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狂狩  作者:
8/9

夢堕




「いってらっしゃい」



見送る妻と唇を重ねて。 その細い首を両手で締め付ける。 苦しみに歪む顔、私の両手を掴み、必死に抵抗する。


それもやがて、終わり。 私が首から手を離すと、力無く倒れ込む。




愛する妻を。この手で殺した。








そこで私は、目を覚ます。





♦︎







もう何度、同じ夢を見ているのだろう。 朝、目覚める前に見ている夢は。 必ず、愛する妻をこの手で殺害するというものだ。 疲れからくるものなのか分からない。 病院にも行ったが、医師に伝えたのは寝覚めが悪いと言うことだけだ。 とても、夢の内容までは伝えられはしない。



一応薬も貰った。 俗に言う、睡眠薬と言うものだ。しかし、効果は無かった。 当然だ、私は眠ることに悩んではいない。 夢の内容に悩んでいるのだから。








「おはようございます」


「……おはよう」




妻は変わらない。 私の抱く悩みに気づくことなく、こうして主婦として頑張っている。


大切なのだ。 妻がいるからこそ、私は仕事に専念出来る。 そんな人を殺すなど…… たとえ夢であってもあってはいけないのだ。






「…行ってくる」


「いってらっしゃい」




見送る妻と唇を重ねて。 ……私は妻の首筋に手を当ててーーー








そこで我に返る。 即座に妻の身体から離れた。



「……あなた?」


「…なんでもない」



妻に説明もせず、私は逃げるように玄関の扉を開けた。


何をしているんだ、私は。 殺そうとしていた、無意識のままに。 夢の内容をなぞるように、妻をこの手で……

気をしっかりもて。 夢と現実の区別がつかないようでは駄目だ。 愛する妻を殺すなんてどうかしている。






♦︎







目が覚める。 ……これはどちらだ。 何度も同じ夢、同じ朝を迎えるうちに。 もう、判断も出来なくなってきた。





「おはようございます」


「……おはよう」



変わらぬ妻。 まだ、どちらか分からない。 ……まぁ、いい。 もうすぐ分かる。








「…行ってきます」



「いってらっしゃい」



見送る妻と唇を重ねて。その首を… 両手で締め付ける。 苦しみに歪む顔、私の両手を掴み、必死に抵抗する。




まだ。 分からない。 感じる熱も、苦しむ声も。 全て現実味があるから判断できない。


……死んでくれ。 お前が死なないと、この悪夢は終わらないんだ。 私はずっと苦しいままなんだ。 お前が私を苦しめているんだ。お前を殺さないと…… 目覚められないんだ。




やがて。妻だった『それ』は力無く倒れ込む。 …死んだ、殺した。 これで………






終わらない。 いつもならここで、目が覚める。 ならばこれは… 現実なのか? 目の前に倒れた『それ』は、本当の、愛する妻だったと言うのか?



…覚めろ。 覚めろ、夢よ終われ。 終わらなければ、私は、本当に……… 妻をーーー









「うぁぁぁぁぁぁあああああぁぁ!!」




















そこで私は目が覚めた。





♦︎





「おはようございます」



「…おはよう」




殺したはずの妻が、変わらずそこにいた。 先程のは夢だったのか。



あと、何度殺せば終わるんだ。 もう、夢と現実の区別が曖昧になっている。 先程のが夢ならば、これは現実なのか? 私は目覚めているのか? それともまだ夢なのか? また、殺さなければならないのか?



…一体どうすれば。 この悪夢は終わるんだ。






「…行ってきます」



「いってらっしゃい」




見送る妻と唇を重ねて。 ……殺せば、分かるのだろうか。 ゆっくりと、両手を妻の首に向ける。












ーーー腹部に鈍い痛みを感じた。 熱い、そう思うのと同じくらいに。 私はゆっくりと倒れた。



痛みのする部分に目を向けた。 刃物が刺さっている。 そこからゆっくりと、赤い液体が流れている。



妻は私の顔の近くにしゃがみ、優しい笑顔を見せる。 ああ…… そうか。 ありがとう、お前はやはり、私の最愛の妻だ。







これでようやく。ようやく、安心して眠ることが出来る。









おやすみなさい。




頬に触れる優しい温もり。 それを感じながら。












私は。ゆっくりと目を閉じた。












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