魔導皇
「其の書類は其処に置いておいて。後、此れは確認して判子押しといたから……予算の方はっと」
次々と提出されて来る書類と格闘を熟しながら、「どうしてこう成ってしまったんだろう」なんて考える。
魔王であった彼を倒してから数ヶ月が過ぎ、プミエスタに初めて来てから1年は過ぎ去った。
魔王を倒したという事も在り、メギジアへと生き残った連合軍の皆と帰還するのと同時に盛大に迎えて貰えたのだ。
其処迄は良いだろう。だが、其処からが問題だった。
大きな広間の様な場所――会議室へと報告の為に通され、其処には平均よりも大きく多い魔力を持った者が4人居る。
メギジアの國王、シャルウィストの國王、エルフの國の國王、ドワーフの國の國王の4人だ。
4人の國王達は、ヒトや亜人種にしては強大な魔力を持っているが、抑えている様で空間内は歪む事も無く大きく濃密な魔力が充満しているだけだ。
メギジア國王は長く白い顎髭蓄えた白髪をした高齢の男性だ。黒いローブを纏っており、目を細めて此方へと観察をするかの様に目を向けて来ている。
シャルウィストの國王は黄緑色の髪をした女性であり、幾つもの宝石が付いた指輪や腕と脚に銀色の輪の形をした装飾を付けている。其の装飾品全てが何かの機能が付与された装置で在る事は何となくでは在るが判る。彼女からは、皆に対して興味深そうに視線を向けて来ている様に見得る。
ドワーフの國王は茶色の髪の毛と無精髭を生やしだ男性で、ずんぐりむっくりとしていているが、力強さをハッキリと感じさせる見た目をしている。
エルフの國王は艷やかで良く手入れがされているであろう金色の長髪をした男性だ。一目見るだけだと、其の目には何処か冷たいものが在る様に思得るが、其の奥には優しさと厳しさが在るという事が判る。
そんなメギジアの國王、シャルウィストの國王、エルフの國の國王、ドワーフの國の國王達が一斉に集った会議場で、連合軍として魔王城へと向かい生き残った者達其々の代表が此処に居る。
4人の王が居るという事も在り、場には極度の緊張が張り詰めている。
「で、誰が魔王にトドメを刺したの?」
そんな緊張の中で、俺達が到着して初めて顔を合わせたのと同時に、シャルウィストの國王である女性が口を開き質問を投げ掛ける。
彼女の瞳には明らかに疑問と興味が混じっているのが一目で判る。
他の國王達も、口には出してい無いがとても気に成っているのか、彼女の言葉を制する事も窘めるという事もせず俺達へと視線を向けて来ている。
そんな中で、皆が言葉を口にせず、一斉に俺へと指を向けた。
「へぇ……」
シャルウィストの國王が、そんな皆の指先に居る俺に対して値踏みをして来るかの様な視線を向けて来ている。
「――ねえ、うちに来ない!? 主に実験対象として!!」
喰い付く様に俺へと向かって来るシャルウィストの國王。
そんな彼女の様子を見て、ファメルやオヌムを始めとしたシャルウィストの國民達は「また始まったか……」といった風にウンザリとした表情と態度を見せている。
科学というモノに惹かれはするが、実験対象と成るという事に些か嫌な予感を感じてしまい首肯く事が出来無い。
「ねえ? どう?」
「――其れよりも俺達の処に来いッ! 特注の武具類をやるぞ」
シャルウィストの國王である彼女の言葉を遮る様にドワーフの國王が、彼女同様に俺へとグイッと迫って提案をして来る。
とても魅力的な提案に思得てしまうが、ドワーフが生み出せるものを自分の手でも生み出す事が出来るだろうという自信と確信が何処かに有り、其れを感じているが為に首肯く事は出来無い。
対してエルフの國王はというと、とても落ち着いている様子だ。否、落ちつている様に見せて来ている。実際は、シャルウィストやドワーフの國王達同様に俺を自身の國に引き入れたいであろうが、2人と同じ様な行動を取ると逆効果に成ると理解しているのか。
「まあ、落ち着いて下さい。引いてしまっていますよ」
そして、メギジアの國王は長い顎髭を弄りながら、シャルウィストの國王とドワーフの國王を窘める。
そうすると2人の國王は、ハッとした様な表情と成り、コホンと軽い咳をする。
「で、どうしますか? 彼の扱いについて……」
エルフの國王は、此の場に居る皆が感じているであろう疑問を口にする。
今の俺はとても危うい立場に居て、危険な存在でも在るだろう。
使い魔と成った4大精霊や龍で在る5人の力を借りる事でどうにかする事が出来た。そして、魔王は神々からの呪いに似た何かによって弱体化しており、限界が来た所為で、トドメを刺す事も出来ず、彼は自然と死んでしまったのだ。
此処に居る皆は、俺と一緒に居た者達が4大精霊や龍で在るという事は知ら無い。そして、トドメを刺してはい無い。
だが其れでも、誰かが倒したという事にしないと駄目なのかもしれ無いのだろう。
そして、俺には其れ丈の力が有るのだから扱いに関しては厳重の注意が必要であり、とても困難で在るのだろう。
魔王に次ぐ力の持ち主。近くに置いているとどう成るか、どういった事が起こるか判ら無い。遠くに置いておいても同様だ。
不発状態の爆弾。少しでも、軽く触れただけで爆発をしてしまう可能性の在る危険な存在。
今の俺は、そういったモノだろう。
「こういうのはどうでしょう? 我々の上に立って貰う、というのは」
メギジアの國王の其の提案に、此の場に居る皆は奇妙なモノを目にした様に、鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を浮かべている。
「勿論、実権が有る訳ではありません」
「御飾りに成れ、という事か……」
「ええ、そういう事です」
俺の確認の其の言葉に、メギジアの國王は大仰に首肯いた。
最初は余りの展開に、そして持ち上げて貰えているという事に驚きと嬉しさ、照れ臭さ等を感じていた。そして、「まあ、良いか……」等とも考えていたのだが。
飾りの立場と思っていたのは自分だけで在り、次々と、あれよあれよと難しい事の多い書類仕事等が入って来たのだ。其んな書類等を前にして悪態を吐きたく成ったが、何とか堪え書類を片付け、今に至る。
余程の事が無い限り其々の國家の会議に参加する必要は無いが、其れでも此のプミエスタの代表という立場に成っている。
ウンザリする程の仕事量ではあるが、其れでも國王の仕事と比べると大分と楽だろう。寧ろ、其れ丈で済んでいる事に感謝するべきだろうか。
「軍事関係ニ関すスル書類ハ、此処に置イテオクゾ」
「ああ。有り難う」
1つの書類を片付ける事が出来たかと思うと次の書類が追加されて来る。追加される書類の方が多く、速い為に机には書類の山が出来てしまっている。
そんな書類の山の隙間から、書類を手にしたゴブリンの姿が観え、ゴブリンは山積みと成っている書類の上へと新しい書類を置く。
使い魔と成って1年近く経過しており、ヒトの言葉はある程度流暢に話す事が出来る様に成ったゴブリン。最初の頃から日常会話程度であれば問題等無かった事もあり、今では殆どヒトの其れと同じ様に話す事が出来ている。
山積みの書類を片付けていき、漸く最後の書類――ゴブリンが置いた書類を手に取る。
ゴブリンの言葉の通り軍事関係のものであり、内容は今俺達が居る此のプミエスタの兵力等に関するものだ。
今のプミエスタは出る前と同様、モンスター達の軍団との戦闘前後時と同じ様に空中都市と化している。そして、其の時とは違い、今はシャンデリアの様に中心にはプミエスタが、其の周りには幾つもの村々や街々が浮かび、互いに繋がり浮かんでいる。
しっかりと高い壁が村々や街々を囲う様に存在しており、其の全てにドワーフが技術の全てを集めて生み出された合金が隙間無く貼られている。
プミエスタの防衛力の強化、其の他の技術等に他の國々や街等から協力を得ている。勿論、種族の違う者達、國々でも互いに技術提供等をしている。
考えても仕方が無い事だろうが、魔王だった彼の日記や本に記載されていた内容――神々や天使に目を付けられてしまう可能性が在るかもしれない。
(……さて、強化する事で良い方向へと向かうかそれとも……)
書類の全てを片付け終えたのと同時に窓へと顔を向ける。
外は暗く成りつつ在る。夕方と言える時刻だろう。
「さて、と……」
書類作業に使用していた道具を直し、図書館へと向かう。
薄暗い中で石畳の道路を歩きながら、軽く周囲を見渡してみる。
パッと見ただけでは判ら無いが、科学國家であるシャルウィストの技術、ドワーフの金属等を扱う技術、エルフの優れた魔力利用の技術等が普及し、街は1年前とは比べ物に成ら無い程に生活のし易いものへと変化している。
より便利な道具、より品質の良い食品等々。
医療関係等もまた進歩しており、新しいものが発生し無い限り、病気等で死ぬという事は無いだろうと言える程に成っている。
「…………」
重い扉を開き、図書館の中へと足を踏み入れる。
中はとても明るい照明が灯っており、圧倒的な数と大きさをした本棚や本が並べられているのを見る事が出来る。
そして、其の本棚のうちの1つの下の方に20代であろう若いヒトの男性が1人、そして見覚えの在る金色の長髪の男性が1人本を手にして何か話をしているのが見得る。
エルフの男性の方は、メギジアで模擬戦をしたあの男性だ。其のエルフの男性は、エルフの國からの代表でも在り、そして俺の監視役でも在る。
魔王に次ぐ力を持つ爆弾の様な存在でも在る俺を放置しておく訳にはいか無いという事も在り、顔見知りでも在る彼、そしてもう一人のエルフで在り、メギジアでも顔を合わせた女性が俺達の監視役として此のプミエスタへと来ているのだ。
他にもシャルウィストからはファメルとオヌム、ドワーフの方からも模擬戦で手を合わせた男性が監視役として来ている。
「おや、魔導皇様じゃありませんか……此の様な処に一体どの様な御用で?」
「そういうのは止めてくれ、ウォレス」
「ハハッ、悪いな」
此方に気付くのと同時に俺へと、エルフの金色の長髪をした男性――ウォレスが冗談めかして口を開く。
其れに対して俺は苦笑を浮かべながら軽く言葉を交わす。
今の俺は皇という立場で在るが、名称としては魔導皇と呼ばれている。
魔王城から帰還して、俺は戦利品で在る本の中の資料等を図書館等に寄付したり、魔道書や魔導書等を量産を試みて成功させた。
そういった事も在って、魔導の皇という事で魔導皇と呼ばれている。
「ディズ、リベリオの爺さんは何処に居る?」
俺は、もう1人の男性へと質問を投げ掛ける。
男性――ディズは黄色の髪と目をしており、とても人当たりが良い性格をしている。
「奥の方に居ますよ」
「そうか、有り難う」
俺の質問に笑顔で短く応えるディズ。
彼に礼を言いながら、奥に居るであろうウォレスの元へと向かう。
左右に存在している本棚や何冊もの本からは強大な魔力が発せられており、其れ等総てが魔導書で在るという事が判る。そして、歩く度に其れ等が俺を押し潰そうとして迫って来ているのではないかという錯覚も感じさせる程に巨大で在り、数も多い。
其れ等魔導書の殆どは、俺が魔導王と成ってから寄付を受けたモノや生み出されたモノ、俺達が魔王城から持ち帰ったモノ等が含まれている。
魔導書を生み出す方法を簡単に説明してみれば、魔力を込めながら白紙の紙や本へと其の魔法の行使方法等を記載していくというモノだ。そして、魔力を石の中へと閉じ込めて利用するという技術や技能も在る。色々と省き、テキトウな説明では在るが、そういったモノを組み合わせ、インクへと魔力を込めて閉じ込め、其の魔力の込もったインクを使用して印刷していく事で魔導書の量産が可能と成った。
そんな本棚と本の間を暫く歩いていると開けた場所へと出て、此方へと背を向け椅子に座り作業をしている白髪の男性老人が1人居る。
後ろ姿だけでは判り難いが、覚えの在る魔力で在り見た目をしている。
「おや、此れはまた魔導皇様……此の様な処にどういった御要件で?」
声もまた聞き覚えの在る嗄れた声。
クシ・ヴィソン神を祀っている神殿等が在るあの街、ディラン達が居たあの街の本屋の店主――ディズの祖父で在るリベリオだ。
「あんたもか……そういうのは止めてくれ」
俺が近付いているのを感じ取ったのか作業を中断して俺の方へと振り向き、誂って来る。
其れに対して俺はまた苦笑を浮かべながら、男性老人がしていた作業がどういったものなのかを軽く見る。
其処には薄い紙とペン、インク等が置かれている。そして、其の薄い紙はどうやら地図の様だ。
「地図か……」
「そうともさ。魔導皇というのが誕生したからには、其れが統治する國――まあ、連合國では在るけど、其の地図が必要であろう?」
「それもそうだな……」
リベリオの言葉に同意をしながら、未だ未完成であろう地図へと目を向ける。
世界地図の真ん中には当然世界樹が記されている。だが、殆どのヒト達は世界樹が存在しているという事を何となく感じながら、認識しながらも、其れが本当に存在しているのか確信を得る事は出来無い。ただ、世界の中心に存在し、我々の生活に無くては成ら無いモノだという事を理解しているだけだ。実際に見ようと、知ろうとするので在れば、世界樹の在る場所へと向かうか、遠見の魔法を行使する必要が在るだろう。
「遠見の魔法を行使して造ってるんじゃが、やはり上手く見て、書き記す事が出来ん」
「何だよ、遠見の魔法を行使出来るのか?」
「まあ、限定的にじゃが……御前に誘われて此処に来る前にクシ・ヴィソン神様から使い方を教わったのじゃ」
限定的にという言葉は在るが、其れでも遠見の魔法を行使出来る者が其れ成りに居るという事に少し驚く。
少し思い出してみるが、今現在判明している遠見の魔法を行使出来る者達は俺とリドイ、ウィリア、魔王、そしてリベリオ……出来るで在ろう者達は4大精霊や龍の5人。
そして、リドイと魔王は俺の思考を読み取り行動していた。
詰まりは、他者の思考を読み取る事が出来る魔法は、遠見の魔法の延長線上に在る、または遠見の魔法の使い方の1つだという事だろう。
「ん? 此処がプミエスタで、此処がメギジア……此処がシャルウィスト、エルフの國、ドワーフの國か……そして」
「そうとも。此処が、魔王城だったモノが浮遊している場所だとも」
世界樹からかなりの距離が離れた場所には魔王城と記載された点が在る。
魔王城の大きさは直径約1垓kmもの大きさをした金属の塊の様なモノだ。
其の地点へと意識を向けると、其処からは相変わらず巨大な魔力と魔力が発せられているのが感じ取れる。魔王が生きていた時と比べると大分と小さいモノでは在るが、其れでも未だ大きいと言得るだろう。
そして、其の魔王城から約1,000垓km離れた地点に在るのが俺達ヒトやエルフ、ドワーフ達が生活をしている場所だ。
其々の國の大きさは直径で約1京km 程度の円形の様に広がっている。
其れでもかなりの広さと大きさで在り、光速で動くモノや亜光速、亜音速で動く事が出来る大人しい動物達を手懐け、移動手段としている。
「まあ、俺も遠見の魔法を行使出来るし、簡単なアドバイスだとか地図の修正は出来るからさ」
「莫迦者。御前さんは御前さんのするべき事をしておけ。魔導王としての仕事を、な」
「ああ、理解った。何か在れば言ってくれよ」
俺の提案に対してリベリオは笑顔を浮かべ首を横に振る。
そして、リベリオの其の言葉に俺は首肯きながら再び来た道を戻り、プミエスタでの自身の家へと向かった。
目を開き、枕元に置いて在る時計を見て時間を確認する。
時刻は午前4時位で在り、外からはチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえて来る。窓から見得る外の景色は明るく、外を出歩いている人の姿は無いが、そろそろ誰かが起きて行動を始めても可怪しくは無い。
柔らかいベッドにもう少しの間だけ横に成っていたいが、其のもう少しというのが厄介なモノだ。気が付けばかなりの時間が経過してしまっているという事に成る可能性も在る為に、何とか堪えて身体を起こす。
食事を摂る前に、蛇竜の牙から造った剣を手に取り家の外へと出る。
「…………」
外に出るのと同時に心地好い温度と風等が身体を撫でて行く。
ふと横へと目を向けると、蛇竜の血の塊から生まれた天馬が馬小屋に居て、俺いn気付いたのかアピールをする様に嘶く。
「ああ、御早う」
朝の挨拶の様に軽く撫でてやる。
すると、何時もの様に目を細める天馬。
撫でていた手を止め、俺は天馬から少し離れて剣を構得る。
(さて、始めるか……)
魔王だった彼の日記等に記載されていた内容を思い出す。
神々の呪いに似たモノに因って、力の大半を失い制限を掛けられてしまったというモノ。
今の自分にはそういった事は無いが、何かしらの原因で、何かが神々の琴線や逆鱗に触れて、魔王だった彼と同じ様に力を上手く使う事が出来無く成る可能性が在る。
そういった事も在り、俺は基本中の基本で在る身体の動かし方や剣等の武具類の使い方を復習する事にした。
此れ迄は力の限り、力任せに振るうだけでどうにか成って来た。が、そうも行か無い状況や状態に成る可能性も在るのだから。
(駄目だ、雑念が……)
魔王だった彼が死んで、彼の日記等を読んでからどうも神々への不信感が湧き上がり、消える事が無い。
何時か自分もそういった状況に成るのではと、否、成るだろうといった確信を何処かで感じてしまっているのだろうか。
「…………」
手にしている白銀の牙剣を握り直し、構得る。
「御早う御座います、ヘイルオ」
「ああ、御早う。ウォレス」
剣を構え直すのと同時に声が聞こえ、其の方向へと顔を向けて応えて朝の挨拶を返す。
其処には、昨日図書館に居たエルフの男性――ウォレスが1人歩き近付いて来る。良く良く見てみると、腰にレイピアは無く、彼の左腕には銀色に光り輝く腕輪が装着されている。
「気持ちの良い朝です。魔力が満ちていて、涼しく、昇りつつ在る太陽の陽射しも程好い……とても良い朝だ」「ああ、そうだな」
「処で、どうしてこんな朝早くに? 私は朝の散歩ですが」
質問をする前に、ウォレスは清々しい様子を見せながら口を開き、逆に質問を投げ掛けて来る。
彼の言う通り、今日の朝はとても気持ちが好いものだと言得るだろう。
澄んだ空気にひんやりとした風に暖かな陽射し。そういう事も在り、目覚めたばかりの時に感じていた眠気は既に吹き飛んでいる。
「剣の練習かな……基本を復習しようと思ってな」
「そうですか……では、手合わせの様なモノをしませんか?」
俺の返答に対してウォレスは「成る程」といった様子で頷きながら、何かを考えているのか少し目を閉じる。
そして閉じていた目を開くのと同時に、彼は左腕の腕輪へと右手を持って行きながら俺へと軽く提案を上げる。
「別に構わ無いけど――」
「――あの時の様に、大き過ぎる力の行使は止めて下さいね。まあ、剣術等の確認という事ですので問題は無いでしょうが……」
「あ、ああ……」
俺が同意するのと同時に、ウォレスは隙かさず確認の言葉を喰い気味に言う。
其の態度に気圧されながらも、俺は頷き手にしている剣を強く握る。
「では……」
ウォレスが口を開いたのと同時に、周囲の魔力の流れが変化し、変質し始める。
エルフは森の民、ドワーフは山の民、ゴブリンは洞窟の民等と呼ばれているという事を思い出す。
森の中は、他の場所と比べて魔力の質は良く、量が多い。
そういった場所で常に生活を続けているエルフ達は魔力を身近に感じており、他のヒト種や亜人種達と比べると魔力の扱いは精霊に次いで1番だと言得る程のモノだ。
「此れは……」
周囲の空間が歪みズレ始めるのが感じ取れる。
視界だけでも、周囲の色が変化し歪んでいるのが判り、少しだけ気分が悪く成る。が、其れも一瞬だけの事で在り、直ぐに気分は何時も通りへと戻る。
周囲の景色は、変わら無いが色は反転している様に見得る。
其の事に驚きの声を俺は思わず漏らす。
「結界の一種です……此れで幾らでも、好きな様に剣を振るう事が出来ますよ。まあ、そうですね……1分、1分経過するとアラームが鳴り、結界が解除される様にしています」
「1分か。十分だな」
ウォレスの簡単な説明に首肯き同意をする。
俺は手にしている白銀の牙剣を強く握り構え、ウォレスは腰にぶら下げているレイピアを手に取る。
そして、ウォレスは手にしているレイピアへと結合させた魔力を注ぎ込む。
「……後は」
ウォレスは左腕の腕輪に在る凹凸部分に触れ、其の腕輪が眩い程の光を放ち、光が消えるのと同時に彼の腰には見慣れたレイピアがぶら下げられているのが見得る。どうやら、シャルウィストの誰かから物質を量子変換し収納出来る腕輪を貰った様だ。
彼の右手にレイピアを握り構えながら、左手には懐から出したのかダガーを手にしている。其のどちらにも赤、青、黄、緑の宝石が使用された装飾が成されている。
「此方は何時でも構いませんよ」
「其れじゃ、行くぞ」
ウォレスの言葉に首肯き、俺は剣を思い切り振るい地面を這う様な衝撃波を彼へと向けて疾走らせる。其の斬撃波に対してウォレスは大して驚く事も慌てる事もせずに軽く跳躍し、回避してみせた。そして、 ウォレスが着地をするで在ろう地点へと俺は再び斬撃波を起こし、飛ばす。が、彼は風属性魔法を行使して飛行。着地する事も無く、向かわせた斬撃波は結界の壁部分へと向かいぶつかり消える。
ウォレスは飛行魔法を行使して、レイピアの剣先を俺に向けながらかなりの速度で突っ込んで来る。其れに対して俺は手にしている剣を斬り上げの要領で振るいながらウォレスへと向かって跳躍し、次いで斬り下ろす。ウォレスは其の斬撃に対して手にしているダガーを使用して往なして防御に成功させてみせる。
其の侭ウォレスは飛行魔法で俺の背後を取る様にして移動するが、俺は空間転移をして最初に見合った時と同程度の距離を取る。
「やはり、あの時のあれは貴方でしたか……」
「まあ、そうだな……」
あの時のあれというのは魔王城で、モンスター達の攻撃を受けている装甲車から空間転移で抜け出した時の事だろう。
ウォレスは納得したといった様な様子を見せながら、レイピアの剣先を俺へと向けしっかりと構え直す。
俺の肯定する言葉を聞いたのと同時に、ウォレスは俺へと向けて踏み込みながらレイピアでの突きを放とうとする。其れに対して俺は手にしている剣の腹部分で防御するが、ウォレスの繰り出す突きはかなりの速度を出し連続で繰り出されて来て、防御に徹する。
光速を超えた速度で繰り出される連続の突きに対して、俺は其の突きに対して剣の腹部分を使用して沿う様にして往なしてウォレスの横へと移動し、宙に浮いている彼に対して多段の回し蹴りを喰らわせる。見事に鳩尾へと当てる事が出来たが、ウォレスは吹き飛ばされただけで在り、直ぐに体勢を整えた。
「剣の練習では無いんですか?」
「悪い悪い……思わず、な」
ウォレスの俺を批判するかの様な表情と質問に、俺は申し訳無い気分に成って謝罪の言葉を口にする。
「まあ、良いでしょう」
ウォレスの了承の言葉を口にしながらレイピアを腰へとぶらさげ直し、左腕の腕輪の凹凸を右手指で触れ、レイピアを収納する。
俺がウォレスの其の言葉に苦笑をしていると、何処からかアラーム音が鳴り響き、結界が解除されて景色や風景の色が何時もと変わら無いモノへと戻る。
「どうですか?」
「そうだな……悪く無い。思ってたよりも動けた」
「其れは良かったです。では、また。早朝の会議で」
「ああ、また後でな」
ウォレスからの確認の質問に対して首肯きながら、手にしている剣を下ろす。
別れの挨拶を済ましながら家の中へと戻り、朝食の準備に入る。
振るった剣、そして身体の動かし方に満足と言得るレベルだった。
此れで、魔法等が上手く行使出来無い状況や状態にでも成った時に上手く動き対応出来る様に成っただろうか。否、剣が無い時の事も考えて格闘等も検討するべきだろう。
等と考えながら、朝食の準備を開始しようとするのだが――。
「そろそろ、隠れて無いで出て来たらどうだ?」
背中に突き刺さる視線が気に成り、作業をするなんて事は出来そうに無い。
其の視線には、明らかに殺意が込められて居るのだから。
後ろの家具の影、物陰からユラリといった風に何者かが姿を現したのが判る。
世界と同一化する程の高度な気配遮断能力を持つ其の謎の存在を前にしても、俺は脅威を感じる事が無い。
「仇、か……?」
「…………」
後ろに居る何者かを直視する事はせず、俺は確認の為の質問を投げ掛ける。
が、其の何者かは応える事は無く、懐から鋭利なナイフを取り出し構える。
鏡の様に綺麗な、そして強く明白な殺意が込められて居る。
「殺す成ら、殺しても良い。今がチャンスだぞ……だが、俺を殺すと後が大変だぞ。否、既に覚悟をして来て居る様だな……」
「…………」
音という音を立てる事もせず、静かに歩み寄り、手にして居るナイフを振るって俺の背中へと突き立て刺す影の様な存在。
鈍い痛みと熱等――背中から胸を始め心臓や骨すらも貫通し斬り裂かれる感覚を覚え成がらも、俺はゆっくりと意識を失う。
「此処は……」
「未だ死んだ訳じゃ無いわ。でも、瀕死……まあ、あの程度で在れば意識を失うだけで、直ぐに回復するでしょうけど」
顔を上げるのと同時に視界に入って来たのは、洞窟の様な何処かで在り、其処は自棄に眩しい。
重苦しい場所で在る筈成のに、そういう風に感じる事は無い。
「そうか……」
眼の前には河川が在り、何隻の小さな舟が停泊して居る。
そして、其の舟の直ぐ側に居る1人の女性から、簡単な説明を受け、俺は小さく頷く。
川の向こうに大きな建物が在り、其処では長蛇の列が出来て居るのが観える。
「あの建物は何だ?」
目が覚める迄――意識を取り戻す迄の間、其の隙を持て余すという事が出来ず、俺は近くに居る女性へと質問を投げ掛ける。
「剪定の間……死ぬ直前迄に行った所業を観直し、其れに依ってメンタル界を始めとした天国へと直接向かうか、またアストラル界等を始めとした世界で浄化作業を受けてから向かうか等を決める為の場所です。其の後に、輪廻の輪へと入り、また生命を受ける」
簡単な言葉で、短く応える女性。
「メンタル界等の天国での一定期間での生活は、未だ存命の人達の手で幾らでも変わります。供養等を受けて居るので在ればより良い生活を」
そして、未だ話は続く様で在り、俺は不思議と其の言葉に耳を傾けて居る。
「浄化作業で浄化されるのは感情……経験等を始めとした能力は残ります。そしてやはり、何事にも例外は在るのです……極めてクリアな魂を持つ存在は、ブッディ界やアートマン界へ。更に、寿命とは違う何かで此処――川の向こうで在るあの場へと逝ったモノは、其れ等を受ける事無く輪廻へ」
此方側から舟で河を渡る人達が何人も居り、向こう側の建物付近の長蛇の列は一行に短く成る様子は無い。
「魂には幾つもの体が有り、そしてエネルギーが有ります。基本的には存命の間に其のエネルギーを完全に消費する事で此処に来る事に成ります。其れが無ければ――エネルギーが0に成らずに死んでしまう……寿命以外での死――自殺や他殺、事故死を始めとした死に方をすれば、強制的に輪廻の輪へと入るのです。場合に依っては同じ種族の侭、能力等も付加し、其のエネルギーを完全に消費出来る様に……」
「…………」
「其の新たに付加した能力等は無理矢理魂に入れるモノですので、当然魂に負荷が掛かります。場合に依っては、魂が歪む事も――」
再び意識が遠退き始めるのが感じ取れる。
今回は短い。
普段何をするでも無く、知識や人生経験も無い奴が碌でも無い妄想を文章にするとこう成る。何の面白みも無く、読み辛い。読みながら場面の想像をする事すらも苦痛だろう。
改善すれば良い、知識や経験を得れば良い話では在るが、其れが難しい。




