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サトロシー・ヴェアトロス  作者: りおんざーど
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SONIC DRIVE

「運動会?」

「ええ。運動会と言いますが、生徒や教師の身体能力と魔力マナ操作が何れ程のモノかの確認を行う為のモノですので、全くの別物ですね……まあ其れでも運動会としての名目上、色々な種目等が在りますが……」

 魔法学院へと入学し、男子寮の398号室でリドイと共に暮らし始めてから1週間が経過しようとして居る。

 自身に割り当てられて部屋で在る398号室――リドイとシェアして居る此の部屋のリビングに置いて在るソファへと座り成がら、他愛も無い話をして居る途中に運動会を始めとした行事についての話に成った。

 今日から1週間後に予定されて居る行事――此の魔法学院で行われる運動会は、他の街の学校や学院の運動会とは違い、魔法を行使する事が許されて居る。否、と言うよりも、正確には使用する前提での行事。使用する必要が在るのだ。徒競走等でも、身体能力等といった無属性魔法を行使して、通常値から何れだけ強化出来るか、何れ位の間強化し続ける事が出来るか等を観たり、競ったりをするらしい。

 とは言うが、他の学校や学院については何も知ら無いのだから、何の様に違うのか何ていう事は判らず、説明する事なんて出来はし無い。

「まあ、そういう事ですので、ランニングでもしてみたらどうですか?」

「ランニング? そうだな……」

「何をするにしても体力は必要ですよ。其れに……何事も楽しま成ければ」

「そうだな……やってみるか」

 リドイの提案の言葉に対して、訊き返し成がら少しばかり考え込む。

 悩む俺に対してリドイは、後押しをするかの様な言葉を口にして、其れを受けて俺はする事も無いので渋々と男子寮から外に出た。




「とは言ったものの……どうすれば良いんだ……?」

 リドイの提案の言葉に対して、渋々とは言え賛成の意を示して外に出た迄は良かったのだが、いざ外に出てみても何をどうすれば良いのか、どうすれば訓練等に成るのかなんていう事は全く判らず、俺は途方に暮れてしまって居た。

 此のプミエスタに於いては、幼い子供達は魔力マナに触れる機会は嫌と言う程在りはするのだが、魔法を自ら行使するという事は余り無いらしい。

 否、正確には親を始めとした周囲の皆の殆どが其れを許さ無いのだ。身近な其れでは在るのだが、行使する事は簡単でも、其の後に起きた現象や出来事は現実に干渉するモノ。「自身で責任を取る事が出来る年齢に成る迄」と考える者も居れば、「学院に通わせて理解させる」と考える者達も居る。

 何方にせよ、魔法学院に入る迄は魔法を行使する機会なんて言うモノは無いらしい。

 実際に、此の街――プミエスタの住人達の殆どは魔法を自ら行使するという事をして居無い。少なくとも、俺が此の街に来て、今日此の時迄視た事が無いのだ。魔法を使用して生み出された魔道具マジック・アイテム等は良く使用して居る場面は視るのだが。

 そういった事も在り、其の魔力マナ操作に関しては、自惚れて居る訳でも其のつもりも無いのだが俺の方が優れて居るのは確かだろう。

 俺がプミエスタへと来る前迄住んで居た故郷の村では、幼少期の頃から身体能力強化等の魔法を行使して遊ぶ等といった事をして居る為、此の街の人達と比べると魔力マナの扱いについては一日の長が在るのは確かだ。

 村には遊ぶ為の道具等が無かった為と言ってしま得ば其れ迄でとても哀しいのだが、今回は其れがメリットに成って居るという事も在り、少しは良かったと思う事が出来る。

「なんて浮かれたり、調子に乗ったりしちゃ駄目だよな……」

 取り敢えずでは在るのだが、大気中に存在してリ居る魔力マナへと干渉をして、其れ等を呼吸と同時に取り込み、身体中へと行き渡らせる。

「うん……まあ、魔力マナはしっかりと行き届いて居るし、魔法の方は失敗して居無い様だし、問題は無いかな……」

 新鮮な空気と一緒に入って来た魔力マナは確かな力を俺に与えてくれて居るのが判る。

 魔力マナが身体中を循環して居る事で、普段以上に力が湧き上がって来て居るのが感じる事が出来、自身の鼓動は勿論、草木の擦れる音や遠くで燥いで居る子供達のモノで在ろう声等もしっかり、ハッキリと聴き取る事が出来る程に成って居る。

 普段よりも優れた状態では在るのだが、耳に届く音や感じるモノが余りにも多いという事で気分が悪く成るという事は何故か無く、其れ所か無性に気分が良い。

 感覚が研ぎ澄まされ、普段の状態が何処か其れ等力や感覚を無理矢理に押さえ込んで居るかの様にさえ思えてしまう程だ。

「さてと、其れじゃあ……」

 身体能力強化魔法の継続力等を確認する為に、軽くジョギングを開始する。

 少し脚を速めに動かして、ちょっとずつ前進して行く。

 踵から爪先と地面へと着け、そして蹴るといった事を繰り返して進んで居るのだが、靴を履いて居るにも関わらず地面の感覚――土や草、小石等に直接肌で触れて居るかの様な感覚を感じる。まるで、靴が自身の身体の一部にでも成ってしまったのではと思う程に。

 身体の方は、ほんの少しでは在るが動き続けて居るという事も在って体温が上昇をし、火照り始める。

(ジョギングを始めた迄は良いんだけど……訓練って本当に、一体何をどうすれば良いんだろう?)

 疾走り続けて居るとあっという間に魔法学院の出入り口で在る門へと辿り着く。男子寮から強化魔法を行使せずに向かった時の時間と比べると、其の半分未満の時間で到着出来て居るのでは無いだろうか。

 俺は其の侭門から街の方へと脚を動かし、進めて視る。

 当然の事では在るが、街には色々な建物が在り、そして色々な営みが繰り広げられて居る。

 軽く風を切り成がらもう少しばかり疾走り続けて居ると、聞こ得て来て居る子供達の声が次第に大きく成って来るのが判る。元々ハッキリと聞こ得て居た其れがよりハッキリと鮮明に成り、子供達の呼吸音も聞こ得るのではと思えてしまう。

(公園か……)

 疾走り成がら横目で公園を覗いて視る。

 公園の中では、元気な様子で疾走り周って居る沢山の子供達が居り、やはり其の子供達の親もまた笑顔で視守護って居るのが視える。

 実に平和な其の光景を目にして、疾走り成がらも俺の表情は緩む。

(良い街だ。実に良い街だ。こんな良い街が他に在るだろうか?)

 公園から離れ疾走って居ると、入学試験を受ける前に朝食を食べた食事処が目に入って来る。

 其処――レストランからは食欲を唆って来る良い匂いが漂って来て居り、俺は其の匂いを受けてまた表情が緩んでしまう。

「飯か……丁度、御腹が減ったな」

 ぐぅーといった風に、御腹は空腹で在るという事を主張するかの様にして音を立て始め、其の空腹度合いを意識し始めると、急に御腹と背中がくっ付居てしまうでのはと思えてしまう程に御腹が減って居るという事を認識してしまう。

 時計を視ると、丁度昼頃とても言う事が出来る時間帯だ。

(食事を摂りたい所だけど、そろそろ授業だしな。何か適当に買い食いして、誤魔化すかな……)

 昼飯時の時間帯が近いのは近いのだが、其れと同時に昼に在る最初の授業もまたそろそろといった時間帯だ。

 ガッツリと食事を摂りたい所では在るが、時間の問題も在る為に軽食で済ませる必要が在るだろう。

 脚の動きを遅くし、走行から歩行へとゆっくり変化――歩調を緩めて行く。

 息は全く乱れては居無いが、心なしか少し汗が流れて居る様に感じ、気持ちが悪い。

 そうして歩いて居ると、小さなパン屋が目に留まる。

 其のパン屋の道路側にはガラスが張られて居り、其処から何の様なパンが在るかを確認する事が出来た。

 ドアの隙間からは焼き立てだろうパンの良い匂いが漂って来て居り、鼻孔を擽る。

「此処で買うかな……」

 脚を止めて。其のパン屋のドアを開き中へと入る。

「何れにしようか……」

 店の中に入ると同時に、並べられて居るパンが視界に入り、目移りしてしまいそうに成る。

 何のパンも魅力的で心惹かれ、美味しそうに視えるのだ。

 張られて居るプレートに記載されて居る数字からも年団の方もまた手頃だと言う事が出来るモノで在る事が理解出来、数個程買ったとしても財布事情的には全く痛くも痒くも無い。空腹度も踏まえ思わず財布の紐を緩めてしまいそうに、幾らでも食べられそうだと思えてしまう。

「此れと此れと此れ、後此れと此れも買おうかな」

 何れを買うのかを決め、指を指し成がら店主へと指示を出す。

 クロワッサン、プレーツェル、コロネ、メロンパンの4つだ。

「魔法学院の生徒、さん……だよね?」

 此のプミエスタの魔法学院には制服という物は無く、私服で生活をしたり行動したりする事が出来る。其の為に、パッと外見だけで魔法学院の生徒だという事を判別する事は出来無い筈成のだがどういう事だろうか。

 身分証明書で在るあの銀色のカードも未だ視せては居無い。

「はい、そうですけど……でも、どうして……」

「感という奴さ。で、今度、運動会が在るじゃ無い? 其れに向けて何か特訓とかってしてるの?」

「いえ、特に此れといって……」

 此方が財布から取り出した値段分の御金を受け取り、指定したパンを紙袋へと居れ成がら世間話でもして居るかの様にして、俺に話し掛けて来る店主のおばちゃん。

 おばちゃんの手際はとても良く、少しの無駄も無い様に思える。

 其々のパンを薄い紙で包み、パンに付着して居る砂糖や塩を全く零れる事も落とすという事も無く、紙袋の中へと入れて行くのだ。

「して無いって事は、し無くても良いって事かしら……凄い自信家ね」

「いえ、そういう訳では――」

「――あいよ。ちゃんと言ったの全部入ってるか確認してね」

 此方の言葉を遮る様にして喋り、パンの入った紙袋を渡して来るおばちゃん。

 おばちゃんの言葉を特に否定する為の言葉が浮かばず、只紙袋の中に入って居るパンに間違いが無いのかを彼女から目を逸らす様に、そして逃げる様にして確認する。

「頑張ってね。おばちゃん、応援してるから」

「有り難う、御座います……」

 まるで近所に住んで居る世話焼き、世話好きの人の様な様子を視せて来るおばちゃんに軽く会釈をする。

 悪い気は全くし無い。寧ろ、何処か擽ったい気持ちに成る。

 リドイ達を始めとして、親身に、そしてフレンドリーに接してくれる、接するという事を許してくれる人が居るという事がとても嬉しいのだ。

 俺はおばちゃんに対して礼を述べ、店から外へと出る。

 ゆっくりと歩き成がら手にして居る紙袋の中をガサガサゴソゴソとテキトウに探り、手に当たったパンを1つ掴み、取り出す。

(時間的には……良かった、未だ余裕が在る。急ぐ必要は無かったかな……)

 取り出したパンへと目を向ける。

 先ず手にしたモノは、どうやらクロワッサンだった様だ。

 三ヶ月の形をして居る其れを、口へと運ぶ。

 サクッとした食感と同時に、俺個人にとっては「程良い感じ」だと思える甘さが口の中に広がって行く。

(此れは良いモノだ。まあ難点を上げるとすれば、サクッとして居る分、ボロボロと崩れ落ち易いといった所か……)

 一口、二口といった風に次々と口の中へと入って息、あっという間に食べ終わってしまった。

「……次」

 次に取り出したのは、コロネだ。

 円錐形にしたパン生地を焼いたパンで在り、中にはチョコクリームが入って居る。とどの詰まり、チョココロネといった種類のパンだ。

(毎回悩むんだよな……どっちから食べるか……)

 錐状の様に尖って居る方から口に含むべき成のか、底らしき部分の方から食べるべき成のか。コロネを手にする度に、そんな小さな事で俺は何時も悩んでしまうのだ。

 こういった小さな事で悩む事が出来るという事はとても幸せな事だろうと思い成がら、食べる。

「次……」

 プレーツェル。

 結び目の様な形にして焼き上げられた茶色のパンだ。

 手にした感触だと、しっかりと焼き上げられて居り、製法も在ってか固く感じられる。岩塩が使用されて居るという事も在ってか、口に運ぶとほのかに塩っぱさが感じられる。

 最後に食べるのはメロンパンと成った。

 メロン風味のビスケット生地を乗せたパンを焼いたモノ。

 ビスケット生地だった箇所はカリカリサクサクとして居り、其の下で在るパン生地だった部分はモフモフとして柔らかい。メロンの味もしっかりと付いて居り、とても美味しいと言う事が出来る。

「さて、と……」

 気が付けば既に魔法学院の門へと辿り着いて居り、食べ終わった事で空に成った紙袋を綺麗に畳み、近くに在ったゴミ箱へと向けて放り投げる。

 折畳まれた紙袋は放物線を描き成がら、見事にゴミ箱の中へと入る。




「其れじゃあ、此処からは此れ迄の復習を始めます。其処の貴方、何故我々人が魔法を行使出来るのかを説明してみて下さい」

「――え、ええと……」

 授業が始まるのと同時に、ウィリア――コンフェルト先生は昨日迄の授業内容を俺達生徒に再確認させようとする為に、1人の生徒を指名する。

 が、指名された生徒は行き成りだという事も在るので、困惑し、しどろもどろといった状態に成ってしまって居る。だが、其の生徒は其れと同時に、何とも嬉しそうな表情も浮かべて居り、他の生徒達は羨ましそうにして居る様に観え、そう感じてしまう。

「仕方無いですね……其れじゃ、其処の生徒」

 コンフェルト先生は、大きく息を吐き出し、先に市指名した生徒の後ろに座って居る生徒を指名する。

 先に指名されて居た生徒はガクリと大きく項垂れる様にして座り、其の後ろに居る生徒は嬉々とした様子を観せ、立ち上がり口を開く。

「我々ヒトは、創造神ケイ・シャフォン神……ケイ神、天空神シェ・ヘメル神……ヘメル神、大地神ボド・ソルン神……ボド神、深海神ミ・メア神……メア神、知識神クシ・ヴィソン……ヴィソン神に依って生み出されました。そして、ヴィソン神から知識が授けられました」

 神々は、魔力マナと自身達の垢を織り交ぜ、其の中に唾液を混ぜる事でヒトという存在を生み出した。魔力マナと垢は肉体と成り、唾液は血液と成ったのだ。

 魔力マナを混ぜる事で生み出されたという事も在り、向き不向きというモノも在りはするが、基本ヒトは身体を動かすのと同じく直感的に、極自然な感覚で魔力マナを操作する事が出来、其の魔力マナ操作の結果生み出される現象と生み出す行為を纏めて魔法と呼んで居るのだ。

「其の通りです。では、魔法には何の様な属性が在るのか……其処の生徒」

 また違う生徒を指名し、其の生徒は口を開こうとする。

 が、皆の目が集中する余りにど忘れでもしてしまったのだろうか、口を開いた侭で言葉が出て来無い様子だ。

「もう良いです……隣の生徒」

 呆れたといった風に両肩を上下に動かし、溜息を吐くコンフェルト先生。

 次に指名された生徒は、勢い良く立ち上がり自身成りの解釈を混じ得た説明を開始した。

「はい。基本的には、火、水、風、土、の4属性が存在します」

 火属性魔法――炎の精霊で在るサラマンディークの加護を受けて居る者が得意とする魔法。

 水属性魔法――水の精霊で在るウンディオーナの加護を受けて居る者が得意とする魔法。

 風属性魔法――風の精霊で在るシルフェイドの加護を受けて居る者が得意とする魔法。

 土属性魔法――土の精霊で在るグノートゥムの加護を受けて居る者が得意とする魔法。

 そして、各属性に当て嵌める事が出来無い魔法――無属性魔法とでも言う事が出来る魔法もまた存在して居る。此れは、身体能力及び身体機能の強化や活性化、保全等に使用する為の魔法だ。回復魔法等も含まれて居り、誰でも使用する事が出来る代わり、此の魔法を象徴する精霊は居無いらしい。

 そして、精霊や神々は行使可能では在るのに対して、ヒトや亜人等といった種族は行使不可能な魔法も幾つか存在して居ると言われて居る。

「私の得意な魔法は風属性です。ですが、他4種の属性魔法や無属性魔法もしっかりと行使出来る様に日々修練や鍛錬を怠ってはいません。得意な魔法を伸ばすのは良いですが、他の属性魔法も使えて損は無い……使え無いと困る事も在るからです」

 得意気な様子で語るコンフェルト先生では在り、彼女は大きく胸を張って居るのだが、視た目と年齢が幼いという事も相まってか大人振って居る様にも視え、視て居る此方の顔が思わず緩んでしまう。

 他の生徒達も俺と同じ様に感じて居るのだろうか、場がホワッとしたとでも表現出来るだろう――何とも言葉にし難い暖かな空気に包まれて居る様だ。

「行使出来るに越した事は無いのですし、貴方達もそう出来る様に訓練等をしなくては成らないと思います。ですので、今から其の訓練……修練を始めたいと思います」

 そんな空気を切り裂く様にして、コンフェルト先生は大きな声で教室内に居る生徒達へと言葉を口にする。

 今から行き成りの実技の授業という事を聞いて、此の場に居る皆は騒ぎ始める。

 此処に居る生徒の殆どは、魔力マナに触れる事は有っても未だ魔法を行使した事が無いのだ。

「まあ、狭い教室内では無理だと思うので、彼処で始めましょう」

 生徒たちの反応を確認する事もせずに先に出て行くコンフェルト先生。

 そんな彼女の後を追い掛ける様にして、生徒達はガヤガヤザワザワといった風に仲良く成った者同士喋り成がらゆっくりと教室から廊下へと出、向かい始める。

 先を歩いて居るコンフェルト先生では在るが、其の足取りはとても軽く可愛らしいモノで、トテトテ等といった擬音がピッタリと合うのではと思ってしまう。




 辿り着いたのは、自棄に開けた場所だ。

 真っ平らと言う事が出来る程に整地が成され、行き届いて居て草1つ生えては居無い。

「さて……では皆さん、好きな様に魔法を行使してみて下さい。失敗を恐れないで。何か在った時には私が対処しますので」

 そんなコンフェルト先生の言葉を聞いて、「待ってました」と言わんばかりに生徒達は皆が皆杖を手にして思い思いの魔法を行使し始める。

 魔道士が魔法を行使するには、大気中に存在して居る魔力マナへと干渉をする必要が在り、其れを行う事で魔法という現象を引き起こす事が出来る。其の際に、魔力マナ操作をするのに慣れては居無い者は、意識を集中させる為に杖を使用する事が多い。杖を媒介や道具にする事で安心感等を得て、より安全に魔法を行使する事が出来る様に成るのだ。

 が、慣れて居る者や天性の勘等を持つ者はそういった必要が無く、杖を使用せずに魔法を行使する者達もまた居る。

 必ず必要という訳では無い其の杖だが、其の材料でより安定性等を増させる等といった事も可能だ。

 謂わば、魔道士にとって魔法を行使する際に振るう杖は、補助輪の様なモノ。杖の材料は勿論、杖との相性もまた重要と成って来る。

 そんな補助輪を必要とする未熟な魔道士達――生徒達の殆どは、杖を手にして意識を集中させ、魔法を行使させようと努力して居る。

 風を起こす生徒。土を盛り上げる生徒。火を起こす生徒。水を生み出す生徒。小さくは在るが、現実へと干渉をして皆が思い思いの魔法を行使して、楽しそうにして居る。

 炎とでも呼ぶ事が出来る程の規模の火を起こす者、竜巻と言う事が出来る強い風を起こす者、只土を盛り上げるだけでは無く岩へと変える者、小さな範囲内では在るが雨の様に水を撒き散らす者も居るが、其れは極一部で在り、かなり少数だ。

 自身の力で魔法を行使する事が、行使出来るという事が嬉しいのだろう。生徒達の瞳はキラキラと輝いて居り、皆子供の様だ。まあ、当然成がら生徒達の中には幼い子供も居り、年齢が年齢成のだから当然だが。

 皆喜びや歓喜等に満たされて居るかの様に観える。

 魔力マナに触れる機会は日常的に、生まれてずっと経験しては居るが、魔法の行使自体は今日が初めて成のだから当然の事だろう。

「さてと……」

 観て居るだけでも十分に楽しい気持ち――達成感等を共感して居る様に思えるのだが、此れは授業で在り、自分は生徒という立場だ。

 コンフェルト先生が言った通り、自分の使用出来る魔法を試す必要が在るだろう。

「…………」

 何の様な魔法を行使してみるかを思案して居ると、足にコツンと小石が当たった事に気付く。

 そうして俺は、其の小石を拾いはするのだが、どうするのかを未だ決め兼ねて考えを倦ねてしまう。

 だが其処で、ふと豆電球に光が灯るかの様に、急にアイデアが浮かび上がる。

「……ふぅ……」

 大きく息を吐き出し、あるイメージを浮かべ成がら手にして居る小石に対して周囲で浮遊して居る魔力マナに干渉して注ぎ込んで行き、土属性魔法を行使する。

 小石は次第に形を変えて行き、伸び、変形し、刀へと変形を完了させる。

 だが其処で満足して終わる訳では無く、更に其の石刀へともう一度魔力マナを注ぎ込み火属性魔法を行使する事で、炎が発生し、其の石刀の刀身に纏わり付く。

 手にして居る炎石刀を軽く振るってみせる。

 炎はチリチリと燃え火花を散らし成がら、石刀は綺麗に空を斬り裂く。

「まあ、こんなものかな……」

 今の自分に出来る事をしてみせ、自分成りには満足する事が出来た。

 だが、何か異変を感じ、集中させて居た意識を途切らせる事無く、周囲へと向ける。

「あ、れ……? 何か不味った? やらかしちゃったかな……?」

 コンフェルト先生を除いた皆は、俺へと静かでは在るが何処か尋常では無い様子だと感じさせる様な目を向けて来て居るのが判る。

 どうやら俺は、目立ってしまった様だ。




 授業と言う名目で行われた魔法の訓練及び練習は終了し、生徒達は皆自身に宛行われた寮内の自室へと戻って行く。

 此の魔法学院での授業は午後の間――昼過ぎから夕方迄だけで在り、其の前や其れ以降は特に此れと言って何かをする必要は無い。生徒達にとって、自由時間が有り余る位のモノ成のだ。

 初めて魔法を行使したという事で感じて居るだろう興奮が未だ覚めては居無いのだろう生徒達は、寮へと戻り成がら自身の行使した魔法について自慢をしたり、相手の行使した魔法を賞賛する等といった事をして居る。

 コンフェルト先生――ウィリアは、生徒達が魔法を行使した事で出来てしまった地面の凹み等を元に戻す作業をして居るのが視える。

 ウィリアが片付けをして居る中で、生徒達は興奮等を感じ成がらもやはり疲れた様子を観せ成がら此の場を後にする。

 魔法は、感覚的に行使する事が出来るとはいえ精神力的なモノや自身の中の魔力マナを消費して、行使した後は個人差は在れども疲労を感じるモノ成のだ。幼少の頃からずっと遊び感覚で無属性魔法を行使し続けて来た者、若しくは優れた魔力マナ操作技術等を持つ者で在れば兎も角、此の魔法学院に入って来たばかりの者達の殆どは「今直ぐ寝たい」とでも思える程の疲労を感じて居る筈だ。

 そうして生徒達が居無く成った事で、訓練で使用した此の場所はとても静かなモノと成る。

「手伝うよ」

 練習に使用した此の場所を修復するとは言っても、凹んだ地面に対して他の地面から少しずつ土を移動させて誤魔化す等といった地道且つ地味で、何とも微妙な作業では在るのだが。

 だが、数ヶ所だけで在れば何とも無いだろうが、何十人もの生徒達が魔法を何度も使用した為に至る所に凹んだ場所や土が盛り上がって居る場所等が出来てしまって居る。

 1人だけで行うので在れば、時間が其れ成りに掛かり、結構な疲労も蓄積されてしまうだろう。

「有り難う、ヘイルオ……」

 ニッコリと笑顔見せ成がら礼を述べ、作業を再開するウィリア。

 最初の頃――入学前に逢った時のウィリアの印象は自分よりも幼く緊張のし易い少女といった感じで在り、入学して少しの間は余り上手く話す事等が出来無かった。が、もう既に一週間は経って居り、何駄感駄で砕けた口調で気兼ね無く会話をしたりする程度の事は出来る様には成った。

「そう言えば、御前って普段昼とかどんな風に過ごして居るんだ?」

「そうね……回復魔法の効果を上昇させる為の研究を行ってるわ」

 無言で何かをするという事には抵抗等全く無いのだが、誰かと一緒に居るのに無言で居続けるという事に耐え切れず、俺は修繕作業を行い成がらウィリアへと質問をする。

 彼女はそんな上辺だけの質問に対して、同じ様に上辺だけでの解答を返し作業を続ける。

 此の魔法学院での教師という役割――立場は名前丈のモノで在り、只自身の持つ知識や知恵、技術等を他の魔道士達に教得て行くといった事をする事が仕事とでも言う事が出来るモノだ。他の誰も持た無い其れ等を教える立場に在る存在が此の魔法学院での教師で在り、そして教えた其の内容が学院内に居る殆どの生徒達が身に付けたの成ら、其の役割は終わり、教師から生徒へと戻る。生徒に戻った者や生徒で居続けて居る者達は、別の教師達から何かを教わり、そしてインスピレーション等を受けて、新しい何かを生み出す。其処には、年齢等全く関係は無いのだ。

 そして、そんな教え教わり等をする授業が無い時にする事と言ってしま得ば、教師としてするべき事では無く、したいと思える事――詰まりは、特異魔法の実用性の向上等といった所だ。

 ウィリアにとっての其れが、回復魔法の効果の上昇――改良といった所だろう。

「…………」

「でも……」

 暫くの間は沈黙が続いたが、ウィリアは思い詰めた様子を観せ成がら口を開く。

「余り上手くは行って居無い、か……」

「うん……」

 回復魔法を始めとした無属性魔法とは、其の名前の通りに属性を割り振る事等が出来無い魔法の総称だ。

 其の中で良く行使されるのが、回復魔法や身体能力強化系の魔法。とても簡単で、オーソドックスと言われて居る魔法でも在る。

 そんな回復魔法は、過擦り傷や捻挫程度で在れば瞬く間に完治させる事が出来、軽度のやけどや骨折で在ればものの数秒程で完治出来ると便利な魔法だ。

「大怪我を完治させる為の魔法や瀕死の状態から回復させる魔法とか……まあ、そういった人達が出て来無いのは幸せで嬉しい事……平和という証拠なんだけど……」

 神々に依ってヒト生み出され、ヒトは其の1神で在るクシ・ヴィソン神から魔法を始めとした色々な知識を与得られ、物とする事が出来た。其れは、約1万年前の事とされて居る。

 そして、其の時の世界には神々と精霊、ヒトしか居らず、死と言う概念は存在し無かったとも言われて居る。傷を負うという事は在っても、直ぐに回復して死ぬという事は無かった筈だった。

 其の筈では在ったのだが、何時の間にか地上にはエルフやドワーフ、スライムやゴブリン等を始めとした亜人種やモンスター達が跳梁跋扈する様に成り、精霊を除いた地上の生命に死というモノが付き纏う様に成ったらしい。

 死が付き纏う様な世界に成ってから、人同士や亜人種との戦争、モンスター達との殺し合い等が多発して居る。そして其の結果、大怪我を負い運が悪ければ死ぬ、何らかの要因で即死してしまう等といった事も起きて居る。

 死というモノが無かった時代迄戻そうという訳では無いだろうが、其の死から逃れる為か、周囲の誰かを其れから逃す為成のか――。

「此れで、終わりかな……」

「其の様ね……有り難う、ヘイルオ」

 話をし成がら作業をして居ると、気が付けば地面は最初に視た時と全く同じ位に真っ平らなモノに成って居た。

「来週だっけか……運動会?」

「ええ。初めての参加よね? つい此の前入学して来たんだし……」

「ああ」

「此処魔法学院での行事の1つで、かなりの規模で行われるわ。まあ、楽しむ事ね」

 そう言成がら、ウィリアは先に女子寮へと戻って行く。

 俺は其の背中を笑顔で視送り成がらも、先程の彼女の様子が忘れられず、笑顔とは言うが曇った表情と成ってしまって居た。




《御待たせ致しました! 只今より、プミエスタ、魔法学院、大魔法運動会を開催させて頂きます!》

 特に此れと言った訓練や特区等とでも言える事をする事も無く時間は過ぎ去り、あっという間に1週間が経過してしまい、運動会当日に成ってしまった。

 会場は魔法学院から少し離れた場所に在る大きな円形のコロシアムだ。

 観客席も含めると直径は900m程度で在り、観客を含めてかなりの人数を入れる事が出来る程の広さをして居る。

 此のコロシアム内に観客として来て居る人達はかなりの数では在るが、プミエスタの住人全員では無い。殆どの住人達は自身の家で、映像を観て、音声を聞いて楽しんで居る筈だ。

 司会進行及び解説役の男性魔道士は無属性魔法の1つで在る拡声魔法を行使して、コロシアム内に其の声を響き渡らせ説明をして居る。

 だが、観客の人数が多いという事も在り、其の観客達の声の方が大きく、解説実況の魔法を行使して居る男性魔道士の声を掻き消す、圧倒して居ると言っても間違いは無いだろう。

《では最初のプログラム……行き成りですが、徒競走です》

 解説実況の男性魔道士の言葉に従う様にして、俺も含めた魔道士達がコロシアム中央へと行進と同時に集まり、練習等を全くして居無いにも関わらず4列縦隊へと綺麗に並ぶ。

 魔道士達がコロシアムの中央へと姿を現した事で、観客席の方から一際多きな歓声が沸き立つ。

 そんな歓声に対して、リドイやウィリア達教師陣は手を振る事で応得て見せて居る。其れに反応して、更に大きな歓声を上げ始める観客達。

(全く、凄い人気だな……)

 リドイは女性生徒、そして生徒以外の街の女性達に絶大の人気が在るという事は既に知っては居たの事も在ったが、其の歓声にはやはり驚きを感じずには居られ無い。

 そして、ウィリアの方も人気が在るという事は知っては居たのだが、其の歓声や応援する大きな声がまた多く、リドイの時と同じ位に驚きを感じる。

 だが、其れと同時に何故成のか納得もまたして居る自分が居る事に気付く。

(にしても、黄色い歓声に加えて重く低い歓声迄……)

 黄色い歓声の殆どは容姿の整った男性魔道士達へと向けたモノで在り、其の中の1人――リドイに対してのモノがとても大きく多い。そして、女性の声という事も在り甲高いモノが多く感じられる。

 其れに対してウィリアへの歓声は、女性の黄色い声も在りはするのだが、男性人に因るモノ成のか野太く低い歓声の方が多く、大きく強く感じられる。

「…………」

 其れに気付いて居るのか、涼し気なリドイとは反対に、ウィリアの方はと言うとややウンザリ、そしてゲンナリとでも言う事が出来るだろう表情を浮かべて居るのが遠目でも判る。

 そんなウィリアの事を改めてしっかりと視て観ると幾つか気付く事が在る。

 ウィリアは少女と言える年齢だ。容姿はとても優れて居り、俺個人の身勝手な解釈では在るのだが、慣れ無い相手には少しツンツンとした所が多く、正直に成る事が出来無い。が、親しい相手を始め、此の街の住人達に相手だと分け隔て無く人々と接する等優しく、性格も良いと言う事が出来るだろう。まあ其れでも、オドオドとした所も在り、そういった所がまた、何処かを刺激する所為成のだろう。

 そういった事からも、一部の人達からは絶大な人気が在るというのは当然の事成のかもしれない。

《因みに徒競走とは言いますが、皆さん御存知の通り、魔法を行使可能なマラソンです。被害が出た家屋等は後程修復不作業を行いますので、楽しんで下さい》

 徒競走とは本来一定の短距離を走る速さを競うモノだ。

 だが此の魔法学院での徒競走と言うモノは、此のプミエスタ内を決められたルート通りに走り、此のコロッセオに戻って来る速さを競い合うとういモノだ。そして、生命を奪うといった行為以外で在れば、何の様な魔法を行使しても、何れだけの事をしても全くの問題は無い風変わりな徒競走だ。

《其れでは走者の皆さん、位置に着いて……》

 ゴクリといった唾を呑み込む様な音を聞こ得て来る。

 其れは自分か、または他の誰かが鳴らしたモノか、其れとも只の幻聴成のか。

《よーい……》

 大きな緊張が、此の場に居る走者――魔道士全員に疾走って居るだろう。

 皆既に、此の時点で身体能力強化の魔法を行使して居る筈だ。

 俺もまた深く深呼吸をするのと同時に、其の身体能力強化の魔法を行使して、遅い準備を始める。

 一瞬で感覚は鋭くクリアなモノと成る。聞こ得て来る音全て――観客席に居る人達の呼吸音や鼓動音迄もがハッキリと聞こ得る程の聴力へ、四肢には十分な力が入り、直ぐにでも動き出せる。

《――どんっ!》

 解説実況の男性魔道士の合図を機に、皆一斉に走り出し、そして観客席からは大きな歓声が轟く。

 身体能力強化の魔法を行使して居る為に、皆の疾走る速さはかなりのモノで在り、ペース配分を全く考慮して居無いのではとさえ思える程の速度だ。

 コロシアム内の土は舞い上がり、土埃で周辺の景色は一瞬だけ視え無く成る。だが其れは、視力を強化して居無ければの話だ。

 皆は其れを全く気にした素振りを観せる事も無く、1番前に出ようと疾走って居る。

(気迫と言い速さと言い、かなりのモノだな……)

 とは言うが、其れでも筋力や強化度合い等には個人差が在る為に、スタート時は最後尾で在ろうとも直ぐに先頭に出る者も居れば、1番前の列に居た筈成のにも関わらず最後部に成ってしまう者も居る。

 皆の其の様子と動きに圧倒され掛けるが、気を取り直して俺も足を動かして疾走り出す。

 1分と経たずして、450mも在った距離を疾走り、コロシアムの中から外へと出る。

 皆既に先を疾走っては居るが、距離に表すと100mで在り、前を疾走る皆の速度が今の侭で在れば追い付ける程度の距離だ。

(――!? 待てよ……何だ、此の魔力マナの流れは……?)

 前を疾走って居る走者達を追い掛ける様にして疾走っては居るのだが、其れと同時に俺は周囲の魔力マナの在り様に何かしらの変化が加えられた事を感じ取る。

 だが其れが一体どういったモノ成のかは判らず、様子を観成がら疾走る事しか今は出来無い。

 其れ程に小さな、だが確かな変化が此処に起きて居るのだ。

《おおっと、此れはどうした事だ!? 土属性の魔法を行使して居るのか、大きな土が盛り上がり、壁が出来上がったぞ!!》

 解説実況の男性魔道士の解説、と言うよりも観客に対しての状況説明やら報告の様なモノがプミエスタ内に響き渡って居り、其の声が聞こ得て来る。

 其の言葉を耳にした時には既に遅く、少し離れた場所の地面が盛り上がり始めて居る。

 其れに気付いた走者達は戸惑い足を止めてしまった事に因り、人集りが出来てしまい、一種の壁の様に成る。

 そして、其の盛り上がった土は文字通りの壁と成り、皆の行く手を阻んでしまう。

 そんな土壁を飛び越えようとして身体能力強化魔法を行使してジャンプする者、風属性魔法の中の1つでも在る飛行魔法を行使して飛び越そうとする者達もまた居るのだが、其の走者達の行手を阻もうとする様にして土壁は形を変え、ドームの様に変形。行手を遮るだけでは無く、一定の範囲を包み、覆い冠さってしまう。

「…………」

 土で出来たドームの中に閉じ込められてしまった走者の数は、俺を含めて換算するとパッと視るだけで判るのは315人程だろうか。

(成る程。妨害、か……障害物競走の様なモノとでも思えば良いかな……)

 此の徒競走では、生命を奪う様な魔法や相手の身体等を害する様な魔法の行使は禁止されて居るだけだ。が、逆に言ってしまうの成らば、身体能力強化等を始めとした無属性魔法の行使、そして他の走者達に対しての間接的――人体への直接的なモノ以外に因る妨害、ルート上に在る物を利用した妨害行為等は禁止されては居無いのだ。

 そういう事からも此れはルール上全く問題は無いのだが……余り良い気分に成れるモノでは無いと言えるだろう。

 競争で在るのだから自分がより優位な立場に成る為に努力をするという事は良いだろう。が、相手の邪魔をして、蹴落としてといった事にはやはり抵抗を覚得る。

 此れは競争では在るが、競技でも在るのだ。

 出来るの成らば、正々堂々と遣り合いたい。

 が、やはり実力差等からもそういった妨害や搦手等を必要とする者達も居るという事もまた事実。

(まあ、リドイやウィリアでは無いのは確かだろうな……)

 妨害する事が可能とは言うが、2人がそういった事をし無いだろうという確信が何故か俺の中の何処かに在る事を感じる。

 其の事に対して疑問を感じ成がらも、視界の橋では何か魔法に因るモノだろう光るのを視て、そちらへと目を向ける。

 其のドームに成ってしまった土壁を壊そうとして何かしらの攻撃魔法等を行使する走者達では在るのだが、土壁の方はかなり頑丈に成って居るのだろう。一向に壊れるという様子も無く、小さな罅が1つも入ら無いといった程だ。

 其の頑丈さ等から、何人かで手を組んで生み出したモノ成のかもしれない。

 1人での行使で在るの成らば、是丈の魔法を行使したのだからかなりの疲労を感じて、疾走るスピードは落ちて遅く成って居るだろうと予想出来る。

 が、複数人での協力――幾人かが協力し合い土属性魔法を行使した結果に因るモノだとしたら、かなり厄介だと言う事が出来るかもしれない。

 1人の消費する魔力量はとても少なく済み、其の分だけ体力も温存。疾走るスピードには言う程影響は無い筈成のだ。

(今は脱出する事だけを考えるかな……)

 土壁を壊そうとした誰かの攻撃魔法に因るモノだろう、ドーム内で大きな――目が潰れそうに成る程の閃光と耳を劈き鼓膜が破れそうに成る程の爆音が起きる。

 ドーム内は陽光が遮られて居る為に、発生した閃光が自棄に眩しく眼が灼かれてしまうのではと心配に成る。

 爆音は鼓膜を震わせ、そして其処から更に頭も強く揺さ振られて居るかの様な錯覚もまた感じさせる。

「糞ッたれ……壊れねえぞ」

 だが、そんな強力な攻撃用の魔法――火属性魔法の1つで在る魔法を行使して居るにも関わらず、ビクともせずに壊れ無い土壁を前にして、走者の1人が大きな声を出して愚痴る。

 属性魔法の中で1番の火力を出す事が出来る火属性魔法を行使して爆発を起こす事で壁を壊そうとしたり、壁を生み出した走者達と同じ属性魔法――土属性魔法を行使する事で穴を掘って其処から抜け出そうとしたり、土属性魔法や水属性魔法を行使して壁自体に穴を空けるか削るか等を試みたりして居る。

 が、其れ等今思い付く限りだと言得る魔法を閉じ込められて居る走者達の殆どが行使しても余り効果が無い、否、全く意味を成しては居らず、1mmすらも削る事が出来ては居無い。其れ処か、疲労が増すだけだ。

 そんな魔法が次々と狭い此の空間で行使されて居るのを観て居るのだが、自分を含めたドーム内のヒトが怪我と言う怪我を負って居無いという事に少なからず驚きを覚える。

(此の調子じゃあ、先を疾走って居る走者達とはかなりの距離が開いてしまってるだろうな……)

 焦りと言う事が出来るだろう感情――気持ちが出始める。

 中に閉じ込められてから、未だ2分と経過はしては居無いのだが、其れでも走者達の疾走る速度を考得るとかなりの時間が経過した事に成ってしまう。

 此処から出る事が出来たとしても、追い付こうとするので在ればペース配分を気にする余裕は無いかもしれない。

 否、奥の手は在るには在るのだが、今此処で、徒競走という競技で行使するモノでは無い。

 等と考えて居ると、疲労に因るモノか、其れとも焦りから来るモノか、または其の両方成のか、異変が起き始める。

(――あれ……? 息、が……)

 唐突という訳では無いのだが、疾走り続けても居無いのに呼吸をするという事が難しく、息が苦しく成り始める。

 直ぐにどうにか成ってしまう訳は無いが、其れでもやはり自身の身体に異常が起きたという事に驚き、恐怖を覚えてしまう。

 苦しさを感じ成がらもチラリと周囲へ目を向けると、他の走者達もまた同様に息が上がり始め、そして苦しそうな表情を浮かべて居るのが判る。

 次第に皆の顔色は青く成って行くのだが、何故か俺の中には恐怖や焦りを感じ成がらも、何処か冷静な自分が居るという事もまた感じる事が出来る。

 ヒトを始めとした生命は生命活動を行い続ける為には先ず酸素が必要だ。次いで魔力マナ――自身の内に在る魔力マナと大気中に在る魔力マナ

 立て続けに行使した魔法に因ってドーム内の大気中に在る魔力マナは減少する。そして其の魔法で引き起こした現象――火属性魔法等に依る爆発等に因って、呼吸に因って酸素もまた減少。

 酸素と魔力マナが少無く成った事が原因だという事が、何故か自然と理解する事が出来た。

 欠乏する、減少して行く酸素と魔力マナの中で、どうするかと言うと、2つ程対処法が浮かび上がる。

 1つは、何処からか其の必要な魔力マナと酸素を持って来る。補給するという方法。

そして――。

「バ、バラバラに攻撃をしても、駄目だ……1点に、集中して攻撃するんだ!」

 ドーム内の其れ等が尽きる前に、そして俺達が欠乏症等で倒れてしまう前に、眼の前の其の頑丈な土壁を壊すという方法だ。

 呼吸をするという事自体が難しく成って来ては居るが、未だ声を出す事と魔法を行使する事は出来る。

 脳筋地味た考え、方法では在るが、此れが1番理解り易く、行動に移し易い。

 俺の言葉が聞こ得たのだろう、ドーム内に閉じ込められて居る走者達は皆首肯き、土壁の何処を突くのかを決め、其の1点に対して攻撃魔法を順番に行使し始める。

 そして、俺もまた其々の属性魔法をしっかりと行使して、皆をサポート、対象で在る1点へと魔法を集中的に打つける。

 火属性魔法での熱を起こし、水属性魔法で冷やす。

 風属性魔法でどうにかドーム内の酸素の動きをコントロールし、土属性魔法で其の道を固定する。

 そして、其の1点に集中させて居た攻撃が功を成したのか、攻撃を当てて居た箇所に小さく罅が入り始めた。

 其の罅からは、僅かで在り、少無いモノでは在るが、外からの小さな光明が射し込む。

「――もう少しだ!」

 もう一度、魔法を1点に集中させ、其の罅が入って居る箇所へと当て続ける。

 魔法を受け続けた事で、限界が訪れたのだろう。小さかった罅は次第に大きく成り、そして土壁が瓦解し始める。

 其れを目にするのと同時に、中に居た皆が歓喜の声を上げる。

《――おおっと!? ドーム状に変化して居た地面が崩れたぞお! 中の走者達も無事だ! だが、此の妨害因って離れてしまった距離を何の様にして詰めて行くのか!?》

 解説実況の男性魔道士の其の大きな声と言葉が聞こ得て来る。

 彼の其の言葉の通り、此の先をどうするかが大事な所だろう。

 だが其の前に、暗い中――ドーム内に閉じ込められてしまって居たという事が原因だろうか、視界に入る総ての光が自棄に眩しく感じられ、思わず一時的に目を閉じてしまう。

 開きはするが、少しの間は細目の状態だ。

 其れでも前へと進む為に、俺を含めた皆は、視界が元に戻った其の瞬間に再び疾走り始める。

(かなり距離が離れてしまってるな……どう追い越すか……)

 全力疾走と迄は行か無いが、其れでも出来る限りの速さで脚を動かし成がら考える。

 此のプミエスタは、面積で言うと1400km2は在り、先を疾走って居る走者――リドイやウィリア達は決められたルートの6分の1――200kmもの距離を疾走り終えたといった所だろうか。

 だがこうして考えて居る間にも距離はドンドンと開いていく一方で在り、皆と同じ様にして只々身体能力強化魔法を行使したとだけでは駄目だろう。

「やってみるかな」

 疾走り成がら深呼吸をし、更に身体に能力強化魔法は勿論だが、其れと同時に他の魔法――属性魔法も行使してみる。

 両脚を軸にして風属性魔法で強力な風を起こし、固定化させる。其れに依り、身体が浮かび上がる。

 次に火属性魔法を行使し、足の裏から炎を生み出して噴射し移動速度を上昇、加速する。

「――ちょっ!?」

 だが、当然コントールは出来る筈も無く、初速で先程迄の倍と言える速度が出てしまい、頭の方から家屋へと突っ込んでしまう。

「危なかった……」

 打つかる寸前で2つの属性魔法の行使を中断して解除。其処から受け身を取ったという事も在り、幸い成のか自身の身体には大きなダメージ等は無く、家屋にも被害は全く出て無い。

「――っ……」

 とは言うものの、大きなダメージが無いだけで在り、鈍い痛みは感じる事からも軽い打撲や捻挫程度の怪我は負ってしまったと判断しても良いだろう。

 此の程度で在れば何の問題も無く、自身を対象に回復魔法を行使する事に依って、其れ等の痛みは一瞬で消え失せる。痛みを感じて居た箇所を触るが、異常は無い事が判る。

「結構難しいな……だが、めげずにもう一度、だ……」

 再び、風属性魔法で起こした風を両脚に纏わせて身体をほんの少しでは在るが浮かび上がらせる。そして次に、足の裏から火属性魔法で起こした炎を噴出させる。其の際には、出来る限り小さな炎を。最初は蝋燭の炎程度の大きさで発生させ、そして徐々に其の炎を大きくして行く。

 するとどうだろうか。

「――行ける……」

 魔法と身体の操作といったコントール。

 其のコントロールを同時に行い、見事に成功させる事で俺の身体はグングンと前に進んで行き、ドーム内に閉じ込められて居た時に一緒に居たで在ろう先を疾走って居る走者達を次々と抜き去って行く。

 視界の中の景色は、一瞬だけ伸ばされて居る様に視えるが、直ぐに視慣れた其れへと戻る。

 何れ程の速度で移動をしても、視界は歪む事が無い。

「――!?」

 だが其処で、眼の前の子猫が飛び出して来るのが視えた。

 急制動を掛けはするが、其れが原因と成って子猫を飛び越得て前転をするかの様にして前のめりに倒れ込んでしまう。

 頭から突っ込んで倒れてしまった事も在り、頭に強い衝撃が奔り、そして首もまた傷めてしまう。

 が、其の痛みに耐得て回復魔法を行使して即座に治癒をさせる。

 痛みが無く成った事で改めて立ち上がり、そして振り向居て後ろに居る子猫の無事を確認する。

「怪我は、して居無いな……良かった」

 心配して様子を観た此方の気持ちに気付いて居るのか無いのか、子猫の方はと言うとキョトンとした様子を観せて来て居り、首を傾げ成がら此方を視返して、無事を知らせるかの様に小さな声でニャッと短く鳴く。

(変わった猫だな……)

 眼の前に居る子猫の額にはスカラベという虫――フンコロガシを上から視た其れに良く似た痣の様な模様が在り、頭部は全体的に丸みが在る。子猫にしてはしっかりとした身体つきで在り、太過ぎる事も鳴く十分に健康的、健やかに育って居るのではと思える。サラサラとしてそうな金色の体毛が陽光を浴びて、反射させ輝いて居る様に視える。

「無事成ら良いんだ……此処に居ると危ないぞ。何処かに、此処から離れて」

 俺はそう言って、子猫を抱き上げて道路の橋――誰かの家屋の直ぐ側へと移動し、其処に子猫を下ろす。

 子猫は全く抵抗をする事も無く、とても大人しい。成すが侭とでも言った様子だ。

 人懐っこいと迄は行か無いが其れでも此の様子から観ると、此の子猫はヒトと良く触れ合って居る――ヒトと共に生活をして居るという事だろうか。

 此のプミエスタに居る大抵の動物達は、ヒトの家族として迎えられ共に暮らすという事は無く、此の街の中独力で活きて居る。野生で在り、野生では無い。ヒトの生活圏での無理の無い共生。

 そして、此の子猫は、サラサラとした金色に光り輝く毛を持って居る。とても自身の力だけで毛並みを整得たとは思え無い。明らかにヒトが梳居たりしたで在ろう状態だ。

 だが、此の子猫は何故かヒトの澄む生活圏に居成がらも、ヒトの住居で在る家屋には全く入っては居無い――ヒトの手を借りる事無く活きて居ると思えてしまう。

 子供で在り成がらも1匹で活きて行って居るだろう此の子猫からは、何処か惹き付けられる様な魅力を、力強さ、そして懐かしさ等を感じさせて来る。

「――其れじゃあな」

 そんな子猫から目を離し、言葉を理解して居るかを気にする事無く俺は別れの挨拶をして、徒競走へと戻る。

 助走を付ける様にして疾走り、少しして、再び先程2つの魔法を組み合わせる事で生み出した魔法を行使して前進して行き、子猫から離れて行く。

 子猫からの視線を受けて居るのを感じ成がらも疾走って居ると、視界の橋の方――決められたルートで在る道路の両端に在る家屋の屋根の上を跳び渡って居る走者達が視える。

(へえ……あれでも大丈夫なんだ……)

 ペナルティだとかそういったモノが無い所を観る限りでは、大まかなルートさえ合って居るの成らば問題は無いという事だろう。

 ルート通りに進み、他の走者に直接妨害をし無いので在れば何も問題が無いというので在れば――。

「――成らばッ!」

 脚に纏わせて居る風、そして足裏から噴射して居る炎の強さを瞬間的に倍増させ、視界に入って居る家屋の屋根へと飛び上がり、着地をする。

 屋根への着地と同時に再び風と炎のコントロールをし、他の走者達と同じ様に視界に入って居る奥の家屋の屋根へと跳び移る。次の家屋へ、そしてまた次の家屋へと跳び移動する。

(予想以上だ……!)

 思いの外出る速度に驚き成がらもルート通りの道を、屋根伝いに突き進んで行く身体。

 魔法を行使して起こして居る現象――風と炎の強さのコントロールが上手く出来て居るという事も在り、安心して速度を上げるという事が出来る。

 次々と変わる景色を横目にして、かなり前の方を疾走って居るで在ろう走者――リドイやウィリア達を追い掛ける。

《――此れは、凄いッ! 後続の中から1人、かなりの速度で進み、前を行く走者達に迫ろうとして居る魔道士が1人! 此れはッ!? 彼は、一体!?》

 解説実況役の男性魔道士に依る実況を耳にして、コロシアム内や其々の家から映像で観て居る観客達はどよめきと同時に大きな歓声を上げる。

 其の言葉と声に、どうしてもニヤけた表情を浮かべてしまいそうに成る。

《只今入りました情報に拠りますと、抜きん出た速さで疾走り続ける青年――彼の名前は、ヘイルオ……ヘイルオ・ヒュリュンペール!!》

 実況や説明とは言得自身の名前が呼ばれたという事に対して少なからず恥ずかしさやら擽ったさ等を感じ成がら、俺は真っ直ぐ前へと突き進んで行く。

 跳躍と着地を繰り返し、屋根から屋根へと移動を続けて居ると程無くして、先を疾走って居る走者達の後ろ姿が視界に入る。

 其れと同時に、周辺の魔力マナの流れが変わった事が感じ取れる。

 魔力マナの流れが変化したという事は、誰かが其れへと干渉して世界へと望む現象を起こす為に魔法を行使しようとして居る事だ。

 そして、其の誰かというのは考える必要も無く、今現在前を疾走り続けて居る走者――魔道士達の誰か、若しくは全員だろう事は判る。

 其の走者達が土属性魔法を行使したのだろう、コロシアムを出て少しした時と同じ様にして地面が盛り上がり、土壁が出来上がろうとする。

「――同じ手をッ!」

 俺の行手――次の着地場所で在る家屋の屋根の前で壁と成ろうとして盛り上がって居る土では在るが、大体の予想は付けた居たという事も在って、瞬間的に脚に纏わせて居る風と足裏からの炎の噴出を倍増させて跳躍――スルリといった具合に回避して、より一層加速をする。

(此れ成ら、行けるッ! 抜ける! 追い越せるッ!)

 其の速度と上手くコントロール出来て居るという事実に、俺は確信を得てより一層加速する為に脚に纏わせて居る風と足裏から出して居る炎の強さを更に倍増させる。

 かなりの速度――倍増した其の速度に因って、強烈な衝撃波が発生し、そして強い重力加速度が掛かる。

 衝撃波が起きたという事も在り、周囲に居た走者達は吹き飛ばされてしまう。

 が、何故成のか家屋を始めとした建物には何の影響も無い。其れは、使用されて居る建築素材そして建築方法に加得て固定化の魔法も掛けられて居る事が理由だ。

 此の街の建築物には、稀少な素材が使用されて居るという事を聞いた事が在る。否、正確にはそういった記述の在る本を読んだ事が在ると言うべきだろう。とある魔道士が其の素材を生成したらしい。そして其の素材の残りは、街の貯蔵庫に貯蔵されて居る、保存されて居る。

「――すまねえっ!」

 重力加速度に対して身体能力強化魔法の効果の1つが働き、身体が柔らかくそして柔軟に成ったという事で耐える事が出来て居る。

 そして其の加速度に耐え成がら、後ろの方で吹き飛ばされてしまった走者達に対して謝罪の言葉を短く、叫ぶ様にして述べ、先へと向かい疾走り、跳ぶ。

 前へ、更に前へと進んで行くが、未だ未だ先を疾走って居る走者――魔道士達が居る。

 もっと速く、もっと先へと向かい疾走っては居るのだが、依然先を疾走って居るだろう魔道士達の姿は視え無い。

 だが確実に近付いては居るだろう事は理解って居り、俺は焦る事も無く、屋根から屋根へと跳躍と着地を繰り返す。

《速い速い速いッ! ヒュリュンペール、数人もの走者達をあっという間に追い越し、グングン前へと突き進む!》

 解説実況の男性魔道士の言葉通り、俺は街中――家屋の上を高速で突き進み、そろそろ中盤だろうといった地点を超得てゴール近くへと辿り着く。

 後ろで疾走って居るだろう走者達の姿は既に視え無く成って居るが、其れと同様に前を疾走って居るだろう走者達の姿は未だ視え無い。

(――もっと速く、もっと前へ……出る!)

 俺の中で「誰1人も、何1つも俺の前へ行かせたくは無い」といった気持ちが、何処からかは判ら無いが、沸いて出て来る。

 一切合切を、総てを抜き去って行く事が出来ると思得る程の速度で、普段視て居る景色が瞬間的な風景へと変化し、そして其の風景は無数の線へと変化して行く様に感じる。そう視える。

 疾走った距離は既に1,000kmを超えて居る。

 道路を其の侭進んで居れば蛇行する箇所等も在る為に時間はかなり掛かるが、家屋の屋根屋根の上を進んだという事も在り、本来掛かるだろう必要時間の半分程度で此処迄来る事が出来た。

 前進する速度の上昇を続け、身体能力強化魔法で身体の柔軟さと頑丈さ、そして動体視力等を強化する事でどうにか殺人的な加速に耐え、前へと進む。

 ある程度進んで居ると、家屋は前には無く、道が広がって居るだけの場所へと出る。

 ヒトが手入れをして居る草木が生えて居る其の場所へと到着し、俺は屋根から跳び下りて、また地上から少し浮かんだ状態で前進をする。

 そうして居ると漸く先頭を疾走り続けて居る走者達へと追い付く事に成功する。彼等走者達の中には勿論、見覚えの在る2人の姿――リドイとウィリアが居る事が判る。

 かなりの距離を疾走り続けて居るにも関わらず、前を疾走って居る走者達の表情は全く歪んでは居らず、涼し気な表情と言う事が出来る。そんな未だ未だ余裕といった様子を視て、驚きを覚える。

 リドイの方は相も変わらず笑顔といった表情を浮かべ成がら疾走って居る。

 其れに対してウィリアの方は、結構な体力を消費してしまって居るのだろう。肩で息をし成がらも疾走って居る。だが。其れで在ってもペースを一切崩すという事も無く、乱れる様な様子を一切観せずに疾走り続けて居る。

「おや? 追い付かれてしまいましたね」

「中々、やるわね……」

 疾走る2人では在るが、其の言動から観ると、俺が追い付いたという事に驚き成がらも賞賛を、そして嬉しさを感じてくれて居るという事が判る。其れも、我が事といった風にだ。

 チラリとリドイやウィリアを始めとした走者達へと目を向けると、視線は自然と彼等の足下へと向かってしまう。

 かなりの速度で動かされて居る其れは、予想を超えて居り、残像が発生して居るのが判る。

 残像を生み出す程の速度で移動をして居るにも関わらず、周囲には全く何の影響も与えては居無いという事に、大きな驚きと衝撃を受ける。

(凄い……)

 只々凄い。

 そんな在り来りな言葉しか浮かび上がっては来無かった。

 俺が移動をする際には、周囲に甚大と迄は行か無い迄も影響は与えてしまって居るのに対して、彼等の行動では何の影響も無いのだ。

 そして、彼等の気迫、魔力マナ操作に依る身体能力強化魔法の練度、速度、持久力。

 此処を疾走って居る走者達は皆、遥か後方で疾走って居る走者達と比べるとそういったモノが飛び抜けて優れて居る事が一目で判る。

 其れ迄の力や技術を手にするのに何れだけの努力をしたのだろうか。何れ程の時間を要したのだろうか。

 自分の方が優位だと、身体能力強化魔法を始め魔力マナ操作については一日の長が在ると思って居た自分が恥ずかしい。情け無いと迄思えてしまう。

「――全速前進だッ!」

 噴出させて居る炎の勢い倍増させ、加速も加速。

 俺の移動する速度は、此の移動魔法を行使し始めた最初の時と比べると其の3倍は優に在るだろう程の速さと成って居る筈だ。少なくとも、体感では其れ位は在る。

 かなりの速度が出て居るにも関わらず、視得て居る景色と視界は何時もと同じ様に感じられ、曲がる必要の在る場所が在れば瞬間的な判断と行動をしっかりと取り、速度を保った侭に瞬時に曲がる芸当も出来る程に、完全なコントロールが出来て居る事を実感する事が出来る。

「其れにしてもどういった魔法を行使して居るのですか? 其れは、何の属性魔法成のでしょう? 風属性魔法と火属性魔法を同時に行使して居るのだとしても、其れだけの出力を保った侭……」

「何、只単に、御前が想像して居る通り、風と火を同時に発生させて居るだけさ」

 ようやっと、漸くにしてリドイとウィリア達先頭組に追い付き、肩を並べる様にして横を疾走る。

 そして、其れと同時に皆から視線を集中的に受けて居る事を感じる。俺が今行使して居る魔法が気に成るという事だろう。

 リドイから、今俺が行使して居る魔法に関しての質問を投げ掛けられ、俺は淀む事も無く其れに対して応える。

 そんな俺の答に対して、一緒に疾走って居る皆は驚きを隠せ無いで居る様で在り、表情にも其れは表れて居る事が一目で判る。が、リドイはと言うと「やはりですか」といった様子を観せて来て居る。

 だが、其れで在っても皆は足並みを狂わせるという事は無い。

「そんな事が出来る、なんて、ね……」

 ゼイゼイと肩で息をし成がらも、ウィリアは俺が出した其の答に対して驚愕の言葉を口にした。

 我々ヒトが行使する魔法は、大気中に在る魔力マナと体内の魔力マナを結合させ、操作し、自身の望む結果が起きる様に世界へと干渉する事で、望んだ其れに応じた現象が起きる。其れを、其の行使する手段と結果を総じて魔法と呼んで居るのだ。

 そして其の魔法もまた、起こす現象から基本的に、火属性、風属性、水属性、土属性、無属性といった5属性へと分ける事が出来るのだ。

 其の中でも無属性魔法は誰でも行使する事が出来る基本中の基本で在る魔法――身体能力強化然り、回復魔法や治療魔法然り。

 残る4つの属性魔法もまた、皆行使する事は出来る。行使する事自体は可能では在るのだが、得手不得手というモノが在り、そして無属性魔法とで在れば組み合わせる事が出来るのだが、他の属性魔法同士を組み合わせて行使するという事は出来無いとされて居るのだ。否、正確には行使する事自体は出来る。が、可能では在るが、効果や発揮される力はかなり弱く成り、持続時間もまたとても短いモノと成ってしまう。

 そういった事も在って、皆は俺が同時に風属性魔法と火属性魔法を行使して居るという事に驚いて居るのだ。

 が、今現在並ぶ様にして疾走り成がらも驚いて居る皆も、同様にそういったデメリットを抱えずに行使して居る様に感じさせて来る。

 皆其々の特異な属性魔法と無属性魔法の1つで在る身体能力強化魔法等を行使し成がら疾走り続けて居り、そんな彼等の一向に落ちる様子の無さそうなペースに、俺は驚嘆と敬意を感じずには居られ無い。

 リドイやウィリアを始め走者達は風其の物にでも成って居るかの様に、そう言っても可怪しくは無い位の速さで疾走り続けて居り、今の俺の速さでは横に並び続けるというだけでも精一杯だと言える程の速さだ。

(追い付くだけで精一杯だなんて……! 其れでも……負けたく無いッ! 先を走らせたく無い! 行かせたく、無いッ!)

 賞賛に値する其の強さ等を目にした。だからと言って負けたくは無い。

 俺は更に魔力マナを操作して速度をまた倍増させる。

 負けず嫌いと言われようとも今の俺には関係の無い事だと言える。其れ程に負けたくは無いのだ。

 否、相手が強いから、尊敬に値するからこそ今出せる全力で、総てで応じるべき成のかもしれないと思える。

「速度がッ、増しましたねっ……!」

「――ちょっと! 今迄、加減してった、って言うの!?」

 俺が出す其の速度が予想外だったのだろうか、リドイやウィリアを始めとした走者達は先程の其れよりも強く大きな驚きの表情を皆浮かべる。

 俺自身でも、今出て居る速度には驚いて居るのだ。

 俺の身体はグングンと前へ前へと進んで行き、大きな風切り音を立て、衝撃波を起こし成がらリドイやウィリア達走者を追い越し、スタート地点で在りゴール地点でも在るコロシアムへと向かう。

 強い衝撃波が発生して居るにも関わらず、リドイやウィリア達は皆其の風に対して踏ん張る事で吹き飛ばされる事をどうにかして免れて居る。

 其れを背後で感じ成がらも俺はゴールへと向かう。

(此の侭……)

 コロシアム内にお入ると、其処にはゴマ粒程の大きさではと思ってしまう程の大きさに視えてしまう大勢の観客達、そして彼等が放った大きな歓声が出迎えてくれる。

《――おおっと! 1番最初に戻って来たのは、ヘイルオ・ヒュリュンペール! 最初は前を疾走る走者達の妨害行為に因って後尾の走者達と共に閉じ込められてしまったが、其処から一気に彼等を追い越し、そしてあのリドイ・リヒチェやウィリア・コンフェルト達すらも追い越し、見事っ! 見事ゴールテープを切ったああああああああっ!!》

 解説実況の男性魔道士の言葉を聞いて、観客達の声はより一層大きなモノに成る。

 其の歓声は余りにも大きなモノで在り、耳の鼓膜が壊れてしまうのではと心配してしまう程のモノだが、其れは自分を讃えてくれて居る、祝福してくれて居る、労ってくれて居るという事でも在る。

 とても嬉しいという気持ち、恥ずかしいという気持ち等が一杯に成りはするが、達成感を感じて俺は笑顔を浮かべた。




 暫くすると、走者達全員がゴールで在るコロシアムへと辿り着き、徒競走は無事に終了をした。

 其れでも未だ、大魔法運動会が始まってから30分と経過して居無い。

《ええ、走者――参加して居た魔道士達全員がゴールした事で、徒競走は終了とさせて頂きます! 続きまして、球入れ……準備に少々時間が掛かりますので、観客の皆さんと魔道士の皆さんは少し御待ち下さい!》

 コロシアム内には大きな鏡の様なモノが幾つか設置されて居り、其処にはプミエスタの至る場所が映像として映し出されて居るのが観える。

 其の鏡の一部に映し出されて居る映像の中には見覚えの在る場所が在る事に気付く。映し出されて居る其処は、先程迄俺達が疾走り続けて居た道路等で在り、此処に居る観客達は此の鏡を通して俺達魔道士が走者として競争をして居るのを映像として観戦して居たのだろうという事が判る。

 そして其の映像内には、今幾人かの人達が壊れた道路や家屋等を修復して行って居る所が映し出されて居る。杖を振るい、巻き戻しの様にして破損箇所等が修復及び修繕されて行って居る所を観ると、彼等は魔道士だろうという事が理解出来る。

 修復が行われ、巻き戻しでもされて居いるかの様に観えるが、其の箇所の時間が逆行及び遡行して居るという訳では無く、只生地を伸ばす様にして修繕されて居るというだけだ。其れでもやはり、上手く魔法を行使する事が出来無い者達からすると、時間を操作して居るかの様に視えてしまうだろう。

 そういった修復作業や修繕作業を行う事が出来無い場所や箇所には、貯蔵庫から持って来たのだろう稀少な素材を用いて作業を行って居るのが映し出されて居る。が、其の素材は、魔道士達に因って観る事が出来無い。影に成って、映って居無いのだ。

「御疲れ様です」

「ああ、御疲れ様……と言っても、未だ未だ始まったばかりだけどな」

 2種目目で在る球入れが始まる迄の間には其れ成りに時間が在り、其の間は休憩時間とでも言う事が出来る。そう考えても良いだろう。

 そういった事も在り、気持ちを整える――抑え切れ無い程の興奮を覚まさせる為に深呼吸をして居たのだが、其処に、俺に気付いたのだろうリドイが此方へと向かって来て、声を掛けて来てくれたのだ。

 リドイの後ろにはウィリアも居り、疾走って居る最中はあれだけ苦しそうで在ったのに、今はかなり元気な様子だ。

「驚いたわ。風属性と火属性、無属性の3属性魔法を同時に行使出来るなんて。基本、2つしか組み合わせられ無いのに……シェタニル石の事も在るし、貴方……何者成の?」

「…………」

 そんなウィリアの質問に対して、俺は応えるべき言葉なんていうモノは「俺は俺だ」という極当たり前な事だけで在り、他に何かが浮かび上がって来る筈も無く、無言で返してしまう。

「……貴方、変わってるわね」

「……ああ……変わってる、のか……俺……」

 ハッキリと言ってしまうの成ら、俺の中には未だゴールした時の気持ちが残って居り、深呼吸をして落ち着こうとしたにも関わらず、興奮状態に在ると言っても良いだろう。

 が、ウィリアの言葉を受けて、其の昂って居た感情は一気に落ち込んだモノへと変わってしまう。

 別に彼女に悪気は無いという事も、悪い意味での言葉では無いという事も理解はして居るのだが、其の「変わって居る」という事に対して少し考え込んでしまいそうに成る。

「あの魔法……仕組みとしては、風属性魔法で起こした風で身体を浮遊させ、炎を発生させて其れを何度も噴出させる事で前進……風の向きを操作して方向転換等をする……といった所でしょうか?」

「流石だな、リドイ。そうだな……正確には、厳密には言えば違うが、まあ概ね正解だ。属性魔法を3つ組み合わせて行使する事で可能と成る音速移動方法……SONIC DRIVE……ソニックドライヴ、とでも名付けるかな……」

 簡単に言ってしまうので在れば、概ねリドイの言う通りで在り、間違った所は無い。

 リドイの洞察力等に関心や驚愕、賞賛を感じ成がらも俺は彼からの確認の質問に対して首肯き応える。

 少しの間しか視せては居無いにも関わらず、其の仕組みを理解したという事に、俺はリドイに対して怖ろしさ等もまた同時に感じてしまった。

 若しかするとウィリアを始め他の走者――魔道士達も気付いて居るのかもしれないと、どうしてもそう思ってしまう。

 チラリと視線をウィリアへと向けると、彼女の其の「やっぱりね」とでも言いたそうな其の様子からもやはり思った通りだという事が判る。

 だが、其れがどうしたのだろうか。

 仕組みが理解出来たとして、其れを使えるのだろうか。

(未だ、使えるのは俺だけだろう。其の筈だ……そうで在ってくれ……)

 使い方を理解しても、実際に使えるかどうかはまた別問題と言う事が出来るだろう。

 俺は其れに気付き、そして皆に気付かれ無い様に心の中でそう自分に言い聞かせ、ホッと胸を撫で下ろす。

 だが其処で、何故自分がそう焦って居るのか、そして安堵して居るのか疑問に感じる。

 自分だけが行使出来るという優位な、特異な立場に立って得意振りたいという事成のか。其れとも、自分だけが行使出来て、他の皆は駄目だという独占欲に似たモノから来て居るのか。

「どうかしましたか?」

「――い、否、何も……」

 リドイからの此方を心配するかの様の質問に対し、俺は喰い入る様にして応える。

 声は裏返ったりはしては居無いが、其れでも可怪しいといった言葉が的確な行動を取ってしまった事に焦りを感じてしまう。

 が、彼、そしてウィリアはというと何も気にしては居無い様子で在り、俺は其の事に安心する。

《――御待たせ致しましたッ! 此れより……只今より球入れを行いたいと思いますっ!》

 そうこうして居る間にも準備は終ったのか、解説と実況を担当して居る男性魔道士の拡声魔法を利用した大きな声に依る言葉が聞こ得て来る。

 其の彼の言葉を聞いて、コロシアム内に居る観客達は耳を劈き鼓膜を破りかね無い程に大きな歓声を一斉に上げる。

 そうして、俺は観客達の歓声と男性魔道士に依る言葉を耳にして、コロシアム内の中央へと顔を向けるのだが――。

「未だ何も準備出来て居無いじゃないか……」

 眼の前は未だ何も設置されては居無い、何時も通りと言った状態だ。

 球入れを行うのだから、其の為の籠付き棒や籠へと投げ入れる為の球が準備されて居無い事に気付く。

「まあ、視て居て下さい」

 其の事に対して俺は少しばかり唖然として、呆れ混じりに愚痴の言葉を口にするのだが、そんな俺に対してリドイはと言うと何か悪戯を実行したばかりでリアクションを期待して待って居る子供の様な笑みを浮かべ成がら、言葉を返して来る。

 そして、リドイの横へと目を向けると、彼と同じ様にウィリアもまた何か意味有り気な笑みを浮かべて居る事が判る。

 そして――。

「ほら、彼処!」

 そんな笑みを浮かべ成がらウィリアはコロシアム中央へと指を指し、俺は其の方向へと顔を向けて視る。

「おおっ……」

 すると、コロシアム中央の地面に大きなが穴が開くかの様にして、地面の上部分――地表が観客側の壁へと移動し、其の穴の様な場所から垂直に伸びた籠付きの棒が顔を出し、地上へと出て来るのが視えた。

 幾つモノ籠付き棒が地上へと出て来、そして其の基底部分はしっかりと地面に似た何かで固定されて居るのが判る。

 そして、其の地面らしきモノには数えるのが面倒な程の数の銀色に光り輝く球が籠付き棒の下の方に転がって居る事もまた判る。

「此れは、中々に凄いな……」

 全ての球入れ用の籠付き棒と球が出切った事で、観客席側に移動して居た地表部分は元の場所へと戻る様にしてスライドし、空いて居た箇所は完全に塞がる。

 俺は、其の棒等の出し方――ギミックに驚かされ、只々口をポカンと開けて、ポツリと思った其の侭を言葉にして口にする事しか出来無い。

 リドイとウィリアはというと「予想通りの、期待した通りのリアクションをどうも」とでも言いたそうな様子だ。

 俺はどうにかして気を取り直し、周囲へと目を向ける。

 コロシアム内に在る巨大な鏡も、何時の間にやら映して居る映像は街の様子では無く、此のコロシアム内のモノへと変化して居た。汎ゆる角度から映像を撮り、そして其れを映して居るのだ。

 そんな巨大な鏡に、俺達の姿が映し出される。

 リドイとウィリアが映し出されたという事も在り、観客席からは一際大きな歓声や黄色い声、応援する声や言葉が投げ掛けれられ、聞こ得て来る。

《では、競技の説明を行いたいと思います。ルールは簡単。高さ20m在る棒に付けられて居る籠の中へと、重さ5,000gする銀色の鉄球を拾い、一定時間内の間に投げ入れ続けるというモノです! 時間が経過すると、笛の音を鳴らします。笛の音が聞こ得たら手を止めて下さい。其処で球を投げ入れるのは禁止です。其の後に入って居る球の数を計測。籠の中に入って居る球の数が多いチームが勝ちと成ります!》

 解説実況担当の男性魔道士の説明が続く中で、巨大な鏡には何か表の様なモノが映し出される。

 其の表には其々参加して居る魔道士達の名前と数字が記載されて居り、そして其の数字がチームナンバーを表して居り、同じ数字の人同士で協力し合うという事だろうか。

「どうやら私達は同じチームの様ですね」

「ええ」

 リドイの言葉に同意するウィリア。

 2人は俺の方にも視線を向けて来て居り、俺はもう一度確認の為に巨大な鏡へと目を向ける。

 確かに其処には、俺の名前の横に記載されて居る数字が、リドイとウィリアの名前の横に記載されて居る数字が同じだという事に気付く。

 仲の良い者同士で協力し合う事が出来るという事に、俺は安心と心強さを感じる。

「では、行きましょうか」

 リドイの後を、金魚の糞の様に付いて行くウィリア。

 俺もまた、2人を追い掛け、自身のチーム番号が割り振られ其の番号が記されて居る籠付き棒の在る場所へと向かう。

(大きいな……)

 辿り着くのと同時に、其の籠付き棒の高さに俺は驚きを隠せ無い。

 20mと予め聞いては居たのだが、実際に、いざ眼の前に在る其れへと目を向けると、改めて其の高さを実感してしまう。

《――其れでは……球入れ、開始っ!》

 解説実況担当の男性魔道士に依る開始の合図と共に歓声が轟き、魔道士達は野球ボール程度の大きさをした鉄球を拾い上げ、籠の中へと向けて投げ始める。

 魔道士達が球を投げ始めるのと同時に、巨大な鏡に映し出されて居る映像は、チーム表からコロシアム内のモノへと変わり、球入れをして居る俺達魔道士の姿が映し出される。

 俺もまた他の魔道士達と同じ様に、脚元に在る銀色に鈍く光って居る球を拾い上げる。

「――お、重ッ!?」

 掌にしっかりと収まり切る程度の大きさをした其れは、手にして居る其の大きさからは想像出来無かった程の重さをして居る。

 其の重さに対し俺は驚いて、思わず元在った地面へと落としてしまいそうに成る。

 体感では在るが、重さは大体5,000g程度だろうか。予め構えては居た。其のつもりで軽く身体能力強化魔法を行使したのだが、にも関わらず、其の球はかなりの重量を持って居る様に感じられ、手にして居るとズシリといった様な感覚もまた感じる。

「鉄球……とは、確かに言ってたけど……」

 手にして居る鉄球は鉛の様――其れ以上の重さを感じさせ、何か特殊な金属を球の形へと加工したのではないかと思わせる程の重量をして居る。

 重さ約5,000gは赤子と同程度の重さだという事。

 其の事を思い出すのと同時に「若し今手にして居るのが赤ん坊其の物で在ったら」と考えてしまい、ゾッとする。今手にして居る鉄球の様に片手だけで掴む事等は無いが、此の鉄球を落としそうに成ったという事を思い出し、考えてしまうのだ。

 両手で在れば何も問題は無いが、片手丈の場合身体能力強化魔法を行使して漸く持つ事が出来るといった重さだ。

 俺は其の身体能力強化魔法を行使して居たという事と手にして居るのが鉄球だという事に安堵を覚える。

(其れに……)

 其々のコート内に在る籠付きの直立棒へと目を向ける。

 高さ20mも在る其の棒は魔法学院の一番高い建築物で在る塔程では無いが、其れでも此の街の外壁と近い高さを誇って居るのだ。

 顔をかなり上へと向けて見上げてもハッキリと全体を視る事は出来無い程の高さで在る其れを、身体能力強化魔法を行使して視力を強化する事でどうにか把握する事が出来る様に成る。上の方に付属して居る籠は、視力を強化して居無いと視る事は出来ず、辛うじて視えたとしても、其れは何か物凄く小さなモノに視えるだろう。

 籠には当然投げ入れる事に成功した鉄球が落ち無い様に網目が在るのだが、其の網目はとても小さい。其の小ささは、鉄球よりも小さく、ピンポン玉成らばどうにか通り抜ける事が出来るだろう程度だと思える大きさだ。

「ま、良いか……其れえッ!」

 フォームはテキトウな感じでは在るが、行使して居る身体能力強化魔法に使用して居る魔力マナの量を増やして効果を上昇させ、思い切り力を込めて、手にして居る鉄球を籠の中へと向けて投げ放つ。

 俺が投げたボールはしっかりと目標で在る籠の中へと入り、俺の所属して居るチームに1点が加算される。

 籠の中に入って居る鉄球はもう既にかなりの数で在り、籠の半分近く迄入って居る。どうやら皆が頑張ってくれて居る様だ。

 其の籠を視て、5,000gもする鉄球を幾つも中に入れて居るのに全く壊れそうには無い其の様子に、俺は驚く。素材が良いのか、其れを造った職人の腕が良いのか。両方成のかもしれない。

 俺は次の鉄球を手に取り、投げる為に構えようとし成がら横へと目を向ける。

 周りに居る皆は、同じ様に思い思いのフォームで球を籠の中へと投げ入れて居る。投球フォームが綺麗な者も居れば、投げる事は出来ても目標とは違って明後日の方向――見当違いの方向へと投げ飛ばしてしまう者も居るのが視得る。フォームとコース自体はしっかりとして居るのだが飛距離が足らず、投げても投げても籠の在る高さ迄届か無い者も。

 だが、皆魔道士という事も在って、其処はしっかりと工夫して球を籠の中へと入れて居る者達も居る。只投げるというだけじゃ無く、風属性魔法で上手く操作し、上昇や軌道、速度等のコントロールを行い、確実に籠の中へと入れる等といった風に。

 次々と籠の中へと向けて投げ入れられる鉄球の殆どは豪速球――否、其れ以上の速さを保った侭籠へと向かって居り、轟音と共に光の線を描いて居る様にも視える。

 そして、何よりも驚くべき事成のは、其れ程の速さで飛ばされ成がらも無事な鉄球、速度を保持した球が打つかろうと中に入れようとも全く壊れる事も歪む事も無い籠と、其れを保持して居る直立棒だ。

 やはり、其の籠と直立棒には稀少な金属を始めとした何かの素材を利用して造られたのだろう。固定化魔法を行使して掛けて居たとしても、此処迄の強度には成らず及ば無い筈成のだ。

 皆が投げて居る鉄球の中には、的外れな方向へと飛んで行ったりしたりして居るモノ、他の誰かが投げた球や余所のチームの誰かが投げた球と打つかり合う等といった事も起きてしまって居る。そして、其れ等が打つかり在った其の際には大きな音と閃光を発し、其の後に地面へと落ちる。

 そんな中で投球を続ける事に抵抗と恐怖を覚えはするのだが、だからと言って手を止める事は出来無い。

 他の皆も同様に感じては居るのだろうが、気にして居無いといった様子で鉄球を籠の中へと投げ続けて居る。落ちて来る鉄球が身体中に当たっては居るのだが、其の痛みを感じ成がらも只管に投げ続けるだけだといった様子だ。打つかった其の瞬間は顔を顰めるが一瞬だけだ。

 身体能力強化魔法で頑丈さが増しては居るが其れでも痛みは感じる筈成のに、気にも留めて居無い皆を目にして驚きを隠す事は出来無い。どうやら、楽しいという気持ちで痛みに関する感覚は鈍く成って居る様子だ。

 見当違いの方向へと向かう鉄球の中には、観客の居る方へと向かってしまう鉄球も勿論在る。だが其の鉄球は、観客席へと落ちるという事は無く、途中で地面へと落ちる。

 観客席の直ぐ側では、風属性魔法を利用した魔道具マジック・アイテムが使用されて居るのだ。其の魔道具マジック・アイテムからは強力な風が発生し続けて居り、上昇気流と成り、其れが風の壁と成って居るのだ。

 風の壁に打つかった鉄球は、観客席へと落ちる事も無く、寸前で地面へと落ちるのだ。

《――其処迄ええええええっっ!》

 拡声魔法でも行使したのだろう、大きなホイッスルの音がコロシアムの中に鳴り響く。

 解説実況担当の男性魔道士に依る終了の合図を耳にして、一瞬で鉄球を投げ入れるという行為を中断する魔道士達。

 投げ終わった後の鉄球が籠の中にスルリと入るのを最後にして、皆が一斉に手を下ろしたのだ。

 其の動きは同時と言う事が出来、まるで訓練でもして居たのではと思わせる程の統一振りだ。

《其れでは、球を数得たいと思いますっ! カウントオオオオッ……!ッ!》

 風属性魔法が行使されて居るのだろう。1つ2つと鉄球がまるで大きさ同様に野球ボールと同程度の重さにでも成ってしまったかの様に、籠の中から独りでに飛び出して行く。

 籠の中にそういう風属性魔法を利用した仕組みの魔道具マジック・アイテムでも取り付けて居るのだろうか。其れとも直立棒に何かが在るのかと疑問を感じ成がら、俺は視力をより強化して観る。

(――!? ほう、ああ成ってるのか……)

 鉄球の色が変わって居る事に気付き、俺は大きく眼を観開く。

 銀色に鈍く光り輝いて居た其の鉄球は、綺麗な緑に似た色――玉虫色へと変色して居るのだ。パッと視た時は緑と表現出来る色成のだが、瞬きをした其の瞬間には紫色に視える。また瞬きをすると別の色へと変色をして居るのだ。

 其の色の変化に驚きはするものの、其の鉄球からは魔力マナが発せられて居るという事もまた感じ取れる。

 其の事から想像するに、風属性魔法の効果が込められて居る――何らかの方法で閉じ込められて居るという事だろう。そして、其の風属性魔法の効果を今使用して居る。

 だが「其の閉じ込めて居た風属性魔法を何の様にして解放したのだろう」という疑問もまた感じられる。

 籠を支えて居る直立棒からも鉄球同様に魔力マナが発せられて居る事が感じ取れ、其の事からも其の仕組みは簡単に理解する事が出来た。

 直立棒、否、其の下から魔力マナが流し込まれて居り、其の魔力マナが伝達して上に在る鉄球へと注ぎ込まれる。魔力マナを注ぎ込まれた事で、閉じ込められて居た風属性魔法の効果が発揮され、変色と同時に高速で飛び出るといった所だろうか。

《……59ッ!》

 解説実況担当の男性魔道士は勿論だが、観客達、魔道士達も皆一緒に声を上げ、鉄球が飛び出て来るのと同時にカウントをして行く。

 其の様子からも、今俺が思った事には誰も気付いては居無いのか、其れとも疑問には感じても其処迄思い付か無かったのか、気付いて居て知らぬ振りをして居るのかもしれ無い。

 カウントと同時に次々と飛び出し続ける鉄球は、解放されて居る風属性魔法の威力――其の力を込め、閉じ込める為に必要とした魔力マナの量が多かったのだろう、かなりの速度で飛び出して居る。其の速度は皆が投げて居た時の其れでは無い。

 鉄球は地面へと落ちると、速度と重量も相俟って落ちた先に深く大きな穴を生み出し、開けて行く。落ちた鉄球を回収するのは大分と苦労するだろう。

《……315、316、317……》

 直立棒に付属して居る籠の大きさは、大人と言える年齢をした男性の平均的身長の4倍程度といった所だ。

 そんな大きな籠の中に鮨詰めとでも言う事が出来る程にギュウギュウに入って居り、零れ落ちてしまうのではと思えた位に多かった鉄球は、次々と籠から飛び出て、落ちて行く。

 コロシアム内に、カウントをし続ける大きな幾つもの声が微妙にズレは在るものの重成り、反響し、木霊して居る。

《……456……》

 ふと周囲を見渡して視ると、鉄球を投げ入れて居た籠が空っぽに成ってしまって居るチームが多く、未だ飛び出し続けて居るチームは俺達の所を含めると3チームだけに成ってしまって居る。

《……596……610……》

 カウントは未だ続いて居る。

 だが、残って居た他の2チームの籠が今此処で空っぽに成ってしまうのが視えた。

 残って居るのは俺が居るチームだけと成ってしまって居る。

《……665――》

 後、1個……。

 其の時に俺の中で、徒競走の時に感じて居たモノとそっくりな、同程度の緊張が奔り抜けて行くのを感じる。

 飛び出る鉄球、カウントをして居る皆と自分自身の声が自棄にゆっくりと、間延びしたモノの様に感じられる。

(…………)

 最後の1個が大きな籠の中から勢い良く空へと向かい飛び出る。

《――666ッ!》

 全ての鉄球が籠の中から飛び出て、無く成った。

 其れと同時に、開始時の其れよりも遥かに大きな歓声がコロシアム内を鳴り響いた。

取り敢えずの2話。

圧倒的に文章力も構成力等が欠如している。

まあ、場面場面を妄想して、其れを無理矢理に繋ぎ合わせているのだから当然か。

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