士団入りたいわけじゃねえしよどうしよう逃げるのであってもどうせドラゴンの気をあちらに引かせないと逃げれんクソこいつ年上だから強いよな強いよな?
「おいライニッケ!」
「はい!」
反射で返事をしたもののなんで俺の名前(しかも苗字)知ってんだ!?
動揺している俺を先輩は睨む。
「氷のドラゴンの対処の仕方を思い出せ。落ち着け動揺が隙となり敗北を生む」
決して叫ばず低い通る声で先輩は俺を落ち着かせた。
流石浪人生。
なんか漢字ばっかで放浪人生みたいだ。
いや、先輩はそんな人じゃないだろう、すんません。
先輩のいう通りに氷のドラゴンの対処の仕方を脳裏に浮かべる。
「………んじゃ、行きます!」
地を蹴る。
魔術で身体強化し、ジャンプ力を倍増。
剣にも魔術を施し微振動をおこす。
ブシュッッッッッツ
生々しい音。
絶命したドラゴンからの視線。
その目の閉じている瞳孔。
自分の剣から滴り落ちる血。
全てが俺の脳裏に今この瞬間焼きつく。
地面に足がついた瞬間俺は膝から崩れ落ちた。
しかし俺の後ろに迫る影。
這うように振り返るとドラゴンの胴体がこちらに倒れてきていた。
「ライニッケッッ!」
「…け!………ぅ動けェェェエ!」
自らのこと言葉が俺の味方となる。
がむしゃらに横に飛び退いた。
獣臭い轟音があたりに響き渡る。
突風が吹き俺の鼓膜をくすぶる。
木や茂みに隠れていた鳥なんかも鳴き声をあげながら飛び立つ。
「…はぁ………っくはっ…はぁはぁ」
息が荒い。
「くそぉ、情けねーぇ」
こんな腰抜かして、もう勇者専属騎士団の前に騎士団すら入れない気がしてきた。
先輩が俺に向かって近づいて来た。
怒られる………。
みっともなさすぎるもんなあ。
と、考える俺だったが次の先輩の行動は想定外だった。
ぽんっと彼の大きな手が俺の頭に乗せられる。
それからぐちゃぐちゃに髪の毛を撫で回し出す。
「せっ先輩?」
「………よくやった」
「へぇ?」
変な声を出してしまった。
先輩はかまわず言葉を続ける。
「普通は最初っから腰抜かして動けねえ奴も多いんだ」
「そんな、「そんなこと、と謙遜するな。俺が褒めるなんて珍しいんだ。まあ、多少お前はヘタレすぎるところがありそうだが」
俺の言葉を遮って先輩は俺をすごく褒めてくださって、まあまあけなした。
礼を言おうと立ち上がろうとすると先輩が手を差し伸べてくださった。
そんなことさせれないので丁重に断る。
腰の抜けは一時的だったようですんなり立てた。
「っと、先輩 ありがとうございます。しかし,あの程度の弱い魔物でも殺すことに脅えてるなんて騎士として全く格好がつきません。自分はこんなにも弱いのかと痛感したところです」
「…あのドラゴン普通より強めのを持って来たんだけどな…」
え?
「そうだな。ライニッケ、先を急げ。
今体力を相当使っただろうから早めに森を抜けないと夜困るぞ」
「あ、はい。そんな疲れた感じはないですけど…出来ればもう何にも遭遇しないことを願います」
「おう。腰抜かした奴が疲れてないとかやせ我慢すんな」
確かにそうだ。
軽く先輩に謝って、俺は先に進むことにした。
そういえば、あの先輩浪人生にしては貫禄あったな…。