使い魔召喚
「どうしたものか……」
大きく息を吐き出し、机の上に置かれて居る資料を手に取る。其の資料には目と頭が痛く成る程ぎっしりと文字が書き詰められて居り、其の内容もまたかなり際どく危険なモノだと言えるだろう。そして、其の資料の紙は1枚や2枚なんて言う可愛らしいモノでは無く、約30枚も在る。
其れ等全てに目を通して居るのだから、「一応内容を確認しないとな……」なんて思って読み始めてしまった時の自分に対して文句を言いたい気持ちが湧き出て来る。
「どうしたのよ? て言うか、未だ決めて無いの?」
「ん? ああ、此れさ……理論と言うか何と言うか、遣り方は兎も角として凄い考えられてるなって……」
スライムの掃討作戦が実行され、其れが成功してから既に1周間がして居る。
そして今俺が手にして居る資料は其のスライム掃討作戦が行われる前に追放されたある男が残して居た使い魔システムに関する資料だ。
其の資料をどうするか、扱いについて頭を強く悩ませて居るのだ。
そう言った事から、職員室内で悩み続ける俺に対し、声を掛けてくれるウィリアに対して何も隠す必要も無く、其の侭応える。
「そうね……やってみたら?」
「――は?」
ウィリアの其の言葉を耳にして、俺は思わず素っ頓狂な声で反応をしてしまう。
「其の言葉の意味、理解ってんのか? 流石に駄目だろ」
「そうかな。双方同意の上成ら、全く問題は無いと思うけどさ……」
此の使い魔システムの実験を行おうとして居た前任者――其の追放された男は、使い魔実験に使用する為に色々なモンスター達を捕縛し、無理矢理実験対象にしようとして居たのだ。
其の事が知られて顰蹙を買う羽目に成ってしまい、多数決で此のプミエスタから追放されてしまったのだが。
「そりゃ、同意の上成ら問題は無いだろうけどさ。其の同意をしてくれる奴が何処にも居無いだろって話だ」
「居るわよ。其処に」
其のウィリアの言動に、彼女が指し示す方向へと顔を向ける。すると其処には、見覚えの在る顔が7つも在った。
「……御前等」
俺とリドイの部屋で在る398号室を始めとした男子寮の掃除等を担当として居るボブゴブリン達。そして、件の実験対象として捕まって居た所を救けた出した筈のゴブリンの1人。
「どうして此処に居る?」
「どうしても何も、我々は貴方の役に立ちたいんですよ。ヘイルオの兄さん」
一応と言った風に出した俺からの質問の言葉に、顔色1つ変える事もせず応えてみせるボブゴブリンの1人。他のボブゴブリン達も同じ様に顔色を変える事無く、俺を真っ直ぐな瞳で視詰めて来て居る。
「御前等。其の意味、ちゃんと理解出来てんのか?」
「オレタチハ、オマエノヤクニタチタイ。タスケアイ」
ゴブリンもまた、ボブゴブリン達と同様に此方に対して真摯に目を向けて来て居る。其れがどういう意味で在り、どういう事に成るのかという事をしっかりと理解し、納得した上で。
「御前等の其の気持ちと覚悟、理解したよ」
「其れ成ら――」
「――だが、未だ此の実験を行う訳には行か無い」
俺の言葉に対して「待ってました」と喰い付く様に口を開くボブゴブリンの1人。だが、ボブゴブリンの1人からの其の言葉を遮り、俺は言葉を続ける。
「どういう、事ですか?」
「簡単な事だ。俺達が行使する魔法も完璧じゃ無い……幾ら感覚だけで魔法を行使出来たとしても、其れには勿論無駄があり、ムラが在る。魔力を完全にコントロール出来る術が必要なんだ」
ボブゴブリンの1人の質問に対し、俺は頷き成がら応える。
此の魔力を無駄にせず、行使する魔法からムラを無くす事でより安全に効率良く魔法を行使出来る様に成る筈成のだ。そうすれば、此の先何が起こるか判ら無い新たな魔法を実験し、行使するにしても何とか出来るかもしれない。しっかりとした根拠等は無いが、そう感じる。
「其れが、今の貴方の研究?」
「ああ。此の研究が成功すれば、使い魔システムにも手を付けるつもりだ」
ウィリアの質問に対して俺は強く首肯き、6人のボブゴブリン達とゴブリン1人、ウィリアの計8人へと目を向ける。
彼等には反対する意志は無いのか、俺の顔を真っ直ぐに見詰め首肯いてくれた。
「ああは言ったが、どうすれば上手く行くのか……」
ボブゴブリン達とリドイと一緒に夕食を食べ終え、398号室内の自室に戻り、就寝の準備をし成がら職員室内での事を思い出す。
(気晴らしにでも外を歩くか……?)
机には、一冊のノートと魔導書が置かれて居り、先程迄光属性魔法についてを書き写して居た所だ。だが、1文字ミスを観付けてしまい、途中で投げ出してしまった。
空いて居るスペースに、適当な落書き地味た円、そして其の円の中には辛うじて文字だろうかと理解出来そうな蛇がのたくった様な適当な模様が書いて在る。
俺は右手でペンを軽く回し成がら、左手の人差し指に小さな火を生み出す。
(だけど、もう遅いしな……明日にす――!?)
だが其処で、異常に気付いた。
(どういう事だ……? 魔力の流れが何時と違う……何時もの様にブレ無いし、ムラが無い……?)
俺は左手の指に起こして居る火を見ながら、当たりを観渡す。何か、何か何時もと違う所が在る筈だと。
すると、ノートが小さく光って居るのが視えた事で思わずペンを手放して、右手で目を軽く擦る。
(此れ、成のか……? 否そんな、まさか……)
首を大きく横に振り、今浮かんだ考えを強く否定してみせる。
落書きと言える其の円と文字らしきモノを消しゴムで消し去る。
すると、左手の指に起こして居る火を中心にした魔力の流れが明らかに変調を観せ始め、弱まってしまう。其のノートの光は一瞬だけのモノで在り、直ぐに消えてしまった。
「決まりとしか、言えないな……」
研究内容を決めた当日の間に、其の答へと辿り着いてしまった事に喜びと達成感を感じはするが、其れと同時に些か物足り無さに似たモノも感じられる。
「どっちだったんだ?」
魔法のムラ等を無くして居たのは、先程の落書きの御陰だという事は理解出来た。だが、其れを成功させて居たのは円の方成のか、其れとも文字の様なモノの方成のかが全く判ら無い。
(手当たり次第に試して行く他無いか……)
ノートの端の白い部分に小さく円を描き、軽く火属性魔法を行使して、指に火を灯してみる。が、何時もと同じ様に感じられる。
(円じゃ無い……成ら、文字の方か?)
だが、其の文字はテキトウに書いて居た為、思い出す事が出来無い。
新品のノートを取り出し、1ページ目にテキトウに書き込んで観る。
(確かそう……こんな感じだった筈……)
先程のノートには消した跡がうっすらと残って居り、其の痕跡を視てどうにか再現しようと試みる。其の結果、見覚えの在るテキトウな文字らしきモノを書く事に成功した。
そして同じ魔法を行使して確かめるのだがが、やはり違う。
(両方、という事か……)
別のページに、円と其の文字を書き込むのだが其処で睡魔が襲い掛かり、手にして居るペンで書き込む位置等が小さくズレてしまう。
其の結果出来てしまったモノは、2重の円と其の円の間に文字らしきモノを書いたモノ。
「こ、此れは……」
別々に書こうと考えて居たのだが、書き終えたモノは何故か整った形をして居ると思わせる奇妙なモノだ。
「ものは試しだ……」
先程迄と同じ魔法を行使して、様子を観ようとする。
「――こ、此れは!?」
すると、先程迄のモノと比べて遥かに安定し、ムラが無いのが感じ取れる。
「――ッ! ……此れが、正解か……」
チュンチュンと耳に心地良い大きさと質をした鳥の囀りを目覚まし代わりに、俺は目を開き、ゆっくりと身を起こす。
何故か身体に小さな痛みが一瞬疾走り、今自分が椅子に座って居る状態で在る事を思い出す。
(そうか……俺は、あの侭寝てしまって居たのか)
椅子から離れ、新しい服を手に取り着替える。
ドアは閉じているが、何か涎が出て来る程に美味しそうな匂いが漂って来るのを感じる。どうやら既にリドイは起きて居り、朝食の準備をして居る……否、既に終えて居るのかもしれない。
ガチャリと音を立ててドアを開くと、予想して居た通りリドイはもう机に朝食を並べ始めて居るのが視えた。
「御早う御座います」
「御早う。と言うか、やっぱ早いな、御前」
「そうですか? そんなに早く起きて居るつもりは無いのですが……」
互いに朝の挨拶を澄ませ、俺は軽い冗談を口にする。
対するリドイは普段と変わら無い笑顔を浮かべるが、其れと同時に顰めっ面に似た表情をするという器用な事をして視せてくれる。
「そう言えば、使い魔システムの事ですが……」
「どうした?」
朝食を食べ終え、今は俺が皿洗いをして居る。
流して居る水で綺麗に皿を洗い成がら、リドイから掛けられた言葉に返事をする。
「資料の方は全て読み終えたんですか?」
「まあな。流石に量が多くて辛かったけどな……で、其れがどうかしたか?」
「其の使い魔システムはどういったものか理解した上で、実行し様として居るのか気に成りましてね」
リドイから投げ掛けられた質問に対し、俺は質問で返す。
そして、其の俺の質問に対して応えるリドイは笑みを浮かべては居るが、何時もの柔らかなモノでは無く、少しばかりキツいモノで在り、何か思い詰めて居る様に思わせるモノだ。
「理解、はして居る、つもりだ……其れは、彼奴等もそうだろうさ」
「…………」
俺の出した答に納得が行って居るのか行って居無いのか、リドイは黙している。だが、否定する事も、止め様とする事もし無い。
「彼等が……彼等自身で考えて、決めたというので在れば、特に此れといって言えるような事は在りませんね」
リドイは普段通りの笑みと口調で、俺に対して口を開き話す。
「そういや、光属性魔法と雷属性魔法を教える約束だったな」
「そうでしたね」
俺はふとそんな事を思い出し、リドイへと話を振って観る。
リドイの返事はとても短いモノだが、其れでも興味を感じて居る事を理解させて来る。
「其の魔法な、教えるんじゃ無くてさ……魔導書を数冊ほど模倣して其れを数人に渡して、其れを模倣させて。其れを繰り返して、広げて行くといった形にしようかな、なんて考えてるんだ」
「量産、するんですか?」
「ああ、其のつもりだけど」
其の俺の言葉を聞いて、リドイは耐えられ無かったのか笑みを零す。
「そんな事を考えるのは、貴方位じゃないですかね」
「そうか……?」
魔導書には魔力を込め成がら文字を書き込む事で、其の著者が行使出来る魔法は刻み込まれる。そして、其の魔導書を読む事で、込められて居る魔力は最初の読者の身体に流れ込み、実力が伴わ無くては無理では在るが其の著者の行使出来る魔法を行使出来る様に成るという魔道具だ。そして、本来魔導書は自身の魔法を後世に伝える為のモノ。其の筈だ。
其れ等を踏まえて考えると、俺がしようとして居る事は後世に遺し易い方法だと思うのだが、実際はどう成のだろうか。
朝食も食後の片付けも終了し、自分の部屋へと戻って今日一日にするべき事をする為の準備に入る。
机に置いて在る光属性魔法の魔導書と雷属性魔法の魔導書、そして其の内容を模写する為の筆記用具セット全般、使い魔システムについての全ての資料を魔道具で在る鞄の中へと入れる。
するべき事の中で今直ぐ思い付くのは、魔導書の複製、そして使い魔システムの実験だ、
(さて、何方から手を付けるべきか……)
鞄を手に取り、自身の部屋から出る。
リドイは既に出て居るのか姿は視当たらず、気配も彼から発せられて居る魔力も近くからは感じられ無い。
(……行くかな)
398号室から外に出る。
早朝で在る為か、涼しいと言える温度だ。
男子寮3階の廊下には、早い時間で在るにも関わらず幾人かの男子生徒達が歩いて居り、皆、スライム達との戦闘が嘘で在ったかの様に実に楽しそうな笑顔を浮かべて談笑をして居る。
「御早う御座います、ヘイルオ先生」
「御早う」
2階、1階に降り様と階段の在る方へと足を向けると、談笑をして居た生徒達は其の話を一旦中断して俺へと挨拶で在る言葉を掛けて来、俺もまた挨拶を返す。
「そう言えば先生、今度の授業の内容って?」
「其れは内緒としか言え無いな」
適当にあしらって、階段を降りて男子寮から外に出る。
男子寮の中だと感じ難かったが、外に出ると同時に空気と魔力の質が違う事を感じる。かなり良質で在り、肺に入って来る空気や魔力が美味しいとさえ感じる事が出来る程だ。
(先に魔導書を1冊複製して、昼に使い魔システムの方を……)
此の先どうするかを考え成がら、足を動かす。
身体が覚えて居るのか、深く考え事をし成がらで在ろうとも何ら気にする事無く職員室へと向かう事が出来た。
職員室に到着し、扉をスライドさせて中に入る。
想像して居た通り、リドイは既に到着し書類の整理や此の先の授業や研究について考えて居る様子だ。
「ウィリアは?」
「未だ寝てるんじゃないですかね?」
俺の質問に、絵に書いた様な笑顔を浮かべて応えるリドイ。
普段の言動等から忘れそうに成ってしまうが、ウィリアは、俺やリドイよりも年下だ。こんな事を思ってしまうと駄目成のかもしれないが、幼い故に睡眠時間も其れ成りに必要だという事だろうか。
俺も自身に宛てがわれた机へと移動し、座る。手にして居る鞄を置き、中に入れて居た魔導書1冊と新品のノート1冊を始めとした筆記用具などを取り出し置く。筆記用具の中からペンを取り、魔導書とノートを開いて1文字ずつ観比べ成がら書き写して行く。
こう成ると静かなモノで在り、俺とリドイは作業に集中し黙り込む。呼吸音や文字を書き込む音等が鳴り、響き渡るだけで在り、俺が来る前のモノとほぼほぼ同じ様に職員室は非常に落ち着いた空間に成り戻る。
(言い方は兎も角、実験の対象は捜す手間が省けた。此れには感謝する必要が在るな……理論の方も彼の残した資料を読む限り完成されてると言えるし……)
スラスラと文字を書き写し成がら、昼にするべき使い魔システムの事を考える。
何故か、此処最近は別々の事を卒無く同時にする事が、考え込み成がらでも作業を滞り無く行う事が出来る様に成った。
(必要成のは場所だ……対象の彼奴等は呼べば来てくれるだろうから問題は無いが……)
其れ成りに大きな場所が必要に成るだろう。初めての事で在り、難しいと言える。理論的に完成されて居ると俺が勝手に感じて居る、そう思って居るだけで在り実際は穴が無数に存在して居る可能性も在る。 そういった事からも何か起きた時に直ぐ理解る様に、そして対処出来る様に開けた場所が良いだろうか。
「では少し、出て来ますね」
作業を中断し、扉へと向かうリドイ。
「ウィリアが来たら宜しく御願いします」
「ああ」
扉を開いて外へと出るリドイの言葉に、軽く返事をする。
恐らく焼き払いかつて森だった場所に行くのだろう。
リドイは確か、其の森だった場所の一部を使用して街を広げる為の計画に参加して居るらしい。
(――! そうか……其の一部を使わせて貰う。否、他の場所を……未使用に成るだろう場所を)
其れを行う為に交渉に行くにしても、先ずはウィリアか他の職員が来る迄待つ必要が在るだろう。
だが、他の職員の顔を見た事は無いし、来無い可能性は全く無い、ウィリアしか来無いと言えるだろうか。
(其れ迄の間に、魔導書の複製をしとくか)
開いた状態の魔導書に目を向け、ペンを握り直してノートへと魔導書に書かれて居る文字を1文字ずつ書き写して行く。落ち着いてゆっくりと書いた文字と魔導書に書かれて居る文字を観比べるが、誤字は無く、しっかりと書き写せて居る。其の事に満足し成がら次の文字、そして観比べてまた次の文字と書いて行く。
(此の魔力……ウィリアか……)
「御早う、御座いま~す」
魔力の流れの変化と近付いて来る魔力を感じて数分程して、扉が横にスライドし、外から見覚えの在る小さな身体と聞き覚えの在る幼気な声が聞こ得て来る。
ウィリアは大きく欠伸と伸びをして目を軽く擦り成がら、自身に宛てがわれて居る机へと向かい、椅子に座るのと同時に突っ伏してしまう。
(寝るのか……?)
予想通り、小さな寝息を出し成がら身体も上下に動かして居る様子だ。
先程の動きと言い、今の動きや寝息から可愛らしいという印象を与えて来る。
「本当に寝てるのか……~~アガッ!?」
「起き、てるわよ……」
其の様子を目にして小さく呟くが、聞こ得て居たのか手近に在ったで在ろう本を此方へと投げ、俺のでこに打つけてくる。
ウィリアは上半身を起こすのと同時にまた大きく欠伸と伸びをして、目をゆっくりと開き俺へと顔を向ける。
「御早う」
「ええ、御早う」
今度はしっかりと目は開かれて居り、俺を真っ直ぐに視詰めて来て居る。
意識も覚醒して居り、もう欠伸も伸びもせずに自身の机に置かれて居る資料の片付けをし始めた。
「で、研究の方はどう成の?」
「完成した」
「…………」
ウィリアの質問に、一拍と置く事も無く正直に応える。
「……え?」
俺の言葉が聞こ得て居無かった様では無いが、一瞬黙り込んでから反応を遅れて示すウィリア。ウィリアの其の顔は「信じられ無い」といった様な表情で在り、其れで居て何か「聞き間違えでもしたのかしら……?」と思って居る様子だと感じさせる。
「研究は見事に成功……今日から使い魔システムの研究に移行するつもりだ……」
「…………」
俺の其の言葉に絶句した様子を観せるウィリア。此の場の時間が止められてしまったかの様に、ウィリアは呆けた表情を浮かべてジッとして居る。
「え……否、ちょっと……待って……終わった?」
「うん、終わった」
「嘘でしょ……研究なんていうのは何年も掛けて終わらせる……いいえ、終わるかどうかも判ら無い様なモノ成のよ! 其れを……1日で? たった1日で!?」
「ああ」
何とか気を取り直して聞き直して来るが、俺は先程と変わらず完了した事を教える。
ウィリアは俺の其の言葉に対して涙目に成り成がら首を大きく横に振り、否定の言葉を口にし続ける。
普段見る事が出来無い其の様子を目にする事で俺は思わず笑いそうに成るが、グッと堪える。
「ま、そういう事だからさ」
発狂と言う程では無いにしろ大きく取り乱して居るウィリアを放置し俺は職員室から外へと出、リドイ達が居るで在ろう場所に向かう。
職員室の外に出ても、ウィリアはかなり大きい声を出してしまって居るのか、ハッキリと聞こ得て来た。
「で、どうよ?」
「難しいですね」
リドイの居る場所に辿り着くのと同時に、眼の前では魔道士達が土属性魔法を行使して真っ平らな地面にして居るのが目に入る。
燃えカスで在る木々等は既に片付けられて居り、地面の整地が終われば、後に残って居る作業は地表を固いモノに変化させる事と新しい建物等を建築する事だろうか。
そういった作業が行われて居る中で、此の作業を取り仕切って居るで在ろう魔道士に声を掛け訊いて観はしたのだが、やはり駄目な様だ。
「此処等一帯は、住宅街にする予定なんですよ。ほら、スライムの騒動で逃げて来た人達が居るでしょ?」
「……そうですか」
其の言葉を聞いて、此れ以上は無駄と判断して離れる事にする。
(何も森だった場所全部を使う訳じゃ無いし、住宅に成るのは其の森だった場所の1画……全体の1割に満た無いんだ)
街の中へと戻り、整地作業中の区画とは反対の場所へと向かう。
「どうしたんですか?」
途中で、何か迷って居るで在ろう様子を観せて居る1人の男性を観付ける。
俺には当然放って置くという事は出来ず、声を掛ける。
「此処に行きたいんだけど、何処をどう歩いて行けば良いのか理解ら無くてさ」
「ああ、此処でしたら……」
声を掛けた俺へと顔を向け、戸惑い成がらも喜びを感じて居るで在ろう表情を浮かべる男性。
手にして居る地図を俺へと見せ、頭を悩ませて居る理由を口にする。
其の地図には、目的地で在ろう場所と其処に向かう為の道が手書きで絵の様に記載されて居るが、余りにも簡略化されて居る為かハッキリと言ってしま得ば理解り辛い。だが、其の目的地の名前等もしっかり書かれて居る為に何とか理解する事は出来る。
「そうですね。どうせ成ら、一緒に行きませんか?」
「良いのですか?」
俺の言葉に対して、期待に胸を膨らませて居る様に目を輝かせ成がらも申し訳無さそうな表情を浮かべて伺いを立てて来る男性。
そんな男性に対し、俺は軽く首肯いてみせる。
「構わ無いですよ。此の建物の在る方向に、私も用が有りますから」
深く御辞儀をして礼を述べる男性に対し、思わず笑顔を浮かべてしまう。
軽く此の街について談笑をし成がら、目的地で在る其の建物へと足を向ける。
(初めて此の街に来た時の事を思い出すな……)
1年と過ごしては居無い筈成のだが、此処に来てから体験した事が余りにも濃いモノ成ので、何年間もずっと過ごして居るかの様に思えてしまう。
「此処、ですね」
「有難う御座います」
また深く御辞儀をして礼を述べる男性。
「何か在りましたら、魔法学院に来て下さい。ヘイルオ・ヒュンペールの名前を出せば、直ぐに」
「本当に有難う御座います」
「では、失礼します」
使い魔システムの実験を行う準備を始める為、早足で歩いた。
「此処成ら、問題は無いかな」
周囲の魔力へと干渉し、方向性と指向性を与えて地面へと向ける。すると地面は、舗装された道路の様に平らな状態に成り、硬質なモノへと変化して行く。
(整地はこんなモノか……)
手を加える前では想像出来無い程に綺麗な状態に成った地面へと目を向けて、息を吐き出す。
「さてと……」
もう一度魔力を操作し成がら、魔法を行使して地面を掘り進めて行く。飛行魔法を行使して浮遊し成がら、掘り進めて行って居る地面を見る。少しでもズレたり、二重円の中に入れる文字を間違えてしま得ば、最初から遣り直しに成る為、細心の注意を払う必要が在るだろう。
「…………」
間違いが無い様に、開いたノートを手にし、其のノートに書かれて居るモノと観比べる。
間違いは特に見当たらず、また安堵の息を吐き出す。
「此れで、良し……」
飛行魔法を解除し、落ちる様にして降下、地面へと着地する。
後ろから誰かが近付いて来て居るのか、辺りの魔力の流れが変わる。
「此れは一体、何成の?」
「ああ、其れはだな……何だろう?」
来たのは声と魔力から察するにウィリアだろう。どうやら、気持ちを落ち着かせる事に成功した様だ。
そんなウィリアの質問に対して応え様と口を開くのだが閉じざるを得無い。俺自身でも此れが一体何成のかしっかりとは理解出来て居無いのだ。
「研究の成果……だ」
「研究の成果って……此れが?」
眼の前には只、無闇矢鱈に掘られた様に視える地面が広がって居る。
ウィリアの其の言葉を否定するのは難しいだろうか。
「此れを視てくれ。此れは、昨夜に落書きしたモノだけど」
「……?」
俺の言葉を聞いて、疑問を感じ成がらも俺が開いて居るノートを覗き込むウィリア。
「此の落書きがどうしたの?」
「此れな、魔力を上手くコントロール出来る様にする機能が在るんだ」
「……は?」
俺の説明に、低く冷たい返事をするウィリア。
「此れが、研究の成果って言うつもり?」
「そうだ。ま、疑いたく成るのは仕方無いよな。其れは兎も角として、だ……目の前に在るのは、此れを地面に掘ったモノ成んだ」
ウィリアの表情は冷め切ったモノで在り、明らかに俺と研究の成果を小馬鹿にして居る様に観える。
そんな気持ちを抱くのは仕方が無いだろうとは思いはするが、其れを理解して居ても正直に言ってしま得ば悔しい。そして泣きたく成る。そんな気持ちに成るが、何とか口を開き説明を続ける。
「名前は?」
「そうだな……魔法陣なんてどうだろうか?」
ウィリアからの質問に、安直では在るがテキトウに眼の前に在るモノとノートに在るモノに名前を付けてみる。
「疑うのは当然だ。ま、試して観れば理解るさ」
「そうね……」
俺の言葉に、渋々といった風に首肯き、周辺の魔力へと干渉し始めるウィリア。
すると、其の干渉した魔力に方向性と指向性が与えられ、風が発生する。
「――!? 確かに、此れは何時もと違う……」
(否待て……可怪しい……)
実際に試して観る事で驚きの言葉を発するウィリアだが、対する俺の方は辺りを見て疑問を感じてしまう。
光って居るのはノートだけで在り、眼の前の地面に在る魔法陣は光って居無いのだ。
(何が違う……何が……?)
ノートと地面に在るモノの違いは何か。形は全く同じ筈成のに、其れには何処か決定的な違いが在る事に驚きと疑問を感じずには居られない。違いを上げてしま得ば、ノートは書いたモノで在り、地面の方は掘ったモノで在るという事だけ。
(書いた、モノ……?)
まさかと思い、魔法を行使して地面を真っ平らな状態へと戻す。
「どうしたの?」
「試したい事が在ってな……」
少し余裕を持って使用した部分の面積と少し多めの面積の地面を道路と同じ様に舗装したモノへと変化させる。そして魔法でペンを浮かばせて、先程のモノ――大きさは違うがノートに描かれて居るモノと全く同じモノを其の地面へと書き込んで行く。
「此れで!」
火属性魔法を行使して、右掌の指に火を灯す。すると、ノートに書いて居るモノは当然として、今し方地面に書き込んだモノも大きく光り始める。
「やった……成功し――うおっ!?」
手元に異変を感じて目を向けると、指に灯して居た火は炎と成り、ノートから発せられて居る光と同じ位に周囲を照らして居るのに気付く。
小さな火――蝋燭に灯って居る火程度の大きさで燃える様に魔力をコントロールして居るにも関わらず、其の火の大きさは少し小さなファイアーボールと言える野球ボールサイズで出現、そして燃えて居る事に驚きと達成感を感じて思わずガッツポーズを取りたく成る。
「ちょっと、どう成ってんのよ!?」
「成功したんだよ、今度こそ! 此れでより効率良く魔法を行使する事が出来る!」
行使して居た魔法を解除し、喜びの声を上げる。
ノートと地面から放たれて居た光は消える。
(効率が良く成ったのは良いけど、魔法の力が増したのはどういう事だ……ま、嬉しい誤算と言えば嬉しい誤算成のかな……?)
「準備は出来たんですか? ヘイルオの兄さん」
後ろを振り向くと其処には既にボブゴブリン達とゴブリンが居て、確認の言葉を口にする。
どうやら、今し方発生した光を視た事で急いで来たのか、ボブゴブリン達とゴブリンの少し息が切れて居る様に思える。
「本当に……良いんだな?」
俺もまた、彼等に確認をする為質問を投げ掛ける。
静かに、真っ直ぐ互いに見詰め合うだけで在り、其れだけでも十分だった。
「勿論ですよ。二言は有りませんとも、ヘイルオの兄さん」
1人のボブゴブリンからの其の言葉に、他のボブゴブリン達もゴブリンも大きく首肯く。
「其れじゃ、始めるぞ……」
ボブゴブリン達に向けて居た身体を魔法陣の在る方へと向け、目を閉じ意識を集中させ、周囲に存在して居る魔力へと干渉をする。
周りから聞こ得て来る音は、次第に小さく、遠くから聞こ得て来て居るかの様なモノに成り、最終的には聞こ得無く成る。
深く深呼吸をして、再び魔力へと干渉し、2種類の方向性を与えて行く。
1つ目は、自身との強い繋がりを与え、結び付けるモノ。
2つ目は、其の結び付いたモノに、何が在ろうとも俺に対して従うようにといった強く絶対的な暗示と強制力を与えるモノ。其の暗示等の力はギアスよりも遥かに強力なモノだと言える。
「…………」
目を閉じて居ようとも、前に存在して居る魔法陣とウィリアが手にして居る魔法陣から光が発せられて居るのを感じる事が出来る。
ボブゴブリン達とゴブリンから発せられて居る魔力が魔法陣の中心へと移動し、質が変わるのを感じる。
(……何だ、此の魔力は?)
だが其れと同時に、別の魔力が魔法陣の中へと移動して来たのも感じ取る。
兎にも角にも望んだ結果で在る使い魔システム実験の成功とボブゴブリン達とゴブリンの使い魔化に成功したのを感じ、行使して居る魔法を解除してゆっくりと目を開く。
「――!?」
目を開くと、未だ魔法陣からは強烈な閃光が発せられて居り、其の余りの眩しさに開いたばかりの目を思わず細めてしまう。
其の細めた視界に入って来るモノ、そして感じ取れる魔力……其れ等に少し違和感が感じられる。
「誰だよ、俺達を呼んだのは?」
「誰でも良いでは在りませんか」
「楽しければ、其れで良い」
「ま、こんな事をする奴成んだ。観て居て、退屈はし無いだろうさ」
「…………」
魔法陣の中心から聞こ得て来るのは、女性4人の声。彼女等の其の声には全く聞き覚えが無く、戸惑いや驚きを感じずには居られ無い。だが何故か、其れと同時に此の出来事に納得をして居る自分と懐かしさ等を感じて居る自分が居る事も感じ気付く。
「――な、何だ此奴等は……」
光が収まり、ハッキリと魔法陣へと其の中心に居る誰か達へと視線を送り確認をする事が出来る。
そして、観るのと同時に、在り来りな驚愕の言葉を口にせざるを得無い心境に成る。
ヒトの形はして居るが、其の実全く違う存在。四肢だと思わせる其の部位が存在して居る事も在って辛うじてヒトの形をして居ると認識出来る。ヒトでは無く、ボブゴブリンでも無く、ゴブリンでも無く、オーガでも無く、一体何者成のだろうか。1人は炎在り、1人は水在り、1人は風、そして最後の1人は土で身体が構成されて居る様に観える。そして其の4人の後ろに居る巨大な身体を持つ存在にも目を奪われそうに成る。
其の4人と1体と同様に魔法陣の中に居るボブゴブリン達やゴブリン、そして俺の後ろに居るウィリアも驚きで言葉を発せ無いで居る。
だが其れと同時に、俺やボブゴブリン達、ゴブリンは何とも無いのだが、ウィリアは少し苦しそうな表情を浮かべて居る。が、其の表情も少しの間だけで在り、ウィリアは直ぐに何時もと変わら無い状態に戻る。
「ん? どうした? ヒトの子よ」
眼の前に居る風で身体を構成させて居る存在から声を掛けられ、開いて居た口を閉じ、もう一度開いて質問を投げ掛ける。
「御前達は、一体……?」
「君達の言葉で言えば、4大精霊って自称すべき成のかな」
「――!?」
風で身体を構成して居る存在の言葉に、此の場に居る4大精霊以外は言葉を失ってしまう。
(成る程、4大精霊……)
4人から発せられて居る魔力は、ヴィソン神程では無いにしろ其れでもかなり強力な部類に入るだろう。竜よりは強く、ヴィソン神よりは弱い。ボブゴブリン達やゴブリンとウィリアの魔力を感じ取るのも苦労する程に強大だ。ヴィソン神は大きな島だとして、4大精霊は其の島にある大きな砂漠若しくは砂丘、そしてボブゴブリン達とゴブリンはそんな砂漠に在る砂粒1つ分と言える位の差が在るだろうか。
まあ、自分でも理解し納得出来る説明が出来無いのだが。漠然とそんなイメージが頭の中を過ぎる。
「で、貴方が僕達の主様ですか?」
「あ、ああ……そうだ……」
水で身体を構成させて居る存在からの質問に、彼女達からの魔力に驚き成がらも何とか口を開いて応える。
「ふむ? 若しかして、名乗る必要が在るのではないだろうか?」
土で身体を構成させて居る精霊が口を開いて、他の精霊へと、そして俺へと問い掛けて来る。
「あ、ああ。一応、頼もうかな……」
俺の其の言葉に、精霊達は力強く首肯き応える。
「視て判ると思うが、俺は火の精霊――サラマンディーク! サラとでも気軽に呼んでくれ!」
「あ、ああ。宜しく、サラ」
火の精霊であるサラマンディークが名乗りと同時に手を差し出して来る。其れに対して俺は応える為に、挨拶と同時に其の手を恐る恐ると握り返す。
(熱く……無い……?)
全くと言って良い位に熱を感じ無い。否、感じるのは感じるのだが、其れがとても心地好い。其れに火で身体を構成させて居る為に握るという事は出来無い筈で在るにも関わらず何故か握るという事が出来て居る。
此れは、彼女等を使い魔にした事が原因成のだろうか。
「次は私ですわね。水の精霊ウンディオーナ……ディオーネと御呼び下さい、御主人様」
「ああ、うん……宜しくね、ディオーネ」
水の精霊で在るウンディオーナは一礼をして、此方へと顔を向ける。
彼女にも握手をと手を出すと、ウンディオーナの方もしっかりと握り返してくれる。
ウンディオーナの手はひんやりとして冷たく、サラマンディークの時と同じ様に心地好いものだと言えるだろう。
「其れじゃ僕の番だね。風の精霊シルフェイド、召喚に応じて参上したよ。此れから宜しくね、マスター。僕の事は、シルフとでも呼んでくれれば良いかな」
「ああ。宜しく、シルフ」
風の精霊シルフェイドとも、皆と同じように挨拶と握手をする。
彼女の手は風で出来て居る為に握手をして居ると其の風に撫でられて居るかの様な感覚に陥り、擽ったいといった感想を抱かざるを得ない。
「最後は自分ですかね……土を司る精霊グノートゥム。自分の事は、そうだね……ゲノモス……いや、ノーム……何が良いのだろうか?」
土の精霊であるグノートゥムは、何か、自分の愛称についてを深く考え始めてしまう。
漸く決心がついたのか、伏せていた顔を勢い良く上げ、真っ直ぐに見詰めてくる。
「自分の事は、ノームとでも呼んで下されば」
「ああ、宜しく。ノーム」
互いに差し出した手を握り、挨拶をする。
グノートゥムの手は土で出来ている為か、他の精霊達とは違ってしっかりとした感触と握って居るという事に安心を感じさせる。
そしてグノートゥムの其の手はサラサラ、ザラザラと言える様な触感で在り、ゴツゴツして居るとも言える何とも表現し難いモノだ。
「挨拶も終えたしよ、御前の家にでも案内してくれよ!」
「……おい、未だ俺の挨拶は終わって無いのだが」
サラマンディーク改めサラは、俺へと言葉を投げるのと同時に街の方へと足を動かそうとする。
だが其の時、4大精霊の後ろに居た大きな身体を持つ存在は俺達へと声を掛け、足を止めさせる。
其の声は地を這う様で在り、ズシンと響く様な感じでも在る。
「そうですわよ、サラさん。彼の挨拶が未だじゃないですか」
其の謎の存在からの言葉に同意し、サラを止めるウンディオーナ改めディオーネ。
「感謝する、水の精霊よ」
其の大きな身体を持つ存在は、ディオーネに礼の言葉を口にする。
「では、自己紹介だ。俺は、御前達で言う所の龍……ドラゴノートとでも名乗ろうか…」
龍。
龍とは、竜の超上位種や親とも言われて居る存在だ。其の力は強力で在り、竜の上位種で在る火竜や風竜、水竜、土竜を遥かに凌ぎ、超える力を持って居ると言われて居る。
其のの龍改めドラゴノートの言葉を聞き成がら、其の姿を良く視て観ると全体は判ら無いが、竜と良く似た部分を見付ける事が出来る。大地を歩くだけで地響きと地割れを起こしかねない程に強靭そうな脚に、ヒトが知り得る鉱物全てを紙の様に容易く斬り裂きそうな程に鋭い爪。鏡の様に周囲を映す綺麗で在り、並大抵の攻撃で在れば跳ね返すか攻撃をした方へとダメージを与えるイメージしか浮かばせない頑丈そうな鱗。竜を遥かに超える巨体。其の身体の大きさは、プミエスタの街を囲って居る壁の高さで在る100mとほぼ同じ成のではと思える程で在り、今認識出来る範囲は、彼の脚の部分だけだという程。
10m程度で脅威に感じて居た竜を赤子の様に思わせる程に巨大な存在を前にして腰を抜かして驚きを表現するべき成のだろうが、使い魔にする事で手綱を握って居るという安心感から来て居るのか今の俺には其れ程脅威には感じず、只驚くだけで在った。
(夢、でも見てるんだろうか……? 4大精霊に龍なんて……嘘じゃ無いみたいだな)
眼の前に居る存在達を目にするのと同時に感じ取り、其れが余りにも出来過ぎて居る様な気がして成ら無くて、思わず自身の頬を強く抓るが痛みを感じるだけで在り、状況は全く変わら無い。
「宜しくな、ドラゴノート」
俺は、ドラゴノートの脚へと軽く触れ、挨拶をする。
ドラゴノートの方は返事をし無いが、其れでも此方を気にはしてくれて居るのか視線を感じる。
「えっと、挨拶は済んだかしら?」
「……ああ」
俺達の様子を観て、ウィリアは大きな声で呼び掛けて来る。
ウィリアの其の問い掛けに応え首を向けるが、どうやら彼女は慌てて居るのか、其れとも急いで居るのか、何時もと違う様子を観せて居る。
「えっとさ、出来る成ら、の話なんだけどさ……貴方達、ヒトの姿に成れ無いかしら?」
「……?」
ウィリアの其の言葉に、グノートゥム改めノームを除いた4大精霊は不思議そうに首を傾げる。
「御前、誰?」
「ウィリア……ウィリア・コンフェルト……」
「で、何故俺達がヒトの姿になる必要が在るんだよ!?」
サラの其の質問に「やれやれ」といった風にウィリアは説明を簡単にし始める。
「ヒトの世界で住むん成ら、ヒトの世界のルールを守りなさい。と言う事よ。理解った?」
「全然」
ウィリアは説明を終え、理解をしたか確認の質問をするのだが、やはりノームを除いた4大精霊の3人は理解して居無い様子を観せる。否、訂正だ。シルフェイド改めシルフ、そしてウンディオーナ改めディオーネの2人は理解して居るが、ウィリアを誂って居る様にも観える。
「まあ、理由は兎も角として、だ……主様を困らせるのは得策では在るまい。と言うよりも、困らせたくは無いだろ?」
「其れもそうですね」
ノームの言葉に、笑顔で応える他の4大精霊の3人。
何だかんだでしっかりと理解して居たのか、ドラゴノートと一緒に自身の身体を構成して居る魔力へと干渉し始める。
(……眩しい)
未だ目が妬かれてしまうのではと思えてしまう程に強烈な閃光を放ち始める4大精霊と龍。
光が発せられて居る為に肉眼で事態を把握するのは難しいが、細めた目から少しだけ様子を観る事が出来る。4大精霊と龍は、其の身体の形をヒトの其れへと変化させて行く。
「終わりましたわよ、御主人様」
ディオーネの其の言葉を聞いて、細めて居た目をしっかりと開く。
其処には、変わり果てた姿をした5人のヒトが居た。
「何だよ。変なとこでも在るのか!?」
声と髪の色から察するに、彼女はサラだろう。
炎其のモノが凝固したのではと思える真紅の髪とルビーの瞳、生み出して着て居る服も赤色で在り、全身が真っ赤だと言える。だが、似合って居無い訳でも悪いという訳でも無く、寧ろ良いという感想を感じさせて来る。
赤く動き易そうな服を着て居るサラだが、俺の視線を受けて自身の着て居る服や髪の毛に当たる部分を触って不安そうな表情を浮かべ始める。
「あの……どうでしょうか、御主人様? 何か可怪しな点は無いでしょうか?」
透き通る様な水色の髪にサファイアの瞳、声と其の色からすると彼女はディオーネ成のだろう。
サラサラとした手触りの好さそうな長髪の女性の姿を取って居り、彼女は自信の無さそうな表情を浮かべて居る。
「ねえ! 僕はどうかな? どう?」
緑色の髪にエメラルドの瞳、察するに彼女がシルフだろう。
視た目は幼く、ウィリアと同年代かと思える位に若く視える。ボーイッシュな少女といった印象を与え、サラとはまた違った感じでは在るが、とても動き易そうな服装をして居る。
シルフは、サラやディオーネとは違って、今の姿も満更では無く寧ろ楽しんで居る様に観える。
「姿の変わった自分はどうだろうか? 不自然な所は、無い……と言っても、少し違和感が在るな……ヒトの姿を取るなんで事は無いからな」
黄色の髪に琥珀の瞳をして居り、声からも理解出来るが、彼女がノーム成のだろう。
落ち着いた印象を与えて来る服を着て居り、口では自信が無さそうな事を言って居るが、実際はそんな事はなく、表情から察するに此方の反応を伺って来て居るだけの様に観得て成らない。
4人とも見目麗しいといった言葉が相応しく、一目視れば視線を逸らすのが難しいと思える程にスタイルが整って居る。そして、髪の毛や瞳の色、服の色は其々の属性に合わせて居るのだろう。
「……どうかしたのか? 主人よ」
其の渋い声に、俺は思わずそちらへと振り向く。
其処には、がたいが良くしっかりと鍛えられた様な身体を持つ男性が1人。筋肉質という訳でも無く、身は細いが其れで居ても強さを感じさせる。銀色の髪と瞳をして居り、真っ直ぐ此方へと視線を向けて来て居る。残った1人という事も在り、男性は1人しかいない為、彼がドラゴノートで在る事は一目瞭然で在ろう。髪の毛と同じ色で在る銀色で、光り輝くフルプレートの鎧を着込んで居り、如何にも騎士と言った風貌だ。身長の方は、俺よりも少し高いといった位だろうか。
「……そう、其れで良いのよ」
ヒトの姿へと変化した4大精霊と龍を視て、大きく首肯くウィリア。
精霊で在る4人と龍の1人は、ヒトの形を取った所為成のか身体から発せられて居た大きな魔力は抑えられて居る。
そんなこんなで眼の前に居る、使い魔と化した皆へと目を向ける俺とウィリアだが、街の方から数人の魔道士達が叫び成がら近付いて来るのを感じる。
「どうかされたのですか!?」
魔道士達は到着すると直ぐに質問の言葉を投げ掛けて来、応対する立場の俺とウィリアの方が逆に質問をしたく成って居る。
「ええっと……」
「実は先程、強烈な光が此方の方から発せられて居るのを確認致しまして――!?」
強烈な光というのは、魔法陣や使い魔に成った5人の変化時に発生した光の事だろうか。
魔道士からの其の言葉を聞くのと同時に、彼等の様子が可怪しい事に気付く。
皆、呆けて居る様子成のだ。
(成る程な……)
彼等の其の視線の先は、俺の後ろに居る4人の女性。詰まりは4大精霊へと向けられて居るのだ。
「確認して、何!?」
「――!? そして、大きな竜が居ると、見張りの者からの伝令を受け、此処に来た次第で在ります」
大きな竜は、確実にドラゴノートの事だろう。
魔道士達の様子を目にして大きく息を吐き出し、視た目からは想像出来無いで在ろう低い声で彼等に言葉を掛けるウィリア。
魔道士達は、其のウィリアの声を耳にしてハッとしたかの様で、俺へと視線を向け応えた。
『主人よ、どうするつもりか?』
『今は、大人しくして居てくれ』
念話でのドラゴノートとの質疑応答をし、そして眼の前で此処に来た理由を話してくれた魔道士へと口を開く。
「実験をして居たんだ」
「実験ですか? ……そう言えば貴方は、ヘイルオ・ヒュンペール殿! ヘイルオ・ヒュンペール殿では在りませんか!」
「あ、ああ……そうだけど」
事情を説明しようとすると、魔道士達は此方を見て驚きと喜びの表情を浮かべる。
「あの竜を倒したとかどうとかの……?」
周囲の魔道士達も、羨望の眼差しと共に小声では在るが、口々に俺の事について話し始める。
「此れ成ら、竜が出て来ても、怖く無いです」
「えっとね……其の大きな竜と、実験についてなんだけど……」
俺とウィリアを除いた魔道士達は皆テンションが高く、俺は圧倒されそうに成るが何とか説明に入る。
「俺が実験して居たのは、使い魔システム」
「――え?」
其の俺の言葉を聞いて、魔道士達は皆が一斉に静まり、1人が質問の言葉を口にする。
「えと……使い魔システムってあの男の研究の……?」
「……そうだ。実験対象をどうするかで、無理矢理モンスターを使おうとしたから彼奴は追放されたじゃん? 其処を、クリアしたのさ」
嘘だ。
眼の前に居る4大精霊や龍は無理矢理召喚した様なモノ。
が、彼女等は別に気にした様子は無く、楽しそうにして居る。
魔道士からの質問に応えると、皆静かに耳を傾け、俺へと真っ直ぐ視線を向け始めた。
其の事に驚きを感じつつも、説明を続ける。
「で、此処に居る此奴等が俺の使い魔……4大精霊と龍だ」
俺の其の言葉に、魔道士達は俺の後ろに居る5人へと目を向ける。
すると、皆、ボブゴブリン達は目に入って居らず4人の女性――4大精霊しか視えて居無いのか、顔を嫌に緩ませだらしの無い表情を浮かべ始める。
(まあ皆、スタイル良いしな……1人だけ子供の姿だけどさ……)
「ねえ、マスター? 今、失礼な事、考えたでしょ?」
「別に……」
シルフからの質問に、はぐらかし成がら皆へと顔を向ける。
使い魔に成った5人は、魔道士達に対して笑みを浮かべて居る。其の笑みはまるで、親が子供に対して向ける其れの様に思わせて来る。
「で、ですが、ヘイルオ殿……4大精霊というのは何となく想像は出来ますが、龍というのは流石に……」
「では、御視せしよう……此れが俺の龍としての姿だ」
「ちょ、待――」
魔道士からの猜疑の言葉に、ドラゴノートは少し気に障ったのか自身の魔力を操作し始める。
止めようと俺は声を出すのだが、時既に遅しとでも言うのか、ドラゴノートは龍へと姿を変えてしまった。
其の結果は推して知るべしで在り、言葉にする必要も無いだろう。
ヒトという形から龍へと戻る事で、抑えられて居た魔力は一気に解き放たれ、此の場に居る魔道士達に押し潰され兼ねない程の重圧感を与え始める。
ウィリアはヴィソン神と対面した事も在ってか、余裕では無いにしろ何とも無さそうな様子を観せて居る。
だが、他の魔道士達は勿論そういう訳には行かず、皆苦悶の表情を浮かべ始める。
「もう良い」
「理解りました、主人よ」
俺の言葉に首肯き、ドラゴノートはヒトの形へと戻る。
其の御陰か、此の場を支配して居た暴力的な魔力は収まり、ドラゴノートの中へと入って行く。
だが、収める前には既に其の魔力を感じて居た為に、此の場に居る俺とウィリア以外の魔道士は皆、マシに成ったとは言え苦し気な様子で在る。顔面蒼白で身体を震わせて居るだけで在れば未だマシな方で在り、気絶し倒れてしまう者迄も居る始末だ。
「申し訳在りません、主人よ……少し、大人気無かったと」
ドラゴノートは反省の言葉を口にして、俺と此の場に居る魔道士達へと深く身体を折り謝罪をする。
「此れは、医療魔道士でも呼ぶべきかな……?」
ドラゴノートがヒトの形を取った事で一件落着に成るかと思えば、魔道士達は動けそうに無い様子だ。
俺は仕方無く念話で医療魔法や治療魔法、回復魔法等が得意な魔道士を念話で呼び寄せた。
今のところは週1ペースで投降出来ているが、此の侭上手くペースを保った侭投降を続ける事が出来るのか自信が無い。
まあ、思い付く限り書き続け、投稿し続けるといった感じではあるし、読む人はペースが崩れ様が読むだろうし。ま、良いかと思っている。