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サトロシー・ヴェアトロス  作者: りおんざーど
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始まり

 ポカポカとでも表現する事が正しいと感じさせて来る様な、そんな眠気を誘って来る程度の暖かな陽射しが空から降り注ぐ中で、1台の箱型馬車――ヒトが数人入る事が出来るクーペと其の後ろに荷台、そして其れ等を牽引する2頭の馬が、人の手で整地された地面を走って居る。走って居るとは言ってもスピードが出て居るという訳では無く、ゆっくりと、決してノロノロやトロトロ等といった風では無いが、其れでも落ち着いた速度と言える速さを出し成がら、木樹の間に在る1本の道を走って居る。

 前後左右の木製タイヤの大きさが微妙に違う事が原因成のか、其れとも道が整地され切ってい無い事で凸凹として居るから成のか、或いは其の両方が原因成のか。馬車は上下左右に、ガタガタゴトゴトと大きな音を立て成がら、大きく揺れ動きつつ前に進んで行く。

「……うッ……つぅ……」

 凸凹とした道を走る馬車が大きく揺れる事に因って、当然中で静かに座って居る俺も、そして抱き抱か得る様にして手にして居る荷物――大きな鞄も其の動きに従い、タイミングを合わせる様にして揺れ、跳ねる。

 窓から射し込んで来て居る太陽の陽光に因る暖かさと、些か乱暴では在るが揺り籠の様な揺れの御陰成のか目蓋が自然と重く成り、ウツラウツラと船を漕いでは、跳ねた其の手荷物に自身のでこを打つけ、跳ねた身体は宙に浮かんで天井部分に頭頂部を思い切り打つけてしまう。痛みで目が覚めはするのだが、其れも一時的なモノで在り、直ぐにまた船を漕ぎ、そしてまた勢い良く打つけてしまう始末。先程からそういった事を何度繰り返してしまって居るだろうか。

 激しく揺れ動く馬車では在るが、其れを引っ張って居る2頭の馬の方はと言うとかなり大人しく、落ち着いた感じで御者に手綱を握られ、蹄で地面を蹴る際に発生する音がメトロノームの様で在り、彼の指示に従い、前へ前へと4本の脚を其々一定のリズムを刻むかの様に動かし続けて居る。

「――ッ!? ドウドウ……」

 そんな2頭の馬では在ったが、何か危機感を感じたのか突然大きく前脚を上げて、前進する事を止め暴れ始めた。

 御者はどうにかして其れを抑得ようと、どうにかして落ち着かせようとして居るのが、馬が引っ張って居たクーペの中に居ても判る。

 だが、恐怖を感じて居るのだろう慌て逃げ出そうとして居るかの様に暴れ続ける2頭の馬は、手綱を握り操作して居た御者に意に反し、大きく身体を動かし暴れ続ける。

「――ッつぅ……い、痛い……」

 突然の事に、当然何か対処等の行動を取る事が出来るという筈も無く、暴れる馬に引っ張られる様にして動いたクーペの中で、俺は頭を始めとした全身を強く強打してしまい、鈍い痛みを感じる。

 暴れ続けて居る2頭の馬の悲鳴の様な鳴き声と、其れをどうにかしようとして居る御者の声を耳にして、俺は手荷物で在る鞄を膝の上から下ろして放置し、クーペ内から降りて周囲の様子を伺い成がら御者へと声を掛ける。

「何か在ったんですか?」

「ああ、否何。行き成り暴れ出しましてね……私にも何が何だか……」

 首を傾げる代わりに歪んだ表情を浮かべ、手綱を握り馬を落ち着かせようとし成がらも辺りを観渡す御者だが、やはり特に此れといった様な異常は観付から無いのか、頭の上に? を浮かび上がらせて居る様な様子を観せる。

 だが、馬が暴れて居るという事には理由が在り、其れも突然暴れ出したというので在れば更に重大な事成のだろう。ヒトの殆どが捨て去ってしまった野生の勘、と言うモノか。其れが働いて居るのだろう。

「――ッ!?」

「どうかされましたか?」

「否、何か……?」

 だが、俺はもう一度周囲を視渡して観ると、其の視界の端に何かが映ったかの様に思えた。観えたのだ。

では在るのだが、其れも一瞬だけの事で在り、御者と同じ様にして俺の頭には? が浮かび上がる。

「気の所為だったみたいだ。気にし無いで欲しい」

 自分に対して、「気の所為だ」と言い聞かせ、暴れ続けて居る2頭の馬、手綱を握り成がら其の2頭を宥めて居る御者へと目を向ける。

 御者の、俺を心配するかの様な言葉に対し、俺は笑い成がら応える。

 何も無い。そう自分に言い聞かせはして居るのだが、周囲の気温が一気に低く成ったかの様に寒気が感じられ、其れと同時に何かが重く伸し掛かって来て居るかの様な感覚が奔り、錯覚で在る其れが次第に広がり支配し始める。

 此の場の空気は次第にピリピリとしたモノへと変わり始め、そして否応無しに状況は、一気に変化した。

「――なッ!?」

「嘘、だろ……」

 草叢から何かが飛び出したかと思う得ば、其の何かは一瞬で、暴れ続けて居る馬2頭共包み込み、逃げ場を塞ぎ込み、無くしてしまう。

 其の飛び出した何かは、透明なゼリー状の様なモノで在り、透明では在るのだが少しばかり青色の様に色が付いて居る様にも観受けられる。

 そんな青く透明な何かはウネウネと動き成がら、中で暴れて続けて居る2頭の馬を逃がさ無い様に、馬の動きに合わせて変形し大きく成って行く。其のゼリー状の生き物? が視せる動きは何故か、中に居る2頭の馬を咀嚼でもして居るかの様に観得てしまう。そう思わせて来る様な動きをして居るのだ。

 何かが――肉が焼ける音、熔ける音、そしてジュウジュウッと音と煙が其の青く透明なゼリー状の生物から昇って行くのが視える。

 其のゼリー状の生物の中に居る――捕まってしまって居る2頭の馬は、視る視る間に其の身体を溶かされて行き、筋肉が、内蔵が、骨が視得、そして其れ等も次第に溶けて行き、遂には完全に目で視る事が出来無い状態へと――消滅してしまった。

 中から聞こ得て来て居た筈の2頭の馬の鳴き声は既に消え、後に残って居るのは俺と御者の2人、そして良く理解ら無いが危険丈を感じさせて来る青く透明なゼリー状の生き物だけだ。

「――ひ、ひいいいいいいいいッっ!!」

 数秒と待たずして、自身の置かれてしまって居る状況を理解するのと同時に、声に成ら無い声を悲鳴にして喉から捻り出し、手綱を手放して一目散に背を向け逃げ出そうとする御者。

 だが、そんな御者を「逃がさ無い」と言わんばかりに、正体不明の青く透明なゼリー状の生き物は、逃げようとして居る御者の方へと其のゼリー状の身体を伸ばして、御者の身体の一部――脚を掴み取る。

 其れに因って、其れに気を取られて転けてしまった御者に追い打ちを掛けるかの様に、大口を開けるかの様にして青く透明なゼリー状の生き物は其の粘体を大きく広げて、彼を包み込んだ。

「――た、救け――」

 必死に救けを求める声を上げようとする御者だが、其の為に開けた口から中へと、青く透明なゼリー状の生き物の身体の一部で在るゼリーの様な何かが入り込んでしまったのだろうか、声が途絶えてしまう。

 無我夢中に死地そこから抜け出そうとして足掻き藻掻く御者だが、まるで水中や泥中、底無し沼にでも嵌り、居るかの様に手応えは無さそうな様子で在り、其の顔は一気に青く成る。

 あっという間に御者の動きは鈍く成って行き、藁にも縋ろうとして居るかの様に俺の方へと手を伸ばして居た其の動きは、ピタッと止まってしまう。

 そして、先程の2頭の馬と同じ様に、同じ運命を辿る様にして御者の身体は溶解して行き、そして完全に熔け切ってしまう。

 1分。

 たった1分の間で、俺の眼の前から3つの生命が奪われ、消得てしまった。

 其の様子を視て、俺もまた眼の前で消得てしまった2頭の馬と其の御者と同じ運命を辿ってしまうのだろうと思い、諦めの感情が湧いて来るのを感じ成がら其の瞳を閉じる。

(4大精霊よ、天空神シェ・ヘメルよ、大地神ボド・ソルンよ、深海神ミ・メアよ、知識神クシ・ヴィソンよ……)

 祈りの言葉を何度も何度も念じる。決して叶う事は無いだろうが、其れでも。

 大きな恐怖を感じる事で大粒の冷や汗が背中を流れるのが感じられ。次々と出て来る事で大きく成る生唾を大袈裟にゴクリと呑み込む。呑み込みはしただが、酷く渇き、痛みを感じる。まるで、水以外の何かを慌てて呑み込んでしまった時、若しくは喉に何かを詰まらせるか閊えてしまって居る時の様な感覚だ。

「…………」

 祈りの言葉を念じ終得たが、生命が未だ在るという事を感じ、不思議に思える。

 覚悟をした事――捕食され死んでしまうだろう事は未だ起きず、否、一向に起きるという様子は無く、恐る恐るでは在るがゆっくりと、閉じて居た瞳を開いて視る。

「…………」

 居た。

 未だ俺の眼の前に居る其れは、身体成のだろうゼリー状の其れをウネウネと動かし続けて居る。

 直ぐ前に居る俺を呑み込み消化しようとし無い所を観ると、俺の事をじっくりと観察でもして居るのか、恐怖を与得る為に態とそうせずに焦らして居るのか、其れとも……。

 チュンチュンと小鳥の囀りが近くから聞こ得て来る。否、其の囀りは、直ぐ近くの木の枝からの鳴き声で在る筈成のだが、恐怖の所為か其れは何処か遠くから聞こ得て来て居るかの様に感じられる。

「――!!」

 動いた。

 眼の前に居る其の謎の生き物――青く透明なゼリー状の生き物は、囀って居た其の小鳥を瞬時に呑み込み、味わう様にしてゆっくりと嬲る様に消化して行く。

 其の間の時間もまた、とても短いモノだ。が、緊張と緊迫、恐怖等の強い感情が織り交ざったモノが原因か、非情にも非常にゆっくりとしたモノに感じられてしまう。

 其の小鳥が消化されて行く様子を、じっくりと観せ付けられてしまう。

 そして恐怖等と同時に、1つの考えが浮かび上がって来る。

(音に反応して居るのか……?)

 「若しかすると若しかするのかもしれない」と思い、物音を立て無い様にジッとする。決して音を――出来る限り呼吸音や鼓動音以外の音を立て無い様に、微かな音も立たせ無い様にジッと動きを止める。

「…………」

 恐怖等に因る衝動――今にも逃げ出したい気持ち等を押し殺し、俺は「自身の考えが正しいのかもしれない」と思い、ソッと静かに――布の擦れる音を立て無い様に細心の注意を払い成がら、服の下に入れて居る杖を取り出す。

 其の杖は細い小枝程度の大きさと太さで在り、簡単に居る事が出来そうな何の変哲も無いモノだ。が、其の材質は魔力をとても通し易いモノ。今からする行動には必要なモノだ。

 ゆっくりと、震え汗ばむ手で其の杖を握り、前に――先端部をスライム状の生き物へと向けて構得、眼の前の其れに対する攻撃の準備に入る。

 俺の息は既に荒く、肩で呼吸をしてしまって居り、意識を集中させる事は難しい。だが、其れでも生き延びる為に、生存本能が強く働いて居るのか準備はしっかりと進める事が出来て居る。

 俺の荒い息等に因る音を感じ取ったのだろうゼリー状の生き物はピクリと其の粘体を動かし始める。だが、其れと同時に、其の動きは次第にザワザワとしたモノに成る。

 其れは、此方が何をしようとして居るのかを感じ取ったという事だろうか。

 眼の前に居るゼリー状の生き物は、此方に対して攻撃や呑み込む等の捕食行為をしようとするのでは無く、其の反対の行動、詰まりは逃走を行い始める。

 其の動きは激しく、まるで俺が感じて居るモノと同じ様にあれもまた同じく恐怖を感じ、先程の御者と同じ様に、必死に逃げようとして居るかの様だ。が、粘体の動きに反して前に進む其の速度は余りにも遅い。

 周囲に、普遍的に浮遊して居る魔力マナが、手にして居る杖の先端部分へと集まって行き、其れが次第に光へと変化して行く。

 集まる魔力マナに因るモノか、周辺には大きな渦の様なモノが発生して居り、種々や木樹は無理矢理引っこ抜かれるかの様に地面から離れ、其の根の部分が顔を覗かせる。

 俺とゼリー状の生き物距離が少し離れはしたが、其れでも未だ今から起こす現象の効果範囲内に其の生き物は収まって居る。圏内に入って居るのだ。

 俺は押し殺して居た恐怖等を一気に解放するかの様に、手にして居る其の杖を上から下へと振り、逃げて居るゼリー状の生き物へと先端分をもう一度向ける。

 そうすると、其れと同時にゼリー状の生き物の身体らしきモノ――粘体が捻れる。其のゼリー状の生き物が居る場所丈が黒く染まる。其の様子は、当に空間が歪んで居るとでも表現する事が出来るだろう。

 そして、其の黒い歪みは次第に小さく、収縮し、其の歪みと共にゼリー状の生き物は子の世界から音も立てず跡形も無く消滅した。

 後に残るモノは、今の魔法の影響に因るモノだろう少しばかりの凹みが出来て居る地面と、魔法の影響で浮かび上がり其の全身を視せて居る多くの草木、2頭の馬が牽引してくれて居たクーペと荷台、そして冷たい汗を流して居る俺が立って居るだけだった。

「……歩いて行くしかないか」

 見上げると、青い空に白い雲がゆっくりと流れて行く景色が視界に入って来る。

 クーペの中に置いて居た手荷物――大きな鞄1つを掴み取り、俺は眼の前に続いて居る凸凹とした道を、ゆっくりと足取り重く歩き出した。




「空はこんなに蒼いのに……」

 大きく息と同時に恐怖や興奮等の感情を吐き出し成がら、重い足取りで小石や草花が生えて居る道を歩き続ける。

 そんな事――溜め息を吐くという事を何れだけの時間行い続けて来たのだろうか。当然回数を数得て居た筈も無く、数えて居たとしても、其の回数は途中で理解ら無く成る程に続けて居るだろう。

 今歩いて居る道は、森の中に整地され造られた1本の人工の道で在り、両横には木樹や草花が生い茂って居るのが視えて居る。

 そんな1本の道では在るのだが、かなりの距離を歩き続けて居るのだが、一向に景色が変化してい無い様に思えてしまう。其れ程に似た景色――ずっと続く1本の道、両端に木樹が視えるだけだ。

 唯一変化して居るだろうという事に気付いた事と言得ば空で在り、其処で流れるかの様にして動いて居る雲の動きと空の色、そして心情位だろう。

 変化した心情――感情では在るのだが、其れでもやはり恐怖等は未だ残って居り、変化に乏しく綺麗な蒼い色をして居る空では在るが、心の方は反して重く、ドス黒い。今にも足を止めて塞ぎ込みたい気持ちで一杯に成って居る。

「まさかスライムが出るなんてな……」

 トボトボと重い身体と脚をどうにかして動かし、歩き成がら小さく、ポツリと溢れ出る言葉。

 先程魔法で消滅させた謎の生き物――青く透明なゼリー状の生き物の特徴を思い出してみる。知識だけでは在るのだが、ああいった特徴を持った生物が居るという事を知っては居た。話を聴いた事は在った。

 だが、此処には居る筈の無い、此処に居る筈が無いモンスター成のだ。

 悲鳴を上げ成がら溶かされて逝った2頭の馬と御者の其の姿。必死に救けを求め、藻掻き逃れようとしたが、無力無残にも溶かされた其の姿と様子を思い出す。

 そして、「次は自分の番だ」と思い、押し潰そうとして来て居るあの様に感じられた強く大きな恐怖の感情。今でも、直前の出来事で在る事の様にして一瞬にして、鮮明に思い出す事が嫌でも出来てしまう。

 初めてモンスター、其の一種で在るスライムを、そして更には其の存在に依って3つの生命が奪われる場面を目にしたという事。

 其れ等を思い出すだけで、身体は大きく震え出し、口をかなりの速度でパクパクと動かして歯と歯が打つかる事でガチガチガタガタと音を立ててしまう。

「……成仏してくれよ……」

 呑み込まれるのが一瞬の出来事で在ったという事も在るが、救けるという事が出来ず其の生命を散らしてしまった2頭の馬と御者、そして魔法で消滅――殺したスライム。

 死にたく無い一心で、生き残りたい気持ちで。殺したいという訳では無いが、其れでも奪われた生命と奪った其の生命の事を想う。

 其れ等が夢の中に出て来無い事を祈り成がら、またゆっくりと歩き出す。

 幸いと言っても良いのか、馬車から離れてから此処迄の間、目に留まったり会ったりしたのは鳥や栗鼠等の小動物等位で在り、先程のスライム以降はモンスターらしき存在とエンカウントしてしまうという事――出会い命の遣り取りに成ってしまう事は無く、目的の場所へと安全に確実に向かう事が出来て居る。

 何かが起きた時直ぐに対応が出来るようにと杖を握り締め、片方の手で手荷物で在る大きな鞄を掴み、辺りに細心の注意を払い成がら前へと進んで行く。

「あれ、は……」

 暫く歩き続けて居ると、次第に景色は変化を観せ始め、木樹が生い茂って居た森の中――危険地帯から抜け出し離れる事に成功する。

(……壁?)

 眼の前には、明らかにヒトの手が加えられて作られた事が理解出来るモノ――真っ白で森の木樹よりも高い大きな壁、そして其の向こうには更に大きく高い建築物が存在して居るのが視える。

 眼の前の壁、そして其の向こうに在る其の大きな建物の見た目は荘厳では無いものの、しっかりと、そしてどっしりとしたモノで在る印象を与えて来る。そして、其れ等は、まるで「此処から先は、ヒトの世界だ」とでも強く主張をして居るかの様にも観える。そう感じてしまう。

「……出入り口は……?」

 軽く周囲を視渡し、歩き回って観る。

 だが、壁にはハッキリと出入り口だと判る様な箇所や場所は見当たら無い。が、其れに関係して居る何か成のか凹みの様なモノが幾つか存在して居る。そして、其の上部には「出入り口」の文字が刻まれて居る。

 見付けた其の凹みの在る場所へと移動し、俺は確認をする為に其の凹みへと軽く触れる。

「――!?」

 すると、其の凹みから幾本もの赤い光の線の様なモノが発生し、其れは俺の身体へと照射されるかの様に向かって来る。

「……ッ……!!」

 照射された其の光は、次第に俺の身体全体を包み込んで来る。

 其の赤い光が眩しく、思わず瞳を閉じてしまったが、其の光は一瞬だけのモノだったのか消え去り、其の代わりにまた別の光が在る事を感じ取れる。

 そんな別の光を感じ取ったのと同時に、俺は閉じて居た瞳を開く。そして、其の先の光景を目にして確信を得た。

「やっと……到着、か……」

 瞳を開いた先――其処は、やはりヒトの世界其の物で在り、賑やかで、活気に満ちて居る場所で在った。

 此の街の住人だろう人々は楽し気な感じに話をして其れに華を咲かせて居り、表情は明るく、色々なモノが満ち足りて居るのだろうという事が一目で判る。

 先程の森と同じ様に木々や草花等が生得ては居るが、其れ等植物は決して乱雑な――自然な感じでは無く、明らかにヒトの手が加えられて居る事が判る。そして其れ等を中心にして、顔を覗かせて来て居る気性の大人しいヒト以外の小さな動植物達。

 子供達は燥いで居るのか、元気良く大きな笑い声を上げ成がら疾走り廻って居る。其れを視護って居る親だろう人達の表情もまた楽し気で在り、とても柔らかなモノだ。

「…………」

 先程迄居た空間とは大きく違い、自分以外のヒトが居るという丈の事に、安全な場所で在るという事を認識し理解する事で、俺は漸く安心してホッと胸を撫で下ろす事が出来た。

「――どうかされましたか?」

 眼の前の子供達を視て居ると、誰かが俺の方へと近付いて来るのが感じ取れる。そして近付いて来た彼は、俺に対して声を掛けて来た。

 其の声のする方――俺に声を掛けて来た男性の方へと顔を向ける。

 其処には、優しそうな雰囲気を醸し出して居る青年が1人。彼の瞳はサファイアの様に蒼く透き通って居り、サラサラとして居るだろう事が一目で判る程に手入れの行き届いた綺麗な金髪が生得た好青年といった第1印象だ。身長は俺とほぼ同じ位だろうか、否、少しばかり負けて居る。彼の方が高いだろう。

「否何、生きて居るという事を実感してね……生命の有り難みというモノを感じて感謝を、強く噛み締めて居ただけだ……」

「……? そうですか……」

 此方の言葉の意味――心意を汲み取り理解するという事が出来て居無い為に、可怪しなモノを目にして居るかの様に「不思議だ」と言った表情を、怪訝な表情を浮かべ、首を傾げて視せて居る青年。

 今俺が感じて居る此の感覚は、恐らく、実際に死に際を感じるか体験するかをし無いと理解ら無いだろうから、仕方が無い事だろう。

 此れは極当たり前の事で在り、当たり前で在るが為に早々感じる事や思ったりする事が出来るモノでは無いのは確かだ。

「何ですか?」

 改めて眼の前に居る青年へと目を向け、良く良く視て観る。

 彼の容姿は優れて居り、声もまた好感を与えて来るモノだ。

 ジッと俺が観て居るという事も在るが、彼はとても居心地が悪そうな様子を観せる事が無い。

「特に何も」

 だが、其れでもやはり、俺の否定の言葉に対して、「解せ無い」といった様な様子を観せ、そんな表情を浮かべて居る。

「其れで、何故生命の有り難みを感じる事に?」

 他愛も無い事の様に、日常会話でもして居るかの様に、眼の前の彼は俺に対して親しんで居る様に質問を投げ掛けて来てくれる。

 そんな彼の言動に対して俺は、警戒心等最初から抱いて居無いかの様にして――同じヒトという事も在り、そして此処が安全な場所だと確信した事も在って気が抜けてしまったのだろう、彼の質問に応得る。

「否何、先程森の中でスライムらしき生き物を観掛けてな……一緒に此処迄来る予定だった2頭の馬と其の御者と、其の……御別れして来たばかりなんだ……」

 其れ程時間は経過して居無い事が原因成のか、今でも直ぐに鮮明に思い出す事が出来る程に強烈な恐怖と危機感を与えて来た存在。

 苦悶と救助を求める表情を浮かべ藻掻き成がらも生きて居る侭に溶かされてしまった御者の姿と其の最期の声に成ら無かった悲鳴が今でも目蓋に焼き付き、耳にこびり付いて居る。

「――スライム……?」

 落ち込み、そして其の出来事と同時に恐怖感を思い出して震得る俺に対し、青年の聞き返す其の言葉には強い警戒心の様なモノが込められて居るのが感じ取れるが、敵対心や害意等は全く込もっては居無い事が何故か判る。

「そっちこそ、どうかしたのか?」

 青年の其の様子を観て、其れに対して異常だと感じ、俺は思わず彼に質問を投げる。

 青年の表情は相変わらず厳しいモノに変わりはし無いが、其れでも声のトーンや言葉遣い等には可怪しい所を感じさせ無いようにして居るのだろうか、笑顔を作り見せて応える。ただ静かに、周囲の人達には要らぬ不安を決して与え無いようにする為か小さな声で。

「いえ。先程、研究所から捕獲して居たモンスターが森へと逃げ出してしまったとの報告を受けたものでして。其の再捕獲若しくは討伐の為に森へと向かおうとしていた所だったんですが……其の……スライムはどうしたんですか?」

「倒した……と言うよりも、消し去ったと言った方が適当かな……」

 青年の質問に対して俺は彼と同じ様に小さな声を出し、応える。

 が、俺の其の返答に対して彼は一瞬丈驚きの表情を浮かべ見せた。

 だが其れも本当に一瞬丈で在り、青年は直ぐにまた最初からずっと見せて来て居る柔和な笑顔を浮かべる。

「消し去った、ですか……理解りました……所で、此方にはどういった事情、要件で?」

「入学、かな……此処には、此の街には学院が在るだろう? 其処に入学したいんだ」

「成る程」

 周囲を森で囲まれて居る此処――プミエスタという円形の街は、其れ成りに大きな街で在り、此の時代で生きる為に必要不可欠で在り、とても身近なモノ――魔法についてを学ぶ為の学校及び学院が存在して居る。

 此のプミエスタには魔力マナが満ちて居るのか、動植物達は元気良く育って居り、其れはヒトもまた同じ。人々に連られて自分もまた笑顔に成りそうに成る程に自然且つ綺麗な笑みを浮かべて居る。

 此の世界に於いては魔力とは生命力其の物とでも言い換える事が出来る程の力。

 そんな力が満ち満ちて居るのだから、其処に生きる者達もまた活力が満ちて居るのは基本的には当然の事だろう。

「若しかしてだけど……スライムが逃げ出したのって、学院が関係してる、とか……?」

 此方の質問に対して、青年は笑顔を浮かべるだけで在り、答を返すという事はし無い。だが、其れが返答其の物で在り、否応無しに事実で在るという事を認識させて来る。

 其れに気付いた俺は此れ以上追求の必要は無いが、彼の口からしっかりとした答を訊きたく成る。

 睨み付けるという訳では無いが、俺は静かに真っ直ぐと目を向け続ける。

 そんな俺の視線を受けて、「負けた」と言わんばかりに肩を動かし、大きく落とし、青年は口を開いた。

「使い魔、と言うモノを御存知でしょうか?」

「使い、魔……」

 其の聞き慣れ無い言葉を耳にして、思わず鸚鵡返しの様に数度程俺は繰り返し呟いてしまう。

 だが、其の聞き慣れ無い筈の其の言葉は、俺の胸の中でストンと落ち、パチリと何か空いて居る穴の様なモノにピースが嵌まるかの様な感覚を感じる。

魔力マナを操作する事でモンスターをテイム――使役する事が出来れば便利だなといった考えから研究され始めたモノ成のですが……」

 彼の其の言葉から、大体の事――事態の大凡の事を察してしまう。

 研究対象で在り、其の使い魔という存在へと変貌させようとしていたスライムが逃げ出し、俺や御者達は不運な事に其のスライムに遭遇。そして、あの2頭の馬と1羽の鳥、御者が死んだという事だろう。

「此の研究が進めばより発展するという事は間違い無いのですが、大きな危険を伴いますし……何よりも、街に住む皆さんに、若し何か起きてしまえばと考えると……」

 青年の表情は余り良いと言えるモノでは無く、声もまた少し震えて居る様にも感じさせる。

 逃げ出したのが、比較的危険度が低いとされて居るモンスターで在るスライムで在ったという事が幸いだったとでも言う事が出来るだろうか。

 だが其れは、事前知識と前準備が出来て居ればという話だ。

 スライムに対して物理攻撃の効果は低く、動きも俊敏だと言える。其の俊敏さは、2頭の馬、逃げようとした御者や囀って居た小鳥を、逃がす暇を与得るという事も無く呑み込んだという事からも理解出来る。

 そういった事からも、魔法を扱う事を得意とし無い者にとっては、大きな脅威でしか無い存在だ。

逃げ出した先が森で在り、此の街の中では無かったという事は本当に良かったと言うべきだろう。

 まあ、其れでも数分の間で4つ生命が失われたという事に、そして1つの生命を俺が奪ったという事に変わりは無いのだが。

「「…………」」

 「若し此の街にスライムが逃げ出してしまって居たらどう成って居たのだろうか」等と青年の言葉を聴いて考えてしまう。

 そして、眼の前の彼もまた話し成がら其れを考え、想像してしまったのだろう。重い空気が流れ、少しの間沈黙が此の場を支配する。

 聞こ得て来る子供達の笑い声や親達の談笑等がとても遠くから響いて来るかの様に感じられる。

 そして眼の前の景色が一瞬だけでは在るが、廃墟へと。ヒトや他の生命等1つも無い空虚な場所に幻視えてしまう。

「えっと……学院に用事が在るのでしたっけ?」

「は、はい。入学する為に来た、んです。いえ、来ました」

 先程の話が原因成のか、当初の目的を忘れてしまって居た事に気付き、思い出したかの様な青年からの確認の質問に対して応得る。

 先程幻視()えた其の景色は、幻では在る事は確かだが、何故かとてもリアルな其れに思えてしまう。

「言い直さ無くても大丈夫ですよ」

「そ、そうか?」

 先程から自棄に馴れ馴れしく話してしまって居たという事に気付き、言葉遣いを正そうとするのだが、其れを笑い成がら制止する青年。

 何故か、どうして成のか。青年とは昔からの友人で在るかの様な親しみを覚えてしまって居るという事に気付く。

 何年間もの間離れてしまって居たが、漸く逢えた――再会出来た旧友との間の様なそんな感覚を今味わって居るのだ。

「案内しましょうか? 学院の方に」

「ああ。是非頼むよ」

 顔を横に向けると地図で在る案内板が設置されて居るのが判った。

 が、其れでもやはり、此の街に詳しい誰かに案内をして貰った方が良いだろう事は確かだ。

 青年からの提案に対し、俺は其の提案を呑み、頼んだ。




 魔法学院への道の途中、街の案内をして貰うという事に成り、青年の話を耳にして相槌を打ち成がら空を見上げる。

 此のプミエスタの1画では危な気な実権及び研究が現在進行系で行われて居る様だが、其れでも表向きはとても穏やかで、平和其の物という事が出来るだろう。

 そんな平穏さを表すかの様にゆっくりと、ゆったりと流れて行く白い雲。そして、透き通る様に綺麗な蒼い空。

 太陽もまた、サンサンと燃え、明かりを放ち、ポカポカといった陽気を振り撒いて居る事が感じられる。

「もう直ぐ着きますよ」

 にこやかな笑みを浮かべ、口を開く青年。

 近場には噴水が在るのか、水が噴き上がるのが視界の端の方に視え、水が視える為か心無しか涼しさも感じられる。

 否、少しだけでは在るが、水がかなりの速度で噴き上がって居る為成のか、水滴の幾つかが此方へと降って来て居るの事が原因成のだろう。

 目的の場所で在る学院へと近付いて居るから成のか、人の数が増えて来て居る様に思える。

 そして其れは確かで在り、擦れ違う人々の数が減っては居るが、其の服装からも観て判る。

 街の商業区域等と比べると人口密度等は低く、人集りは少無い。が、複数の学生と思しき人達の元気の良い声等が耳に届いて来て居り、活気等は負けず劣らずといった具合だろうか。

「あれが此の街――プミエスタが誇る魔法学院です」

「あれが……」

 多くの声が聞こ得て来る方へと足を進めて行くと、大きな建物が視界に入って来る事に気付く。否、最初から視界には入っては居たのだが、無視して居ただけだ。其れは、其の建物は森と街を隔てて居る外周の壁と同じ、其れ以上の大きさを誇る建物。此の街に来る前から視えて居た建物成のだから。

 そして、其の建物――魔法学院からは当然では在るが、微弱成がらも幾つもの魔力マナが、そして強い魔力マナが幾つか発せられて居るという事が感じ取られる。

「では、自分は此処で――」

「――え?」

 青年の言葉を聞いて彼の方へと顔を向けるが、其の姿は既に無い。影も形も無く、決して視当たら無い。まるで幻の様に、最初から其処に居無かったかの様で在り、そう思ってしまう程に速く移動をしてしまった様だ。

 何か用事が在って此の場を離れたというだけの事成のだろうが、其れでも何か御礼がしたかった、其の言葉を言いたかったのだが。

「ま、良いか……」

 「此の街に居ればまた逢う事が出来るだろう。其の時に礼をすれば良い」と気持ちを切り替え、前へと歩みを進める。

 歩き続ける旅に眼の前の建物は大きく視得、門だろうモノが在る場所へと辿り着く。

「すみません、職員室は何処に在るんでしょうか?」

 門の付近を歩いて居る1人の生徒らしき少年が目に留まる。そして俺は、彼へと声を掛け、職員室の場所を尋ねる。

 対する彼はというと、快く笑顔を浮かべ成がら応えてくれ、俺は其の指し示された場所へと足を向ける事にした。

 学院の中は広く、整えられた円形の中庭が存在して居り、其の中心点から十字状にレンガで造ったのだろう4つの舗装された道が在る。

 其の道の1本をゆっくりいと歩き成がら周囲を軽く観渡す。

 中庭には何種類も花が景観を損なわ無い程度に植えられて居り、其の色取り取りの花々に対して在り来りでは在るのだが綺麗だといった言葉しか思い浮か無い。木々の枝々には、小鳥が羽を休めて居るのだろう、止まって囀って居る。

「…………」

 其の小鳥達の鳴き声を耳にして、此のプミエスタへと到着する前に目にしたスライムを、そして其のスライムに捕食されてしまった馬や御者、鳥の最期を思い出してしまう。

「――クソッ……」

 肩を震わせ、思わず舌打ちをしてしまう。

 少しばかり、否、とても気分が悪い。吐き気を感じ、喉元に酸っぱい液体――胃液だろうと思えるモノが昇って来て居るのではと思えてしまう。

 鼓動は速く成り、鼓動音を直に聴いて居るかの様な感覚、大量の汗が流れ、視界が暗く周囲の音が遠くから聞こ得て来る様な感覚を味わう。

 身体がグラリと前のめりに倒れてしまいそうで在り、今自分が地面に足を着けて居るという事を再確認する。

 錯覚で在るという事を理解するのと同時に、唾液を無理矢理呑み込み、再度足を進める。

 震える身体を無理に押さ得込み、どうにかして足を動かす。

 暫くすると、其れ等錯覚は消え失せ、平常な感覚が戻って来る。

「此処か……」

 学院内には幾つかの建物が立って居り、そして其の1つ――目的地で在る職員室へと辿り着いた。

 足を止め、其の職員室の出入り口だろうドアの上部に貼られて居るプレートにはしっかりと目的の場所で在るという事を理解させる職員室の文字が記載されて居り、職員室の中からは忙しそうな人々の声が聞こ得て来る。

 そういった声の中には勿論年配で在ろう人の声が、そして何故成のか年が若そうな高い声が紛れて居るのが判る。

「……失礼します」

 軽くドアをノックして、引き、開く。

 開いた先には、勿論先生だと思しき人達が数人程居り、其の先生専用だろう机が数台程設置されて居る。

 其れ等の机の上には乱雑に何らかの資料だろうか数十冊もの本が置かれて居り、雪崩の様にして崩れてしまったのだろうか机の下にも落ちてしまって居るのが視得る。

「き、君は……?」

「此の学院に入学を希望したいのですが……」

「成、成ら明日、また来て下さい……あ! 其の前に、此の紙に記載されて居る必要事項を読んで於いて下さいッ」

 此方へと顔を向けて応得たのは女性だ。

 其の女性の髪は綺麗な緑色をして居り、優しそうな雰囲気を醸し出して居る。

 だが、其の女性の身長はとても低く、童顔で、声も高い。

 少女だ。

 視た目は少女と言えるモノで在る。否、少女其の物であり、其処から判断するので在れば自分よりも年下だろうと思える容姿をして居る。

 先程から聞こ得て居た、此の職員室の外から聞こ得て居た高い声の正体は彼女成のだろう。

 そうして眼の前の少女の事を観て居ると、彼女は懐から短な杖を取り出し、軽く振るう。

 其の動きに従うかの様にして、1枚の紙が無数に積み重ねられて居た紙束から、其の紙束を崩すという事も無くスルリと抜ける様に独りでに飛び出し、彼女の手元へと向かい飛んで来る。

 其の紙に皺が付か無いようにキッチリと掴み、此方へと手渡そうと向けて来る緑髪の少女。

「どうぞっ」

 此の学院は実力主義で在り、実力さえ在れば即時入学、飛び級は勿論だが年齢に問わず教員に成るという事すらも可能といった変わった学び舎と言える場所だ。まあ、其れでも在っても、一定の実力が無いと入学は出来無い。否、ハッキリと言ってしまうので在れば、実力が無ければ門前払いは勿論、学院内での実力差から自主退学をする者も居ると聞いた事が在る程。

「あ、有り難う御座います」

 差し出された紙を受け取り、記載されて居る内容を速読して確認をする。


――実技試験を行い、其の魔力マナの量と適正を確認、判断する

  其の結果次第で、其々をクラスへと割り振る


 記載されて居る内容を簡単に纏めてみるとこういった感じ成のだろうか。

 回り諄い表現の文章が長ったらしく記載されて居るだけで在り、理解り辛いがどうにかして噛み砕き理解する。

「…………」

 説明等が記載されて居る紙を手渡し終得た少女は、「する事はした」といった風な様子で在り、自らのするべき作業――教師としての仕事で在る書類整理等を再開する。

 忙しそうな其の様子を目にして、此れ以上は煩わせては駄目だろうと思い、静かに職員室から抜け出す。

「……ふぅ」

 職員室の中は埃が多く空気が淀んで居たのだろう。外に出ると周囲の空気や魔力マナは澄んで居り、草木の青臭さが鼻につきはするが、其れが更に清々しいモノだと感じさせて来る。

 手にして居る紙を4つ折りにして、ズボンのポケットへと入れる。

 そして、此の学院から出る為に此処に来る時に通った道をゆっくりと歩き出す。

「明日か……」

 手にして居る鞄を握り締め直し、此の先どうするのかという悩みが頭の中で渦巻き始めるのが感じられる。

 目的として居た街で在るプミエスタ、そして魔法学院へと辿り着きはしたのだが、何処で1人を過ごすのか等といった問題は未だ残って居るのだ。

 此の街に到着して直ぐに金髪の優しい青年に出逢い、色々と説明を受けたり案内をして貰ったのだが、宿泊先が未だ決まっては居無い。

 感謝はして居るのだが、やはり其れは先に決めて置いた方が良かったのかもしれ無いと思ってしまう。

「はぁ……」

 空を仰ぎ視て、大きく息を吐き出す。

 紙の入って居る方とは正反対のズボンのポケットには財布が入って居る。

 そして其の中には、其れ成りに大金だと言う事が出来るだろう程度の金額で在る金銭を入れて居る。1ヶ月程度で在れば、宿に止まり続ける事も出来、其処から更に在る程度値段の張る料理等を頼んだりといった事を1週間続けたとしても何も問題は無い程。高級レストランで食事を続けても全く痛くも痒くも無い金額だ。

 だが、無闇に散財をする気なんていうのは微塵も無い。

 問題と言えるモノ――宿泊先で在る宿を探すという事だけが今の俺の中の思考の殆どを埋め尽くして居る。

 其の為には勿論、学院から外に出て街を散策する必要が在るだろう。

「まあ、さっきの彼奴が居てくれたら……案内をしてくれる成ら楽で済んだんだがな……」

 そんな淡い期待の様なモノを抱きはするのだが、当然そんな事が都合良く起きるという事も、そして彼が来てくれるという事も無い。

 無い物強請り等と自嘲地味た言葉を浮かべ成がら、俺は学院を後にする。




 学院を出てから何れ位の時間が、そして距離を歩き続けただろうか。

 幾つか宿を見付けはしたのだが、いざ宿泊しようと中へと入り宿の主人へと声を掛けはしたが、何の宿も満部屋――空いて居る部屋は無く、「馬小屋でも構わ無い」とは言ってみるも其れでも無駄で在った。徒労に終わってしまったのだ。

 大金を掴ませる事で部屋を借りるという訳にも行かず、例え其れを口にした所で彼等は断るだろう雰囲気を漂わせて居た。そんな宿の主達は尊敬に値するだろうと思える。

 そして、そんなこんなとでも言うべき成のだろうか、宿代わりに出来る様な場所を探す為に、重い足をトボトボと動かして居るのだ。

「何処か……易く無くても良いから寝泊まりが出来る場所が在れば……」

 一時的では在るが空き部屋が在るか確認をする為に入った宿には、俺と同じ目的で来て居るだろう人達や観光客だろう人達で溢れ返って居た。

 此のプミエスタには、地域的に有名な魔法学院、そしてまた同じ位有名な観光名所が存在して居る。

 まあ、観光名所とは言いはするのだが、実際の所は只魔法で綺羅びやかに視せて居るだけの場所だ。絶景だとかそういった感動を覚える事が出来る様な場所では無いと言えるだろう。只、魔法を上手く使用して、其れっぽい様に視せて居るだけ成のだから。

「適当に……何処か雨が凌げる場所で横に成るかな……」

 寝泊まりが出来無いので在れば、其れにかわる場所やモノを用意するか観付ける他無いだろう。

 誰かに視認付かって補導等され無い様な場所を。そして、雨風が凌げる場所を。

 最低限では在るが、今の俺には其れだけでも十分だと言う事が出来、此れ以上を求める必要は無い。

 否、欲を言ってしまうので在れば温かい食事や布団、風呂等が利用出来れば良いのだが、そうは言って居られ無い。

「やっぱ、そんな場所なんて中々無いよな……」

 周囲を軽く見渡して視ると、至る所に街灯が、そして其の光球――監視の目が光り続けて居る。

 其の光球は、其れが捕獲した街で起きて居る異常な事態等といった情報を守衛達に送る事が出来る、街の治安を守護る為の仕組みの1つだ。

 魔法を使用出来る、行使出来る者達の中には、其の魔法を他人を害する為に使用する者達も少無からず存在して居るのだ。そういった事を防ぎ、起きてしま得ば其れ等に対して迅速に対応をする為に、そういった輩を直ぐに観付けて向か得る様にと、監視用魔法で在るあの光球が設置されて居る。

 そういった事も在って、確かな後ろ盾も無く、魔法学院に入学が出来て居無い今、下手な場所で寝てしま得ば、其の魔法学院への入試試験を受ける事すらも出来無く成ってしまうかもしれ無い。

「何処か……」

 監視用の光球を目にして、隣の國に魔法とはまた違った方法で似た物を使用して居るらしいとか等といった噂を思い出し成がら、大きく欠伸と伸びをする。

 欠伸をした事で、目尻には大粒の涙が溜まり、視界が少しばかり滲み歪む。

「学院に入学出来れば宿に困る事も無いな……こんな事成ら、ずっと村に居た方が良かったかな……否、そんな訳無いか……うん、無いな」

 入学試験を受けに遠くから来た人達の為の宿でも用意して置いてくれれば等と愚痴り成がら、俺はベンチへと座り、鞄から本を取り出す。

 そして、街灯の灯りを利用して其の本を読み成がら、村に居る家族や友人達の事を想い出す。




「忘れ物は無い? 御金が足り無い成ら――」

「――大丈夫だから。大丈夫だって」

 過保護とでも言う事が出来る家族の皆は、今から出て行こうとして居る俺自身よりも焦り、慌てて居る様子を俺に視せて来て居る。

 そんな皆の様子を目にして、俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。誰かの慌てて居る様子を視ると「自分がしっかりとし成ければ」等と思えてしまうのだ。他人の言動を視たり聞いたりすると、焦るべき当の本人で在る自分が逆に落ち着くというモノだ。

 御金の事だが、今俺のポケットに入って居る財布の中には是迄視た事が無い程の大金が入って居る。此れは、家族がコツコツと貯めた、そして村の皆が分けてくれたモノ。足り無いなんて思っても居無いし、嘘でも言う事なんて出来やし無い。

 此の村で、魔力マナの操作で在る魔法が得意な者は多いのだが、俺はそんな皆の中でも1番上手成のではと煽てられ成がら育てられて来た。

 そして「プミエスタの魔法学院にでも行けば良い」なんて皆から言われる始末で在り、何時から成のか俺も其の気に成ってしまい、独り立ちが出来る程度の年齢に成ったという事で、俺は今から此の村の外へと出て、プミエスタへと、其の魔法学院へと向かおうとして居るのだ。

「本当に出て行くのか?」

 村長が俺へと、最後の確認だろう質問を投げ掛けて来る。

「ああ。村の方は結界が張って在るし、大丈夫だろ」

 村から1歩出てしま得ば外の世界で在るというのは当然で在り、其処――此の村の周囲に棲息して居る筈のモンスターと呼べるモンスター達はかなり昔に殲滅され、絶滅して居る。何十年か前に、此の周辺の村々から腕っ節や魔力マナ操作等に自信が有る者達が集まり、其の件のモンスター達を掃討したのだ。

 そういった理由からも、此の村や其の外は今で在れば安全だと言う事が出来るだろう。実際に、今此処に交易の為に馬車で来た人が居るのだから。

 其れでも、何かしらの理由でモンスターが出現したりしてしまう等といった可能性は0では無く、無きにしも非ずといった風だ。

 そいった理由からも、村に住んで居る人々を守護る為に、プミエスタから来たで在ろう1人の魔道士の人が、此の村に防衛及び防御用の結界を張ってくれたのだ。

「じゃあ、行きますか?」

 横から、馬車の前部分に座り手綱を握って居る御者が俺へと声を掛けて来る。

 急かして居る様子は無く、此の村の皆に対して温かい目を向けて来て居る。

「待って。一応……念の為に荷物の確認をしてから」

 其の馬車に乗ろうとする俺を止める用にして、村人の1人が声を掛けて来る。

「本当に心配性だな、皆は。大丈夫だって、ほら」

 手荷物で在る鞄を開き、中身を見せて行く。

 パンツやシャツ、ズボンに布の服等の一週間分の着替え等々。色々な物を沢山取り出して、再確認させて行く。

 手にして居る鞄は魔法を使用して造られた魔道具マジック・アイテムで在り、中の空間を歪ませて居る事で無数とでも言う事が出来る程に沢山の物を収納する事が出来る代物だ。

 此の鞄もまた、結界を張ってくれた魔道士が村人への友好の証として生み出し、其れを当時の村長へと手渡した物で在り、其れを村から出て行こうとする俺に、今代の村長がプレゼントしてくれた物成のだ。

「大丈夫みたいだな」

「だから言っただろう?」

 ホッと胸を撫で下ろす1人の村人へと俺は苦笑し成がら応得、外に出してしまった荷物を鞄の中へと入れ直して行く。

 山の様に在った荷物はあっという間に鞄の中へと消得、辺りはスッキリとしたモノに成る。

「何か必要なモノは在るかい?」

「無いよ、大丈夫」

 声を掛けて来る皆をテキトウに配うのだが、皆は其れでも矢継ぎ早に同じ様な事を繰り返し訊いて来たり、話し掛けて来たりする。

 そういった言動からも、行かせたく無いから、寂しく成るから等といった気持ちからこういった行動に走って居るのだろうと下手な勘繰りをしてしまう。

「さて、御願いします」

「えっと……宜しいので?」

「――構わ無い」

 話し掛けて来る皆の声を無視して、俺は御者へと指示を出す。

 御者の方は戸惑いを隠せ無いで居るのか、訊き返して来るのだが、其れを遮る様にして強目の語気で同じ指示を繰り返し出す。

 其の強目の語気で放った指示に対して、慌て成がら手綱を握り直し、振るって2頭の馬を走らせる御者。

 走り出した2頭の馬の力で馬車――クーペや荷台等は引っ張られ、其のタイヤは回り出す。

 後ろから聞こ得て来る皆の声が遠下がって行くのが判る。

 クーペの色は黒く、太陽の陽光をキッチリと吸収して内部の温度は少し上昇。そして、窓から射し込む陽光。

 ガタガタと揺れる馬車に、其れ引く馬の蹄の音。

 其れ等が丁度良い感じに、子守唄の様に聞こ得、感じ始め、次第に目蓋が重く成って来る。

 だが其処で、手荷物で在る鞄にでこを強く打つけてしまう。




「――!? 何時の間にか眠ってしまってたのか……」

 気が付けば、俺はベンチに座って居り、1冊の本を手にして居た。

 暫くの間ボーッとするが、次第に頭の中はスッキリとハッキリとしたモノに成り、此の状態に成る迄の間の出来事を鮮明に思い出す。

「そっか……寝る所が観付から無くて、諦めて一徹しようと思って本を取り出した所で……」

 開いて居る本は中古の魔道書――研究及び開発された魔法について等が記載されて居る書物の1つで在り、其の内容が余りにも退屈なモノで在ったのでボーッとして居たら、船を漕いでしまったといった所だろう。

 今手にして居る魔道書を足下に置いて居た鞄の中へと入れ、別の本を取り出して視る。

 魔道書では無いが、此の世界に居る動物達――ヒトを始めとした種族、亜人種、他確認されて居るモンスターの情報等が記載されて居る。例えばエルフ、ドワーフ、ボブゴブリン等。ヒトと同じ様に2足2腕の生命達について。此の街――プミエスタへと来る前に遭遇してしまったスライム等についても記載されて居る。

 出しはしたが、直ぐに鞄の中へと入れて空を視上げる。

 空は未だ暗いものの、ほんのりとでは在るが薄暗いといった表現の方がしっかりとくる様なモノに成って居る。其処から更に、赤い陽光が地面へと射し込み、朝が来た事を知らせて来る。

「朝、か……補導されずに済んで良かった……」

 鞄を手に取り、学院へと足を向けようとするが、其処で腹の虫が鳴り、思い直す。

「食事……朝食を摂ら無いとな」

 今すべきだろうという事を思い付きはするのだが、如何せん、其の食事を摂れる処が何処に在るのかすらも判ら無い。

「宿を探すときに、一緒に探して於けば良かったな……」

 後悔先に立たずとでも言うのだろう。

 だが幸い成のか、時計を視ると学院に行か成ければ駄目な時間迄には未だ未だ余裕が在り、ゆっくりと食事に勤しむ事が出来るだろう程。

 だが其れが、見付ける事が出来ればという話成のだが。




「御馳走様でした」

 両手を合わせ、余韻に浸り成がら挨拶をする。

 何とか食事を摂る事が出来る場所、詰まる所料理屋若しくは食事処を見付け、朝食で胃を満たす事、そして心を満たす事に成功した。

 眼の前の机の上にはもう、完食した後の皿や使用したナイフ、フォーク等といったモノを置いて居る。

 好き嫌いが激しい方では在るが、イメージで在る写真や原材料等が記載されていた事で大方の予想を付ける事が出来、其の貯めに自分にとってのハズレを引くといった事も無く、無事に完食する事が出来たのだ。

 味も申し分が無く、目だけでは無く舌でもまた愉しむ事が出来たという事に、十分に満足して居る。

 店内の壁には大きくも小さくも無い、丁度見易い大きさの時計が設置されて居るのが視得る。

 其の時計が刻んで居る時間は、其の秒針を動かし続け成がらもう直ぐ移動をする必要が在るという事を俺に教えてくれて居る。

「未だ十分に間に合いはするが、念の為に行こうかな」

 10分前行動とでも言うのだろう。

 速めに行動しても損は無いという事も在り、会計を手早く済ませ、店員に感謝の言葉を述べた後に店を出る。

 食事を摂った事により身体中にエネルギーが、気力が満ち溢れ、周辺の魔力マナもクリアなモノに感じる事が出来る。

「学院は確か、此方の方だったかな……?」

 来てから未だ1日も経過して居無いという事も在り、学院への道は何れで、何処をどう歩けば良いのかは未だ覚得切れは居無いのだ。

 だが昨日、青年が案内にしてくれて居た時に視た建物等は確かに覚えて居り、其れを目印にして足を動かす事が出来て居る事に少なからず驚く。

「待てよ……着替えた方が良いだろうか……」

 学院へと向かう途中では在るが、ふと不安が押し寄せて来る。

 今着て居る服は、昨日からずっと着続けて居る物だ。

 そんな同じ服を着続けるという事はやはり不健全で在り、綺麗な見た目で学院に向かうべき成のでは無いだろうかと考えてしまう。

「着いちまった……」

 臭っては無いだろうか等と色々と不安を感じ、そういった事を考得成がら歩いて居たから成のだろうか、気が付けば学院の前へと辿り着いてしまって居た。

 道を覚得ては居無いだろうと思って居たのだが、どうやら無意識下でも辿り着ける程度には覚える事が出来ては居た様だ。

「さてと……」

 ズボンのポケットに入れて居た4つ折りの紙を取り出し、開いて記載されて居る内容を再確認する。

 其の紙に記載されて居る学院内の地図、其の地図に在るマークが試験会場成のだろう。

 其の会場だろうと思える場所へと向けて足を動かす。

「へえ。他にも……結構居るのな」

 到着するのと同時に視界の中へと入って来たのは、数十人と言得る程の結構な入学希望者達、そして設置されて居るテントだ。

 其のテントの中から、見覚えの在る2人が顔を出した。

 1人は職員室で出逢った少女、そしてもう1人は昨日道案内をしてくれて居た青年だ。

 青年が出て来たという事に、何故か驚きを感じるという事は無い。其れは、此の魔法学院へと案内をしてくれたという事も在るが、其の案内の前に実験について等の事を話してくれて居たという事も在るからだろう。

 今此処の様子を観る限りでは在るが、青年と少女が出て来た事で皆が静かに成り、彼と彼女が試験の監督――試験官で在るという事が判る。

 試験が始まりそうだという事も在り、他の皆と同じ様に気を引き締め、耳を澄ませる。

「こ、之より入学試験を行います。何の属性、系統に適正が有るのかを確認しますので、縦に並んで、順番にテントの中に入って来て下さい」

 説明を行う緑髪の少女では在るが酷く緊張をして居るのか、彼女の声は上ずって居り、どもったり噛んだりしてしまって居る。

 青年の方はと言うと、実に綺麗な、清々しい程の笑顔を浮かべ成がら少女の方へと顔を向けて居る。

 どうやら助け舟を出す気は全く無いらしく、其れで居て、困って居る少女を観て愉しんで居るのではとさえ思わせてしまう程の笑顔だ。

(駄目だ、駄目だ。そんな風に観るのは……)

 何か、必要な事でも在るのだろうか。

 例えばそう、魔道士として歩んで行くので在ればこういった大勢の前で何かをするという事に慣れる必要が在り、慣れさせる貯めに敢えて手助けをして居無いとか。

 そんな事を考えて居ると、周囲の皆は指示通りに列を作り並び始める。

 此の場に居る全員が並び終えるのを待つ前に、青年と少女はテントの中へと戻って行く。

 俺はチラリと手にして居る紙へともう一度目を向ける。

 其の紙の下には番号が記載されて居り、其の番号順に並ば成ければ駄目だという事だろう。

 俺に割り振られて居る番号はかなり大きく、周囲を軽く見渡すと皆並び終えて居るのが判る。

 此の場に居る希望者達の数から考えると、俺はどうやら1番最後だという事が判った。

(凄いな、気迫と言うか、何と言うか……)

 並び終わって居る皆の後ろへと並び、俺は前に居る皆の様子を観る。

 皆目をギラギラと輝かせて居り、口元から観て笑みを浮かべ、自信満々と言った様子を観せて来て居る様に思える。

 皆が力強く前に進んで行くのだが、テントの中から出て来た人達の中には笑顔を浮かべ続けて居る者も居れば、落ち込んだ様子を観せる者達も居る。

 そんな人達を視て居ると、俺の中から、最初から無かったとは言得、余計に自信が減少し、喪失してしまったかといった状態に成って行く様に感じてしまう。

「行くしか、無いよな……」

 次の番――最後で在る自分の番と成った事で、覚悟を決め、テントの中へと入る。

「昨日振りですね」

「昨日は有り難う、助かったよ」

 テントに入ると同時に、此方の事に気付いたのか――覚得てくれて居たのか青年は俺に対して声を掛けて来てくれる。

 青年の表情はやはり昨日に出逢った時と同じ様に柔らかなモノだ。

 其の表情を目にすると、先程迄胸の中に巣食って居た落ち込んだ気持ちや緊張といったモノは感じ無く成り、吹き飛んでしまったかの様にも思えてしまう。

「あ、貴方達、知り合いだったんですか?」

「ええ。昨日、此処に案内を」

 軽く笑い成がら談笑をする青年と少女。

 青年は俺の代わりに、少女に昨日の事を簡単にでは在るが説明をしてくれて居る。

 少女の方は、其れに相槌を打ちそして笑う。

(良かった。気が楽に成ったかな……)

 昨日出逢って直ぐに別れた様なモノでは在るのだが、知り合いと出逢ったという事、其れだけで重く伸し掛かって居たモノは無く成った様に感じられる。

 少女の方も、ずっと緊張をして居たのか噛んだりして居た様子だが、今ではそんな様子は無い。

「さて。では、此の石に触れてみて下さい」

 談笑を中断し、話を戻すかの様にして青年は机の上に白色の石を置き、其れに触るようにと促して来る。

「シェタニル石……?」

 其の石は、普段は真っ白な色をして居るのだが、魔力マナを注ぎ込むと色が変化するという特質や特性が在る、変わった石だ。

 其の変色後の色を観る事によって、魔力マナを注ぎ込んだ者が得意とする魔法属性、そして何の精霊から加護を受けて居るのかという事もまた理解する事が出来るとか出来無いだとか言われて居る。

「良く御存知ですね。で、でも知識と実力が噛み合わ無いと、此の学院ではやって行けませんよ?」

 石を視るのと同時に出した俺の小さな呟きが聞こ得たのだろうか、驚嘆と賞賛の言葉を口にする少女では在るが、慌てて訂正でもするかの様に否定の言葉もまた口にする。

 だが、少女の言葉には棘というモノが全く感じられず、素直に成れ無いだけでは無いのか等と感じてしまう。

「…………」

 此れ以降催促という事はせず、静かに俺へと目を向けて来る青年と少女。

 俺は其の視線を受けて、ゆっくりとでは在るがシェタニル石へと手を向ける。

 だが其処で、青年は茶々を入れて来るかの様にして口を開いた。

「因みにですが、結果次第で学院に入学出来無かったりする事も在りますので」

「止めてくれよ、そういう事を言うのはさ」

 言葉を返す事は出来はしたが、俺の表情は引き攣り、微妙な笑顔に成って居るだろう事は鏡を視無くても判る。

 乱れそうな呼吸を整え、シェタニル石へと手を伸ばす。

 整得た筈の呼吸は荒く激しく成り、目が皿の様に成り、そして顔が強張ってしまう。

 スライムと対面した時の様に、時間がとてもゆっくりとしたモノの様に感じられる。

 目を閉じ、覚悟を決めるのと同時にサッと机の上に置かれて居る真っ白な石へと触れ、魔力マナを注ぎ込む。

「――!?」

「――なッ!?」

 意外とツルツルとした手触りで在り、其れを堪能しようかと迷った其の瞬間、青年と少女の驚いた声が聞こ得た。

 其の2人の声に、俺自身も驚いてしまい、思わず目を開く。

「――え!?」

 机の上に置かれて居るシェタニル石の変わり様に、彼等同お湯に俺も大きく驚かざるを得無かった。

 本来シェタニル石は、魔力マナを注ぎ込む事で、赤、青、緑、茶といった4色に変色するモノだ。

 其の石の変色の仕方は、触れた箇所から変色を始め、其の変色した範囲の大きさや広さで魔力マナの大きさを測る事が出来る。

 そして、赤で在れば炎の精霊――サラマンディーク、青で在れば水の精霊――ウンディオーナ、緑で在れば風の精霊――シルフェイド、茶で在れば土の精霊――グノートゥムからの加護を受けて居るという事を理解する事が出来るらしい。

 だが、俺の魔力マナを注ぎ込んだ事で、其のシェタニル石の色は、色の濃さや淡さ等も含めてしまうと、虹色処か7色を超え、666色に変色してしまって居た。

 在り得無いで在ろう色の変化に対し、此の場に居る俺と青年、少女の3人は目を丸く、そして飛び出し兼ね無い程に驚いて居るのだ。

「基本属性で在る赤、青、緑、茶は勿論……黄、金、黒、透明……?」

「此れは……一体……?」

 今迄に例の無い其の変化を目にして、青年と少女の2人は変色をした後のシェタニル石と俺とを交互に観察するかの様にして観遣る。

 其の視線がどうしても擽ったいのと同時に気恥ずかしさ等もまた込み上げ、2人から目を背け、逃げる様にして顔を横に向けてしまう。

「えっと……結果の方は……?」

 異常な変色の仕方を起こし、其れに驚いては居るが、其れと同じ位に此の魔法学院に入る事が出来るのかどうかといった事もまた気に成って居る。

「合格といった所でしょうか……ですがまあ、研究対象として観られる様に成りますかね……」

 俺の質問に対し、青年はどうにかして笑顔を浮かべ成がら応えてくれる。

 だが、青年の口から出た其の言葉を聞いて、俺は身の危険を感じて思わず身震いをする。

「大丈夫ですよ。只、観察されるだけです……身体を弄られたり、解剖されたりといった事は……」

 生唾を呑み込み、青年へとジッと顔を向けて観詰め、彼の次の言葉を待つ。

 そんな俺が行って居る無言の催促に耐得兼ねたのか、溜めに溜めた間を切り、青年は口を開く。

「……多分、無いでしょう」

 青年は再び口を開いて補足を入れ始めるのだが、其の出て来た言葉を耳にして更に震えが大きく成る。

「止めてくれ! そんな事は言わ無いでくれ! 折角入学出来たのに、直ぐに解剖されるなんて、あんまりだ……」

 俺は、青年のそんな言葉を聴いて、思わず耳を塞ぎ、目を閉じる。

 実際にそういった事は無いと理解りはするのだが、其れでも想像をしてしまうモノだ。

 そして、そんな事をされ無い代わりに観察されるという言葉を聞いて、落ち着いた学院生活を送れるかどうか、今から酷く不安に、凄く心配に成ってしまう。

「馬鹿です、ね。そ、そんな事、する訳が無いじゃ無いですか……」

 此方へと顔を向けて、少女は青年の言葉を否定して居るのだが、彼女の声は震えて居り、顔面も蒼白に成ってしまって居るのが一目で判る。

 痛い話等が苦手成のか、実際に想像でもしてしまったのだろうか。

「失敬。今のは忘れて下さい。只、そういった事が在るかもしれないと、一応警戒した方が良いと思って成のですが……言わ無い方が良かったでしょうかね」

 俺と少女の様子を目にして、謝罪の言葉を口にする青年。

「兎も角だ……宜しくな」

「わ、私達は教師ですよ」

「すみません、敬語は上手く使え無くて……」

 気を取り直して口にした俺の言葉に対して、少女は申し訳無さそうな表情を浮かべる。

 そんな少女を目にして、此方の方が申し訳無い気持ちに成り、謝罪の言葉を口にする。

 謝罪と同時に出した言葉の通り、俺は敬語の使い方が上手では無く、どうしても尊敬語と謙譲語、丁寧語が下手に混ざった可怪しな言葉遣いに成ってしまう。

 そんな言葉遣いで喋るので在れば、いっその事気にする事も無く自由な言葉遣い――思った侭に喋れば良いのではと考得て是迄生きて来たのだ。と言っても、村の中で暮らし続けて来た為に敬語というモノを使う機会なんていうモノは殆ど無かった事もまた一因では在るのだが。

「まあ、気にする事は無いですよ。此の学院内では、上下関係なんて在って無い様なモノですし……」

 此方にフォローを入れてくれて居るのか、青年はにこやかな笑顔を浮かべ成がら喋る。

「今日只の生徒だった者が何らかの発見をする事で、明日に成ると教師に成る事なんてザラに在ります。逆もまた然りで、教師だった者が生徒に逆戻りしてしまう事も此の学院では良く在る事ですから……」

「……そっか……」

 青年の言葉を聴いて、思わず引き攣った笑顔を浮かべてしまう。

 此の魔法学院は、競争し互いに切磋琢磨するかの様なシステムで成り立って居り、下克上地味た出来事成んていうモノでは日常茶飯事の様に起きて居る様子だ。

「実力主義ですから」

「へ、へえ……」

 そんな学院の中で、教師としての地位を獲得し続けて居る青年と少女の2人は、何れ程の力が在るのだろうか。

 青年が浮かべて居る笑顔が、何処か恐ろしいモノに視えてしまう。

「そうですね……教師と生徒という立場ですから、授業や行事等が在る時は口調に気を付けて、プライベートの時は砕けた感じでも良いと思いますよ」

 青年の言葉に、俺は思わず微笑みを浮かべて頷く。

 少女の方も、彼と同じ考えに至ったのか否定をするという事もせず、目を閉じて居る。

「互いに得意な属性の魔法や、自身が研究したモノを教得たりするんですよ。因みに私は、風属性魔法が得意です……ちょっと、何笑って居るんですかっ!?」

 教師としての仕事等についての事を言って居るのだろう。

 少女は、青年の説明に補足を入れる様にして話し、其れと同時に自身の得意魔法属性を言い、自信満々だといった風に胸を張る。

 そんな少女の様子が子供らしく――年相応のモノに視え、微笑ましく在り、思わず微笑を浮かべてしまう。

 だが其れが気に障ったのか、少女は怒った様にしてポカポカと此方へと殴り掛かって来るのだが、力が込められて居無いのだろう、力が弱く全く痛みを感じ無い。

 少女や俺の緊張して居た様子等は既に無く、一連の行動が治まるのと同時に俺達3人は皆小さく微笑む。

「取り敢えず自己紹介だ。俺は、ヘイルオ……ヘイルオ・ヒュリュンペール」

「では、僕の方も……名をリドイ……リドイ・リヒチェ」

 此方の自己紹介に対して笑顔を浮かべた侭自己紹介を返してくれる金髪碧瞳の青年――リドイ・リヒチェ。

「わ、私はウィリア……ウィリア・コンフェルト」

 緑髪の少女――ウィリア・コンフェルトの方もまた、自己紹介を返してくれる。

「自己紹介の方も終わりましたし……此方が貴方の部屋のドアを開く為のカードキーです。此の学院に居続ける為の、そして学院に籍を置いて居るという証明書でも在るので、失くさ無いで下さいね」

 リドイからカードキーを手渡され、其れを受け取り、ズボンのポケットへと入れる。

 カードキーは銀色で在り、下部に凸凹とした部位が存在して居る。手で触った所、薄いが割れ難い材質で出来て居るという事が判る。

 そして、其のカードの表面には赤字で番号が刻み込まれて居る。此れが部屋番号だろうか。

「では、男子寮に案内しますね。其れではウィリア、また後で」

「ええ、また後で」

 俺は、先に歩き出すリドイを追い掛ける様にして足を動かすが、其れと同時にウィリアは教師という立場で在るのだから最低限の礼は必要だろうと思い、彼女へと向かって一礼をしてテントを出た。




「リドイ先生、こんにちは」

「ええ、こんにちは」

 擦れ違う女子生徒達から挨拶を受け、笑顔を浮かべ成がら彼女達へと挨拶を返してみせるリドイ。

 挨拶をした女子生徒達は皆、笑顔を浮かべて居り、浮かれて居ると言った様子だ。彼女達は、夢を見て居るかの様にうっとりとした表情を浮かべて居るのが判る。

 リドイは顔立ち――容姿が優れて居る。そして、短い間しか接する事が出来ては居無いが、其れでも彼がヒトに害を成す者には観得ず、寧ろ自分にとっても好ましい青年だと言う事が出来るだろう。

 其れは他の人達にも同様で、擦れ違う生徒達の様子や彼自身の其の言動からも、とても慕われて居るという事が判る。

「一体何だったんでしょうね……あのシェタニル石の変色具合は……」

「…………」

 男子寮に辿り着く迄の時間潰し成のか、沈黙に耐得兼ねたのかリドイが口を開いた。

 リドイの其の言葉を聴いて、俺は無言に成らざるを得無かった。

 当然だ。

 自分でも何がなんだか全く理解出来て居無いのだから。

 4色の中の1色にしか変色し無い筈のシェタニル石が、幾つもの色へと染まり、混沌とした状態に成ったのだ。

 其の理由や原因は判ら無いが、此の学院で過ごし、研究をする事で判明するかもしれない。

「此処が男子寮です」

 リドイの言葉を聞いて顔を上げて視ると、男子寮に辿り着いたという事を知る。

 考え事をして居たという事も在り、気が付けばあっという間だ。

「カードに記載されて居る番号が、貴方に割り当てられた部屋と成ります」

「番号……」

 銀色のカードをズボンの中から取り出し、改めて其のカードへと目を向ける。

 カードに刻まれて居る赤い数字は、398。

 詰まりは、398号室という事だ。

「数字の大きな桁の方が、其の部屋の回数を表して居ます……詰まり、貴方の部屋は3階ですね」

「成る程……」

 リドイの簡単な説明に相槌を打ち成がら、男子寮へと目を向け直して視る。

 男子寮は大きな建物で在り、かなりの階数が在るだろう事は、パッと視るだけでも判る。100階は優に在るだろう程の高さだ。

「では、また後で……自分はテント等の片付けをしなくては成らないので」

「あ、ああ……?」

 何か意味有り気な笑顔を浮かべ、そんな言葉を口にして元来た道を戻って行くリドイ。

 何か引っ掛かるモノを感じはするのだが、其の正体がハッキリとは判らず、俺は只此の場を去って行くリドイを見送るだけしか出来無い。




「…………」

 男子寮の中へと入り、階段を探して観る。

 入って直ぐの空間で在るエントランスに相当する場所には、数人の男子生徒たちがソファに座り、楽しそうに話をして居る。

 其の数人の男子生徒たちんお顔には、見覚えが有った。

(さっきの試験で……俺の前にテントに入って行った奴等か……)

 どうやら、互いに合格した事を喜び合い、祝い、自分が何の属性を得意として居るのか、何の精霊の加護を受けて居るのかという事等を談笑して居る様子だ。

(楽しそうだが、何だか同時に面倒だな……シェタニル石のあの変化についてを下手に話してしまって、リドイが言ったあの冗談が本当に成ってしまったら……)

 ソファに座り談笑をして居る男子生徒達を余所にして、俺は視付けた階段を登って行く。

 3階へと登り終わり、暫く3階の廊下を歩いて居ると直ぐに398号室を視付ける事が出来た。

「此処か……」

 398という数字が記載されて居るプレートが付けられて居るドアを見付け、其のドアのドアノブを掴み撚るが開く事は無い。

 そして、もう一度ドアを観ると、其のドアには何やら差込口の様なモノが在る事に気付いた。

「此れだな……」

 其の差込口へとカードを挿入し、抜き出す。

 するとロックが解除されたのか、ガチャという音を立て、ドアが独りでに後ろへと後退し、其の後に横へとスライをして完全に開いた。

 ドアノブは只の装飾、否、対策か何かだろう。

「面白い機構だな……」

 ドアが開いたという事も在り、部屋の中へと入って観る。

 部屋の中は至ってシンプルなモノで在り、大きなソファが1つ、其の前には丸いガラス製の机、キッチンの様なモノも在り、出入り口とはまた別のドアが7つ存在して居る。

「7つのドア……」

 先ず最初に、近くに在るドアを開けて観る。

 其処には机と椅子、そしてタンスにベッドが備得付けられて居り、プライベート用の部屋だという事が一目で判る。

「……次だ」

 次々とドアを開き、そして閉じを繰り返して観る。

 が、ドアを開いた先にはプライベート用だと思しき部屋、そして風呂場等といった部屋で在り、可怪しな所や可笑しな所等は全く無かった。

 只1つの部屋が開か無い事を除いては。

「他に誰かが居るのか……?」

 1人で生活をするには只ッ広いと言う事が出来る此の部屋。

 部屋の数が多過ぎ、そして何の部屋も掃除が行き届いて居り、明らかな生活臭が漂って居る。

 空き部屋だと思しき部屋へと入り、自身の手荷物で在る鞄を置いて、もう一度開ける事が出来る全ての部屋を視て廻って観る。

 そうこうして居ると、出入り口の方のドアの閉会音が部屋に響き渡った。

「――ッ!?」

 何故かは理解ら無いが、俺の中に強い緊張が奔り抜ける。

 不法侵入をして居る訳でも無いのに、後ろめたいとうい気持ちがフッと湧き上がり、今仕方部屋へと入って来た者に対して強く警戒をしてしまう。

「――どうですか? 此の部屋は?」

 だが、聞こ得て来た其の聞き覚えの在る其の声に、俺お中に有った後ろめたさだとか警戒心等は完全に、一瞬で消え失せた。

「リドイか……」

「ええ、此処の住人成んです、僕……」

 微笑みを浮かべ、此方へと言葉を返してくれるリドイ。

 同居人が顔見知りで在るリドイだという事に、俺は安心感を覚える。

 見知らぬ誰かと過ごす。

 別に問題は無く、何時かは仲良く成れるだろうが、其れでも見知った相手で在れば気はとても楽だ。

 まあ、リドイも知り逢ってから1日経過したかして居無いか程度の関係成ので、見ず知らずの誰かと言う事が出来るのだが。

「魔法学院へようこそ、ヘイルオ・ヒュリュンペール」

 リドイの其の言葉に、俺は入学する事が出来たという事を改めて実感する。

 そして其の実感と同時に、俺はリドイに対して強い友情の様なモノもまた感じて居るのが判った。

「ああ、宜しく頼む」

どうも初めまして、りおんざーどです。

あらすじの欄で予防線を張っている事で地雷臭を漂わせているにも関わらず、開き読んで下さった方、有難う御座います。

ファンタジー作品は世界中に存在し、飽和状態だと言えるでしょう。其んな中でも、1番にくだらないと言える作品である事は確かですが、其れでも思い付く限りは連載を続けるつもりです。

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