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狂狩  作者:
3/9

感触






隣の家の幼馴染が、不登校になった。



何か知らないかと、彼女の両親が訪ねてきたが。 イジメなどなく、むしろ彼女はクラスの中心人物だ。 イジメられるような性格ではない。



担任の先生も、頭を悩ませている。 どうにか出来ないかと俺に頼るくらいに。 言われても、理由も分からないのでは解決など出来るわけがない。









ある日。 担任から、進路希望の用紙を届けるように頼まれた。 様子を伺ってきてくれ、そんな意味もあるのだろう。



彼女の家の前に着くと、不思議と緊張してしまった。 不登校になってから一度も会っていないからだろう。 どんな風に変わっているのか、想像するだけで躊躇いがうまれた。




勇気を出して、インターホンを押した。






出てこないかと思った。 いや、出てこないことを願っていたのかもしれない。 だから、扉を開けた彼女があまり変わった様子もなく。 いつも見ていたあの笑顔で迎えてくれたことが。 僕には少し、怖かった。







彼女の部屋に招かれた。 部屋の中は、至って普通だ。 もっと、荒れていたり暗かったりするのかと思ったけれど。 女の子の部屋、という感じだ。


進路希望の用紙を渡せば。 彼女は少し目を通して、机の上に置いてしまった。





聞くべきか、とても悩んだ。 彼女は何も言わない。 ただ僕のことを見ている。 居心地の悪さで、心臓の音が早くなる。 部屋の扉はすぐ後ろなのに、立ち上がることが拒まれているような感覚がする。




なんて聞けばいい。 なんで学校来ないの? と聞けばいいのか。 何か悩みがあるの? と相談にのればいいのか。 踏み込んでいいのか、僕は。 解決できるかも分からないのに、そんな無責任なことをしていいのか?



まとまらない僕を待たずに。 彼女が口を開いた。






「ねぇ。 お願いしていいかな?」





















私の首を、絞めてくれない?












♦︎













人の死は、何を持って判断するのか。


彼女は。 痛みや苦しみを感じなくなったらと言っていた。


生きていても、何も感じない平凡の中では人は死ぬんだって。 そう、言っていた。



普段、無意識のまま呼吸をしている。 その呼吸が、止まろうとする時。 苦しくて、痛くて、死を感じるんだと。



苦しくて、もがいて、そうしてようやく自分の命があることが分かるんだって、言っていた。




彼女は、不登校になったんじゃない。 平凡な日常から、逃げ出したのだ。





狂ってる。 異常だ、頭がおかしい。 彼女が元に戻ることはない。 今日会って、それが分かった。 近づかない方がいい、絶対に。

















『……っん、は……』





苦痛に顔を歪める君が、脳に焼き付いてる。 やめろ、早く消えろ……





『…またね』





君の言葉が、耳の奥から響いてくる。 耳を塞いでも、どうしようもない。 違う、僕は違う………








耳を塞いでいた両手を広げる。 まだ、残ってる……






苦しむ彼女に、興奮しただろ。



「…違う」



彼女の首、細くて綺麗だったなぁ。



「違う」



また、触れたいなぁ……





「違う!!」





僕は叫んだ。 抱いた感情を消し去るために。 それでも……





手に残る感触が。 君を求める。






『またね』 なぜかまた、彼女の言葉が聞こえた気がした。









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