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ペット&ライフ  作者: 仮ノ一樹
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15/18

第15話 もう一つのGame  ―前編―

師走しわす 四日

――P.M.11:50――

 時間は少し遡り、作戦行動直前の十分前。

 私とサナエは工場に設けられた自室にて待機していた。

「レイコちゃん。あと十分だよ」

「あ、ああ。分かった」

 既にライフルを背負い準備を整えたサナエが、考え事をする私に時間を知らせてくれた。

「どうかしたの?」

「…前にも聞いたが、サナエ。最近監視されている様子はないか?」

「うーん。自慢じゃないけど、もしそうなら私が気づかないはずが無いと思うんだけど…」

 そうだ。サナエが居れば、僅かな物音ですら監視の目に気づけるはずだ。

 実際、私も何か気配を感じているという訳ではない。ただ、自分の直感が告げている、野生の勘というのか。なんとなく、ここには酷く違和感を感じる。ただの気の所為ならいいのだが…。


「そもそも、どうしてそう思うの?」

 不意にサナエが尋ねてきた。私の疑いは何の根拠も無い直感なのだから、疑問に思うのも当然だろう。

「ふむ。どうにも腑に落ちないんだ。ここまで()()()()()()()()()()。そうは思わないか?」

「確かに。そこは、私もなんとなく思ってた」

 軽く頭を抱える私に、サナエが同意する。

 ここでは新薬の《キメラ》が開発されている。他にも大量の量産型遺伝子操作人間(デザイン・クローン)やBADの生産から一般人の誘拐と人体実験、その際に産まれた獣人の洗脳と兵士化。ここまでの設備に加え、《ヴォルフガング》の残党が絡んでいる。

 こんな所でこそこそと犯罪を行っている連中だ。大事な資料は大事に仕舞っていると思っていたが、すんなりと手に入ってしまったのだ。

 ただし、正確な研究データはまだ入手出来ていない。私たちの仕事は飽くまでもここに攻め入るための下準備なのだから、知り得た情報は概要と入手ルートだけだ。

 前回の製薬会社の裏を探るのは取るに足りなかっただけだが、それも妙な話だ。あんな捨て駒研究者にこのような重要施設の場所を態々知らせる必要性があるとは思えない。――無論、あれが元々ここの研究員なら話は別だが――情報の流出を避ける手段など幾らでもあっただろうに。


 それにあのアルという男。

 あれは中々に狡猾な性格と見たが―――あの時の言葉「後は、好きにしたら良いさ」という台詞が気になって仕方がない。

 一体どういう意味なのか。…まさかこちらの正体に気付いている!?

 ―――いや、冷静に考えてみれば、私とサナエが元《ヴォルフガング》だという事を奴は把握していた。となると、何らかの手段でこちらの素性を知っている可能性は十分にある。だとすれば御主人様(あのひと)の身も危ない!

 ―――しかし、だとしても、こちらがスパイだと気付いて何故何も手を打たない?何か策略があるのか。ここまで誘き出した上で一網打尽にするという可能性も―――


「あっ!もう時間がないよ。レイコちゃん、考えるのもいいけどそろそろ…」

「あ、ああその通りだな。すまない少し取り乱して……!」

 少しばかり冷や汗をかきつつ混乱していたが、サナエの声を聞いて私は正気を取り戻した。

 しかし、部屋を出ようとするサナエが足を止め、何事かと目を見張った。

「よう、オネエちゃん達。張り切ってるようで、なによリなによリ」

 そこに居たのは、相も変わらず緑のコートに身を包んだ青年、アルだった。

 その風の様に爽やかな声は、今の私にとって耳障りにしか聞こえない。

「貴様か。何の用だ」

「オイオイ、いい加減出会い頭に睨みつけるのはやめてくれヨ。大事な美人さんが台無しだゼ」

 本当にこいつは……!何処までもいけ好かない男だ。

 私はニヤニヤとした笑顔でこちらを見る奴への睨みを一層強くする。

 するとその顔のまま、奴は突然(きびす)を返した。

「マ、別に大した用じゃあないサ。アンタ達との仕事はここで終わりだと思うとネ。最後くらいマジマジと顔を拝んだって別にいいだロウ?」

「何?貴様、前々から思っていたが私達の何を知っている?」

 私は武器をいつでも引けるよう身構えた。なんなら、今向けている奴の背中を、このまま食い千切る準備は何時でも出来ている。

「おっと、ネタバレはまだだゼ。それよりもホラ、あれ見てミ」

 と、奴は不意に指を指すので、私とサナエは思わずその方向を見てしまった。

 そこにあったのはただの時計。時刻は既に零時を回っており、もう作戦は開始されているはずだ。しかし、その時計以外特に変わったものはなく、私はもう一度アルのいる方向を見やると。

「おい、何も無いじゃないか……って居ない!?」

 先程までいたはずのいけ好かない青年の姿が、跡形も無く消えていた。

 全く…本当になんなんだ、あいつは…。

 今までで、ここまで調子が狂う様な存在は()()()だけの筈だったのに…。

 と、額に手を当て頭を抱えたくなる衝動を押さえていると、警報が鳴り始めた。どうやら、あっちも本格的に動き出したらしい。

〈侵入者出現!侵入者出現!直ちに排除を厳命。繰り返す、直ちに排除を厳命〉

 辺り一帯が警報とアナウンスで埋め尽くされる。奴の所為で少し出遅れてしまったが、そろそろこちらも動かなくては。

 私は少しでも吹っ切れるよう無理やり笑顔を作り、呟いた。

「ふふ…狩りの時間だ」

 ――――ああ、今の私、どんな顔してるんだろう。



12月5日

――A.M.1:09――

「……静かに!」

 何者かの足音が聞こえ、私は自分の大きな耳をピクりと動かす。警戒して合図を出すと皆の足が止まった。

 曲がり角から顔を覗くと、そこには警備なのか二体の獣人が見えた。

 人間態のままで気配も余り感じないが、首輪に反応がある。

 こちらに向かっているが、直ぐに顔を引っ込めたので、まだ私たちに気付いていないらしい。

「アキ、行ける?」

「オッケー、サクッと片付けるよ」

 詳しくは言わなかったが、意図は伝わったらしい。ま、コイツとは長い付き合いだしね。


 私は耳をピクピクと動かして、相手の足音に耳を澄ませる。先程見た時の距離と今の足音が聴こえる位置を総合し、タイミングを計算した。

「五……四……」

 私がカウント始めると、アキは両手のメリケンサックを握り構えた。

「三……二……一……(ゼロ)!」

 カウントが終わると同時にアキが飛び出し、その一瞬で拳を放つ。

「な、何だお前…!」

 敵の戸惑った声が数秒も経たない内に聴こえなくなる。まずは一人仕留めた様だ。

 獣人とはいえ、相手は無防備な人間態。アキはもう一体が獣人態になる前に軽く蹴りを決めてやった。


「―――あっ、これって…」

 アキが何か拾ったらしく、物陰から出た私たちにもそれを見せてきた。

 表面が金メッキで飾られたバッチだったが、オオカミが遠吠えをする姿が象られ、裏には小さく『Wolfgang』と刻まれていた。

「…これは!」

 そう、これは彼らが《ヴォルフガング》のである証だ。かつてのテロリスト達は、度々このバッチを輝かせ、自分たちの存在を世間に知らしめていたものだ。

 ここに来る前に指紋認証の扉があったが、そこにも二人組の《ヴォルフガング》がいた。当然、速攻で片付けてお手を拝借させて貰ったが。


 ここで警備を行っていたとなると、近くに仲間がいる可能性が高い。あの組織は本当にオオカミの様な統率力を持っていた為、一度集まられると厄介だ。

「ミサ、これ一つでも処理出来る?」

「嫌よ。今お腹空いてないし食べるなら料理するし。大体、今から服脱がせるのも面倒でしょ」

 別に脱がせる必要はないだろ。と心の中でツッコミを入れる。まあ、ヘビとはいえ消化出来ないものを呑み込みたくもないか。


「仕方ない。時間も無いし、これはここに放置しましょう」

 確かレイコ達からの情報では、この近くにメインのデータベースがある筈だ。

 私たちの役割は、この施設に記録されている情報――例えば《BAD》・《キメラ》に関する研究のサンプルデータや他の施設の情報など――を手に入れる事だ。それによって今後開発と流通が行われている場所に目処が付けられるし、《キメラ》の開発の阻止にも役立つだろう。仮に暗号化されていても、持ち帰って解析すれば問題は無い。

 それなら目的だけ遂行してさっさと離脱してしまえば、面倒な戦闘に巻き込まれる事もない。

 ならばとミサに先行させて状況を窺わせた。本人はぶつぶつと文句を言っていたが。

 

 しばらくしてあいつが戻ってくると、どうやらこの先には実験場があるらしい。

 なるほど、確かにそこなら有益な情報が得られそうだ。

 部屋は奥がガラス張りになっており、そこでクローンと思しき研究員が黙々と作業を行っていたとか。

 ガラスの奥は広い空間になっているらしく、恐らく実験場だろうが、入口からは何が行われているかまでは判らなかったそうだ。

「作業?何かの実験でしょうか?…妙ですね。何故こんな時に」

 ミサの話を聞き、ヒトミは首を傾げた。もちろん私も。

 確かに妙なのだ。堂々と正面突破したおかげで侵入者(わたしたち)の存在はとっくに知られているはずだ。

 この状況下でまだ作業を続けているというのは流石におかしいだろう。

 情報と照らし合わせても、目的地はここで間違いない。

 しかし、残党とはいえ世界を股にかけたテロ組織が居るなら、そう易々とデータを入手出来る筈もないかもしれない。

 だとすると、罠である可能性が非常に高い。恐らくは目の前にエサを吊り下げて奇襲でも掛けるつもりだろう。

 当然対策は可能だ。首輪を通じて周囲の状況をご主人様と連絡出来るのだから、誰が隠れていようと問題は無い。


「…近くに伏兵でも潜んでいそうね」

 私は自分にも聴こえるか聴こえないかの声で小さく呟いた。

「兎に角、まずは制圧すべきかと。ここで立ち往生しても仕方がありません」

「だね。どうする?手榴弾グレネードで吹き飛ばす?」

「バカバカ!そんな事したら機械も吹っ飛ぶでしょう!?」

 スッと懐から手榴弾を取り出したミツバを、ヒトミとフミナが慌てて制止する。

「ホラそこ!ゴチャゴチャ言っないでさっさといくわよ」

 ユウカの声に三姉妹がピタッと止まる。

「おおっ?流石ユウちゃん、何か策でも思い付いたのかな?」

「ええ。でも別に大したものでもないわ。ただの即興、ただの思い付きよ」



――A.M. 1:24――

 実験室に、一匹のウサギが迷い込んだ。

 雪の様に白い毛並みと、そこに火が灯るかのように真っ赤な眼。

 大きな耳を一直線に立て、鼻をヒクヒクと動かして可愛いく周囲を見渡す。

 研究員は突然入ってきたウサギを不思議そうに眺めていた。実験動物が逃げ出したとでも思ったのだろう。

 しかし、捕まえる素振りもなく作業を続ける。何をしているかまでは判らないが、彼らに与えられた命令(コマンド)にウサギを捕獲するという項目が無いのは確かだ。

 他の者達も黙々と自らの役割に没頭していた。

 やがて数秒の間が過ぎると、さながらブーイングのような鳴き声でウサギが叫びだした。

 本来、ウサギが泣くのは喜怒哀楽の感情を表す時だが、このように大声を出す事はまず無い。

 突然のウサギの叫びに、そこにいた全員が彼女に眼を向けた。その瞬間である。

 ウサギは後ろ足を使って一番近くの研究員の顔の辺りまで一気に跳ね上がる。相手が椅子に座っているとはいえ、体の身軽さを見せつけた。

 そして勢いそのまま、空中で体制を変え、研究員の頭にボレーキックを浴びせ、横方向へとブッ飛ばす。よく見ると、足は本人の顔を覆うぐらい大きなもので、これは《エゾユキウサギ》に見られる特徴である。

 作業員が壁に叩きつけられる瞬間は、彼女の小さな体とは裏腹に、また同時に一見可愛いウサギが人間相手に不意討ちを仕掛ける衝撃的な場面であった。

 流石の異常時態に、まだ無事なクローン達が狼狽する中、私達も一つしかない入り口から堂々と突撃した。


 まずは、ミサが長い胴体を器用に動かして先行する。

「シャアッーー!」

 舌と瞳孔も半獣人化させ、喉を唸らせる。

 次にアキさんを筆頭に私たちも現場に乗り込んだ。…ちょっとこの部屋にこの人数は狭いかもしれない。

 お姉ちゃんは猟銃を構え、私は《()()》はあまり使わないショットガンの銃口を向けた。もちろん、こんな所で撃ったら私もろとも機械が吹っ飛ぶので飽くまで脅し程度だが。

「出来れば動かないでいただきたい。こちらも無益な殺傷は控えたいので」

 メガネの奥から、ヒツジとは思えない眼光を彼らに突きつけるお姉ちゃん。

 同様に、私もショットガンの持ち手を握って威嚇する。

 ミツバもこの場に居るが、流石に手榴弾を手にもって身構えられても困るので、素手でわざとらしいポーズをとっていた。


「それじゃあまず、全員そこに一ヶ所に集まって貰える?」

 既に獣形態を解き、いつの間にか服を着直したユウカさんが彼らに指示を出す。手には二丁のある内、一丁のピストルが握られていた。

 少し広めに空いたスペースがあり、先程彼女が蹴り飛ばした者以外の全員がそこに集まる。

 その途端にミサがゆっくりと動きだし、長い体を器用に巻いて纏めて拘束した。

「下手な事すると一人ずつ飲み込むから、気を付けなさい!」

 さっきお腹空いてないって言ったよね…。というツッコミは無しにしよう。

 舌を出し入れしつつ脅しを言う彼女を中心に取り囲み、見事制圧(ステージクリア)を果たした。


 ユウカさんは捕虜となった彼らからデータベースに関する情報を聞き出すと、早速作業に入った。

 隠しポケットからプラグを取り出し、それを機械と首輪に繋ぐ。

 後はちょちょいと機械を操作して、データをあっちに送信するだけらしい。

 ―――毎回思うけど、この首輪万能過ぎない?

 ユウカさんが作業する間、私とアキさんとミサは捕虜の監視と拘束。ミツバとお姉ちゃんは入口の見張りに分担した。

 データの送信には一時間とかからないらしいが、終わるまでは一秒でも暇だ。これも隙あらば娯楽へ勤しむゲーマーの性か。

 ふと、横にあったガラス窓を覗く。何をしていたかは知らないが、そこには実験室があるという話だった。

 暇潰し程度に眺めるつもりだったが、チラッと見たその時、私は眼を大きく見開いた。



――A.M.2:39――

「ブギャアアアア!フガアアアア!」

 咆哮にしてはみっともない声を上げ、とにかく私は突進を繰り返した。

 前は全く見ていない。

 時々何かにぶつかった気がした。

 痛くはない。むしろ避けられる度に怒りが増す。

 突進するだけでは駄目だと判断すると、今度は手のマシンガンを乱射する。


 誰かが叫んでいる気がする。

 誰が叫んでいるのか分からない。

 誰に叫んでいるのかも分からない。

 私にはアイツしか見えていない。

 母さんの命を奪った、私の腕を奪った、私の家族から大切なものを奪った《仮面の死神(アイツ)》だけは―――


 ゼッタイニユルサナイ、コロシテヤル―――コロシテヤル―――!



獣人図鑑

ハツカネズミ獣人 タイプ:獣型(ビースト)

 素早い動きとげっ歯類特有の前歯が特徴的。繁殖能力の高い所為か、個体数が多くデザイン・クローン等を戦闘員として用いる際によくイメージされる。集団戦法を得意とし、大勢で獲物に襲い掛かる。主に女性型が多い。


ゴキブリ獣人 タイプ:昆虫型(インセクト)

 ある意味ネズミよりも速い動きと飛行能力をもち、獣形態により建物の至るところに忍び込むことができる戦闘工作員としても用いられる。某火星人を連想しても気にしてはいけない。倒しても倒しても何故か湧いて出てくるが、意外と弱い。主に男性型が多い。

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