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狂狩  作者:
6/9

既読







『馬鹿』







♦︎



「なんでこんな日に限って残業なんだよ!」



会社を出てすぐに走り出した。 彼女から届いた『馬鹿』の一言。怒っているのは一目で分かる。





仕事が長引いたんだって!



忘れてないから!



急いで帰るから!





アパートへと急ぎながら必死に謝る。 しかし、返事はなく既読の文字が付くだけだ。 これはまずい、そうとう怒っている。



去年の誕生日も、結局仕事の都合で二人で祝えなかった。 来年は二人で祝えるように、そう言ったのを僕が忘れてないんだ、彼女も忘れるわけがないだろう。







ケーキも注文してるんだ!



プレゼントだって用意してるから!




話さなきゃいけないこともあるんだ!





サプライズも全て台無しだ。

彼女の好きなチーズケーキ、それと…… 結婚指輪。 受け取ってもらえるか仕事中から緊張していた。こんな状況では、渡すことすら出来ないかもしれない。


スマホの画面を見る。 返事はなく、ただ既読が付くだけだった。






♦︎





アパートへ着くと、休むことなく部屋へと向かう。 息も上がって、髪もボサボサ。 額の汗をスーツの袖で拭い取る。



ごめん! と頭を下げよう。 許してはくれないだろうけど、謝らなければ。 それから、ケーキで機嫌を直してもらって…… それから指輪を…… 頭で流れを考えながら、ようやく着いた部屋の扉を開けた。













テレビが映しているのは、彼女が好きなバラエティ番組。 いつもなら、テレビと彼女の笑う声が重なるのに。 今は重ならない。




……いつからだ。 分からない、彼女の言葉は『馬鹿』と言う一言だけだから。




スマホの通知音に身体がビクリと反応する。ゆっくりと取り出して画面を見て…… 僕は背筋が凍った。 ありえない… だって、彼女は………









目の前に血塗れで倒れる彼女を確認して。僕は、届いた『彼女』からの言葉を既読した。













『もう、着いた?』








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