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狂狩  作者:
7/9

心音







転校生の彼女は耳が聞こえなかった。



そんな彼女は、退屈だった学校に刺激を与えてくれた。



面白かった。 どんな言葉を投げかけても、不思議そうな顔をする。



それがどんな悪口でも。どんな汚い言葉でも。傷つけることしか考えていない言葉でも。



彼女は不思議そうな顔をして。 困ったように笑うのだ。






ストレス発散になった。 上手くいかない日常を、平凡への不満を。 気を使うことなくありのままに吐き出した。



どんな言葉かはあまり覚えていない。 とにかく酷い言葉を選んでいたと思う。 そうすることで、彼女が自分よりも劣っていると感じることが出来た。 優越感に浸れたんだ。





友達が加わったことで、そんな行為はさらに拡大した。 聞こえないことを利用して、酷い言葉を毎日のように彼女にぶつけた。




あくまで言葉だけで、文字にはしなかったのは。 臆病だったからだ。 聞こえてないから、聞かれてないから強がっていられたのだ。もしも理解されてしまったら、彼女はきっと大人を味方につける。 そうなったら、こんな強がりは消える。 自分よりも弱いと言う優越感が無くなる。 それだけは嫌だった。






♦︎








いつものように、彼女に酷い言葉を浴びせる。 しかし、その日彼女は不思議そうな顔をした後。 俯いてしまった。 いつもなら、困ったように笑うと言うのに。



腹が立った。 無視をされたと思った。 こんなやつに、自分よりも弱いやつに。 許せなくなり、俯く彼女に向けて酷い言葉を何度も言った。



バカとか、アホとか、ブスとか、障害者とか。 机を叩いたりもした。 それでも無視をする彼女に、限界が来て。





「聞こえねぇのか!! このクズが!!」





聞こえるはずもないのに。 彼女の耳元でそう怒鳴ったんだ。









「………ぅ…」




一瞬、聞こえた。 触れるか触れないかの距離でやっと聞こえるくらいの、彼女の初めての音。



「聞こえねぇ!」



そう言って、右耳を近づけた。



息がかかるくらいの距離。 彼女はそれくらいに近づいてきてーー






「……っ!!」





その言葉に。 怖くなって、彼女から離れる。 それが彼女の、最初で最後の言葉だった。







♦︎





その日以降、彼女は学校に来なくなり。一週間後に転校した。




…どこかで聞いたことがある話。嘘か本当か分からないけど。 人間は、感覚の一部が機能しなくなると。 他の感覚で、補おうとするのだと。 彼女は、耳が聞こえない分。 他の感覚が優れていたのかもしれない。


表情や、口元の動きに敏感で。 聞こえなくても、理解していたとか。 下手をすれば、心が読めたのかも。 考えすぎ…… でも。





右耳を抑える。 その度に、彼女の言葉が蘇る。










き こ え て る よ






……彼女は一体。 どこまで聞こえていたんだろう。 言葉だけなのか、それともーー








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