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 異世界に行きたい。


 この非常にシンプルかつ、この年にもなって本気で言っているのであればまず「大人になれ」と一蹴されるであろう、正確に言えば異世界に行ってチート貰って無双したりハーレムしたいという願いは、健全な男子高校生であればだれでも抱く夢であろう。

 そして俺もその御多分に漏れず、異世界に行きたいと思っていた。が、俺の場合は無双とかハーレムが欲しいと思っていたわけじゃない。

 というか、行って何をしたかったのかは分からない。

 ゲームでも相手を一方的にやるよりは、対等な相手と手に汗握る攻防をしたかったし、女の子に夢を抱くのは家族に姉がいる時点ですべてを諦めたし。

 

 でも、何故行きたかったのかはわかる。それは後述するとして、そんな夢を抱いたとしても、実際に行く方法がないのであれば何の意味もない。

 広大な砂漠でアリのコンタクトレンズを探す……某怪傑キツネで読んだ気がする文章だが、まさしくこれであると思う。

 どれだけ考えても何のとっかかりも得られない問題に挑戦し続けるのは苦痛でしかないのだ。

 普通の人であればその行く方法に見当もつかず、次第に諦めるのだろう。


 が、俺は違う。コミュ弱だからだろうか。誰かとあまり関わらずに生きてきた結果、他の人にはない発想が出るようになったのだろうか。

 それはそれとして、俺は異世界に行く方法はないかと、様々な異世界ラノベを読んだ。一体異世界に渡るには何が足りないのだと。

 そして、異世界に渡った主人公達の大半が、皆一様にとある事をしていることに気が付いたのだ。


 ――自己紹介。


 そう、異世界物の主人公は大抵の場合、どこかで自己紹介しているのである。やれ自殺する時やら、やれ転生した直後やら……とにかく、話の序盤で頭の中で突然自己紹介を始めるのだ。実はこれが異世界に行くコツなのではなかろうか。

 これに気が付いた時は心底震えた。なんせ、頭の中で適当に自己紹介していれば異世界に渡ってチートでハーレムして無双できるという事だ。鬼畜理不尽ゲーだと思っていた世の中は、実は超ヌルゲーだったのだ。

 そんなわけで約5年ほど頭の中で自己紹介を繰り返した結果、ついに俺はいくらかのチートを貰って異世界への転生した……のではなく、召喚されたのだ。ノリオ物語、完。


 さて、そんな長い間繰り返した結果、既に頭の中の習慣と化した自己紹介。ついでにこれが何故行きたかったのかの理由でもある。


 俺の名前はノリオ、17歳。苗字を言えば家族がバレる可能性があるし、高校はとても人に言えるレベルではないので秘密。

 勉強もできない上に、スポーツもできない事もアレなのだが、やはり一番の俺の特徴は、誰かと話すことも上手くいかないコミュ弱という事だろうか。

 で、趣味はテレビゲームくらいしかないし、特技と言われても、あの有名な配管工のゲームの初代を安定してノーミスでクリアできる事くらいしかない。まあ、その特技もゲームの無い異世界に来たことで完全に無くなったのだ。本当にありがとうございました。


 既にお分かりいただけるだろうが、要するにゴミクズである。

 ゲームの腕は確かにそこそこで、好きなことに関してだけは多少根気があるとはいえ、それがどうしたことか。

 こんなゴミスペックなのだから、他の人に比べて異世界に行きたい気持ちが強いのも納得いただけるであろう。

 初めて自己紹介というか、改めて自分の現状を確認した時は死にたくなったものだ。

 ……主観性が極まってる、というよりキマってる文章はここまでにしておこう。



 そんな俺が勇者として、いくらかの荷物と、いわゆるチートと共にこの世界に召喚されたのは、一か月前の事。

 その日はいつも通り、とあるRPGをプレイしていたのだ。

 そしていつも通り飽きたのでゲームを辞めて寝ようとしたところ……なんか唐突にお告げが聞こえ、寝ぼけながらも適当に問答していた所、気が付いたらこの異世界に来ていた。

 それから色々と……色々との一言でまとめたくはない程色々とあり、今の俺は『冒険者』として活動しているのだ。


 最初の頃こそ色々とあったものの、現代を生きる高校生にとって、一か月と言うのは短いようでそれなりに長い。

 さすがにここでの生活にも多少慣れてくるし、そもそも異世界に来ること自体は前々から妄想していただけあって、異世界に来たこと自体はそんなに慌てるような事は無かった。苦労は散々したけど。


 さて、この異世界はどういう異世界かと問われれば……主観が入りまくりな気がするが、基本的にはゲームみたいな世界だ。

 スキルやら魔法、そして何よりレベルがあり、世界には大魔王がどこからか召喚した魔物が蔓延っている。ちなみに、大魔王の目的は世界征服だそうだ。……うーん、古い。

 あまりにゲームらしすぎて、ゲームの中とか系の異世界なのではと考えたが、仮にそうだったとしても、俺の知っているゲームではなさそうだった。


 で、冒険者って異世界物ではよく聞く響きではあるのだが、改めて考えると、そもそも冒険者ってなんぞ?という感じである。

 冒険者と言うのは要するに、魔物を狩る者の総称だ。


 剣士、呪い師、戦士、治癒術師、etc……戦い方によって呼び名が変わる彼らの事を 冒険者と呼ぶ。

 自由に魔物を狩って生計を立てている者もいれば、ギルドの張り出すクエストの報酬で生活する者もいる。

 クエストと言うのは、王都やら村やらに発生する、魔物の異常発生やら魔物の素材が足りてないやらの問題事を、ギルドが仲介して冒険者が解決して報酬を貰うというアレである。

 

 冒険者ギルドという所で登録をすれば、その気になれば強さを問わず、誰でも冒険者になることができる。

 ついでに登録に必要なのも名前と出身地を書くだけ、それらも特に確認されないので、文字さえ書ければ本当に、誰でも。

 ちなみにこの世界の文字は、まさかの日本語である。ご都合主義ってレベルじゃない。

 ……もしかしたら、いわゆる異世界チートの影響で、異世界文字が日本語に見えてる可能性もあるけど、確認のしようがない。

  

 一見簡単そうに見えて、高校生の一人暮らしというのも、見知らぬ土地というか、異世界の一人暮らしと言うのも、そうそう甘いものではなく。

 収入は少額、宿は馬小屋、飯は安い大衆食堂という異世界への夢や希望が割と打ち砕かれる生活だ。

 いや、いわゆる異世界チートがある分、この世界の人々と比べれば多少イージーモードではあるけど、それでも辛いのだ。

 異世界物の主人公ってたまに馬鹿っぽく見えるけど、あの適応力とかからして、実は壮絶に優秀な人達だったのだと気が付いた。

 俺の中で、異世界物の株が上がった。

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